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第11章 歴史を変える
町からの徒歩移動 1
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レオナルドが取っていた宿に馬を預け、五人は歩きで暫く移動をする。
町を抜けてからは、舗装のされていない道をひたすら歩くことになる。
レナは血が沁み込んで赤黒く変色したドレスを身に付けており、背中と脇腹の辺りには補修の跡が生々しく残っていた。
それを目に入れたカイは、思わずレナを引き寄せる。
レナが無事だったことを噛み締めると同時に、頭にこびりついている光景に震えが起きそうになった。
レナは、咄嗟のカイの行動に動揺しつつも、かちあった視線にそのまま柔らかく微笑む。
「どうしたの?」
「その格好は、やはりきついな」
「……あなたは、一部始終を見ていたものね」
歩きながら、レナはカイにしがみつく。レナが思っている以上に、カイはあの日の光景にショックを受けたのだろう。
「矢を抜いた。矢尻に塗られていた毒をレナの身体から吸い出した。その間もずっと苦しむレナと大量の血を見ながら……生きた心地なんかしなかったんだ」
「それを言うなら、私だって……」
(あなたが倒れていた間、生きた心地なんかしなかった)
その言葉を、自分が撃たれなければカイは倒れることなどなかったのだと飲み込んだ。
カイのあの行動がなければ、レナは生きていなかったかもしれない。
「違ったわね。あの時の出来事があったから、あなたをもう二度と失わないって決意したの」
「それは……」
カイも同じだった。
もう二度とレナを失わない決意をした。それが前向きとは言えない感情を伴っていたとしても。
「初めてレナの護衛に入った時から、レナを傷付けるあらゆるものから護ろうとしていたつもりだった。あの時をきっかけに、自分の力を過信するのは止めた」
「……?」
「俺がレナを守れるなんて、おこがましかったな」
そう言うと、カイはどこか楽しそうな表情で前を向いている。
「強さでレナに敵う者など、なかなかいない」
「どういう意味?」
レナが口をすぼめて抗議すると、カイはレナの頭をわしゃわしゃと荒くかき混ぜるように撫でる。
ぼさぼさになったレナの髪を見て、カイは目を細めて口角を上げた。
「レナの強さに何度も救われてきたのだと気付いたんだ。それを忘れたから、あんなことになった。俺が護りに行こうなどとしなければ、恐らくレナは撃たれなかった」
「自分を責めるのは止めて。あの時、術を抑えられていたからカイは風を起こせなかったのよ」
「……結果が全てだ」
レナはカイに荒々しく撫でられた髪を手櫛で整えながら、カイの表情を覗く。
「結果が全てなら……別にいいじゃない。私は生きているし、あなたも復活した。そして、私たちも進展したわ」
「……進展か……」
二人の前方を歩いていたロキが、思わず道に転がっていた枝を思い切り踏み「バキイ」と音を立てた。
「まあ、死にかけでもしないと焦れったいことになってそうだもんなあ」
シンは隣のロキの荒れぶりにも構わず、微笑ましそうにその会話に頷いている。「進展」といっても大した進展ではないのだろうと分かっているのは、冷静なシンだけだ。
「もう少し歩いたところに、リブニケ兵が出るらしいですよ」
先頭を歩いていたレオナルドが、不意に後ろに向かって声を掛ける。
「……数は?」
「多くないみたいです。千も行かない程度でしょう」
レオナルドの言葉を鵜呑みにしていいのか分からないが、カイは相手に先手を取られないようにと気を引き締めた。
対照的に、レナ自身は普段通りの様子で満足そうな顔をしている。
「なんでこのタイミングで浮かれているんだ……無謀な行動は慎めよ」
つい、カイは声を掛けてこの先に待つものを警戒してしまう。
またレナの力を借りなければならない戦いが待っているかもしれない。
「勿論、この間みたいなことが起きないようにしなくちゃね」
レナは自分から言い出しておいて、あれがあったから「進展」したのだと噛み締める。これから先に危険が待っていると思っても、自然に頬が緩んでしまうのだ。
「緊張感の欠片もないな」
カイはレナの様子に呆れながら笑う。
考えても仕方のない不安は、抱えなくてもいい。
