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第10章 新しい力
前夜
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その日の夜、宿でレナは寝間着姿のまま男性陣の部屋にいる。
カイがひとりでレナの部屋に行こうとしたところ、ロキに制された。
そこに、レナが寂しがって部屋を訪れて来た結果だ。
レオナルドは別の宿を取っているらしく、そちらに帰っている。
「本当に、ルイス王子はポテンシア国王を討つんでしょうか?」
「レオナルドがあれ程確信しているんだ、可能性は高いな」
「同じ国の人間同士が殺し合って、親子で争って……なんだか、虚しいですね」
「ああ」
シンとカイがそんなことを言いながらソファで向かい合って麦酒を飲んでいると、カイに密着して座っていたレナが倒れ込んで膝枕からカイを見上げる。
「……堂々と甘えるんですね、レナ様」
「私、カイの体温が無いと眠れなくて」
シンとカイは絶句しながら照れた。シンは「体温」の意味を完全に誤解している。
ロキはベッドで横になりながら、会話をあえて聞かなかったことにした。
「これからのことを考えると……眠いのに眠れないの」
「そうだろうな」
カイは、レナの寝つきが悪いことをよく知っていた。そして、自分が添い寝をすると何故かあっという間に眠れるのだということも。
「ここで眠れそうなら、眠ってくれていい」
カイはレナの髪を撫で、肩をさする。緊張している身体を、ゆっくりと解していた。
「……団長って、ちゃんとそういうことするんですね」
「……どういう意味だ」
「いや、なんていうか、女性に気遣いとかできる人じゃないと思ってたっていうか……」
シンは目の前にいるカイの行動が、自分の知る騎士団長と同一人物だとは信じがたい。
「これは気遣いなのか? ただレナが眠れるようにしているだけだが」
「それを自然にできるのが意外なんですけど」
シンの言葉に、レナが顔を綻ばせた。
「ふふ、特別待遇してもらっている気分。私、カイのファンに恨まれちゃうかもしれないわね」
「知るか。そんなものは存在しない」
「存在しますよ」
離れたところからロキが声を上げた。しっかり会話は聞いているらしい。
レナは膝枕の位置からカイを眺め、手を伸ばす。カイはその手を取って、そのまま自然に掌に口付けた。
「あなたのファンになる人の気持ちは、分かるわ」
何年も小説の主人公に憧れて来たレナは、モデルとなった本人がフィクション以上に魅力的な人物だと知ってしまった。
小説で知った憧れの『騎士団長様』の恋人が自分なのだと思うと、不思議な心地がする。
「町の歌姫ファンも、すごかったがな」
「孤独な人が多い町だったからよ」
「……俺、何を見せられてんですかね?」
堪らずシンが割って入る。
色恋関係に全く縁のなかった上司だからか、違和感に加えて惚気の程度が度を越えている。
ロキの気持ちを知っているだけに、シンはいたたまれなかった。
「ファンといえば、ロキもすごいわね。ルリアーナとポテンシアにいた時は知らなかったけど、ブリステでロキを知らない人に会ったことないの」
「……そりゃそうだろうね、別にいい噂ばかりじゃないけど」
ロキは背を向けたまま、けだるそうに息を吐く。
「自分の事を大して知りもしない人から騒がれたってさ、そんなの虚像信仰みたいなものだろ。やっぱり、好きな人から騒がれたいよね、理想は」
ロキはそう言って掛け布に潜り込んだ。
「好きな人から騒がれたい、か……」
カイはロキの言葉を反芻すると、自分の膝に頭を載せているレナに視線を落とす。
「騒いでみる?」
「いや……」
ロキの「好きな人」がカイと同じであることは分かっていた。この状況でわざわざ当てつけるようなことはしない。
「もうそれ騒いでんのと同じだよ」
ベッドの上の塊から声が漏れた。
「ごめんなさい、私、カイのファン歴もあるし……」
「いや、もうその辺で止めてあげて下さい……」
シンは目の前でいちゃつく純真な元王女に、この一連の流れがどれだけ罪深いのかと苦笑いしか出ない。
カイはレナの手を唇で探るように触れていたが、目の前のシンに真顔で見られているのに気付く。
