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第12章 騎士はその地で
愛情のカタチ
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「こんなに何もしない日って、初めてかもしれない……」
レナは1日を振り返って愕然とする。
動かすと痛む身体を寝かせたまま日が暮れた。
「日頃が働きすぎだったくらいだ。こんな日があってもいい」
「でも……」
レナはベッドで何か言いたげにモゴモゴと口を動かしていた。
「恐らく明日も痛みは残るだろうな。無理はしない方が良い」
「そんなあ……」
残念そうに落ち込むレナに、何も動けないというのはもどかしいものだなとカイは急に気の毒になる。
「俺の『気』を渡そうか? 筋肉痛くらいなら、大してこちらに負担も無いだろうし……」
「それは使わない約束でしょ? 例外を作るのはやめて。こうなったのは全部私のせいなんだし」
レナが天井を見て溜息をつく度、カイの良心が痛んだ。こうなったのはレナのせいではない。
何となく確信している理由を考えるのも気が引けた。
「本当は、どう過ごすつもりだったんだ? 今日は外出の予定もなかっただろ」
「具体的にどうってわけじゃないけど、あなたに甘えて過ごすはずだったの。介護みたいな甘え方じゃなくて」
レナはベッド脇で読書に夢中になっているカイをじっと見ていた。
「じゃあ、甘えてもらおうか。身体が動かなければ無理だと思っていること自体、忘れてくれて構わない」
「どういうこと?」
「そのままだ」
レナはカイの言っていることがよく分からなかったが、甘えろと言われたら甘えないのは何となく勿体ない気がする。
「じゃあ……頭を撫でて。そのまま、褒められたい……」
「今の状態でもできることだぞ」
カイはレナが何を遠慮していたのか分からず、軽く衝撃を受けた。そんなことで良かったのかと信じられずにいる。
カイは本をサイドテーブルに置くとベッドに乗った。
仰向けに寝ているレナの隣で横になると、頭をゆっくり撫でながら褒めることを考える。
「いつも、偉いな。いい女王だ。配偶者としても誇らしい」
「ふふ、嬉しい」
レナの表情が柔らかくなったので、こんなものでも良いのかとカイは更に驚いた。
「周辺国の王を2名も夢中にさせた女王など、歴史的にも稀だろうな」
「そういうのじゃなくて」
「それだけ、魅力的だということだ」
「……私は、王配殿下が夢中になってくれていれば」
「なっている」
レナは顔を覆いたくなったが手を動かそうとするだけで痛くてうまく動かせない。
ひたすら照れるレナをそのままにして、カイが会話を続けた。
「人を導く力のようなものが、やはり違うのだなといつも思っている。ここまで導かれて、予想外の人生になっていった」
「それは……」
「良かったことだ。一人では見られなかった世界を見ている」
カイは相変わらず頭を撫でていた。レナの反応が止まったので、これもまた気に入らなかったのだろうかと次の話題を探そうと悩む。
「あの……」
遠慮がちにレナが口を開くので、カイは何か困ったことがあるのだろうかと横にいるレナをじっと覗き込んだ。
「どうした?」
「キスして」
カイは無言で頷いて、身体を起こす。
身体に触れたら痛みが走るのだろうと、カイはレナの上で四つん這いになった。
触れてはいけないと思うと、妙にもどかしい。
「今、何を考えているの?」
カイが思い悩んだ様子を見せたので、レナは当然のように尋ねた。
「いや……」
「夫婦でどちらかが我慢するのはダメだって言ったのはあなたよ」
「痛いところを付く才能の塊だな」
カイは恐る恐るレナの上に体重をかける。痛みを訴えられたら離れるつもりだった。
「本当は、この方がいい」
「大丈夫よ、痛みはないから」
レナは笑ったが、「駄目、笑うとお腹痛い」と苦しんでいる。
痛みを堪えながらこぼれる笑顔に、カイは口付けを落とした。
「それに、本当はずっと触れたかった」
「私も……」
レナがはっきりと口にできないのは、本音を隠しているのではなくただ恥ずかしくて言えないのだろう。
私も、ということは……。
「触れられたかったのか、触れたかったのか、どちらだ?」
「…………どちらも」
カイは無言で頷いた。
レナの我儘や希望を叶えたい。望むものは全て与えたい。
この先もずっと、そうして日々を重ねていくのだろう。
「黙っていないで、何か言って」
「承知した」
普段よりも重そうに、痛みに堪えながら腕を上げたレナがカイの頬に触れる。
「夫婦間で上下関係は無しよ」
「覚えておこう」
まだ、この関係は始まったばかりだ。
カイは穏やかに笑うと、そのままレナを抱きしめて頭を撫でる。
