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第10章 新しい力
彼女には敵わない
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カイが動けないこともあり、レナ、シン、ロキの3人だけで捕らえられている例の自国兵の元に向かった。
マルセルに尋ねると、すんなりと捕虜を繋いでいる場所を教えてもらう。
「一度は操られていたわけだから、また何かのきっかけで暴走する可能性があるってことなのかな?」
ロキは歩きながら2人に尋ねた。
「可能性は否定できないよな……。操られてる兵士にしてみれば、被害者なのに悪いけど……拘束を解くのは危険な気がする」
シンは憂鬱そうに言った。本当に操られているだけだとすれば、自分が味方を攻撃したことを記憶したまま次の暴走に怯えるのはかなり酷だ。
「操られているのだとしたら、それを解けるかどうか試してみるわ」
レナがハッキリと言い切ったのを、シンとロキは驚いて見つめる。
「そんなことが……できるんですか?」
「初めて聞いた情報なんだけど……」
2人はレナが呪術師として呪いを解いてきたことなど知らなかった。
「ええ。呪術の使い方として精神を元に戻すようなことは、一般的なのよ」
「うーん……一般的の意味を考え直したい……」
「どういうことか気になりますが、なんか希望が出てきました」
3人は和やかな雰囲気で自国兵の元に向かう。暫く歩いているとその先にある光景に目を疑った。
「なん……だ……?」
シンが一歩前に出て止まると、ロキは咄嗟にレナがそちらを見ないように身体を横に向けさせる。
そこには足を鎖でつながれたまま、全身に打撲の跡が生々しく残り、生きているかも分からない様子の兵士が倒れていた。
「……自国兵に、やられたのか……?」
「そうだろうね……。ある程度のことは予想してたけど、人ってのは残酷だな」
シンとロキはじっくりと倒れている兵士を観察した。生きてはいるようだが、もう動くことすら難しそうに見える。レナはロキの手で目を隠されており、様子を窺うことは出来なかった。
「拷問なのか、私刑なのか分からないけど……これは話が聞ける状態じゃないな……」
「惨いな……。気持ちは分からなくないけど……」
自国兵が苛立ちをぶつけたくなる気持ちは、二人にも理解できる。実際に仲間が殺されており、敵が目の前にいると思えば復讐心が沸いてもおかしくはない。
「でも、無抵抗の相手に、ここまでするなんて……」
ロキは奥歯を噛み締めた。昔、仲間を私刑で亡くした経験が蘇る。戦時中には、どうしてもこういったことが起こりやすいのだ。
「レナ様は、何か分かりますか……? この状態で……」
シンがレナの方を振り返ると、ロキに目を塞がれている様子が目に入った。
「……ああ、何も見えてなかったんですね」
シンは苦笑いした。ロキの過保護ぶりが目に余る。
レナはシンに言われたとおりに倒れている兵士から何かを読み取ろうと、ロキの手を外してそちら凝視した。
「呪術が施されている感じはなさそうね……」
レナは兵士をじっと見つめて何かを決意し、後ろを向いて歩きだした。
「食事をもらってくるわ。きっと流動食の方がいいわね」
「えっ?」
「急に食事ですか?」
レナは二人に声を掛けられると、振り向きざま、
「まだ、回復する見込みがありそうじゃない? 食事が出来たら、念のため呪術を込めて歌ってみるから、そこで何か術が解除されれば分かることもあるかも」
と、得意気な顔を見せてそのまま炊事場に向かって行った。
「……わあー。かっわいいなー……。あの人、どこにいても癒されるなあ? ロキ」
シンが小さな声でロキに向かって呟く。
「ほんと……なんていうか……あんな毒気のない人、人生で初めて会ったよ」
ロキは、ぼーっとその後ろ姿を眺めている。
「恋してるなあ……。若者」
シンがロキの肩に手を掛けて寄りかかりながら揶揄う。
「あーそうだよ。なんで、よりによって相手が団長なんだろうね?」
ロキは腕を組んでレナの後ろ姿を見つめたまま呟いた。
「団長の恋人じゃなきゃ、汚い手でも何でも使って、側に置いたよ」