その場その場で最良の判断をしていくことが、後悔をせずに済む唯一の方法なのだ。
カイは皮肉にも、レナを失いそうになって初めて実感した。
町を抜けてからは、舗装のされていない道をひたすら歩くことになる。
レナは血が沁み込んで赤黒く変色したドレスを身に付けており、背中と脇腹の辺りには補修の跡が生々しく残っていた。
それを目に入れたカイは、思わずレナを引き寄せる。
レナが無事だったことを噛み締めると同時に、頭にこびりついている光景に震えが起きそうになった。
レナは、咄嗟のカイの行動に動揺しつつも、かちあった視線にそのまま柔らかく微笑む。
「どうしたの?」
「その格好は、やはりきついな」
「……あなたは、一部始終を見ていたものね」
歩きながら、レナはカイにしがみつく。レナが思っている以上に、カイはあの日の光景にショックを受けたのだろう。
「矢を抜いた。矢尻に塗られていた毒をレナの身体から吸い出した。その間もずっと苦しむレナと大量の血を見ながら……生きた心地なんかしなかったんだ」
「それを言うなら、私だって……」
(あなたが倒れていた間、生きた心地なんかしなかった)
その言葉を、自分が撃たれなければカイは倒れることなどなかったのだと飲み込んだ。
カイのあの行動がなければ、レナは生きていなかったかもしれない。
「違ったわね。あの時の出来事があったから、あなたをもう二度と失わないって決意したの」
「それは……」
カイも同じだった。
もう二度とレナを失わない決意をした。それが前向きとは言えない感情を伴っていたとしても。
「初めてレナの護衛に入った時から、レナを傷付けるあらゆるものから護ろうとしていたつもりだった。あの時をきっかけに、自分の力を過信するのは止めた」
「……?」
「俺がレナを守れるなんて、おこがましかったな」
そう言うと、カイはどこか楽しそうな表情で前を向いている。
「強さでレナに敵う者など、なかなかいない」
「どういう意味?」
レナが口をすぼめて抗議すると、カイはレナの頭をわしゃわしゃと荒くかき混ぜるように撫でる。
ぼさぼさになったレナの髪を見て、カイは目を細めて口角を上げた。
「レナの強さに何度も救われてきたのだと気付いたんだ。それを忘れたから、あんなことになった。俺が護りに行こうなどとしなければ、恐らくレナは撃たれなかった」
「自分を責めるのは止めて。あの時、術を抑えられていたからカイは風を起こせなかったのよ」
「……結果が全てだ」
レナはカイに荒々しく撫でられた髪を手櫛で整えながら、カイの表情を覗く。
「結果が全てなら……別にいいじゃない。私は生きているし、あなたも復活した。そして、私たちも進展したわ」
「……進展か……」
二人の前方を歩いていたロキが、思わず道に転がっていた枝を思い切り踏み「バキイ」と音を立てた。
「まあ、死にかけでもしないと焦れったいことになってそうだもんなあ」
シンは隣のロキの荒れぶりにも構わず、微笑ましそうにその会話に頷いている。「進展」といっても大した進展ではないのだろうと分かっているのは、冷静なシンだけだ。
「もう少し歩いたところに、リブニケ兵が出るらしいですよ」
先頭を歩いていたレオナルドが、不意に後ろに向かって声を掛ける。
「……数は?」
「多くないみたいです。千も行かない程度でしょう」
レオナルドの言葉を鵜呑みにしていいのか分からないが、カイは相手に先手を取られないようにと気を引き締めた。
対照的に、レナ自身は普段通りの様子で満足そうな顔をしている。
「なんでこのタイミングで浮かれているんだ……無謀な行動は慎めよ」
つい、カイは声を掛けてこの先に待つものを警戒してしまう。
またレナの力を借りなければならない戦いが待っているかもしれない。
「勿論、この間みたいなことが起きないようにしなくちゃね」
レナは自分から言い出しておいて、あれがあったから「進展」したのだと噛み締める。これから先に危険が待っていると思っても、自然に頬が緩んでしまうのだ。
「緊張感の欠片もないな」
カイはレナの様子に呆れながら笑う。
考えても仕方のない不安は、抱えなくてもいい。
その場その場で最良の判断をしていくことが、後悔をせずに済む唯一の方法なのだ。
カイは皮肉にも、レナを失いそうになって初めて実感した。
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