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3章
作戦変更 3
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「まだ何か?」
さっさとここから立ち去って欲しいのに、なかなかそう上手くはいかないらしい。
「手ぶらで帰れるわけがないじゃないですか……」
そう言った護衛の声に聞き覚えがあった。
新月の夜に部屋に侵入してきてシンシアに噛まれた男だ。
「私の陰に!!」
ユリシーズが絶叫して、その後は何が起きたのか分からなかった。
私はユリシーズに包まれるように抱きしめられている。
でも、ユリシーズは脂汗をかいて息を荒くしていた。
「な……に……?」
恐る恐るユリシーズ越しに向こうを見ようとする。
そこには、ユリシーズの背中に剣を構えた男の姿があり、剣にはユリシーズのものらしい赤い血がついていた。
「貴女は、無事ですか?」
にこりと笑うユリシーズが無理をして笑顔を作っているのが分かる。
「やだ……」
傷口を見ようと自分の身体を動かした時、もう一人の男がこちらに振りかぶっている。
やられる! と咄嗟に目を瞑ると、さっと人影が現れて「奥様になんてことを!」と声が上がり、シンシアが剣を握った男の頬に強烈な蹴りを入れた。
大きな体が地面に沈む。
「奥様、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫だけれど、ユリシーズが……」
「申し訳ございません、わたくしめがお守りしなければならないところを」
バートレットが一歩前に進み出て来る。二人とも、武器を持っていない。
「大丈夫? ユリシーズ。早く手当てをしなくちゃ」
「ちょっと痛いですが、深い傷にはなっていません。このくらい平気です」
ユリシーズはそう言って私を抱きしめる前によくする優しい顔を浮かべた。
きっと私がいなければ、ユリシーズだけなら、こんな怪我を負うことはなかったのに。
避けると私が怪我をしかねないと思って、わざと自分を盾にして攻撃を受けたに違いない。
「もっと、自分を大事にして……」
泣いちゃだめだと思うのに、ポロポロと大粒の涙がこぼれる。
「私なら大丈夫ですから。貴女に誰かの傷が残るのだけは、どうしても許せなかったのです。これからずっと、貴女を傷つける全ての者から私が守ってみせるのだと決めていましたから」
「ユリシーズ……」
ぎゅうっと抱きしめると、ぬるりとした感触がして生温かい血を触ったのだと気付く。
「痛かったでしょう? いまも、痛いはずなのに」
「この位、なんてことはありません。泣かないでください」
早く、この人を横にして傷口を診せに行かなくちゃ……。
ユリシーズ越しに、シンシアとバートレットが護衛たちを蹴散らしているのが見える。
二人は接近戦に強いらしく、素手で剣を構えた男たちを殴ったり蹴ったりしていた。
「その辺にしてください! クリスティーナ様と伯爵を撃ち抜きます!」
響いた声に、バートレットとシンシアの動きが止まる。
そう、気付いていたけれど向こうは数が多い。
私とユリシーズを取り囲む形で、いくつもの銃口がこちらを向いていた。
ぐったりとしたユリシーズは、その大きな身体で私を包み込もうとする。
私が傷つくのを避けるために、守ろうとしてくれているのだわ。
「私の領地で、私を撃とうなどとは大胆ですね」
はあはあと息を切らしながら、ユリシーズはそう言って笑った。
さっきに比べて顔色が良くないのが気になってしまう。
「オルブライト伯爵は、強がるのを止めたらどうですか? もう立っているのも難しいはずです」
「私を見くびらないでください。妻を傷つける者は誰であろうと容赦しません」
ぜえはあと息を荒くしながら、ユリシーズはすごんで見せた。
私はなにもできずにただ守られているだけで、ユリシーズは私に銃弾が当たらないようにしてくれている。
「だいぶ毒が回ってきているではないですか。不死の死神伯であっても、神経毒はしっかりと効くのですね」
毒って……まさか、剣に?
ああ、とうとうあちらは本気で……私ごとユリシーズを葬ろうと決めたのね。
ユリシーズに向けられている銃が発砲されたら、毒と出血で助からなくなってしまわない??
