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3章
新月の夜 2
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「なんだ……?」
拳銃の銃口がこちらに向けられて、男に噛みついていた黒い狼が必死に吠え始めた。
大丈夫よ、ユリシーズ。私は公爵家のお姫様ということになっているのだから。
「わたくしは、クリスティーナ・オルブライトです。公爵家出身、今は伯爵夫人よ。あなたたちは誰なの?」
こちらを向いている銃口が下がらない。三匹が激しく吠えている。
「吠えないで。静かにしなさい」
私が命じると三匹は一瞬で静かになる。
その様子を見て、私に向けられた銃口が下がった。
「旦那様は、どちらに……?」
「どうして夫を探していらっしゃるの?」
「奥様には関係ありませんよ」
じりじりと近づいてくる三人の侵入者。
狙いはユリシーズだと分かっていても、私が捕まるのは非常にまずい。
「関係がないはずないでしょう? わたくしの夫を探しに得体の知れない誰かが部屋に侵入してくるなんて、普通じゃないと思わなくて?」
「私はローレンス様の護衛です」
「尚更、よく分からないのですけれど」
暗くて顔は見えないけれど、あっさりとローレンスの護衛を自白してくれた。
「わたくしの夫を、どうして実家の護衛が狙うのです?」
「茶番は止めましょう、身代わり姫。貴女がクリスティーナ姫ではないことも、家族に売られた子爵家の出自であることも存じ上げております」
黒い狼が「グルルルルルルル」と唸り始めた。
どうやら、目の前の侵入者にとっては私など取るに足らない存在らしい。
これは脅しで、早くユリシーズを出した方が身のためだと言いたいのでしょうけれど……夫ならそこにいる犬……じゃなかった、狼なのよね。
「わたくしが子爵家出身で身代わりだったとしても、今はユリシーズの妻でクリスティーナ姫を名乗る正式な伯爵夫人であることには変わりないはず。そのわたくしに向かってあまりにも無礼ではないの?」
「正式な伯爵夫人ですか」
腐っても子爵家だというのに、どうして護衛にこんな風に見下されなくちゃならないのかしら。
まあ、公爵家の護衛ともなれば出自もよくて、私よりも高貴な出なのだと言いたいのかしらね。下らないわ。
ユリシーズが私の足元に立って身体を摺り寄せながら唸っている。
私に対して失礼な相手は許さないと言ってくれているみたいで……うれしい。
「ローレンスの護衛が、こんな強盗のような真似をして……何のつもり?」
「それを言うのなら、貴女こそ何のおつもりですか? オルブライト伯爵がどれだけ危険な男かは公爵様より聞いているはず」
いよいよユリシーズの唸り声が酷くなってきたので、私はしゃがんで足元にいる黒い狼を抱きしめるようにして首元を撫でた。
「伯爵なら、今日は戻りません。わたくしの身を案じて番犬を置いて出かけたのよ」
「……どちらへ?」
「さあ? 領内のどこかではないかしら」
「妻に行き場所を伝えずに外出……ですか。それは結構な伯爵様だ」
「ワウッワウッ」
ユリシーズが犬語で激しく抗議をし始めてしまったけれど、ここは妻に不貞を働く夫になっていただいた方が良いのではないかしら。今はどこかに行っていることにした方が乗り切れると思うのですけれど。
「うるさい犬ですね」
「この子は賢いので、わたくしに対して好意的な方の前では決して吠えないのですけれど」
「ガルルルル」
「ダメだわ。あなたたちを警戒してしまっているみたい」
多分ユリシーズのこれは、愛妻家扱いをされないことに対する抗議だと思うけれど。
「先ほど、貴女の愛犬に噛まれました」
「人の部屋に窓を割って入ってくるからでしょう? 人間だったらドアを使いなさい。愛犬が警戒して噛むのは優秀な証拠よ」
「……」
一歩近づいてきた護衛の前に、シンシアが立ちはだかる。
毛を逆立てているその姿に、ユリシーズが犬語でなにやらワニャワニャと話しかけていた。
あれが翻訳できたらいいのに。
「クリスティーナ様、この犬コロをどけていただけませんか?」
「それより、この部屋から出て行って下さらないかしら? ここはわたくしの部屋よ」
ずっとここに居座られたら、朝が来てユリシーズたちが人の姿に戻る。
