210 / 229
第12章 騎士はその地で
朝の時間は
しおりを挟む
部屋が明るくなり始めると、カイは自然に目を開ける。
ふと自分の身体が温かいものを包んでいる気がして不思議に思うと、レナの姿があった。
穏やかに眠る顔を暫く見つめ、髪を撫でて手にその感触を確かめる。
目を覚ましたら、どんな反応をするのか想像がつかない。
昨日より今日は、夫婦らしくなっているのだろうか。
時折寝返りを打つように身体が動くのを支えていたが、目を覚ます気配はなかった。
肌が直に触れ合う感触に言いようのない心地よさが襲ったが、そろそろ朝食の時間だろうかと、レナをそっと解放して起き上がる。
無造作に放られていたローブを羽織ると扉を開けて使用人を呼んだ。
「ハウザー様、朝食をお持ちしましょうか?」
サーヤが駆け付けたので、朝食はワゴンに乗せて部屋の隅に置いておいて欲しいとだけ伝えた。カイの姿を見て何となく状況を察したサーヤが恥ずかしそうに「かしこまりました」と去って行く。
(なんだか、居心地が悪いな)
妙に気を遣われている。それもそうか、とカイはまた部屋に戻った。
レナがまだ起きてきそうにないのでベッドに戻る。一度冷たくなった身体を温めてからそっとレナの身体を包んだ。
しばらくそうしていると、扉が開いて朝食を置いていった音がする。カイは起き上がろうかとレナを離したが、眠っているレナの腕が無意識にしがみついてきた。
(眠っていても、分かるのか?)
離れたがらないのか、と思うと妙に鼻周りがむずがゆくなるような感覚がする。
明るくなった部屋でじっとレナの姿を見つめた。
カイは、レナの持つ魂と性格に惹かれた。惹かれてから、その性格を映すような見た目やしぐさを愛おしいと思うようになった。
白く滑らかな肌に触れて、その感触に惹かれていく。
背中をなぞると、矢に撃たれた際にできた大きな傷が皮膚を盛り上げて生々しい跡を残していた。
(生きていてくれた。こうして、一緒になれた)
レナを抱き寄せて腕に力を込める。
すうすうと小さな寝息を立てていることが、こんなにもありがたい。
ただここで、レナが生きていることを誰にでもなく感謝した。
「……ん」
まだ意識が覚醒していないレナが小さな声を出す。
その表情を確認するが、目は開いていなかった。
女王として国の責務を担う小さな身体は、日頃から睡眠不足になりやすい。
(今日くらい、何もせずに眠っていたらいい——)
瞼に口付けると、ぴくりとレナの指が動く。
カイはその背中をゆっくりさすった。
「カイ……」
寝言で名前を呼ばれ、「安心しろ、ここにいる」と答えると、閉じた目のまま「しあわせ」と声を出してレナは口元を緩めている。
カイは暫くあちこちに視線を泳がせて狼狽したあと、「それは……よかった」と呟いて枕に勢いよく顔を埋めた。
*
「あ……」
レナが目を覚ましたのは、昼前の時間だった。
横で本を読んでいたカイは、ようやく目を覚ました女王に起き抜けのキスをする。
レナは、明るい部屋で自分だけが何も身につけていない状況に大いに焦った。
「朝食がすっかり冷めてしまったな。俺はいい加減腹が減って仕方がない」
カイがそう言ってベッドから出ると、朝食のワゴンを運んでくる。
「行儀は良くないが、このままブランチにしようか」
カイが声をかけても、レナは起き上がってこなかった。
「どうした?」
心配になって声をかける。
「どうしたのかしら……私……」
明らかに戸惑っているレナに、何かまずいことでもあったのだろうかとカイは慌てて駆け寄る。
「身体が……身体中のあちこちが痛くて、動こうとすると激痛が……」
「…………」
カイは横になったまま戸惑うレナを見つめていたが、突然火でもついたかのように全身で笑ってしまっていた。
「な、なによお。本当に、痛いんだから……」
「いや、女王陛下に特訓をつけた……つもりはっ……」
初めて見るカイの爆笑に、レナは何が面白いのかと怪訝な表情を浮かべる。人が痛みに苦しんでいるのに、あんまりではないだろうか。
「酷いわ。もう少し心配してくれたっていいじゃないの」
「すまん、つい……。それは病気でも怪我でもないから安心しろ」
カイは、笑い過ぎたのか涙が出ていた。こんなに笑ったのはいつぶりだろうと自分でも不思議だ。
今日は新婚らしく過ごそうかと思っていたが、相手が動くだけで激痛とあれば寝かせておくしかない。
「今日一日、介護だな」
不服そうなレナを見ながら目を細める。
体勢を動かすだけで激痛とあれば、朝食から難問だ。
こんな結婚生活の始まりになるとは、全く想像も付かなかった。
「これからレナと過ごすということは、平穏や平坦とは無縁なのかもしれないな」
結局のところ、全てを好きになっていくのだろう。
寝起きで動けず戸惑うレナを、この先もずっと記憶して笑っていられそうだ。
「私は、一生あなたにドキドキさせられそう」
レナはしみじみと言うと、首だけをベッド脇に立つカイに向けたままうっとりとしている。
「笑った顔は、さらにかわいいのね」
カイはベッドに腰かけると「また、『かわいい』なのか」と複雑な表情を浮かべ、レナの頬に触れた。
ふと自分の身体が温かいものを包んでいる気がして不思議に思うと、レナの姿があった。
穏やかに眠る顔を暫く見つめ、髪を撫でて手にその感触を確かめる。
目を覚ましたら、どんな反応をするのか想像がつかない。
昨日より今日は、夫婦らしくなっているのだろうか。
時折寝返りを打つように身体が動くのを支えていたが、目を覚ます気配はなかった。
肌が直に触れ合う感触に言いようのない心地よさが襲ったが、そろそろ朝食の時間だろうかと、レナをそっと解放して起き上がる。
無造作に放られていたローブを羽織ると扉を開けて使用人を呼んだ。
「ハウザー様、朝食をお持ちしましょうか?」
サーヤが駆け付けたので、朝食はワゴンに乗せて部屋の隅に置いておいて欲しいとだけ伝えた。カイの姿を見て何となく状況を察したサーヤが恥ずかしそうに「かしこまりました」と去って行く。
(なんだか、居心地が悪いな)
妙に気を遣われている。それもそうか、とカイはまた部屋に戻った。
レナがまだ起きてきそうにないのでベッドに戻る。一度冷たくなった身体を温めてからそっとレナの身体を包んだ。
しばらくそうしていると、扉が開いて朝食を置いていった音がする。カイは起き上がろうかとレナを離したが、眠っているレナの腕が無意識にしがみついてきた。
(眠っていても、分かるのか?)