「誰かーーーー!!」
ユリシーズの脇から大声で叫ぶと周囲の建物の窓が開き、こちらを見て来る人がいる。
「オルブライト伯爵が切られました!! 誰か!! いますぐ領主様を助けてください!!」
バートレットが私に続いて大声を張り上げてくれる。どこかから「あっ」という声が上がった。
「ユリシーズを助けて!! 毒が身体に回っているの!!」
こんなことを言っても、大勢の軍人らしきグループに囲まれている私たちを助けようなんて人は現れないかもしれない。だけど、他にできることが思い浮かばないし、このままじゃユリシーズが危ない。
「領主様!!」
建物から何名かが現れて、猟銃や弓矢を持ってこちらに向かってくる。
それを見たローレンスの護衛たちは、急に銃を下ろして走って逃げ始めた。
流れで、ローレンスも連れて行かれている。
「領主様!! いますぐ医師に診せましょう!」
男性二人がユリシーズの両脇に立ち、引きずるようにユリシーズを連れて行く。
「あ、あのっ」
「公爵家出身の奥様ですね??」
「領主様とバートレット様には多大な恩がございますので、なにも気にせずに頼ってください」
最初は男性二人だったのが、女性や子どもも建物から現れ、ユリシーズの様子を遠目に見ている。
「奥様はご存じないのかもしれませんが……領主様は自分のような領民たちがなるべく徴兵されないよう、ひとりで何人分もの働きをしたのだそうです。常に最前線で危険な目に遭いながら戦って……。私たち領民は、みなオルブライト伯爵を命の恩人だと思っておりますから」
「そう……ですか」
これまでのユリシーズを、ちゃんと分かってくれている人がいる。
毒の被害を受けて朦朧としているユリシーズ。あなたがしてきたことがちゃんと伝わっているのよと改めて教えてあげなくちゃ。
「さきほどの……兵士たちは……?」
ユリシーズが小さく尋ねる。
「領民たちが大勢姿を現したからか、目撃者が増えるのがまずいと思ったのか逃げて行ったわ」
「誰か、ひとり捕まえてきてもらわなければ……」
「え??」
そういえば、バートレットとシンシアの姿が消えている。
逃げて行った護衛を追いかけたの??
さっさとここから立ち去って欲しいのに、なかなかそう上手くはいかないらしい。
「手ぶらで帰れるわけがないじゃないですか……」
そう言った護衛の声に聞き覚えがあった。
新月の夜に部屋に侵入してきてシンシアに噛まれた男だ。
「私の陰に!!」
ユリシーズが絶叫して、その後は何が起きたのか分からなかった。
私はユリシーズに包まれるように抱きしめられている。
でも、ユリシーズは脂汗をかいて息を荒くしていた。
「な……に……?」
恐る恐るユリシーズ越しに向こうを見ようとする。
そこには、ユリシーズの背中に剣を構えた男の姿があり、剣にはユリシーズのものらしい赤い血がついていた。
「貴女は、無事ですか?」
にこりと笑うユリシーズが無理をして笑顔を作っているのが分かる。
「やだ……」
傷口を見ようと自分の身体を動かした時、もう一人の男がこちらに振りかぶっている。
やられる! と咄嗟に目を瞑ると、さっと人影が現れて「奥様になんてことを!」と声が上がり、シンシアが剣を握った男の頬に強烈な蹴りを入れた。
大きな体が地面に沈む。
「奥様、お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫だけれど、ユリシーズが……」
「申し訳ございません、わたくしめがお守りしなければならないところを」
バートレットが一歩前に進み出て来る。二人とも、武器を持っていない。
「大丈夫? ユリシーズ。早く手当てをしなくちゃ」
「ちょっと痛いですが、深い傷にはなっていません。このくらい平気です」
ユリシーズはそう言って私を抱きしめる前によくする優しい顔を浮かべた。
きっと私がいなければ、ユリシーズだけなら、こんな怪我を負うことはなかったのに。
避けると私が怪我をしかねないと思って、わざと自分を盾にして攻撃を受けたに違いない。
「もっと、自分を大事にして……」
泣いちゃだめだと思うのに、ポロポロと大粒の涙がこぼれる。
