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番外編1.立川の場合(1)
しおりを挟む第一印象は『何か、放って置けないやつ』だった。
「え、俺と……大学一緒だったんだ?全然すれ違わなかったよな?」
「俺、経済学部だったから……棟が違うと同じ学年でも会わないよな」
「経済学部?!ウチの大学の中でも、めっちゃ偏差値高いとこじゃん……!えっ、何で、それでここに…?!経済学部なら、もっといいとこ狙えたんじゃ……」
「狙えなかったの。俺は。どの会社も、俺は……ダメだったみたい。」
そう言って、不貞腐れた顔をした同期の野洲原トウジは酒を煽った。
俺も吃驚しすぎて、彼に無神経な発言をしてしまった事を、野洲原の態度でやっと気付いて申し訳ない気持ちになって。
何かごめん、って謝ったら「ほんと無神経だよな。お詫びに今日はずっと俺の相手して!」とか言われたのでそんな事でいいならって話してたらめちゃめちゃ気が合って。
新歓がきっかけで、同期の中でも特に仲の良い同僚というポジションに俺の中で彼の位置付けが、確定した。
ヤス、という呼び方は俺がそう呼びたい、と彼に提案したモノだ。
野洲原、と呼ぶのも余所余所しいし、トウジと呼べる程、深い付き合いでもない。
何か彼にだけは、みんなが呼んでいない特別な呼び方が良くて……今まで渾名なんて使うことのなかった俺が初めて自分で考えて、決めた名前だ。
だって、名前なんて呼び捨てにしちゃえば自然と仲良い風を装える。
でも、彼の事を名前で呼び捨てにするのは、何故だか出来なかった。何でか自分でも分かんないんだけど。
そういうヤスは、いつまで経っても俺の事は立川呼びで。
別に、いいんだけどね?でもいつか、隼って距離が縮まったら呼んでくれるかな、なんて安易に考えてたら……気付いたらもうすぐ入社して3年が経とうとしている。
このままいくと永遠に立川呼びのまんまだろう、なんてこの前ぼんやり考えてたら少し悲しくなって、悲しくなった自分になんで?ってなった。
何か最近、俺ってば変だ。自分が自分でよく分からん。
でも、程良い距離感。程良い付き合い。
深くなり過ぎず、離れてる訳でもない。
ヤスとの関係性は俺にとっては居心地のいいものだ。
俺は大学の時から付き合ってる彼女がいた。
なんなら中学で初めて彼女が出来てから……別れたとしても間が長期で空くことがない。
その大学時代から付き合ってる彼女と、喧嘩して一瞬音信不通になった時も。
仲直りしてこまめに連絡を再開した時も。
結局別れて大泣きした時も。
側にはヤスがいつもいてくれて。
その彼女と別れた次の日に、今フリーなの?って連絡が来た子から付き合おうよ、って言われて彼女が出来て、その子とは半年。
その次の彼女とは3か月。
そのまた次の彼女とは5か月…?くらい?
んーととにかく、どれくらい付き合ったかはイマイチ覚えてないけど、直近の彼女だった子が1番長かった、気がする。
その度に、俺の感情の浮き沈みをヤスはフォローしてくれた。
こんなにイケメンで、こんなに優しいのに何でずっとフリーなんだろ?彼女作らないの?って聞いたら「好きな奴はいるけど、ソイツ、俺の事眼中にないから」だと。
何処の馬の骨だよ……?!そんな失礼な奴は……!
こんな完璧な奴どこにも居ないぞ???
連れてこい、俺が説教してやる……!と俺が鼻息荒く憤慨してたら、ほんと、本人にその発言聞かせてやりたいよ、って笑ったヤスは、なんかめっちゃ可愛くて。
可愛くて???一般男性だよな???ってこの時も混乱したっけ。俺、なんか変だよなあ。
まあ、とにかく。
俺の中でヤスはカッコよくて、かわいくて。
優しくて、時に厳しくて。
まるで、俺の母さんみたいな存在だ。
ヤスが優しさの塊だと初めて感じたのは、休憩所で東雲部長の話をしている時。
それまで、普通に優しい人だと思ってはいたけど、部長を思い遣っての発言がめちゃめちゃ俺に刺さって。
胸に込み上げるモノがあって、思わず抱きしめてしまった。
抱きしめた時、なんか、表現しにくいんだけど。
抱き心地が……恐ろしく、良過ぎた。
何よりヤスの匂いが……なんていうか……めちゃめちゃ、良かった。語彙力なくて上手く表現できないのがツラい。
落ち着くっていうか、安心するっていうか。
彼女を抱きしめても得られない高揚感がハンパない。
ヤスの抱き心地を何度も感じたくて、事ある毎にヤスを抱きしめるのが当たり前になっていって。
きっとあの安心感は家族に対する情みたいなモノで。
だから彼女を抱きしめても、あの高揚感は感じないし、ヤスでしか得られないモノなんだろうな、と、そう、思っていた。
あの時、までは。
次の商談の為の資料を作るのに、地下のあまり誰も使用しない資料室に向かった時だった。
次の商談相手は、古くから付き合いのある所で。
古くからの付き合いすぎて、決め手に欠けていた箇所を調べる為に、先輩にあそこならその資料があるんじゃ、と助言を貰ってそこへ行ったのだ。
ほんとに、たまたま。
あの2人が、いるなんて、知らず。
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