「ロキのそういうとこ、俺は好きだけどな」
二人は小さくなっていくレナの姿を眺めながら、改めて彼女の無事を誰にでもなく感謝していた。
マルセルに尋ねると、すんなりと捕虜を繋いでいる場所を教えてもらう。
「一度は操られていたわけだから、また何かのきっかけで暴走する可能性があるってことなのかな?」
ロキは歩きながら2人に尋ねた。
「可能性は否定できないよな……。操られてる兵士にしてみれば、被害者なのに悪いけど……拘束を解くのは危険な気がする」
シンは憂鬱そうに言った。本当に操られているだけだとすれば、自分が味方を攻撃したことを記憶したまま次の暴走に怯えるのはかなり酷だ。
「操られているのだとしたら、それを解けるかどうか試してみるわ」
レナがハッキリと言い切ったのを、シンとロキは驚いて見つめる。
「そんなことが……できるんですか?」
「初めて聞いた情報なんだけど……」
2人はレナが呪術師として呪いを解いてきたことなど知らなかった。
「ええ。呪術の使い方として精神を元に戻すようなことは、一般的なのよ」
「うーん……一般的の意味を考え直したい……」
「どういうことか気になりますが、なんか希望が出てきました」
3人は和やかな雰囲気で自国兵の元に向かう。暫く歩いているとその先にある光景に目を疑った。
「なん……だ……?」
シンが一歩前に出て止まると、ロキは咄嗟にレナがそちらを見ないように身体を横に向けさせる。
そこには足を鎖でつながれたまま、全身に打撲の跡が生々しく残り、生きているかも分からない様子の兵士が倒れていた。
「……自国兵に、やられたのか……?」
「そうだろうね……。ある程度のことは予想してたけど、人ってのは残酷だな」
シンとロキはじっくりと倒れている兵士を観察した。生きてはいるようだが、もう動くことすら難しそうに見える。レナはロキの手で目を隠されており、様子を窺うことは出来なかった。
「拷問なのか、私刑なのか分からないけど……これは話が聞ける状態じゃないな……」
「惨いな……。気持ちは分からなくないけど……」
自国兵が苛立ちをぶつけたくなる気持ちは、二人にも理解できる。実際に仲間が殺されており、敵が目の前にいると思えば復讐心が沸いてもおかしくはない。
「でも、無抵抗の相手に、ここまでするなんて……」
ロキは奥歯を噛み締めた。昔、仲間を私刑で亡くした経験が蘇る。戦時中には、どうしてもこういったことが起こりやすいのだ。
「レナ様は、何か分かりますか……? この状態で……」
シンがレナの方を振り返ると、ロキに目を塞がれている様子が目に入った。
「……ああ、何も見えてなかったんですね」
シンは苦笑いした。ロキの過保護ぶりが目に余る。
レナはシンに言われたとおりに倒れている兵士から何かを読み取ろうと、ロキの手を外してそちら凝視した。
「呪術が施されている感じはなさそうね……」
レナは兵士をじっと見つめて何かを決意し、後ろを向いて歩きだした。
「食事をもらってくるわ。きっと流動食の方がいいわね」
「えっ?」
「急に食事ですか?」
レナは二人に声を掛けられると、振り向きざま、
「まだ、回復する見込みがありそうじゃない? 食事が出来たら、念のため呪術を込めて歌ってみるから、そこで何か術が解除されれば分かることもあるかも」
と、得意気な顔を見せてそのまま炊事場に向かって行った。
「……わあー。かっわいいなー……。あの人、どこにいても癒されるなあ? ロキ」
シンが小さな声でロキに向かって呟く。
「ほんと……なんていうか……あんな毒気のない人、人生で初めて会ったよ」
ロキは、ぼーっとその後ろ姿を眺めている。
「恋してるなあ……。若者」
シンがロキの肩に手を掛けて寄りかかりながら揶揄う。
「あーそうだよ。なんで、よりによって相手が団長なんだろうね?」
ロキは腕を組んでレナの後ろ姿を見つめたまま呟いた。
「団長の恋人じゃなきゃ、汚い手でも何でも使って、側に置いたよ」
「ロキのそういうとこ、俺は好きだけどな」
二人は小さくなっていくレナの姿を眺めながら、改めて彼女の無事を誰にでもなく感謝していた。
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