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1章
新生活
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死神伯ことユリシーズ様は、私を食堂に案内して夕食の指示をしていた。
向かい合って座り、時折ユリシーズ様を見る。
私の結婚相手である死神伯は、思っていたのとは全く印象が違っていた。
まず、銀色の目は動物のようでかわいらしい。
顔は整っていて涼しい印象を受ける美形だし、身体は大きくて頑丈そうだった。
さすが武人らしく、節くれだった手はゴツゴツしているし、顔にも手にも怪我の痕らしい痣がある。
私が視線を配ると真っ赤になって慌ててしまい、こちらを直視できないでいる。
気付くと視線を感じてそちらを見るけれど、その度に目線を外された。
「あの、ユリシーズ様」
「はいっ、ユリシーズとお呼びください」
「ユリシーズ」
「ああっ! ありがとうございます!」
手を組まれて拝まれている。不思議なタイミングでお礼を言われてしまうとなんて返せばいいのやら。
「わたくしたちは、いつ結婚するのですか?」
「は、はい。婚姻でしたら既に公爵家から届けを出していただいているはずですので、私たちは既に夫婦かと」
「えっ??」
公爵家の誰がその手続きをやったのかしら。
その辺の事情を教えていただかないと非常に困るのですが。
「わたくしたちは、もう夫婦だったのですか?」
「は、はい……」
「ということは、わたくしはクリスティーナ・オルブライトになっていたの?」
「はい、クリスティーナ様は、オルブライト家の……」
そこでユリシーズは悶絶していた。
なぜか大きなぬいぐるみみたいだわと思い、ユリシーズをじっと観察してみる。
「クリスティーナ様、どうしてそんなにじろじろ見てくるのですか? 私の顔に何かついておりますか?」
「ユリシーズが綺麗だから、つい」
「何を! クリスティーナ様の方がお美しいではないですか!」
「そうかしら。あと、わたくしのことも、クリスティーナで良いわ」
「いけません! そんなこと! なりません!」
ユリシーズは目に涙を溜めて私の提案を否定した。
なにがいけないのか理解に苦しむ。夫婦なのだから呼び捨てにしてくれればいいのに。
お屋敷で提供された夕食は、至って普通のメニューだった。
薔薇に豚の生き血をかけて寄越した人の食卓とは思えないくらい、普通。
勿論、食卓は普通の方がいい。
「クリスティーナ様のお部屋にご案内します」
夕食後、ユリシーズは私と侍女のエイミーを大きな部屋に案内してくれた。
赤と白が基調のインテリアで、部屋には、鏡台、机、テーブル、ソファ、そしてベッドが二つ並んでいる。
「ここが、わたくしとユリシーズの部屋ですか?」
「いえ! 部屋が同じではくつろげないかと思いましたので。こちらはクリスティーナ様と侍女のエイミーさんでお使いください」
ユリシーズは夫婦で別の部屋を使うと言う。
それって??
これから、別々の部屋で過ごすのかしら??
「今日は長旅でお疲れでしょうから、部屋でゆっくりしていてください。何かあれば部屋の外に向かって声をかけていただければ誰かが参ります」
「はあ。はい。かしこまりました」
あまりに意外な展開で、私はうまく反応できなかった。
今までお父様の周りにいた男性たちは、隙あらば私を手籠めにしようと目を光らせてくる方ばかりだったのに。
男の人というのは飢えた獣のようなものだと思っていたら、違うのだろうか。
ユリシーズは部屋を出て行ってしまい、私はエイミーと二人で部屋に残される。
今日からここが……私の部屋。
「お嬢様、死神伯って、あまり怖くないのですね」
「確かにそうね……」
ユリシーズは身体こそ頑丈そうだけれど、人畜無害といった控えめな青年に見える。
まあ、人畜無害が死神なんてあだ名をつけられるとは考えにくいから、まだ私の知らない面があるのだろう。
「あれが戦場の死神で、血の薔薇を贈ってきた人だとは思えないわ」
「つまり、先ほどの姿は本当のユリシーズ様ではないのでしょうか?」
「どういうことなのか、分からないけれど」
さっきまでのユリシーズが素であれば、皇帝陛下が恐れるとは思えない。
もっと死神らしい姿をどこかに隠しているのかしら。
「考えても分からないことで悩んでも時間が無駄になるだけよ。今日は疲れたし、寝ましょう」
「そうですね、持ってきた服を出します」
私が公爵家から持たされたのは、少しの服だけだった。
正確に言うと、実家から何も持たされなかったから、公爵家からいただいた服だけを持って嫁入りになった。
ユリシーズは、公爵家のクリスティーナ姫ともあろうものが、こんなに少ない荷物で嫁入りしたことを不審に思わなかっただろうか。
それにしても、今日は覚悟していた展開にはならなそう?
