92 / 134
3章
クリスティーナへ
しおりを挟む
夜遅く、ベッドで休んでいると部屋をノックする音がした。
「……誰?」
眠りが浅かったのか、すぐに目覚めて声をかける。
「ウィリアムです。アイリーン妃からの手紙が届きました」
こんな夜遅くに? と怪しみながらベッドから出て、そっとドアを開けた。
光る二つの目が視界に飛び込んできて、手紙を持ったまま尻尾を振って興奮している様子が分かる。
「早速返事が来ました、奥様」
手紙を届けるのも人狼にとってはボールを持ってくる感じなのかしら。
私はここ最近の諸々ですっかり疑り深くなってしまったらしく、まだクリスティーナからの連絡が来たのかは信じられずに封を開けた。
暗くて何色なのかが分からない封蝋印が砕けて床に落ち、厚手の便箋が2枚入っている。
『わたくしの片割れ、クリスティーナ・オルブライト伯爵夫人』
宛名が焼き付けられるように目に飛び込んできた。
そして、この瞬間まで手紙が偽物かもしれないと疑っていた私は、その後の文章を読もうと必死に目を凝らす。
扉の近くではロウソクの灯がなかなか届かなくて、廊下側にいたウィリアムをそのままに宿のデスクに向かい、燭台の上のロウソクに火を灯した。
『貴女からの手紙を受け取ったとき、わたくしがどれだけ飛び上がったのか想像がつくかしら?
積もる話がありそうだから、是非この手紙を持ってなるべく午前中にわたくしを訪ねていらして。
早く会いたくて、遅くに連絡をしてしまってごめんなさい。でも、きっと貴女にとってもこの方がいいのではないかと思ったの。
具体的なことは、直接お話しましょう。
アイリーン』
手紙を持ったまま、「うそ……」と小さく声を漏らして現実を噛みしめた。
こんな風に、すぐにクリスティーナに会えるなんて。
「奥様……どうされたのですか?」
廊下からこちらを見ているウィリアムが、両目を光らせながら首を傾げている。
「やったわ。明日、妃殿下に会いに行けることになったの……!」
「おめでとうございます!」
私は公爵家出身の伯爵夫人だから、侍女と護衛を連れて行くのは自然よね。
ということは、エイミーとウィリアムを連れてお城に入るのが良いのかしら。
「ウィルは軍服なんか持っていないわよね、料理人だから」
「……そうですね」
「まあ、しょうがないわ。料理人兼護衛ということで連れて行くから、適当に話を合わせてね」
「ええっ??」
本当は泊まり込みでクリスティーナ妃の側仕えに採用してもらって、彼女に色々と話をしたかったのだけれど。
問題は、料理人兼護衛というこの男の子が、夜になると耳と尻尾が生えてしまうこと。
ウィリアムが被っているハンチング帽子は耳が中に収められていても不自然じゃないけれど、お城で制服を用意されてしまったら耳が隠せなくなる可能性もある。
「人狼の秘密をどう隠すかはあるけれど、迷っている時間がもったいないわ。行ってみて対策を考えるから、エイミーと一緒に来てくれるかしら?」
「かしこまりました。エイミーさんと奥様の安全に尽力いたします」
ああもう。そこでいちいち尻尾が振れるからかわいいのだわ。きっと新月と満月には茶色い狼になるのね。小麦色の……。
「あと、いま尻尾が出ているわよ」
「はっ!!」
ただ、ちょっと抜けている子なのかもしれない。
「……誰?」
眠りが浅かったのか、すぐに目覚めて声をかける。
「ウィリアムです。アイリーン妃からの手紙が届きました」
こんな夜遅くに? と怪しみながらベッドから出て、そっとドアを開けた。
光る二つの目が視界に飛び込んできて、手紙を持ったまま尻尾を振って興奮している様子が分かる。
「早速返事が来ました、奥様」
手紙を届けるのも人狼にとってはボールを持ってくる感じなのかしら。
私はここ最近の諸々ですっかり疑り深くなってしまったらしく、まだクリスティーナからの連絡が来たのかは信じられずに封を開けた。
暗くて何色なのかが分からない封蝋印が砕けて床に落ち、厚手の便箋が2枚入っている。
『わたくしの片割れ、クリスティーナ・オルブライト伯爵夫人』
宛名が焼き付けられるように目に飛び込んできた。
そして、この瞬間まで手紙が偽物かもしれないと疑っていた私は、その後の文章を読もうと必死に目を凝らす。
扉の近くではロウソクの灯がなかなか届かなくて、廊下側にいたウィリアムをそのままに宿のデスクに向かい、燭台の上のロウソクに火を灯した。
『貴女からの手紙を受け取ったとき、わたくしがどれだけ飛び上がったのか想像がつくかしら?
積もる話がありそうだから、是非この手紙を持ってなるべく午前中にわたくしを訪ねていらして。
早く会いたくて、遅くに連絡をしてしまってごめんなさい。でも、きっと貴女にとってもこの方がいいのではないかと思ったの。
具体的なことは、直接お話しましょう。
アイリーン』
手紙を持ったまま、「うそ……」と小さく声を漏らして現実を噛みしめた。
こんな風に、すぐにクリスティーナに会えるなんて。
「奥様……どうされたのですか?」
廊下からこちらを見ているウィリアムが、両目を光らせながら首を傾げている。
「やったわ。明日、妃殿下に会いに行けることになったの……!」
「おめでとうございます!」
私は公爵家出身の伯爵夫人だから、侍女と護衛を連れて行くのは自然よね。
ということは、エイミーとウィリアムを連れてお城に入るのが良いのかしら。
「ウィルは軍服なんか持っていないわよね、料理人だから」
「……そうですね」
「まあ、しょうがないわ。料理人兼護衛ということで連れて行くから、適当に話を合わせてね」
「ええっ??」
本当は泊まり込みでクリスティーナ妃の側仕えに採用してもらって、彼女に色々と話をしたかったのだけれど。
問題は、料理人兼護衛というこの男の子が、夜になると耳と尻尾が生えてしまうこと。
ウィリアムが被っているハンチング帽子は耳が中に収められていても不自然じゃないけれど、お城で制服を用意されてしまったら耳が隠せなくなる可能性もある。
「人狼の秘密をどう隠すかはあるけれど、迷っている時間がもったいないわ。行ってみて対策を考えるから、エイミーと一緒に来てくれるかしら?」
「かしこまりました。エイミーさんと奥様の安全に尽力いたします」
ああもう。そこでいちいち尻尾が振れるからかわいいのだわ。きっと新月と満月には茶色い狼になるのね。小麦色の……。
「あと、いま尻尾が出ているわよ」
「はっ!!」
ただ、ちょっと抜けている子なのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる