亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第12章 騎士はその地で

声が届いたら 2

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「ブリステにいると、レナを自由に連れて誰にも気を遣わずに側にいられたことがどれだけ贅沢だったのか思い知る。あの日が懐かしいと思う度に、あの日には戻れないのだと心苦しいな」
『そのうち、きっとああいう日々が戻るわよ』

レナの根拠のない主張に、カイは無言で頷く。

「早く、会いたい。ひとりでこの部屋にいるのは、落ち着かない」
『私だってこの部屋にひとりで、広いベッドを持て余しているところよ』
「こんな気持ちになるものなんだな」

カイは暗い部屋を見渡す。
何でもない瞬間も、時間を重ねるごとに全てが思い出になっていくのだろう。

『毎日を当たり前に過ごしているから、そんな風に思うのよ』

レナは責めるような口調で言った。

『私は、いつだって……一緒にいてもあなたが恋しいのに』
「それは、初耳だな」

夜が刻一刻と更けていく。
久しぶりに声だけを聴いていると、どうしてか懐かしい。

「今日は、ブリステの子守唄を歌ってくれないか」
『きっと、あなたはすぐに眠ってしまうわよ』

カイはレナの声にゆっくりと目を閉じる。
子どもの頃によく聴いた懐かしい歌が、優しい声色に乗って耳に心地よいメロディを届けた。

きっとこの歌を聴いていた子どもの頃も、誰かから愛情を受け取っていたのだろう。
記憶には無かったが、不思議と安心する。
カイはレナの歌うブリステの子守唄が特に好きだった。

子どもの頃は、この歌と共に誰かが抱きしめてくれていた気がする。
レナがカイに子守唄を歌う時も、そっと頭を抱きしめて子どもをあやすようにすることがある。
今は、その温かさを思い出しているのだろうか。

歌が終わると、カイは目を開いて隣の空席を眺めた。
やはり、レナはいない。

「もっと、気持ちは落ち着くものだと思っていた」
『子守唄が? 結婚したら?』

カイは息だけを吐く。

「もう、大して障害などないというのに、不思議だな」
『落ち着かなくていいのよ。最後まで、ドキドキしながら生きていくから』

レナならそんな人生を生きていくのかもしれない。
その隣に立ち、同じ景色を違う色で見ていたい。
この先はきっと様々な思い出が増えて行くのだろう。

「予算会議の最中以外にも、俺を思い出したか?」
『バカなことを聞かないで』

レナの責めるような声に、カイはくすりと笑う。席を立って窓辺に向かった。
幸せとは、きっと明るいだけの色ではないのだろうと、カイは窓の外に見える夜空を眺める。

「今日も庭に子リスが来ていた」
『私じゃないわ』
「そうか、てっきりルリアーナから駆け付けたのかと」
『どこかの子リスを私と間違えるなんて、夫失格よ』

レナが眠りにつくまで2人は他愛のない話をした。
寝付く直前、レナは訳の分からないことを言いながら必死に起きていようとしていたが、ゆっくりと意識を失って行ったようだ。

「声を届けてくれて、ありがとう」

既にレナの返事はない。寝付いてしまってからは、レナに声は届くのだろうか。
カイには寝息も聞こえなかった。
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