少なくとも今は、こうやって別々の部屋で過ごすことになっているし。
「エイミー、二人きりの時でも、お嬢様はやめましょう。使い分けをしていると咄嗟の時に出てしまうわ。わたくしはクリスティーナ。フリートウッド公爵家のお姫様よ」
「はい、気を付けます」
私はこの先の生涯、ユリシーズに素性を明かさずに生きていく。
これまでの私はアイリーンだったけれど、これからのアイリーンは小さな子爵家から皇族に嫁ぐロイヤルレディになるのだから。
***
夜、寝ていると外で何か音がしたような気がした。
ゆっくり起き上がって窓の方を見たけれど、何も見えない。
ベッドから出て窓の方に歩いて行き、外を見た。
やっぱり暗くてよく見えない。
すると、突然目の前に人影が表れ、一瞬で消えた。
「ひっ……」
あまりに驚いて声が漏れてしまったけれど、あれはユリシーズだった。
一瞬だけしか見えなかったけれど、夜の闇に銀色の目が二つ、浮かび上がるように見えたから。
窓に張り付いてもう一度外を見ても、既に姿は無く、窓ガラスがひんやりと冷たい。
「なんだったの……?」
呟くように言って、眠っているエイミーを見る。
ダメだ、彼女を起こして私が見たものをただ伝えても、心配させるだけ。
「明日、直接ユリシーズに聞こう」
呟いて、ベッドに潜り込む。
その時の私は、自分の部屋が2階だということをすっかり忘れていた。
向かい合って座り、時折ユリシーズ様を見る。
私の結婚相手である死神伯は、思っていたのとは全く印象が違っていた。
まず、銀色の目は動物のようでかわいらしい。
顔は整っていて涼しい印象を受ける美形だし、身体は大きくて頑丈そうだった。
さすが武人らしく、節くれだった手はゴツゴツしているし、顔にも手にも怪我の痕らしい痣がある。
私が視線を配ると真っ赤になって慌ててしまい、こちらを直視できないでいる。
気付くと視線を感じてそちらを見るけれど、その度に目線を外された。
「あの、ユリシーズ様」
「はいっ、ユリシーズとお呼びください」
「ユリシーズ」
「ああっ! ありがとうございます!」
手を組まれて拝まれている。不思議なタイミングでお礼を言われてしまうとなんて返せばいいのやら。
「わたくしたちは、いつ結婚するのですか?」
「は、はい。婚姻でしたら既に公爵家から届けを出していただいているはずですので、私たちは既に夫婦かと」
「えっ??」
公爵家の誰がその手続きをやったのかしら。
その辺の事情を教えていただかないと非常に困るのですが。
「わたくしたちは、もう夫婦だったのですか?」
「は、はい……」
「ということは、わたくしはクリスティーナ・オルブライトになっていたの?」
「はい、クリスティーナ様は、オルブライト家の……」
そこでユリシーズは悶絶していた。
なぜか大きなぬいぐるみみたいだわと思い、ユリシーズをじっと観察してみる。
「クリスティーナ様、どうしてそんなにじろじろ見てくるのですか? 私の顔に何かついておりますか?」
「ユリシーズが綺麗だから、つい」
「何を! クリスティーナ様の方がお美しいではないですか!」
「そうかしら。あと、わたくしのことも、クリスティーナで良いわ」
「いけません! そんなこと! なりません!」
ユリシーズは目に涙を溜めて私の提案を否定した。
なにがいけないのか理解に苦しむ。夫婦なのだから呼び捨てにしてくれればいいのに。
お屋敷で提供された夕食は、至って普通のメニューだった。
薔薇に豚の生き血をかけて寄越した人の食卓とは思えないくらい、普通。
勿論、食卓は普通の方がいい。
「クリスティーナ様のお部屋にご案内します」
夕食後、ユリシーズは私と侍女のエイミーを大きな部屋に案内してくれた。
赤と白が基調のインテリアで、部屋には、鏡台、机、テーブル、ソファ、そしてベッドが二つ並んでいる。
「ここが、わたくしとユリシーズの部屋ですか?」
「いえ! 部屋が同じではくつろげないかと思いましたので。こちらはクリスティーナ様と侍女のエイミーさんでお使いください」
ユリシーズは夫婦で別の部屋を使うと言う。
それって??
