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第8章 戦場に咲く一輪の花

突然の接触

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その声は、突然カイとレナの頭の中に響いた。レナが歌い終わった後のことだった。

劉淵りゅうえん、ルリアーナ王女、聞こえるか?』

カイは隣に立つレナの顔を確認して、お互い聞こえているのだなと理解をする。

「聞こえている。スウか?」
「私も、聞こえているわ」
『まさか、こんな形で接触することになるなんてな・・よく聞け、劉淵りゅうえん、その先に進んではいけない』

頭の中に響いた声は、カイの気功術の師である呪術師、スウ・メイユウのものだ。離れた場所にいる人間と通信する呪術で、カイとレナに接触してきたらしい。こんなことは初めてだった。

「どういうことだ・・?」
『この先に進むと、待ち受けている運命で、劉淵は死の淵に立つ』
「それは、占術で分かったの?」
『劉淵・・気功術の弱点に触れたな?』
「何が言いたい・・?」
『とにかく悪いことは言わん。これ以上進むのはやめろ』

切羽詰まった様子の声に、カイもレナも冗談ではないのだろうと真剣に話を聞いている。

「だが、先に進まなければポテンシア兵にも、リブニケ兵にも接触できない。戦いに向かうのだから、死と隣り合わせだろうことは分かる」
「前に進まなければ、カイは危険を回避できるの?」
『ルリアーナ王女、ここを去って安全なところに行くんだ』
「安全なところって・・」

レナは、カイが危険な目に遭うと聞かされて揺らいでいた。
犠牲を減らしたくない一心でカイに同行したが、カイが犠牲になるという想像が及んでいなかったことに気付く。

「兵を率いる身だ。そんな簡単な話ではない。死の淵に立つと先に分かっているなら、そこから復活するしかないだろうな」
『それこそ、簡単な話ではないぞ』
「スウは、何でそんなことが分かったの? 今、どこにいるの?」

レナの質問に、スウは暫く黙っていた。
『先ほど、呪いを大量に解除した者がいたようだったから、思念を飛ばして見に来たんだ。意識だけになった私は、劉淵と王女のすぐそばにいる』
「それで、運命が視えたのね?」
「そうだ」

レナは納得して、スウの言い分を信じた。

「カイ・・この話を聞いてあなたを前進させるほど、私、強くないわ」
「いや、兵を進めなければならないんだぞ?」
「お願い。一緒に、一旦退きましょう? 今日だけでもいいから・・」
『劉淵、王女の言う通りにしておけ』
「だが・・」

カイはどうも納得できなかった。これまで無傷で戦場に立っていた自分が、何故ここに来て死の淵に立つと宣言されているのだろうか。スウに何か狙いがあるのではないかと疑ってすらいる。

『よく考えろ。今日は戻れ』
「ねえ、スウ・・また通信で話せるかしら? 私、あなたに聞きたいことがあるの。呪術の本質について」
『・・考えておく』

そこで、スウとの通信は切れた。カイはレナを連れてマルセルの元に歩く。
レナが泣きそうになりながら必死で「今日は止めて」と訴えていたのだ。
カイはそのレナを振り切ることなど到底できず、その日は戦地へ赴くのを断念するしかなかった。
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