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第12章 騎士はその地で

宵は2人の時間を刻む 1

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カイはそれまで与えられていた自室で身支度を整えると、やってきた使用人に武器や刃物を隠していないか身体中を調べられた。

王の命が懸かっていると思えば、必要な儀式なのかもしれない。
が、カイにとっては何の意味もなさないものだ。
武器など持っていなくてもその気になれば身一つで人を殺すことは可能だ。そのための訓練ならいくらでもしてきている。

それに、レナを守るためにこの城内で一番気を遣っているカイがレナを手に掛けるなど、不本意もここまでくると何の感情もわかない。

ただの儀式にすぎない、とカイは無心になった。抵抗しようものなら疑われるだけだ。

全裸を晒して身体中を調べられると、再度ローブを羽織り直した。
全く素肌を他人に見せない仕事をしていたら、この時間は屈辱だったに違いない。

(興が削がれるというのか、どうもこの手のしきたりは好きではないな)

カイはそんなことを考えながら、使用人に付いてレナの部屋に向かう。
何度も共に過ごした部屋が、これからは自室になるのだ。
仕事の間は離れ離れになるとはいえ、一日の終わりにはあの部屋が自分の帰る場所になる。

一歩ずつ床を踏みしめる感覚が遠くなっていった。
いよいよ、カイはルリアーナ王室の一員になったのだと思い知って行く。

薄暗い廊下を使用人のランタンが照らす。すぐに最上階のレナの部屋に着いた。先に使用人が扉を開け、カイを誘導する。

ゆっくりと足を踏み入れて中に入ると、ベッド脇に燭台が置かれて蝋燭が灯る妙な空間になっていた。
薄暗いのに、寝所のエリアだけが明るく見える。

レナはどこだ、と視線を巡らせると、いつかのようにベランダに立つ姿があった。

(こちらに気付いていないのか)

カイはその後ろ姿を眺めていた。月明かりを受けてキラキラと輝く髪が揺れ、こちらを振り向く。
慌てて部屋に入って来たということは、恐らくカイが部屋に来ていたタイミングでは気付いていなかったのだろう。

「ごめんなさい。今日は星がよく見えたの」

長いカーディガンを羽織っていたが、カイがその手を握ると随分冷たくなっている。

「身体が冷えている。長い時間外にいたのか」

「なんだか落ち着かなくて……」

レナは困ったように笑った。日が暮れる前から緊張していたことを思えば、落ち着かないというのも分かる。

「なんだか、明るいな……その空間が」

カイは異様な雰囲気に包まれているようなベッドに視線をやった。

「初日に人が入れ替わらないか確認するために、代々そういう仕組みがあるらしいわ」
「……なるほど」

カイはルリアーナ王室のしきたりがそろそろ嫌になってきた。
仮にもこれが初日……初夜というものだとして、異様な空間をつくられているのは納得がいかない。

カイはベッド脇に置かれた蝋燭を見る。わざわざ両脇に3つずつ、燭台が置かれていた。

「あの世があったらこんな感じなんじゃないか?」

カイはそう言って、蝋燭の火を4つほど消した。
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