亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第10章 新しい力

探り合い

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レオナルドとの会話は道端で話すようなことではなかった。
そんなわけで、ロキの経営する飲食店の個室に籠る。

狭い個室にビリビリとした緊張が走っていた。
部屋の壁に設置された大きな鏡を通して、カイ、シン、ロキの3人は常にレオナルドの動きに注意を払っている。

「陛下は自分の命ですら、大して興味がない方なんですよ」
「嫌な話だな」

シンがレオナルドの言葉に嫌悪感を隠さない。
これから父親になるシンにとって、一国の王の志向がそれでは未来も暗い。

「それというのも、やはり身近な方を相次いで亡くされていますからね」
「ありがちだな。そもそも親兄弟で争っているような王族だ」

カイは特に驚いた様子もなく頷いている。ロキは無表情だった。

「ルイス王子のお母様は自死しました。珍しく恋愛結婚で迎えた側室だったと伺っていますが、王室で恋愛結婚はまずかったみたいですね」
「私、ルイス様からその話を聞いたことがあるわ。お母様は使用人の方と一緒に心中したのだとか」
「婚姻後の不貞です。よくある話ですよ」

レオナルドが当たり前のように言う。
レナはそれが「よくある話」なのかは分からなかった。

「そんなわけで、国王陛下はルイス王子が執着したルリアーナ王女に目を付けました」

レオナルドの言葉に、レナの目線が大きく揺れた。

「私を暗殺しに来たのは、ルリアーナが欲しかったからではないの?」
「それはおまけですね」

レオナルドがふうと息を吐いて一旦レナを見据える。

「真の目的は、ルイス王子に強力な感情を芽生えさせるためです」
「……婚約者を失わせて?」
「ルイス王子は、あなたを本気で欲しがっていましたからね」

レオナルドが当然のように放った言葉で、レナは身体をこわばらせた。

「それで? なぜレオナルドはレナを助けた?」
「さっきからちょっと気になってたんですけどハウザーさんは……王女殿下の何なんですか?」

「恋人で婚約者だ」
「うわあ……雇われ騎士の分際で王女に手を……」
「違うの、私が……ずっとカイのことが好きで……恋人になったのは、国を追われてからのことだから」

レナが話しながらチラリとカイを見る。2人の間に独特の穏やかな空気が流れた。

それを見たロキは堂々と舌打ちすると、テーブルに置かれていたベルを鳴らして従業員を呼ぶ。

「ごめん、なんか喉を潤すもの持ってきて。機嫌が悪くて堪らないや」
「……機嫌ですか?」
「水とハーブティにして。精神が安定するやつ」

ロキの指示で従業員はすぐにその場から消えていった。その一部始終を見ていたレオナルドがにっこりと笑顔を作る。

「やっぱりロキさんは変わった経歴をお持ちですね。社会的に成功しているのにハウザーさんの下で騎士として働いているなんて」
「悪い? 別になんだっていいだろ」
「女性にも相当人気らしいですね。それなのに上司の婚約者で平民には手の届かない王女殿下なんですか?」
「ノーコメント」

ロキはわざとらしく右手で頬杖をつき、レオナルドと視線も合わせずに左手の指でトントンとテーブルを叩いて小さな音を立てる。
会議中に社員を震え上がらせるためによく行う癖だった。

「さっきの話に戻したいんですけど……なんでレナ様を助けたんですか」

シンが堪らず割って入る。レオナルドのペースに飲まれかけているのを危惧して流れを変えた。

「そんなの、僕の殺しのスタンスに合わないからですよ。これでも僕、無駄な殺しはしないタチで」
「……」

レナは、目の前で殺された実母が既に術の対価で取り返しのつかない状態になっていたのを知っていた。

かといって、その命を堂々と散らされて無駄ではなかったと言われる事実に納得はできない。

「国王陛下のせいで、ルイス王子とルリアーナ王女が結婚できなくなる工作をすれば良かったんです。あなたには何の罪も無かった。
……良かったですね、好きな方と婚約できて。てっきりハウザーさんは女性には落とせない人かと思ってたんですけど」

レオナルドはそう言ってくすりと笑う。

「どういう意味だ」
「自分の行動を振り返ってみてください」

カイがレナの隣で納得できない様子を見せると、レナはその横顔を見つめてみる。

確かに、この騎士団長が自分を好きになってくれる日が来るとは、以前であれば想像できなかった。

ロキがレナの熱い視線がカイにあることに更に苛ついたところで、従業員が飲み物を持って部屋に入って来る。

「お待たせしました。カモミールティーとお水をお持ちしました」
「ああ、ありがと」
「うわあ、草っぽい飲み物、僕、飲めないんですよ……」
「じゃあ飲むなよ」

レオナルドに気を遣えなくなっているロキは、別の飲み物をあえて用意することもしない。
飲食店の従業員が心配していたが、ロキはあえて対応しなかった。

「で? 僕と一緒にルイス様のところに行きますか? 王女殿下」
「……あなた、ルイス様に恨まれてるんでしょう?」
「そうですね、僕は相当恨まれていると思います」
「レオナルドこそ、危険なんじゃないの?」
「まあそれは……対策済です」

ロキとシンは、レオナルドの言葉を信じて良いものか判断ができない。何から何までが嘘くさく見えてしまうのに、全てが真実のようにも思えるのだ。

「レオナルド……ここにいる全員に手を出さないと約束できるのか?」
「できますよ」
「理由は?」
「無駄な殺しはしません。ルイス様の元にルリアーナ王女を連れて行くのは、楽しそうでワクワクしますし」

カイは一度目を瞑って一呼吸した。

「分かった。手を組んでもいい」

カイが決断すると、ロキはカモミールティーを飲み干した。
ハーブの鎮静効果程度ではたかぶった神経が収まりそうにない。

「よろしくお願いします、みなさん」

いつもの読めない笑顔が、全員に向けられていた。
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