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第12章 騎士はその地で

多少の無理くらい 3

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「あなたが言ったのよ。私はどこにだって行けるって」
「それは、王女でなくなってからのことだったんだが……」

カイは片眉を上げて、レナを眺める。

「一緒に、世界を回ってみるのも悪くないか」
「悪くないでしょ?」
「そういうことは身軽なうちにやっておいた方が良い」

カイはレナの頭をくしゃくしゃと撫でた。
ルリアーナ女王の公務について世界中を回る――。それは、全く想像もしなかった予定だった。

「世界中のどこにでも受け入れられるとは限らないが、試す価値はあるかもしれない」
「そうよ。別に認めてもらうためにやるわけじゃないもの。世界はきっと、沢山の人と、その土地の自然や大切なものが満ちていると思わない?」

カイは頷いて軽くレナの頬に口付ける。
気付くといつでも、知らない景色に連れて行かれるのだ。

「直近の予定だ。1時間のタイムリミットが迫っている」

カイはレナを抱き上げた。
レナは突然身体が浮いたのでカイの首にしがみつく。
至近距離で前を向くカイに、目が釘付けになっていた。

「久しぶりに会うと、私の夫がこんなに素敵だったことに緊張するわね」
「実は気になっていたんだが……女王陛下は、見た目で王配を選んだのか?」
「見た目も、あなたの中身も、私には全部が眩しいのよ」
「初めて聞いたな」

2人でベッドに飛び込んで身体を沈める。沈んだ身体が押し返されると、レナはその勢いにケラケラと無邪気に笑った。

「子守唄でも歌う?」
「やめてくれ。一瞬で爆睡したら、折角の一時間が勿体ない」
「休むのが目的なんだからいいでしょ」
「よくない」

カイは歌おうとするレナの口を塞いで、ゆっくりと肩から指に手を走らせて指を絡める。

「世界を見ると言われて、真っ先にその瞬間を共にしたいと思ってしまったな」
「あなたは、私の一部なんだからそこには一緒にいてくれないと」

レナの言う「私の一部」はカイにはよく分からなかった。

「風景のひとつひとつに、レナの映る思い出を重ねていくのだろうな」

改めて一緒に過ごしてみると、カイはもうブリステ公国で過ごした日々に戻りたいとは思わなくなっていた。

あの頃を共に過ごしたレナよりも、目の前のレナがずっと愛しい。
そんな単純な理屈で、全ては塗り替えられて行く。

世界に音が付いていたら、レナの周りには明るい基調の音がするのだろうか。
時に切ない美しい旋律が流れ、時間と共に様々な演奏がついていくのかもしれない。

世界の歌を知りたいと彼女は言った。
彼女の歌う世界を知りたいと願った。

何気ない瞬間すら、刻一刻と過ぎて行く。

その全てが大切なのだと知った。
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