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第11章 歴史を変える

町からの徒歩移動 2

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歩く時間も長くなってくると、カイはレナの体力を心配し始める。
他3名はともかくとして、レナは長距離を歩くような生活をしてきていないはずだった。

「そろそろ、体力的につらくないか? 立ち仕事をしてきたとはいえ、ここまで歩き続けたりはしないだろう……」
「今のところ、なんとか大丈夫だけど……」

そんな話をし始めたのを耳に入れると、前方を歩いていたロキが振り返った。

「誰か一人に負担がかかるのも心配だし、交代で背負っていくのが良いんじゃないの?」

ロキが全員に聞こえるようにハッキリ言ったので、レオナルドが「僕、力仕事は向いてないので控えます」と早々に辞退を表明した。

「俺は良いんですけど……。レナ様は団長以外の背中なんて嫌じゃないのかなあ……その……密着するわけだし……」

シンはなるべく遠慮しようとカイの方をじっと見る。流石に上司の恋人を目の前で背負うのは気が引けた。

「私は、別に?」
「別にいいのか?!」

レナが間髪入れずに何の理解もせずに返事をしたので、一瞬でカイの立場はなくなった。
「カイ以外の人にしがみつくなんて」くらいのことを言われるつもりでいたカイは、心に吹き荒れる北風に耐えながらロキを睨む。

「いや、ここは流石にロキとシンの出番ではないだろう……」
「団長が本調子じゃないから気にしてるんですよ」

本心か分からないが、ロキがカイの体調を気遣ったことで事態は悪化した。

「無理は良くないわ」

事実だけに、誰も反論できない。
せめてレナが感情面でカイをフォローしていれば、シンがその場で抱えている気まずさは無かったに違いない。

「無理なんかしなくても大したことではない」

カイが完全に孤立する形になってしまった。
シンは気まずそうにレナとカイを交互に見ているが、レオナルドは心底興味が無さそうに道の脇に植わっている木に背を預け、身体を休めている。

「じゃあ、最初は団長からで良いんじゃないですか? 適宜代わりますから」

ロキがニッコリと笑うと、レオナルドがいつもの笑顔を浮かべていた。

「なに?」

明らかに馬鹿にされている気がしたロキが声を掛けると、「そんな下らないことで、よくもまあ時間をかけられますね」とレオナルドがにこやかに言いながら改めて歩き出す。

「下らなくないんだよねえ……。この先、誰かが歩けなくなったりしたらそれこそ問題だよ」

ロキは至って平然としていたが、レオナルドはくすりと笑った。

「歩けなくなってからおぶってもいいじゃないですか」
「それじゃ色々と不便だろ」

言い合いをしているロキとレオナルドに構わず、カイはレナを背負って歩き出し、シンはカイとレナの荷物を預かって全員を眺める。

「なんていうか、騒がしいですね」

シンがしみじみと言うと、カイの背に収まったレナも頷いている。

「そのくらいがちょうどいいわ」

レナが背中で言ったのを聞いて、カイは「そうかもしれないな」と呟く。向かっている先はルイスのいる場所で、その前にはルイスの抱える兵が現れるかもしれない。

「死にかけでも助かったことだし、意外と何とかなると思うしかないな」

カイが晴れやかな気持ちでレナを背負いながら歩くと、不意に肩にしがみつく手に力が加わった。

「バカなことを言わないで。あなたが死にかけるなんてこと、二度と許さない」

レナが震えているのが、カイの背中に伝わる。

「ああ、分かっている」

カイはそこでようやくレナを理解した。彼女は王になるべくして育ってきた。その場の利益を優先する癖がついてるのだ。

それはレナが生きていく中で自然に染みついたもので、感情を出さないのは今に始まった習慣ではなかった。

「誰かを泣かすのは主義じゃない」

カイがしみじみと言うと、「ほんとよ。私、あなたのことでは泣いてばかり」と背中の声が小さく耳元に届く。

「愛想をつかされてもおかしくないな」

カイは小さく言った。

「それだけはないから安心して」

レナはいつもの調子ではっきりと言い切った。
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