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3章
新月の夜 3
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白狼のシンシアが侵入者の男たちに毛を逆立ててフーッと息を吐いている。
向こうはユリシーズがこの部屋に帰ってくるまで居座るつもりのようで、ここにいる三匹が朝になると人の姿になるというのが知られないように私はなんとしてでも追い返さなくてはならない。
「窓を壊してしまったお詫びに、こちらでクリスティーナ様を警護いたしましょう」
「いいえ、結構よ」
変なこと言い出さないでくれる?!
確かに窓が破損して外と繋がってしまったけれど、あなたたちを部屋に受け入れるほど私は心が広くないわよ。
男が一歩踏み出すと、シンシアはふくらはぎに思い切り噛みついた。
男の野太い悲鳴が上がる。
さっきよりも大袈裟に痛がっているということは、手加減せずに噛みついたのかもしれない。
「く、クリスティーナ様、犬を、犬を離してください」
「この部屋から出て行って下されば、考えてあげる」
「それはっ」
「そのふくらはぎの肉、噛みちぎっても良いわよ」
「出ていきます! 部屋を出ていきますから!」
「……離れてあげて」
私の指示を聞いてシンシアが離れると、服の裾は歯が立てられた箇所に穴が開いているようだった。こちらを振りかえったシンシアの口周りは血だらけで、白い毛が染まっていて思わずぎょっとする。
男が足を引きずっている様子からして、大けがを負わせたらしい。
「随分としつけの行き届いた犬を番犬にしておいでですね」
まともに歩けない男は肩を貸されて歩き出して捨て台詞を吐くと、部屋の扉に向かって行く。ユリシーズは明らかに怒っていて、相変わらず唸り声をあげていた。
「わたくしは犬に愛されるタイプなの」
男たちの背中にそう言うと、何も言わずに部屋から出て行ってくれた。
ひとまず、この部屋に留まられることは避けられたから朝になって人間の姿になるところを見られなくて済む。
シンシアの背中を撫で、ユリシーズを抱き寄せる。二匹は逆立っていた毛が元に戻り、剥きだしていた牙を口の中に仕舞った。
「キュウーン」
「よしよし、いい子ね」
ユリシーズは私の頬を舐め始める。
「どうなるかと思ったわね」
少し離れた場所にいたバートレットもこちらに歩いてくると、目の前でお座りをした。
「みんな偉かったわ。あの人たち、ユリシーズが帰ってくるところを狙って廊下にいたりしない?」
ユリシーズはふるふると首を振り、私のスカートの裾を咥えてぐいぐいと引っ張って行こうとする。どこに向かうのかと思ったら、そこにはどーんと大きなベッドがあった。
「私に寝ろって言っているの?」
「ワンッ」
ユリシーズは尻尾を振って嬉しそうな顔をしている。じゃあ、と思って渋々ベッドに入ると、ユリシーズも私のベッドに飛び乗って来て私の隣で丸まった。
「シンシアとバートレットもいらっしゃい」
ユリシーズが顔を上げ、「グルルル」と唸る。
「いいでしょ、狼の姿なんだから。みんなでひとつの場所に固まって寝ればいいじゃない」
私がそう言うと、二匹は恐る恐るベッドの上に飛び乗ってきた。それを見たユリシーズは八つ当たりなのかバートレットの顔に噛みついてしまい、すぐそばでそれを見ているシンシアが「アウウウ」と不安げな声を上げている。
「多頭飼いって、賑やかなのね」
苦笑してユリシーズを引き寄せると、バートレットを口から離して激しく尻尾が振れた。
私の夫は、無差別に嫉妬をするところがあるらしい。躾が必要ね。
ふかふかのユリシーズを抱きしめていたら、緊張が解けたのか急に眠くなってきた。
思わず大きなあくびが出る。
その様子を見たユリシーズが、そっと寄り添うように身体を寄せてきた。
三匹を守ろうとして気を張っていたから、今になってどっと疲れがでたらしい。
いつの間にか、私は夢の中に入っていた。
向こうはユリシーズがこの部屋に帰ってくるまで居座るつもりのようで、ここにいる三匹が朝になると人の姿になるというのが知られないように私はなんとしてでも追い返さなくてはならない。
「窓を壊してしまったお詫びに、こちらでクリスティーナ様を警護いたしましょう」
「いいえ、結構よ」
変なこと言い出さないでくれる?!
