亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第10章 新しい力

未来の約束 1

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日も暮れ、夜になった。

カイはルリアーナに向けて発つ準備をする。ルイスから仕向けられた間諜は、レナによれば見張りに呪術の籠った宝石を持たせたので安全らしい。

(とうとうか。まさかルイス王子のところに向かうことになるとはな……)

カイはルイスを思い出す。

ルイスがレナを前にした時にどんな反応をするのか想像がつかなかった。
ブリステ側に間諜を手配する程度には、冷酷に物事を判断するようになっているのだろう。

「明日からは、馬で向かうの?」

テントの中でレナに尋ねられて、カイは我に返った。

「ああ、途中までは馬で動こう。移動時間がかかりすぎる」
「ポテンシアを抜けて、ルリアーナに入るのね。国境の町で、アウルに寄るのは難しい?」
「難しくはないが……、止めておいた方がいい」
「?」

「俺たちは、ポテンシアに住む一般人にとっては好まざる客だ」
「……侵略者だから?」
「今は、ポテンシアの敵だ」

カイがそう言ったのをレナは悲しそうに聞いていた。
一時期ポテンシアで過ごしていたレナにとって、その事実は決して軽くない。

「立ち寄る場所は、ロキの資本が入っている宿など限られたところにしていくつもりだ。こちらにあの青年実業家がいるのは都合が良かったな」

カイが淡々と説明するが、レナはまだ事実を割り切れていないような様子で黙っている。

「レナが勝ち取りたい平穏が、きっと次の機会を運んでくれるはずだ。それまでの辛抱と行こう」

カイは隣に座るレナの、顔に掛かっていた髪を掻き上げて唇を重ねた。

レナはいつも通りその行為を受け取っていたが、突然何かのスイッチが入ったようにそのまま体重をかけてカイを押し倒す。カイは『気』が足りず、集中しなければ思うように力が入らないのだ。

(?!)

カイは混乱から状況が把握できない。
テントの中で横になって上に乗られているだけでなく、口は塞がれたままだ。

普段であればレナを軽々と持ち上げることも態勢を変えることも可能なのが、『気』を失っているカイは、集中しなければ身体が上手く動かせない。

動揺から集中などできず、されるがままになっていた。

(待て、待て……! どうした?!)

暫く身体がまともに動かせなかったのを、意識を何とか保ち、カイはレナの肩を掴んで引きはがす。

「……はっ……どうした……? 急に……」

息も絶え絶えで、意識が遠のきそうだった。カイには全く余裕がない。

「これからみんなで移動をするから、二人きりでいられる時間も無くなるんでしょ?」
「ああ、まあ……そうかもしれないな」
「だから今だけは、我慢しない方がいいのかと思って」

カイは言葉を失った。我慢をしないとは? と頭が真っ白になる。

「いや、今、身体が思うように動かないんだ……」
「知ってるわ。だから、私がこうして……」
「待て、本当に待て」

カイが焦っていると、レナの身体が震えだす。

「ふ……うぅ……」

かろうじて漏れるような声に、レナの小さな泣き声が混じる。
一体どうしたのか、カイは理解ができない。

「不安なの……。この先の事も、あなたとの、未来も……」
「ああ、それは、そうだろう」

倒れたままのカイはレナを引き寄せて自分の上に腹ばいにさせると、いつもように抱きしめて頭を撫でた。
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