亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第12章 騎士はその地で

朝の時間は

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部屋が明るくなり始めると、カイは自然に目を開ける。
ふと自分の身体が温かいものを包んでいる気がして不思議に思うと、レナの姿があった。

穏やかに眠る顔を暫く見つめ、髪を撫でて手にその感触を確かめる。
目を覚ましたら、どんな反応をするのか想像がつかない。
昨日より今日は、夫婦らしくなっているのだろうか。

時折寝返りを打つように身体が動くのを支えていたが、目を覚ます気配はなかった。
肌が直に触れ合う感触に言いようのない心地よさが襲ったが、そろそろ朝食の時間だろうかと、レナをそっと解放して起き上がる。

無造作に放られていたローブを羽織ると扉を開けて使用人を呼んだ。

「ハウザー様、朝食をお持ちしましょうか?」

サーヤが駆け付けたので、朝食はワゴンに乗せて部屋の隅に置いておいて欲しいとだけ伝えた。カイの姿を見て何となく状況を察したサーヤが恥ずかしそうに「かしこまりました」と去って行く。

(なんだか、居心地が悪いな)

妙に気を遣われている。それもそうか、とカイはまた部屋に戻った。
レナがまだ起きてきそうにないのでベッドに戻る。一度冷たくなった身体を温めてからそっとレナの身体を包んだ。

しばらくそうしていると、扉が開いて朝食を置いていった音がする。カイは起き上がろうかとレナを離したが、眠っているレナの腕が無意識にしがみついてきた。

(眠っていても、分かるのか?)

離れたがらないのか、と思うと妙に鼻周りがむずがゆくなるような感覚がする。

明るくなった部屋でじっとレナの姿を見つめた。

カイは、レナの持つ魂と性格に惹かれた。惹かれてから、その性格を映すような見た目やしぐさを愛おしいと思うようになった。

白く滑らかな肌に触れて、その感触に惹かれていく。
背中をなぞると、矢に撃たれた際にできた大きな傷が皮膚を盛り上げて生々しい跡を残していた。

(生きていてくれた。こうして、一緒になれた)

レナを抱き寄せて腕に力を込める。
すうすうと小さな寝息を立てていることが、こんなにもありがたい。
ただここで、レナが生きていることを誰にでもなく感謝した。

「……ん」

まだ意識が覚醒していないレナが小さな声を出す。
その表情を確認するが、目は開いていなかった。
女王として国の責務を担う小さな身体は、日頃から睡眠不足になりやすい。

(今日くらい、何もせずに眠っていたらいい——)

瞼に口付けると、ぴくりとレナの指が動く。
カイはその背中をゆっくりさすった。

「カイ……」

寝言で名前を呼ばれ、「安心しろ、ここにいる」と答えると、閉じた目のまま「しあわせ」と声を出してレナは口元を緩めている。

カイは暫くあちこちに視線を泳がせて狼狽したあと、「それは……よかった」と呟いて枕に勢いよく顔を埋めた。


 *

「あ……」

レナが目を覚ましたのは、昼前の時間だった。
横で本を読んでいたカイは、ようやく目を覚ました女王に起き抜けのキスをする。
レナは、明るい部屋で自分だけが何も身につけていない状況に大いに焦った。

「朝食がすっかり冷めてしまったな。俺はいい加減腹が減って仕方がない」

カイがそう言ってベッドから出ると、朝食のワゴンを運んでくる。

「行儀は良くないが、このままブランチにしようか」

カイが声をかけても、レナは起き上がってこなかった。

「どうした?」

心配になって声をかける。

「どうしたのかしら……私……」

明らかに戸惑っているレナに、何かまずいことでもあったのだろうかとカイは慌てて駆け寄る。

「身体が……身体中のあちこちが痛くて、動こうとすると激痛が……」
「…………」

カイは横になったまま戸惑うレナを見つめていたが、突然火でもついたかのように全身で笑ってしまっていた。

「な、なによお。本当に、痛いんだから……」
「いや、女王陛下に特訓をつけた……つもりはっ……」

初めて見るカイの爆笑に、レナは何が面白いのかと怪訝な表情を浮かべる。人が痛みに苦しんでいるのに、あんまりではないだろうか。

「酷いわ。もう少し心配してくれたっていいじゃないの」
「すまん、つい……。それは病気でも怪我でもないから安心しろ」

カイは、笑い過ぎたのか涙が出ていた。こんなに笑ったのはいつぶりだろうと自分でも不思議だ。
今日は新婚らしく過ごそうかと思っていたが、相手が動くだけで激痛とあれば寝かせておくしかない。

「今日一日、介護だな」

不服そうなレナを見ながら目を細める。

体勢を動かすだけで激痛とあれば、朝食から難問だ。
こんな結婚生活の始まりになるとは、全く想像も付かなかった。

「これからレナと過ごすということは、平穏や平坦とは無縁なのかもしれないな」

結局のところ、全てを好きになっていくのだろう。
寝起きで動けず戸惑うレナを、この先もずっと記憶して笑っていられそうだ。

「私は、一生あなたにドキドキさせられそう」

レナはしみじみと言うと、首だけをベッド脇に立つカイに向けたままうっとりとしている。

「笑った顔は、さらにかわいいのね」

カイはベッドに腰かけると「また、『かわいい』なのか」と複雑な表情を浮かべ、レナの頬に触れた。
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