何となく目を逸らして何もしていなかったかのように麦酒のグラスを持って目を泳がせていた。
カイがひとりでレナの部屋に行こうとしたところ、ロキに制された。
そこに、レナが寂しがって部屋を訪れて来た結果だ。
レオナルドは別の宿を取っているらしく、そちらに帰っている。
「本当に、ルイス王子はポテンシア国王を討つんでしょうか?」
「レオナルドがあれ程確信しているんだ、可能性は高いな」
「同じ国の人間同士が殺し合って、親子で争って……なんだか、虚しいですね」
「ああ」
シンとカイがそんなことを言いながらソファで向かい合って麦酒を飲んでいると、カイに密着して座っていたレナが倒れ込んで膝枕からカイを見上げる。
「……堂々と甘えるんですね、レナ様」
「私、カイの体温が無いと眠れなくて」
シンとカイは絶句しながら照れた。シンは「体温」の意味を完全に誤解している。
ロキはベッドで横になりながら、会話をあえて聞かなかったことにした。
「これからのことを考えると……眠いのに眠れないの」
「そうだろうな」
カイは、レナの寝つきが悪いことをよく知っていた。そして、自分が添い寝をすると何故かあっという間に眠れるのだということも。
「ここで眠れそうなら、眠ってくれていい」
カイはレナの髪を撫で、肩をさする。緊張している身体を、ゆっくりと解していた。
「……団長って、ちゃんとそういうことするんですね」
「……どういう意味だ」
「いや、なんていうか、女性に気遣いとかできる人じゃないと思ってたっていうか……」
シンは目の前にいるカイの行動が、自分の知る騎士団長と同一人物だとは信じがたい。
「これは気遣いなのか? ただレナが眠れるようにしているだけだが」
「それを自然にできるのが意外なんですけど」
シンの言葉に、レナが顔を綻ばせた。
「ふふ、特別待遇してもらっている気分。私、カイのファンに恨まれちゃうかもしれないわね」
「知るか。そんなものは存在しない」
「存在しますよ」
離れたところからロキが声を上げた。しっかり会話は聞いているらしい。
レナは膝枕の位置からカイを眺め、手を伸ばす。カイはその手を取って、そのまま自然に掌に口付けた。
「あなたのファンになる人の気持ちは、分かるわ」
何年も小説の主人公に憧れて来たレナは、モデルとなった本人がフィクション以上に魅力的な人物だと知ってしまった。
小説で知った憧れの『騎士団長様』の恋人が自分なのだと思うと、不思議な心地がする。
「町の歌姫ファンも、すごかったがな」
「孤独な人が多い町だったからよ」
「……俺、何を見せられてんですかね?」
堪らずシンが割って入る。
色恋関係に全く縁のなかった上司だからか、違和感に加えて惚気の程度が度を越えている。
ロキの気持ちを知っているだけに、シンはいたたまれなかった。
「ファンといえば、ロキもすごいわね。ルリアーナとポテンシアにいた時は知らなかったけど、ブリステでロキを知らない人に会ったことないの」
「……そりゃそうだろうね、別にいい噂ばかりじゃないけど」
ロキは背を向けたまま、けだるそうに息を吐く。
「自分の事を大して知りもしない人から騒がれたってさ、そんなの虚像信仰みたいなものだろ。やっぱり、好きな人から騒がれたいよね、理想は」
ロキはそう言って掛け布に潜り込んだ。
「好きな人から騒がれたい、か……」
カイはロキの言葉を反芻すると、自分の膝に頭を載せているレナに視線を落とす。
「騒いでみる?」
「いや……」
ロキの「好きな人」がカイと同じであることは分かっていた。この状況でわざわざ当てつけるようなことはしない。
「もうそれ騒いでんのと同じだよ」
ベッドの上の塊から声が漏れた。
「ごめんなさい、私、カイのファン歴もあるし……」
「いや、もうその辺で止めてあげて下さい……」
シンは目の前でいちゃつく純真な元王女に、この一連の流れがどれだけ罪深いのかと苦笑いしか出ない。
カイはレナの手を唇で探るように触れていたが、目の前のシンに真顔で見られているのに気付く。
何となく目を逸らして何もしていなかったかのように麦酒のグラスを持って目を泳がせていた。
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