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第9章 知ってしまったから
後悔をさせないで
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レナは目を覚ますと、目に入った光景に大きく動揺する。
服を着ていない。そして、自分の上にカイが覆いかぶさっている・・。
「な、なに?」
一瞬どういう事だろうかと混乱して、自分が怪我をしたことを思い出す。矢に撃たれたはずの脇腹に恐る恐る触れると、血は固まっていて傷口がふさがっていた。
(どういうこと・・?)
慌てて自分の上に覆いかぶさっているカイを確認する。気を失っているのだろうかとその顔に触れて驚いた。
「冷たい・・」
生きている人間にしては随分と冷たい。それに、息をしているようにも思えない。
「カイ!?」
慌てて身体を起こすと、カイの息と脈を確認した。脈が力なく打っている。息は随分と弱々しい。
(どういうこと・・? これは・・)
レナは悪い予感がした。自分の傷が塞がっていることがまずおかしい。そして、カイが目の前で倒れている。
(まさか――?)
レナにはひとつだけ心当たりがあった。以前カイに聞いた、気功術の禁術。
カイの父親が病気の妻を救おうと自分の『気』を注ぎ、夫婦ともに亡くなった、カイにとっては悲しい過去だ。
(あの術を、使ったのだとしたら――?)
「嫌よ・・? カイ。目を覚まして・・」
冷たいカイの顔に触れながら、じっと見つめた。その口が血で汚れていた。これはきっとレナの血に違いない。
「矢に撃たれたのは私なのに、どうしてあなたが倒れるの?」
恐る恐る、カイの身体を確認していく。手も血が固まったような汚れで赤黒くなっている。
テントの中を見渡すと血が付いている汚れた布やナイフ、水になってしまっていたがお湯を貯めていた桶、引き抜かれた矢があった。
「あなたが・・助けてくれたのね?」
カイの冷たい顔を手で包む。その頬にレナの涙がポツリと落ちた。
「酷いわ・・。どうして、こんなことをするの? あなたを犠牲にしてまで生きていようなんて、私、思わないのに・・」
そう言うとレナは、カイの頭を抱きしめた。冷たいが、ほんのりまだ体温が残っている。
「お願い、私を、一人にしないで・・」
もしも、あの時、カイを見つけて荷台から立ち上がらなければ。
もしもレナが、戦場に来なければ。
もしもレナが、使命感で周囲を巻き込んだりしなければ。
もしもレナが、カイと出逢ったりしなければ。
――カイはレナのために禁術を使って死の淵に立つことはなかっただろう。
「私に後悔を覚えさせたいの・・? あなたって、本当に意地悪なのね」
レナはカイの頭を抱えて泣きながら、演劇を観て覚えたブリステ公国の歌を静かに歌い始めた。
カイが好きだと言った、相手を想う歌だ。その歌に呪術を載せてカイへの想いをぶつける。
♪ 気付いたのは 大切な人
私がわらえば あなたもわらう
気付けば時間は 過ぎて行くけど
それを人は 愛と呼ぶから
分からない 明日のことも
それを人は 夢と呼ぶはず
歌い終わってカイの頬に触れたが、体温はずっと低いままで息も弱い。
呪術は通じなかった。レナには何の変化も起こすことができなかった。
服を着ていない。そして、自分の上にカイが覆いかぶさっている・・。
「な、なに?」
一瞬どういう事だろうかと混乱して、自分が怪我をしたことを思い出す。矢に撃たれたはずの脇腹に恐る恐る触れると、血は固まっていて傷口がふさがっていた。
(どういうこと・・?)
慌てて自分の上に覆いかぶさっているカイを確認する。気を失っているのだろうかとその顔に触れて驚いた。
「冷たい・・」
生きている人間にしては随分と冷たい。それに、息をしているようにも思えない。
「カイ!?」
慌てて身体を起こすと、カイの息と脈を確認した。脈が力なく打っている。息は随分と弱々しい。
(どういうこと・・? これは・・)
レナは悪い予感がした。自分の傷が塞がっていることがまずおかしい。そして、カイが目の前で倒れている。
(まさか――?)
レナにはひとつだけ心当たりがあった。以前カイに聞いた、気功術の禁術。
カイの父親が病気の妻を救おうと自分の『気』を注ぎ、夫婦ともに亡くなった、カイにとっては悲しい過去だ。
(あの術を、使ったのだとしたら――?)
「嫌よ・・? カイ。目を覚まして・・」
冷たいカイの顔に触れながら、じっと見つめた。その口が血で汚れていた。これはきっとレナの血に違いない。
「矢に撃たれたのは私なのに、どうしてあなたが倒れるの?」
恐る恐る、カイの身体を確認していく。手も血が固まったような汚れで赤黒くなっている。
テントの中を見渡すと血が付いている汚れた布やナイフ、水になってしまっていたがお湯を貯めていた桶、引き抜かれた矢があった。
「あなたが・・助けてくれたのね?」
カイの冷たい顔を手で包む。その頬にレナの涙がポツリと落ちた。
「酷いわ・・。どうして、こんなことをするの? あなたを犠牲にしてまで生きていようなんて、私、思わないのに・・」
そう言うとレナは、カイの頭を抱きしめた。冷たいが、ほんのりまだ体温が残っている。
「お願い、私を、一人にしないで・・」
もしも、あの時、カイを見つけて荷台から立ち上がらなければ。
もしもレナが、戦場に来なければ。
もしもレナが、使命感で周囲を巻き込んだりしなければ。
もしもレナが、カイと出逢ったりしなければ。
――カイはレナのために禁術を使って死の淵に立つことはなかっただろう。
「私に後悔を覚えさせたいの・・? あなたって、本当に意地悪なのね」
レナはカイの頭を抱えて泣きながら、演劇を観て覚えたブリステ公国の歌を静かに歌い始めた。
カイが好きだと言った、相手を想う歌だ。その歌に呪術を載せてカイへの想いをぶつける。
♪ 気付いたのは 大切な人
私がわらえば あなたもわらう
気付けば時間は 過ぎて行くけど
それを人は 愛と呼ぶから
分からない 明日のことも
それを人は 夢と呼ぶはず
歌い終わってカイの頬に触れたが、体温はずっと低いままで息も弱い。
呪術は通じなかった。レナには何の変化も起こすことができなかった。
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