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第11章 歴史を変える
残党兵の願い
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カイはいつかの戦地跡を思い出す。そこには多くの兵士たちの亡骸があったが、以前見たの光景と何かが違う。
(なんだ、この違和感は……)
「これは、味方同士の争った跡なのです」
「そうか……」
リブニケ人兵士たちは自国民兵士たちが散った場所に、生き残った自分たちもほとんど変わりないのだと黙祷を捧げている。
「何か視えるか? 術式のようなものや、呪いのようなものが」
カイが隣のレナに尋ねると、レナはじっとその光景を見つめていた。
「そうね、呪詛が……呪いのようなものが」
レナはすうっと大きく息を吸うと、ルリアーナの鎮魂歌を歌い始める。
「その歌は……」
兵士の一人が目を見開いたので、「ルリアーナの鎮魂歌らしいが」とカイが小声で伝えた。
レナの声が荒れた戦地跡に響くと、地面から小さな白い光がぽうっと生まれて消えていく。
次々に呪いはその土地の風に消えて浄化されていった。
「もう大丈夫よ、でも……この遺体に残る思念は、火葬した方がよさそう」
レナはそう言うと大きな炎の鳥を目の前に産み、鳥は小さな炎に分かれて飛び散った。細かい炎が各地で上がり、周囲を燃やしていく。
レナは手を組んで、その地に留まる思念が願った場所に戻れるように祈った。
暫く火が上がり、様々なものが焼け焦げる匂いが漂う。
兵士たちだけでなく、カイやシン、ロキまでもが目を瞑って黙祷を捧げていた。
*
「これで平気だと思う。先に進みましょうか」
レナがなんてことのないように微笑むと、カイはほっと胸をなでおろす。レナは呪いには負けないらしい。
「あの、ヘレナ様……。先ほどの歌は、ルリアーナの歌なのですか?」
「ええ……」
レナが何を聞かれているのかと不思議そうな顔で頷くと、リブニケ人兵士たちは納得した。
「リブニケにも、同じ曲で歌詞の違う鎮魂歌があるのです。私たちには馴染みのある歌です」
「リブニケで生まれた女神ヘレナは、ルリアーナを建国したわ。だからなのかしらね」
レナが青い透き通った目で兵士たちを見つめると、先程まで力なく立っていた5人はハッとして立膝を付いた。
「ヘレナ様……。あともう一か所、ルイス王子がいる城の近くでも同じことが起きています。どうか……」
頭を下げながら必死に願いを乞う姿に、全員何も言えなかった。
敵国とはいえ残党兵の最後の願いとは仲間の平穏を願うことなのだ。カイは改めて事実を知った。
恐らく自分も同じような立場に置かれれば、きっと同じことを願ってしまうのだろう。
敵でしかなかったリブニケ王国の兵士とはいえ、こうして向き合ってみると自分たちと違うところなど何もなかった。
カイは争いの先にいる兵士の存在を身近に感じてしまう。
「同じようなことしかできないけれど、行きましょう。カイが怒らないことなら協力するわ」
レナが笑顔を見せると、リブニケ人兵士たちはその場から立ち上がってどういうことなのだろうと首を傾げる。
「女神ヘレナ様の恋人が、狭量な人なんだよ」
ロキがそう言ってカイの肩に手を置いて得意げな顔をしていた。
(なんだ、この違和感は……)
「これは、味方同士の争った跡なのです」
「そうか……」
リブニケ人兵士たちは自国民兵士たちが散った場所に、生き残った自分たちもほとんど変わりないのだと黙祷を捧げている。
「何か視えるか? 術式のようなものや、呪いのようなものが」
カイが隣のレナに尋ねると、レナはじっとその光景を見つめていた。
「そうね、呪詛が……呪いのようなものが」
レナはすうっと大きく息を吸うと、ルリアーナの鎮魂歌を歌い始める。
「その歌は……」
兵士の一人が目を見開いたので、「ルリアーナの鎮魂歌らしいが」とカイが小声で伝えた。
レナの声が荒れた戦地跡に響くと、地面から小さな白い光がぽうっと生まれて消えていく。
次々に呪いはその土地の風に消えて浄化されていった。
「もう大丈夫よ、でも……この遺体に残る思念は、火葬した方がよさそう」
レナはそう言うと大きな炎の鳥を目の前に産み、鳥は小さな炎に分かれて飛び散った。細かい炎が各地で上がり、周囲を燃やしていく。
レナは手を組んで、その地に留まる思念が願った場所に戻れるように祈った。
暫く火が上がり、様々なものが焼け焦げる匂いが漂う。
兵士たちだけでなく、カイやシン、ロキまでもが目を瞑って黙祷を捧げていた。
*
「これで平気だと思う。先に進みましょうか」
レナがなんてことのないように微笑むと、カイはほっと胸をなでおろす。レナは呪いには負けないらしい。
「あの、ヘレナ様……。先ほどの歌は、ルリアーナの歌なのですか?」
「ええ……」
レナが何を聞かれているのかと不思議そうな顔で頷くと、リブニケ人兵士たちは納得した。
「リブニケにも、同じ曲で歌詞の違う鎮魂歌があるのです。私たちには馴染みのある歌です」
「リブニケで生まれた女神ヘレナは、ルリアーナを建国したわ。だからなのかしらね」
レナが青い透き通った目で兵士たちを見つめると、先程まで力なく立っていた5人はハッとして立膝を付いた。
「ヘレナ様……。あともう一か所、ルイス王子がいる城の近くでも同じことが起きています。どうか……」
頭を下げながら必死に願いを乞う姿に、全員何も言えなかった。
敵国とはいえ残党兵の最後の願いとは仲間の平穏を願うことなのだ。カイは改めて事実を知った。
恐らく自分も同じような立場に置かれれば、きっと同じことを願ってしまうのだろう。
敵でしかなかったリブニケ王国の兵士とはいえ、こうして向き合ってみると自分たちと違うところなど何もなかった。
カイは争いの先にいる兵士の存在を身近に感じてしまう。
「同じようなことしかできないけれど、行きましょう。カイが怒らないことなら協力するわ」
レナが笑顔を見せると、リブニケ人兵士たちはその場から立ち上がってどういうことなのだろうと首を傾げる。
「女神ヘレナ様の恋人が、狭量な人なんだよ」
ロキがそう言ってカイの肩に手を置いて得意げな顔をしていた。
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