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第9章 知ってしまったから
彼女の戦い方
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「あれは・・ポテンシア兵?」
「だけではないだろうな、恐らくリブニケ兵も混じっている」
「この軍の目的は、ポテンシアとリブニケの連合軍を全て殲滅させるところまで?」
「鋭いな。そこを、マルセルとずっと議論している。ポテンシアがそう簡単に落とせるわけがないからな。かといって防衛だけに留まっていては、得るものがない。ポテンシアを侵攻して領土を広げるかどうか、というのは議論の余地がある」
共にクロノスの背に跨って、レナとカイは前方に現れた騎兵と歩兵を視界に入れた。
「得るもの・・ね」
レナは呟いて、カイも侵略者の一人としてここにいるのだと思い知る。農業国でずっと過ごしていたレナには、その事実を理解するだけの背景が乏しかった。
「事実や理屈として分かっていても、ここにいるのが侵略のためだと思うと複雑だわ」
「・・だから連れてきたくなかったんだ。こんな世界など知らずに生きて欲しかった」
カイはレナを片手で抱きかかえたまま、槍を構える。レナの目の前で人を殺める覚悟をし始めると、争いを知らない元王女が目の前の光景に耐えられるのか不安が過った。
(『気』の力を多用するしかないな)
カイが前線に向かうと、突然相手軍の頭上が曇り始める。不思議に思って目を凝らすと、あっという間に集中豪雨が辺りを襲った。
「・・?」
カイを始め、ブリステ兵たちはすぐ近くで局地的に起きている豪雨を眺めながら進軍を躊躇っている。
ふと、カイはレナの術を疑った。
「あれは、レナがやったのか?」
その問いに、レナは静かに頷いている。豪雨と共に激しい落雷が多発し、敵兵が後退していく様子が見えた。
「カイは、スウと修行をしたから分かっていると思うけれど・・雨の攻撃って、呪術でも防ぐのが難しいのよ」
「なんで敵軍は後退している?」
「あちらにいる誰かに、私の術式が視えたからかしらね? 攻撃だと気付いたとか?」
「・・なるほどな」
カイは一斉に退却していく敵の様子を眺めながら、これで良かったのだろうかと複雑な気持ちでいる。
「おい、さっきの雨は、そこのお姫様がやったのか?」
マルセルが、馬を走らせてカイの元に駆け付けた。
「ああ、レナは自然現象を操る」
カイが答えると、周囲から感嘆の声が漏れた。
「そうか、なかなか使えるな。あの雨はずっと兵に向かって降らせられるのか?」
マルセルの質問にレナは頷く。
「じゃあ、あの軍が体調を崩す程度までひたすら追いかけてもらおう。甲冑なんかを身に着けた兵は、ずっと水に晒されたらさすがに身体がおかしくなるはずだ」
マルセルが当然のように言ったのを、レナは心の中で「それなりに大変なのよ」と小さな反論をして、
「やってみるわ」
と答えて雨を操った。
兵士たちはレナが何をしているのか全く分からなかったが、無傷で一旦戦いが終えられたことに、誰もが安堵していた。
「意外な方法で、今日は敵兵を追い詰めたな」
カイが何気なくマルセルに言うと、
「昨日の失態は、これでチャラにしてやろう」
とマルセルは抑揚のない声で返し、カイを見た後でレナの姿をじっと見つめる。
「平和な国で育ったのかもしれないけど、一歩間違えれば人間兵器だな」
マルセルは大きめの声で独り言を言いながら、カイとレナの元を離れていく。
「すまないな。マルセルは、割と口も態度も悪い」
「いいえ? 大して気にならないわ」
「そうか」
「力って本当に、使いようだものね」
レナが当たり前のように言うと、それを聞いたカイが詰まった。
カイは、自分の持つ力の使い方が果たして間違っていないのか、レナと出会ってからというもの常に揺らいでいる。
「なかなか、何が正しい使い方なのかの判断は難しい」
カイは敵が去った方向を見ながら、自分に言い聞かせるように言った。
「そうね。正しいことなんて、ないかもしれないわ」