離れたがらないのか、と思うと妙に鼻周りがむずがゆくなるような感覚がする。
明るくなった部屋でじっとレナの姿を見つめた。
カイは、レナの持つ魂と性格に惹かれた。惹かれてから、その性格を映すような見た目やしぐさを愛おしいと思うようになった。
白く滑らかな肌に触れて、その感触に惹かれていく。
背中をなぞると、矢に撃たれた際にできた大きな傷が皮膚を盛り上げて生々しい跡を残していた。
(生きていてくれた。こうして、一緒になれた)
レナを抱き寄せて腕に力を込める。
すうすうと小さな寝息を立てていることが、こんなにもありがたい。
ただここで、レナが生きていることを誰にでもなく感謝した。
「……ん」
まだ意識が覚醒していないレナが小さな声を出す。
その表情を確認するが、目は開いていなかった。
女王として国の責務を担う小さな身体は、日頃から睡眠不足になりやすい。
(今日くらい、何もせずに眠っていたらいい——)
瞼に口付けると、ぴくりとレナの指が動く。
カイはその背中をゆっくりさすった。
「カイ……」
寝言で名前を呼ばれ、「安心しろ、ここにいる」と答えると、閉じた目のまま「しあわせ」と声を出してレナは口元を緩めている。
カイは暫くあちこちに視線を泳がせて狼狽したあと、「それは……よかった」と呟いて枕に勢いよく顔を埋めた。
*
「あ……」
レナが目を覚ましたのは、昼前の時間だった。
横で本を読んでいたカイは、ようやく目を覚ました女王に起き抜けのキスをする。
レナは、明るい部屋で自分だけが何も身につけていない状況に大いに焦った。
「朝食がすっかり冷めてしまったな。俺はいい加減腹が減って仕方がない」
カイがそう言ってベッドから出ると、朝食のワゴンを運んでくる。
「行儀は良くないが、このままブランチにしようか」
カイが声をかけても、レナは起き上がってこなかった。
「どうした?」
心配になって声をかける。
「どうしたのかしら……私……」
明らかに戸惑っているレナに、何かまずいことでもあったのだろうかとカイは慌てて駆け寄る。
「身体が……身体中のあちこちが痛くて、動こうとすると激痛が……」
「…………」
カイは横になったまま戸惑うレナを見つめていたが、突然火でもついたかのように全身で笑ってしまっていた。
「な、なによお。本当に、痛いんだから……」
「いや、女王陛下に特訓をつけた……つもりはっ……」
初めて見るカイの爆笑に、レナは何が面白いのかと怪訝な表情を浮かべる。人が痛みに苦しんでいるのに、あんまりではないだろうか。
「酷いわ。もう少し心配してくれたっていいじゃないの」
「すまん、つい……。それは病気でも怪我でもないから安心しろ」
カイは、笑い過ぎたのか涙が出ていた。こんなに笑ったのはいつぶりだろうと自分でも不思議だ。
今日は新婚らしく過ごそうかと思っていたが、相手が動くだけで激痛とあれば寝かせておくしかない。
「今日一日、介護だな」
不服そうなレナを見ながら目を細める。
体勢を動かすだけで激痛とあれば、朝食から難問だ。
こんな結婚生活の始まりになるとは、全く想像も付かなかった。
「これからレナと過ごすということは、平穏や平坦とは無縁なのかもしれないな」
結局のところ、全てを好きになっていくのだろう。
寝起きで動けず戸惑うレナを、この先もずっと記憶して笑っていられそうだ。
「私は、一生あなたにドキドキさせられそう」
レナはしみじみと言うと、首だけをベッド脇に立つカイに向けたままうっとりとしている。
「笑った顔は、さらにかわいいのね」
カイはベッドに腰かけると「また、『かわいい』なのか」と複雑な表情を浮かべ、レナの頬に触れた。
0
あなたにおすすめの小説
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる