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第10章 新しい力
敵の可能性
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自国軍の情報収集をしていたシンとロキが、早速カイと情報共有をする。
「何故、一昨日のタイミングで兵士たちが次々行動に移したのかが引っかかる。そして、それぞれが何か特別な話し合いをしている様子が見かけられたという報告も入っていないようだし・・」
「そうですね。一昨日の出兵は、今迄の自国軍の動きと違ったことって何か無かったんですか?」
シンに尋ねられて、カイは可能性を考えてみた。
「兵が行動を起こした前日に、レナが呪術で相手軍を撃退したっていうのは、その辺と関係があると思うか?」
「どうでしょうね・・」
「こちらの軍に紛れていた間諜が、あちらと連絡を取る方法があればその疑いもあるかもしれないかな」
ロキが可能性の話をすると、一度そこで間が開いた。レナが何かを思いつく。
「例えば・・通信の術を使えたとすれば、なくは無いわね」
「なるほど? その線も、可能性としては残しておくか・・」
カイは自国軍に紛れていた敵兵が、敵と通じる手段を持っていた可能性を残す。ただ、もしそれが事実であれば敵の襲撃に備えるのが難しくなる上、まだまだ気が抜けない。
「あとは、あらかじめルールを決めていた線だな」
「例えば、ある場所に到達したら行動を起こすように最初から決まっていた、みたいなやつですよね」
寝転がったままカイは頷いている。会話は元通りになっているが、寝たきりのため普段より威厳がない。
「どうなんだろうな・・。その条件だと、いつになるか分からない中で敵兵に紛れて行動しつづけなきゃならないってことだよね。10年単位の潜伏だったみたいだし、無駄足になる可能性を考えたら微妙じゃないかな・・」
ロキは納得しきれない様子だった。いつになるか分からないで敵兵に協力し続けなければならないような選択を、ポテンシア国王がするとは思えなかったのだ。
「まあ、そうだな。敵側の心情になると、そんな先の見えない任務に就かされる方は大変だ」
「そういう見方をするなら、ポテンシア国王は大変な任務しか与えなさそうではあるけど・・」
カイとロキが言い合っている時にレナは何かを思い出したようで、急に顔色を変えた。
「・・どうしたの?」
明らかに様子が違うレナを、ロキが心配する。
「あの日、私、後方支援部隊から同時に何名かが弓を無差別に打ち始めるのを見たの。その時の印象だけど・・操られていたのかもしれないって、思うことがあって・・」
「操られていた・・?」
「攻撃している側が、混乱していたの。身体の制御が利かないんだって言ってる人がいたから・・」
「自我を残して操る術か・・最悪だな・・」
シンが顔を歪めながら悔しがると、カイも同じように顔を歪めた。カイはレナを弓で討った自国兵を、そのまま躊躇せずに殺したことを思い出してしまう。
「それならば、納得が行く。10年以上間諜として潜伏させていたわけではなく・・本当に元からブリステ兵だった者が突然何者かに操られて、無差別攻撃に出た、と・・」
「私、あの時呪術が使えなかったの・・。間違いなく、術の発動を抑えるような術を、誰かが使っていたんだわ」
「確か・・一名だけ生きて捕らえられた兵がいると言ったな?」
カイの問いかけにシンとロキは頷く。どれだけ追及しても情報を吐かなかったと聞いているが、もしも情報を外に出すまいと口をつぐんでいるのではなく、本当に事情を知らないのだとしたら・・? 全員の頭の中に確信めいたものがよぎる。
「一体・・どんな術で、いつ操られていたのか分からないけど・・恐ろしいな」
シンが呟いた。被害者が加害者になる術が、まだ発動せずに誰かの中に眠っていたらこの先も同じようなことが起こるかもしれない。
「レナは、その操られている人間が呪術で操られている証拠は見られなかったのか? その・・術式を見たりなど」
「ごめんなさい・・。残念ながら、術式は見えなかったわ。そもそも、宝石を用いて使う呪術なんかは、殆ど宝石に術式が溜まっているから・・」
カイに尋ねられてレナは残念そうに答えた。
「宝石所有者の裏切り者が一名でも紛れていれば・・可能なわけだな」
カイが呟く。レナはそれを聞いて心配そうな顔で頷いた。
「あーあ、これはまた、敵が分からなくて怖い状況だね」
ロキがウンザリしたように言い放つ。
「身体の中の『気』が戻ったら・・兵士全員の『気』でも読んでみるか・・。操られているやつが分かったら儲けものだ」
カイがそう言うと、
「なんでこんな大事な時に寝転がってんですか。いつになるか分からないじゃないですか、それ」
とシンは残念そうな顔をした。
「何故、一昨日のタイミングで兵士たちが次々行動に移したのかが引っかかる。そして、それぞれが何か特別な話し合いをしている様子が見かけられたという報告も入っていないようだし・・」
「そうですね。一昨日の出兵は、今迄の自国軍の動きと違ったことって何か無かったんですか?」
シンに尋ねられて、カイは可能性を考えてみた。
「兵が行動を起こした前日に、レナが呪術で相手軍を撃退したっていうのは、その辺と関係があると思うか?」
「どうでしょうね・・」
「こちらの軍に紛れていた間諜が、あちらと連絡を取る方法があればその疑いもあるかもしれないかな」
ロキが可能性の話をすると、一度そこで間が開いた。レナが何かを思いつく。
「例えば・・通信の術を使えたとすれば、なくは無いわね」
「なるほど? その線も、可能性としては残しておくか・・」
カイは自国軍に紛れていた敵兵が、敵と通じる手段を持っていた可能性を残す。ただ、もしそれが事実であれば敵の襲撃に備えるのが難しくなる上、まだまだ気が抜けない。
「あとは、あらかじめルールを決めていた線だな」
「例えば、ある場所に到達したら行動を起こすように最初から決まっていた、みたいなやつですよね」
寝転がったままカイは頷いている。会話は元通りになっているが、寝たきりのため普段より威厳がない。
「どうなんだろうな・・。その条件だと、いつになるか分からない中で敵兵に紛れて行動しつづけなきゃならないってことだよね。10年単位の潜伏だったみたいだし、無駄足になる可能性を考えたら微妙じゃないかな・・」
ロキは納得しきれない様子だった。いつになるか分からないで敵兵に協力し続けなければならないような選択を、ポテンシア国王がするとは思えなかったのだ。
「まあ、そうだな。敵側の心情になると、そんな先の見えない任務に就かされる方は大変だ」
「そういう見方をするなら、ポテンシア国王は大変な任務しか与えなさそうではあるけど・・」
カイとロキが言い合っている時にレナは何かを思い出したようで、急に顔色を変えた。
「・・どうしたの?」
明らかに様子が違うレナを、ロキが心配する。
「あの日、私、後方支援部隊から同時に何名かが弓を無差別に打ち始めるのを見たの。その時の印象だけど・・操られていたのかもしれないって、思うことがあって・・」
「操られていた・・?」
「攻撃している側が、混乱していたの。身体の制御が利かないんだって言ってる人がいたから・・」
「自我を残して操る術か・・最悪だな・・」
シンが顔を歪めながら悔しがると、カイも同じように顔を歪めた。カイはレナを弓で討った自国兵を、そのまま躊躇せずに殺したことを思い出してしまう。
「それならば、納得が行く。10年以上間諜として潜伏させていたわけではなく・・本当に元からブリステ兵だった者が突然何者かに操られて、無差別攻撃に出た、と・・」
「私、あの時呪術が使えなかったの・・。間違いなく、術の発動を抑えるような術を、誰かが使っていたんだわ」
「確か・・一名だけ生きて捕らえられた兵がいると言ったな?」
カイの問いかけにシンとロキは頷く。どれだけ追及しても情報を吐かなかったと聞いているが、もしも情報を外に出すまいと口をつぐんでいるのではなく、本当に事情を知らないのだとしたら・・? 全員の頭の中に確信めいたものがよぎる。
「一体・・どんな術で、いつ操られていたのか分からないけど・・恐ろしいな」
シンが呟いた。被害者が加害者になる術が、まだ発動せずに誰かの中に眠っていたらこの先も同じようなことが起こるかもしれない。
「レナは、その操られている人間が呪術で操られている証拠は見られなかったのか? その・・術式を見たりなど」
「ごめんなさい・・。残念ながら、術式は見えなかったわ。そもそも、宝石を用いて使う呪術なんかは、殆ど宝石に術式が溜まっているから・・」
カイに尋ねられてレナは残念そうに答えた。
「宝石所有者の裏切り者が一名でも紛れていれば・・可能なわけだな」
カイが呟く。レナはそれを聞いて心配そうな顔で頷いた。
「あーあ、これはまた、敵が分からなくて怖い状況だね」
ロキがウンザリしたように言い放つ。
「身体の中の『気』が戻ったら・・兵士全員の『気』でも読んでみるか・・。操られているやつが分かったら儲けものだ」
カイがそう言うと、
「なんでこんな大事な時に寝転がってんですか。いつになるか分からないじゃないですか、それ」
とシンは残念そうな顔をした。
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