レナはすぐ後ろにいるカイに体重を預けながら、明日も同じように戦いに向かうことに漠然と晴れない気持ちを抱えていた。
「だけではないだろうな、恐らくリブニケ兵も混じっている」
「この軍の目的は、ポテンシアとリブニケの連合軍を全て殲滅させるところまで?」
「鋭いな。そこを、マルセルとずっと議論している。ポテンシアがそう簡単に落とせるわけがないからな。かといって防衛だけに留まっていては、得るものがない。ポテンシアを侵攻して領土を広げるかどうか、というのは議論の余地がある」
共にクロノスの背に跨って、レナとカイは前方に現れた騎兵と歩兵を視界に入れた。
「得るもの・・ね」
レナは呟いて、カイも侵略者の一人としてここにいるのだと思い知る。農業国でずっと過ごしていたレナには、その事実を理解するだけの背景が乏しかった。
「事実や理屈として分かっていても、ここにいるのが侵略のためだと思うと複雑だわ」
「・・だから連れてきたくなかったんだ。こんな世界など知らずに生きて欲しかった」
カイはレナを片手で抱きかかえたまま、槍を構える。レナの目の前で人を殺める覚悟をし始めると、争いを知らない元王女が目の前の光景に耐えられるのか不安が過った。
(『気』の力を多用するしかないな)
カイが前線に向かうと、突然相手軍の頭上が曇り始める。不思議に思って目を凝らすと、あっという間に集中豪雨が辺りを襲った。
「・・?」
カイを始め、ブリステ兵たちはすぐ近くで局地的に起きている豪雨を眺めながら進軍を躊躇っている。
ふと、カイはレナの術を疑った。
「あれは、レナがやったのか?」
その問いに、レナは静かに頷いている。豪雨と共に激しい落雷が多発し、敵兵が後退していく様子が見えた。
「カイは、スウと修行をしたから分かっていると思うけれど・・雨の攻撃って、呪術でも防ぐのが難しいのよ」
「なんで敵軍は後退している?」
「あちらにいる誰かに、私の術式が視えたからかしらね? 攻撃だと気付いたとか?」
「・・なるほどな」
カイは一斉に退却していく敵の様子を眺めながら、これで良かったのだろうかと複雑な気持ちでいる。
「おい、さっきの雨は、そこのお姫様がやったのか?」
マルセルが、馬を走らせてカイの元に駆け付けた。
「ああ、レナは自然現象を操る」
カイが答えると、周囲から感嘆の声が漏れた。
「そうか、なかなか使えるな。あの雨はずっと兵に向かって降らせられるのか?」
マルセルの質問にレナは頷く。
「じゃあ、あの軍が体調を崩す程度までひたすら追いかけてもらおう。甲冑なんかを身に着けた兵は、ずっと水に晒されたらさすがに身体がおかしくなるはずだ」
マルセルが当然のように言ったのを、レナは心の中で「それなりに大変なのよ」と小さな反論をして、
「やってみるわ」
と答えて雨を操った。
兵士たちはレナが何をしているのか全く分からなかったが、無傷で一旦戦いが終えられたことに、誰もが安堵していた。
「意外な方法で、今日は敵兵を追い詰めたな」
カイが何気なくマルセルに言うと、
「昨日の失態は、これでチャラにしてやろう」
とマルセルは抑揚のない声で返し、カイを見た後でレナの姿をじっと見つめる。
「平和な国で育ったのかもしれないけど、一歩間違えれば人間兵器だな」
マルセルは大きめの声で独り言を言いながら、カイとレナの元を離れていく。
「すまないな。マルセルは、割と口も態度も悪い」
「いいえ? 大して気にならないわ」
「そうか」
「力って本当に、使いようだものね」
レナが当たり前のように言うと、それを聞いたカイが詰まった。
カイは、自分の持つ力の使い方が果たして間違っていないのか、レナと出会ってからというもの常に揺らいでいる。
「なかなか、何が正しい使い方なのかの判断は難しい」
カイは敵が去った方向を見ながら、自分に言い聞かせるように言った。
「そうね。正しいことなんて、ないかもしれないわ」
レナはすぐ後ろにいるカイに体重を預けながら、明日も同じように戦いに向かうことに漠然と晴れない気持ちを抱えていた。
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