「私なら大丈夫ですから。貴女に誰かの傷が残るのだけは、どうしても許せなかったのです。これからずっと、貴女を傷つける全ての者から私が守ってみせるのだと決めていましたから」
「ユリシーズ……」
ぎゅうっと抱きしめると、ぬるりとした感触がして生温かい血を触ったのだと気付く。
「痛かったでしょう? いまも、痛いはずなのに」
「この位、なんてことはありません。泣かないでください」
早く、この人を横にして傷口を診せに行かなくちゃ……。
ユリシーズ越しに、シンシアとバートレットが護衛たちを蹴散らしているのが見える。
二人は接近戦に強いらしく、素手で剣を構えた男たちを殴ったり蹴ったりしていた。
「その辺にしてください! クリスティーナ様と伯爵を撃ち抜きます!」
響いた声に、バートレットとシンシアの動きが止まる。
そう、気付いていたけれど向こうは数が多い。
私とユリシーズを取り囲む形で、いくつもの銃口がこちらを向いていた。
ぐったりとしたユリシーズは、その大きな身体で私を包み込もうとする。
私が傷つくのを避けるために、守ろうとしてくれているのだわ。
「私の領地で、私を撃とうなどとは大胆ですね」
はあはあと息を切らしながら、ユリシーズはそう言って笑った。
さっきに比べて顔色が良くないのが気になってしまう。
「オルブライト伯爵は、強がるのを止めたらどうですか? もう立っているのも難しいはずです」
「私を見くびらないでください。妻を傷つける者は誰であろうと容赦しません」
ぜえはあと息を荒くしながら、ユリシーズはすごんで見せた。
私はなにもできずにただ守られているだけで、ユリシーズは私に銃弾が当たらないようにしてくれている。
「だいぶ毒が回ってきているではないですか。不死の死神伯であっても、神経毒はしっかりと効くのですね」
毒って……まさか、剣に?
ああ、とうとうあちらは本気で……私ごとユリシーズを葬ろうと決めたのね。
ユリシーズに向けられている銃が発砲されたら、毒と出血で助からなくなってしまわない??
「誰かーーーー!!」
ユリシーズの脇から大声で叫ぶと周囲の建物の窓が開き、こちらを見て来る人がいる。
「オルブライト伯爵が切られました!! 誰か!! いますぐ領主様を助けてください!!」
バートレットが私に続いて大声を張り上げてくれる。どこかから「あっ」という声が上がった。
「ユリシーズを助けて!! 毒が身体に回っているの!!」
こんなことを言っても、大勢の軍人らしきグループに囲まれている私たちを助けようなんて人は現れないかもしれない。だけど、他にできることが思い浮かばないし、このままじゃユリシーズが危ない。
「領主様!!」
建物から何名かが現れて、猟銃や弓矢を持ってこちらに向かってくる。
それを見たローレンスの護衛たちは、急に銃を下ろして走って逃げ始めた。
流れで、ローレンスも連れて行かれている。
「領主様!! いますぐ医師に診せましょう!」
男性二人がユリシーズの両脇に立ち、引きずるようにユリシーズを連れて行く。
「あ、あのっ」
「公爵家出身の奥様ですね??」
「領主様とバートレット様には多大な恩がございますので、なにも気にせずに頼ってください」
最初は男性二人だったのが、女性や子どもも建物から現れ、ユリシーズの様子を遠目に見ている。
「奥様はご存じないのかもしれませんが……領主様は自分のような領民たちがなるべく徴兵されないよう、ひとりで何人分もの働きをしたのだそうです。常に最前線で危険な目に遭いながら戦って……。私たち領民は、みなオルブライト伯爵を命の恩人だと思っておりますから」
「そう……ですか」
これまでのユリシーズを、ちゃんと分かってくれている人がいる。
毒の被害を受けて朦朧としているユリシーズ。あなたがしてきたことがちゃんと伝わっているのよと改めて教えてあげなくちゃ。
「さきほどの……兵士たちは……?」
ユリシーズが小さく尋ねる。
「領民たちが大勢姿を現したからか、目撃者が増えるのがまずいと思ったのか逃げて行ったわ」
「誰か、ひとり捕まえてきてもらわなければ……」
「え??」
そういえば、バートレットとシンシアの姿が消えている。
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