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第9章 知ってしまったから

願い

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「お願い・・カイ、目を覚まして・・。ねえ、どうしたらいいの? 誰か助けて・・。スウ・・」

レナの目からポロポロと涙が零れてカイの頭へ落ちる。強い願いが、術に乗ってスウの思念に届いた。

『どうした? 王女か?』
「・・スウ?」
『すごいな、はっきりと聞こえたぞ』
「助けて・・スウ・・カイが・・」
『死の淵に立ったか・・』

スウの声を聞くと、レナは妙に落ち着くことが出来た。
冷静になると服を着ていないことに慌てて、ひとまずカイを寝かせて側に置いてあった血まみれの自分のドレスに袖を通す。

『だからあれ程、戦場に立つなと言ったのだ・・。いいか、王女。劉淵りゅうえん家の気功術には致命的な欠陥がある』
「致命的な欠陥・・」
『誰かを想った途端に死期が来る。あやつの父も、祖父も、妻を持って亡くなった』
「やっぱりカイは・・お父様と同じ術を使ったの?」

レナはカイの頭を膝にのせ、その冷たい頬に触れながらスウと話をしていた。

『普通の人間は、脆く弱い。それを救うために命を落とす術を持っているのが劉淵だ』
「そんなの・・私、望んでいないわ・・」
『そうだな。なんと下らない、と、ずっと思っていた。劉淵家の戦士たちのような、戦いで敗れを知らない者が、あっさりと命を落としてしまうのは・・』
「・・・・」
『でも、同時に羨ましくもある。命以上に大切なものを、自分の命で守ることができる』

スウの言葉に、レナはまた涙を流した。膝の上にあるカイの頭の上に、ポタポタと涙が落ちる。

『こうなってしまうと、できることは限られている。櫂劉淵かいりゅうえんの中にわずかに残っている「気」が、生を求めて回復していくこと。恐らくこやつは死を覚悟して王女を助けた。それではダメだ。生へ執着しなければ・・。生きたいと強烈に願わねばならない』

「何が・・できるの・・?」
『私は、劉淵の意識の中に残る、やつの大切な人間の記憶を操ってみよう。王女は、やつをこちらに戻すように・・願うのみだ』

スウの言っていることが、希望があるのかないのか、レナには分からなかった。

「願うしか、ないのね・・?」
『あとは、食事も水も与えておけよ。まだ死んでいないが、そのままでは肉体が朽ちる』
「分かったわ」
『それでは、こちらは劉淵に接触してみよう』
「お願い・・スウ・・」

そこでスウの通信は切れた。
レナは初めて、宝石を用いずに遠くにいる人間との通信が成功したのだ。スウに言われたことを思い出しながら、カイの顔を眺める。

(食事と水を与える・・)

レナは、テントを出て炊事場に急ぐ。そのレナを見た兵士の一人が驚いて顎が外れそうになっていた。

「あ・・あの、もう身体は大丈夫なのですか・・?」

レナの服には生々しい血の汚れが沁みているが、先程まで矢が刺さっていたはずの身体が自由に動いている。

「大丈夫よ。それより、水とお粥が要るの」

レナは何でもないように受け答えをした。
いつも自分が手伝っているロキが連れて来たシェフに、カイのために粥を作ってもらいたいと伝える。
そして器とコップを受け取って、またテントに戻って行った。
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