売られて嫁いだ伯爵様には、犬と狼の時間がある

碧井夢夏

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3章

エイミー合流 2

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「奥様、公爵様に対抗する手段を考えられていらっしゃるのですか?」
「そうだとしたら、エイミーは公爵様に告げ口でもするの?」

 意地悪だったかしらと思ったけれど、今の彼女がどういう気持ちでここにいるのかを知らずに動くのは危険なのでこの際はっきりしておきたい。

「そんなこと、しません」
「気持ちが変わったの? そこにいるウィルのお陰?」
「信じていただけないかもしれませんが、わたくしは……わたくしの方から公爵様に告げ口をしたことはございません。聞かれたことにだけ答えていただけです」
「じゃあ、公爵様に聞かれたら私の計画も全て暴露してしまうわけね?」

 最初から公爵様に雇われているエイミーだから、そこを咎めても仕方がないのだけれど。

「そんなこと、いたしません!」
「心変わりでもしたのかしら?」
「わ、わたくしにも、公爵様と奥様のどちらがまともなことをしているかくらい、分かります。それに、わたくしは奥様の侍女なのですから」

 悔しそうに話すエイミーの話を聞いていて、彼女は彼女なりに葛藤なんかもあったのかもしれないと思う。
 これまでエイミーの気持ちを考えたことが無かったけれど、私が拉致されるきっかけを作ってしまったのは想定外だったのだろうし。
 そんなことに加担したと後で知って、それでも開き直れるようなタイプではないはずだから……。

「公爵様がユリシーズを狙う限り、私はどうしたらいいかを考え続けなくちゃいけないの。エイミーは私の状況を聞かれたら、公爵様になんて報告をするつもり?」
「これからは、奥様に相談してから報告します」
「そう。ぜひそうして」
「あと、奥様と旦那様がこれからも仲睦まじく過ごされるために、務めていきたいと思っております」
「私、人狼の家が好きよ」
「はいっ。存じ上げております」

 エイミーの言っていることは本心なのだと思う。
 それに、隣に立つウィルも彼女を変える要因になっている。

「じゃあ、私はクリスティーナに会うために手紙を出しに行くわ。直接持って行った方が良さそうだから、これから行こうと思っているけれど、ついてくるなら好きにして」
「はいっ!」

 エイミーの明るい顔を見て、こんな表情をする人だったかしらと驚く。
 きっと私たち、ユリシーズの家に来てから変わったのね。

「ウィルは、どうやって公爵家関係者なのかを把握するつもり?」
「会話の雰囲気を盗み聞くのが一番だと思います。公爵家関係者であれば相当偉い人のはずですし」
「そう、じゃあ地獄耳の調査はよろしく」
「はい!」

 エイミーの引き寄せた縁がどうか幸せに繋がってくれたらと願う。
 まだ私たちには障害がたくさんあるけれど、以前よりずっとよくなっていると思うから。

  ***

「さて、これですんなりとクリスティーナのところに行けるかしら? ウィルは、なにか聞こえた?」
「いえ、聞こえている会話では、特にクリスティーナ様やアイリーン様といった話をされてはおりませんでした」
「門番や護衛は事情を知らないでしょうからね」

 先ほど、手紙をお城の門番に預けて帰ってきた。
 私はクリスティーナを名乗り、オルブライト伯爵家の印が入った封筒を差し出したから、丁寧に対応いただけたのだけれど。

 改めて、公爵家出身の伯爵夫人というのは高貴な方なのだわと思ってしまう。私は偽物だけれど、今の立場を利用しない手はない。

「これでクリスティーナ本人の周りにいる公爵家関係者が、相手は私だと気付くはずだから、無事に本人に手紙が届くのかが心配ね。私が滞在している場所をはっきりと書いてしまったし、狙われる可能性も高いわよ」

 今は宿の部屋にいる。クリスティーナの挙式セレモニーを見た時に泊まった高級宿で、続きの部屋にエイミーが泊まれる部屋がある。今は私の部屋でエイミーとウィリアムと話をしていて、ウィリアムの頭には茶色の耳が、そして尻尾が生えていた。
 ユリシーズはノクスになると目つきが悪くなるのだけれど、ウィルは目の丸みが増して犬っぽさが際立っていて、むしろ昼間より可愛らしく見える。人狼にも個性があるのは分かっていたけれど、全然違うのね。

「奥様とエイミーさんに危険が及ばないように、僕も力を尽くします」

 夜に光るキラキラした目を向けられて断言された。可愛いのに光が強くて圧を感じる。

「ありがとう。あなたも夜行性なのかしら? 無茶はしないでね」
「自分を夜行性だと意識したことはないのですが、夜であっても普通に活動しています」
「確かに、人間と一緒に暮らしていなかったら、夜行性を意識することはないかもしれないわね」

 ユリシーズは戦場で人と一緒に生活していたのでしょうから、昼行性と夜行性の違いを認識していたのだろうけれど、人狼たちと一緒に生活していたらあまりその辺を意識することは無かったのかもしれない。

「ユリシーズに聞いたのだけれど、人狼は夜に長い睡眠をとったりはしないのでしょう?」
「はい。そうですね」
「実は、あなたたちのそういうところが頼もしいと思っているの」

 部屋の外ではオシアンとフレデリックが交代で不審者が来ないか見張ってくれている。
 でも、彼らには夜の休息が必要だ。

「護衛のフォローをお願いしてもいい? 現状人間が二人だけしかいないから」
「かしこまりました」

 ウィリアムは料理人だし、どれだけ腕がたつのかはわからない。
 耳と尻尾を隠すのだから、室内でも帽子を被っていなければならないし、それを怪しまれたらと心配だけれど。

「人狼であることはちゃんと隠して活動するのよ」
「はい」

 少人数で動いている以上、頼れる人は頼らないと。
 倒れているユリシーズのためにも、私が捕まってはいけない。
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