亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

文字の大きさ
181 / 229
第11章 歴史を変える

ポテンシア国王のもとへ 1

しおりを挟む
向かう場所が分かっていたカイは、レナと共に先頭を歩く。レナのペースで全体を歩かせることで、なるべくレナの負担を軽くした。

ふと空を見上げると、嫌味なくらいにどこまでも青い。気持ちは全く晴れないまま、また荒れた地に到着した。

「どうも……普通じゃないな」

カイが先程と似た光景――つまり、戦場だった場所――を前にレナに話しかけると、レナは隣のカイを見上げながら「分かる?」と尋ねる。

「何か変なの。もしかすると……生存者がいるのかも」
「……この中から探すのか……」

多くの傷付いた兵士たちの姿は、もう息絶えているように見える。が、カイが「気」を探れば生存者の存在に気づくこともできるはずだ。

「その前に、呪いを解かなきゃね」

レナはまた、ルリアーナの鎮魂歌を歌った。
後ろにいるリブニケ人兵士たちもメロディを口ずさみながら手を組んで祈っているのが分かる。

歌が進むと、細かな光が色とりどりの結晶のように浮かんでは溶けるように消えていった。

「あと、何かの術が施されているから……それも消しておくわ」

レナはそう言って頭の中に術式を組み立てて、その場にいる「誰か」に掛かっている術を解除する。
カイを見上げると、「任せておけ」とカイは小さく返事をしてレナの頭をクシャッと撫でて歩き出した。

(どこかにいる……なぜ立ち上がったり声を上げたりしないのか分からないが……)

カイはうっすらと感じる生きた人間の「気」に神経を集中させながら、無数の亡骸の間を歩いた。
むせかえる臭い。大量の血が散ったらしい鉄のような臭いと腐敗が混じった空気がカイの顔をなんども歪ませる。

(どこだ……)

ここまではっきりと感じられないと、もう助からない命なのかもしれないという予感が強くなる。
カイがリブニケ人兵士を探す義理などないが、この地まで足を運んだ5人の残党兵にとってはそういう訳にもいかないのだろう。

「あっちか……」

なんとなく「気」を感じる場所がある。
カイはそちらに歩いて行くと、ようやく生存者を発見した。

「おい! 手を貸せ!」

カイが大声を上げる。全員がその場に駆け付けた。


「本当に、ありがとうございます……」

死体の下敷きになったまま動けなくなっていた兵士は全員で7名。
無事に救出されると、まともに歩けない兵士は仲間によって両脇を抱えられた。
精神を操られたまま身動きが取れなくなっていたらしく、発見が遅れていたら力尽きていたかもしれない。

1名ほど、どこかで負傷したらしい左足は引きずられていて、うまく歩けていないようだった。

「仲間がいて良かったな。その足で暫く歩くことになるが、行けるか?」

カイがリブニケ人兵士たちに尋ねると、全員無言で頷いている。
息がある者を置いていくのも後味が悪かったので、カイはほっと胸を撫でおろした。

12人になったリブニケ人兵士たちは、それぞれ武器を持っている。ここで暴れられたらレナだけが危ないが、カイは警戒する必要は無さそうだと悟った。

その者たちにとって、レナがどれだけ救いの女神になっているかが、はっきりと分かったからだ。

炎の鳥を操るレナが遺体を火葬している間も、リブニケ人兵士たちはレナへの祈りも忘れなかった。
「ヘレナ様のお陰です」と口にしながら時折涙を流す敵兵に、カイの戦意はとっくに削がれている。

(それなりに憎い国だと思っていたが……)

こうして敵国の12人を目の前にすると、もはやその気持ちは沸かなかった。そこに立っているのは、ただの傷付いた兵士でしかない。
国に戻られたら戦場で戦うことになるかもしれないのに、そんなことはもうどうでも良かった。

「近いところまで来ている。いよいよだな」

カイはレナの肩を抱いて大地の先を見据える。

運命は、レナをすでに巻き込んで大きく動いているのだろう。
この先なにがあろうとも、失うわけにはいかない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...