これから、別々の部屋で過ごすのかしら??
「今日は長旅でお疲れでしょうから、部屋でゆっくりしていてください。何かあれば部屋の外に向かって声をかけていただければ誰かが参ります」
「はあ。はい。かしこまりました」
あまりに意外な展開で、私はうまく反応できなかった。
今までお父様の周りにいた男性たちは、隙あらば私を手籠めにしようと目を光らせてくる方ばかりだったのに。
男の人というのは飢えた獣のようなものだと思っていたら、違うのだろうか。
ユリシーズは部屋を出て行ってしまい、私はエイミーと二人で部屋に残される。
今日からここが……私の部屋。
「お嬢様、死神伯って、あまり怖くないのですね」
「確かにそうね……」
ユリシーズは身体こそ頑丈そうだけれど、人畜無害といった控えめな青年に見える。
まあ、人畜無害が死神なんてあだ名をつけられるとは考えにくいから、まだ私の知らない面があるのだろう。
「あれが戦場の死神で、血の薔薇を贈ってきた人だとは思えないわ」
「つまり、先ほどの姿は本当のユリシーズ様ではないのでしょうか?」
「どういうことなのか、分からないけれど」
さっきまでのユリシーズが素であれば、皇帝陛下が恐れるとは思えない。
もっと死神らしい姿をどこかに隠しているのかしら。
「考えても分からないことで悩んでも時間が無駄になるだけよ。今日は疲れたし、寝ましょう」
「そうですね、持ってきた服を出します」
私が公爵家から持たされたのは、少しの服だけだった。
正確に言うと、実家から何も持たされなかったから、公爵家からいただいた服だけを持って嫁入りになった。
ユリシーズは、公爵家のクリスティーナ姫ともあろうものが、こんなに少ない荷物で嫁入りしたことを不審に思わなかっただろうか。
それにしても、今日は覚悟していた展開にはならなそう?
少なくとも今は、こうやって別々の部屋で過ごすことになっているし。
「エイミー、二人きりの時でも、お嬢様はやめましょう。使い分けをしていると咄嗟の時に出てしまうわ。わたくしはクリスティーナ。フリートウッド公爵家のお姫様よ」
「はい、気を付けます」
私はこの先の生涯、ユリシーズに素性を明かさずに生きていく。
これまでの私はアイリーンだったけれど、これからのアイリーンは小さな子爵家から皇族に嫁ぐロイヤルレディになるのだから。
***
夜、寝ていると外で何か音がしたような気がした。
ゆっくり起き上がって窓の方を見たけれど、何も見えない。
ベッドから出て窓の方に歩いて行き、外を見た。
やっぱり暗くてよく見えない。
すると、突然目の前に人影が表れ、一瞬で消えた。
「ひっ……」
あまりに驚いて声が漏れてしまったけれど、あれはユリシーズだった。
一瞬だけしか見えなかったけれど、夜の闇に銀色の目が二つ、浮かび上がるように見えたから。
窓に張り付いてもう一度外を見ても、既に姿は無く、窓ガラスがひんやりと冷たい。
「なんだったの……?」
呟くように言って、眠っているエイミーを見る。
ダメだ、彼女を起こして私が見たものをただ伝えても、心配させるだけ。
「明日、直接ユリシーズに聞こう」
呟いて、ベッドに潜り込む。
その時の私は、自分の部屋が2階だということをすっかり忘れていた。
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