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第10章 新しい力

王女の真価

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レナはその日も夕食の手伝いをしていた。カイをはじめとした兵士たちはレナが調理に加わると明らかに目の色が変わる。
人に喜ばれるたび、レナは炊事に遣り甲斐を感じていた。

カイは脇を支えられていれば、ゆっくり歩行することも可能なほど回復している。

「食事が格別にうまいな」

カイがそう言って食事を褒めると、レナは恥ずかしそうにはにかんだ。その日の味付けはレナが担当している。

「おいおい、新婚気取りかよ。言っとくけど、これは団長のために作ったわけじゃないからな」

ロキが面白くなさそうに口を挟むが、レナは大いに照れた。
「新婚だなんて……」と言いながら嬉しそうに困る様子を見て、シンはロキに無言の視線を送る。
浮かれた二人の間には何を言っても無駄なのだ、と。

「レナ、ブリステの歌を歌ってくれないか?」

カイはすぐ側にいるレナに願い出る。
レナは快く頷くと、周囲に兵士がいる中で静かにブリステに伝わる民謡を口ずさみ始めた。

各々に会話をしていた兵士たちも、レナの声に耳を澄ませて静まり返る。何名かは自然に涙を零していた。

歌が終わった時、辺りに大きな拍手が起こり、レナは周囲に向かって礼をする。

その瞬間、カイはシンとロキに声を掛けた。

「あいつだ。捕らえろ」

カイに指を差された兵士は比較的新人だった。急にシンとロキに捕まえられて訳が分からないでいる。

「……どうした? 穏やかじゃないな」

マルセルはカイの行動を不思議そうに見て言った。

「この歌は、ブリステ人なら誰でも知っているが、奴は歌に『気』が同調していなかったばかりか、レナの呪術を防ぐ『気』を発していた。呪術師で間違いない。しかも、リブニケ人だな」

カイがそう言うと、捕まった兵士は咄嗟にシンとロキから逃れようと呪術を発動させようとした。

「火の術ね!」

レナが声を上げた瞬間、捕まった兵士から炎が発せられたのを、レナの出した炎が絡め取った。炎はレナの背後に戻る。

「……あなたは……」

兵士はレナを見て茫然としていた。術を術で防ぐ高位の術師だというのはすぐに分かる。

「ルリアーナ王国第一王女、レナ・ルリアーナです。あなたは?」

「……リブニケ王国兵の者です……先日の混乱も、私が……」
「宝石を持っているわね? 呪術の発動を抑えることができる……」

レナの言葉に、シンが兵士の服のポケットをひと通り漁る。紫色の宝石が服から現れた。

「ビンゴだな」

カイはそう言って自国軍を追い込んだ兵士を睨む。

「誰の指示だ?」
「……ルイス王子です」

兵士の言葉に、レナは大きく溜息をついた。

「あなたは指示されて働いただけなのでしょうから、根本の場所に向かうしかないわね。ルイス王子は私の元婚約者なの。きっと私が死んだと思っているはずだから」

その言葉にカイが明らかに嫌そうな顔をしたので、それを見たロキがニヤリと笑った。

「元婚約者か。また手強いライバルがいたね」

ロキがそう言うと、カイは不機嫌な顔を隠さずに、
「その婚約には愛が無かったがな」
と小さく反論した。
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