「愛している」と白状するように呟くと、相変わらずレナは困ったように照れて戸惑うだけだった。
レナは1日を振り返って愕然とする。
動かすと痛む身体を寝かせたまま日が暮れた。
「日頃が働きすぎだったくらいだ。こんな日があってもいい」
「でも……」
レナはベッドで何か言いたげにモゴモゴと口を動かしていた。
「恐らく明日も痛みは残るだろうな。無理はしない方が良い」
「そんなあ……」
残念そうに落ち込むレナに、何も動けないというのはもどかしいものだなとカイは急に気の毒になる。
「俺の『気』を渡そうか? 筋肉痛くらいなら、大してこちらに負担も無いだろうし……」
「それは使わない約束でしょ? 例外を作るのはやめて。こうなったのは全部私のせいなんだし」
レナが天井を見て溜息をつく度、カイの良心が痛んだ。こうなったのはレナのせいではない。
何となく確信している理由を考えるのも気が引けた。
「本当は、どう過ごすつもりだったんだ? 今日は外出の予定もなかっただろ」
「具体的にどうってわけじゃないけど、あなたに甘えて過ごすはずだったの。介護みたいな甘え方じゃなくて」
レナはベッド脇で読書に夢中になっているカイをじっと見ていた。
「じゃあ、甘えてもらおうか。身体が動かなければ無理だと思っていること自体、忘れてくれて構わない」
「どういうこと?」
「そのままだ」
レナはカイの言っていることがよく分からなかったが、甘えろと言われたら甘えないのは何となく勿体ない気がする。
「じゃあ……頭を撫でて。そのまま、褒められたい……」
「今の状態でもできることだぞ」
カイはレナが何を遠慮していたのか分からず、軽く衝撃を受けた。そんなことで良かったのかと信じられずにいる。
カイは本をサイドテーブルに置くとベッドに乗った。
仰向けに寝ているレナの隣で横になると、頭をゆっくり撫でながら褒めることを考える。
「いつも、偉いな。いい女王だ。配偶者としても誇らしい」
「ふふ、嬉しい」
レナの表情が柔らかくなったので、こんなものでも良いのかとカイは更に驚いた。
「周辺国の王を2名も夢中にさせた女王など、歴史的にも稀だろうな」
「そういうのじゃなくて」
「それだけ、魅力的だということだ」
「……私は、王配殿下が夢中になってくれていれば」
「なっている」
レナは顔を覆いたくなったが手を動かそうとするだけで痛くてうまく動かせない。
ひたすら照れるレナをそのままにして、カイが会話を続けた。
「人を導く力のようなものが、やはり違うのだなといつも思っている。ここまで導かれて、予想外の人生になっていった」
「それは……」
「良かったことだ。一人では見られなかった世界を見ている」
カイは相変わらず頭を撫でていた。レナの反応が止まったので、これもまた気に入らなかったのだろうかと次の話題を探そうと悩む。
「あの……」
遠慮がちにレナが口を開くので、カイは何か困ったことがあるのだろうかと横にいるレナをじっと覗き込んだ。
「どうした?」
「キスして」
カイは無言で頷いて、身体を起こす。
身体に触れたら痛みが走るのだろうと、カイはレナの上で四つん這いになった。
触れてはいけないと思うと、妙にもどかしい。
「今、何を考えているの?」
カイが思い悩んだ様子を見せたので、レナは当然のように尋ねた。
「いや……」
「夫婦でどちらかが我慢するのはダメだって言ったのはあなたよ」
「痛いところを付く才能の塊だな」
カイは恐る恐るレナの上に体重をかける。痛みを訴えられたら離れるつもりだった。
「本当は、この方がいい」
「大丈夫よ、痛みはないから」
レナは笑ったが、「駄目、笑うとお腹痛い」と苦しんでいる。
痛みを堪えながらこぼれる笑顔に、カイは口付けを落とした。
「それに、本当はずっと触れたかった」
「私も……」
レナがはっきりと口にできないのは、本音を隠しているのではなくただ恥ずかしくて言えないのだろう。
私も、ということは……。
「触れられたかったのか、触れたかったのか、どちらだ?」
「…………どちらも」
カイは無言で頷いた。
レナの我儘や希望を叶えたい。望むものは全て与えたい。
この先もずっと、そうして日々を重ねていくのだろう。
「黙っていないで、何か言って」
「承知した」
普段よりも重そうに、痛みに堪えながら腕を上げたレナがカイの頬に触れる。
「夫婦間で上下関係は無しよ」
「覚えておこう」
まだ、この関係は始まったばかりだ。
カイは穏やかに笑うと、そのままレナを抱きしめて頭を撫でる。
「愛している」と白状するように呟くと、相変わらずレナは困ったように照れて戸惑うだけだった。
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