確かに窓が破損して外と繋がってしまったけれど、あなたたちを部屋に受け入れるほど私は心が広くないわよ。
男が一歩踏み出すと、シンシアはふくらはぎに思い切り噛みついた。
男の野太い悲鳴が上がる。
さっきよりも大袈裟に痛がっているということは、手加減せずに噛みついたのかもしれない。
「く、クリスティーナ様、犬を、犬を離してください」
「この部屋から出て行って下されば、考えてあげる」
「それはっ」
「そのふくらはぎの肉、噛みちぎっても良いわよ」
「出ていきます! 部屋を出ていきますから!」
「……離れてあげて」
私の指示を聞いてシンシアが離れると、服の裾は歯が立てられた箇所に穴が開いているようだった。こちらを振りかえったシンシアの口周りは血だらけで、白い毛が染まっていて思わずぎょっとする。
男が足を引きずっている様子からして、大けがを負わせたらしい。
「随分としつけの行き届いた犬を番犬にしておいでですね」
まともに歩けない男は肩を貸されて歩き出して捨て台詞を吐くと、部屋の扉に向かって行く。ユリシーズは明らかに怒っていて、相変わらず唸り声をあげていた。
「わたくしは犬に愛されるタイプなの」
男たちの背中にそう言うと、何も言わずに部屋から出て行ってくれた。
ひとまず、この部屋に留まられることは避けられたから朝になって人間の姿になるところを見られなくて済む。
シンシアの背中を撫で、ユリシーズを抱き寄せる。二匹は逆立っていた毛が元に戻り、剥きだしていた牙を口の中に仕舞った。
「キュウーン」
「よしよし、いい子ね」
ユリシーズは私の頬を舐め始める。
「どうなるかと思ったわね」
少し離れた場所にいたバートレットもこちらに歩いてくると、目の前でお座りをした。
「みんな偉かったわ。あの人たち、ユリシーズが帰ってくるところを狙って廊下にいたりしない?」
ユリシーズはふるふると首を振り、私のスカートの裾を咥えてぐいぐいと引っ張って行こうとする。どこに向かうのかと思ったら、そこにはどーんと大きなベッドがあった。
「私に寝ろって言っているの?」
「ワンッ」
ユリシーズは尻尾を振って嬉しそうな顔をしている。じゃあ、と思って渋々ベッドに入ると、ユリシーズも私のベッドに飛び乗って来て私の隣で丸まった。
「シンシアとバートレットもいらっしゃい」
ユリシーズが顔を上げ、「グルルル」と唸る。
「いいでしょ、狼の姿なんだから。みんなでひとつの場所に固まって寝ればいいじゃない」
私がそう言うと、二匹は恐る恐るベッドの上に飛び乗ってきた。それを見たユリシーズは八つ当たりなのかバートレットの顔に噛みついてしまい、すぐそばでそれを見ているシンシアが「アウウウ」と不安げな声を上げている。
「多頭飼いって、賑やかなのね」
苦笑してユリシーズを引き寄せると、バートレットを口から離して激しく尻尾が振れた。
私の夫は、無差別に嫉妬をするところがあるらしい。躾が必要ね。
ふかふかのユリシーズを抱きしめていたら、緊張が解けたのか急に眠くなってきた。
思わず大きなあくびが出る。
その様子を見たユリシーズが、そっと寄り添うように身体を寄せてきた。
三匹を守ろうとして気を張っていたから、今になってどっと疲れがでたらしい。
いつの間にか、私は夢の中に入っていた。
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