その事実を知られるのはまずいから、早くここから出て行かせなくちゃ……。
拳銃の銃口がこちらに向けられて、男に噛みついていた黒い狼が必死に吠え始めた。
大丈夫よ、ユリシーズ。私は公爵家のお姫様ということになっているのだから。
「わたくしは、クリスティーナ・オルブライトです。公爵家出身、今は伯爵夫人よ。あなたたちは誰なの?」
こちらを向いている銃口が下がらない。三匹が激しく吠えている。
「吠えないで。静かにしなさい」
私が命じると三匹は一瞬で静かになる。
その様子を見て、私に向けられた銃口が下がった。
「旦那様は、どちらに……?」
「どうして夫を探していらっしゃるの?」
「奥様には関係ありませんよ」
じりじりと近づいてくる三人の侵入者。
狙いはユリシーズだと分かっていても、私が捕まるのは非常にまずい。
「関係がないはずないでしょう? わたくしの夫を探しに得体の知れない誰かが部屋に侵入してくるなんて、普通じゃないと思わなくて?」
「私はローレンス様の護衛です」
「尚更、よく分からないのですけれど」
暗くて顔は見えないけれど、あっさりとローレンスの護衛を自白してくれた。
「わたくしの夫を、どうして実家の護衛が狙うのです?」
「茶番は止めましょう、身代わり姫。貴女がクリスティーナ姫ではないことも、家族に売られた子爵家の出自であることも存じ上げております」
黒い狼が「グルルルルルルル」と唸り始めた。
どうやら、目の前の侵入者にとっては私など取るに足らない存在らしい。
これは脅しで、早くユリシーズを出した方が身のためだと言いたいのでしょうけれど……夫ならそこにいる犬……じゃなかった、狼なのよね。
「わたくしが子爵家出身で身代わりだったとしても、今はユリシーズの妻でクリスティーナ姫を名乗る正式な伯爵夫人であることには変わりないはず。そのわたくしに向かってあまりにも無礼ではないの?」
「正式な伯爵夫人ですか」
腐っても子爵家だというのに、どうして護衛にこんな風に見下されなくちゃならないのかしら。
まあ、公爵家の護衛ともなれば出自もよくて、私よりも高貴な出なのだと言いたいのかしらね。下らないわ。
ユリシーズが私の足元に立って身体を摺り寄せながら唸っている。
私に対して失礼な相手は許さないと言ってくれているみたいで……うれしい。
「ローレンスの護衛が、こんな強盗のような真似をして……何のつもり?」
「それを言うのなら、貴女こそ何のおつもりですか? オルブライト伯爵がどれだけ危険な男かは公爵様より聞いているはず」
いよいよユリシーズの唸り声が酷くなってきたので、私はしゃがんで足元にいる黒い狼を抱きしめるようにして首元を撫でた。
「伯爵なら、今日は戻りません。わたくしの身を案じて番犬を置いて出かけたのよ」
「……どちらへ?」
「さあ? 領内のどこかではないかしら」
「妻に行き場所を伝えずに外出……ですか。それは結構な伯爵様だ」
「ワウッワウッ」
ユリシーズが犬語で激しく抗議をし始めてしまったけれど、ここは妻に不貞を働く夫になっていただいた方が良いのではないかしら。今はどこかに行っていることにした方が乗り切れると思うのですけれど。
「うるさい犬ですね」
「この子は賢いので、わたくしに対して好意的な方の前では決して吠えないのですけれど」
「ガルルルル」
「ダメだわ。あなたたちを警戒してしまっているみたい」
多分ユリシーズのこれは、愛妻家扱いをされないことに対する抗議だと思うけれど。
「先ほど、貴女の愛犬に噛まれました」
「人の部屋に窓を割って入ってくるからでしょう? 人間だったらドアを使いなさい。愛犬が警戒して噛むのは優秀な証拠よ」
「……」
一歩近づいてきた護衛の前に、シンシアが立ちはだかる。
毛を逆立てているその姿に、ユリシーズが犬語でなにやらワニャワニャと話しかけていた。
あれが翻訳できたらいいのに。
「クリスティーナ様、この犬コロをどけていただけませんか?」
「それより、この部屋から出て行って下さらないかしら? ここはわたくしの部屋よ」
ずっとここに居座られたら、朝が来てユリシーズたちが人の姿に戻る。
その事実を知られるのはまずいから、早くここから出て行かせなくちゃ……。
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