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番外編1.立川の場合(2)
しおりを挟む少し隙間の空いたドアから、同期の聞いた事のない甘い声が、聞こえる。
俺は、立ち聞きするつもりなんてなかったんだけど、何か……動けなかった。
「……っ、ぶ、ちょ……!……ん、ぁ……ちょ、ま……!……待っ、て……?……んっ、ここ、だめ……!ひ、人……!人、来たら……困るから……!ん……、ぁ……っ」
「……は、……我慢、出来ない……、トウジ……?こんな所……誰も来ないよ……それより、口、開けて……ん、……っ、……出張の間……ん、お前に触れられなかったんだ……、っ。……俺は、ココで……今すぐ、トウジと、したい……ん、……ふ、」
ヤスと東雲部長が付き合っていると、東雲部長が営業部で暴露してから1か月。
俺は、その日から何だか彼女と連絡取るのが億劫になって……
あんなに毎日マメに連絡していたのをすっかり忘れて放置をかましていたら、つい今朝、向こうから「別れよう」と連絡が来ていた。
前までの俺なら、泣いて凹んで、しおしおしていただろうが、何だかどうでもよくなっていて。
別れの文章を見ても……ふーん、としか思わなかった。
それより、今、俺の近くで……ヤスがエロい声を出してる事の方が……問題、ある。
(おいおい…確かに誰も来ないとこだけどさ……!いくらなんでも……部長、ここでヤるのは、マズくない……?!)
ドアを閉めて、鍵をかけてるならまだしも。
中途半端に空いたドアは獲物を見つけた獣の必死さを物語っていて。
ヤスは鷲宮の資料を探さないと、と言って30分くらい前から営業部にいなくて。
部長は出張から帰ってきて、営業部に顔を出して早々、探し物があると数分前にいなくなっていた。
(部長……帰ってきて、すぐヤスを探しにきたんだな……ヤスを見つけて堪んなくなって……ドアの確認も怠るぐらい、ヤスに触りたかったのか……?……ていうか……風紀、乱れまくり……!)
2日。たったの2日だ。
東雲部長は県外に出張に行っていて、昨日今日と会社にはいなかった。
その出張もヤスを同伴で赴こうとしていたが、鷲宮の最終調整の為の打ち合わせがあり、その2日は外せなくて。
社長から、流石に今回はダメだ、と直接お達しが出てたようで部長は連れて行くのを断念したみたいだったけど……出張前の部長の空気の重っ苦しさといったらなかった。
普段クールでスマートで、空気を乱さない筈の我が部の部長は、こと恋人に関してはそうではないらしい。
あんなに他人に夢中になってる部長は、入社してもうすぐ4年になるが、初めて見るかもしれない。
「ぶ、ちょ、……ほんとに、待って……!」
「2人きり、だぞ……?トウジ……?いつもみたいに……名前で、呼んで……?」
「……っ、……せぃ、ご、さ……、ん……っ、ぁ」
「……ん、ぁ。……あーかわいい、ん、……すきだ、トウジ、ふ、すき、……ん、」
なんだ、それ。
俺も、隼なんて……呼んでもらって、ないの、に、
?
ん?
いや、いいだろ。
2人は付き合ってるん、だから、ヤスが部長を名前で、呼んでも……、?
え?
なんで?
俺、これ、どういう気持ちなん???
そもそも、あのキスマークを見てから。
そっから、俺の気持ちが余計訳が分からんくなったんだ。
1か月前に見た、ヤスの鎖骨の明らかに部長が付けたであろう赤く色付けされた跡は……俺にだけ見える位置にあって。
『俺のモノだから、近寄るな』と遠回しに部長から牽制されているようだった。
ていうか。
ていうかさあ……!
こんなにヤスに抱きついてないの、初めてじゃね……???ヤス不足すぎる……!
ヤスを、また、抱きしめたい。
「……せ、ぃご、さ……っ、ん、ぁ、……も、これ以上は……!俺、むり……ぃっ、……もう、したく、なっちゃ……!」
「……ん、……いいよ……?俺ともっと、気持ちよくなろ……?俺を、トウジの中に、入れて……?」
こ、このまま放置してたら、おっぱじまってしまう……!
俺、ここにある資料ないと困るんだよな~~~!
かと言って、ふたりのえっちしてる声聞くのは何だか嫌だ……!
ええい、ままよ……!申し訳ないが割り込ませてもらうぞ!
「部長ー!すんませーん!立川です!白川物産の15年前の資料が欲しいんスけど、取ってもらって、いいですか!その……お邪魔してすんません!ヤスごめん!」
「……っ?!……た、ちかわ……?!」
「…………はぁ。ちょっと、待っててくれ。持って行く。」
資料室のドアはほんの数ミリ空いてるだけで、よくよく中までは見えなかったけど、数ミリでも空いてると、声は丸聞こえで。
まるで母さんのエロ動画を音声だけ聞かされてる気分だった先程の状態は良い気はしなかった。
慌てたヤスの声と、明らかに落胆の色を含んだ部長の声が聞こえて、ものの数秒でドアが開いた。
(えっ、早……!)
そこには、少し汗ばんで、軽く息の乱れた……色気爆発の東雲部長がいて。
情事の沙汰を垣間見た感じがして、少し息を呑む。
「……おつかれ、立川。悪いな。中には入らせられない。……これ、言ってた資料だ。」
「おつかれっす。……ありがとう、ございます。」
「すまない。これから……野洲原と大事な打合せがあってな。ちょっと、すぐには営業部に戻れない。その事を今すぐ、直接……柴咲課長に伝えておいてくれ。」
「あ、わか、り、ました」
これは、すぐにでもこっから、立ち去れっていう……意味、だな。
状況を考えたら……言いたい事は、わかる。わかるけど。
何か……もにゃもにゃ、する。
何時迄もそこに立ち竦んでる俺に、ふー、と息を吐いた部長が、息を吐き切った後、ニッコリと明らかに作った笑顔で、俺に、口を開いた。
「……良い加減……親離れ、してくれ。あの子は、俺のモノだ。あの子を甘やかすのは、俺の仕事だから。……立川も彼女の事、大事に、しろよ?」
ヤスに抱きつくな、と部長に牽制されてから、ヤスに抱きついてはいないけど。
ヤスとの距離感は、正直前より近くなっていた。
自分でも、自覚が、ある。
きっと部長は……その事を言っているんだろう。
言いたい事は、わかる。
わかるけど、
でも、
なんか。
なんか、ムカつくな……?!
ていうか、ヤスと最初に仲良かったの俺なんだけど。
俺の方が絶対先にヤスの抱き心地の良さ知ってた筈だ。
何か、自分が大事にしてた宝物を横から掻っ攫われた気分になって無性にムカついた。
意趣返しのつもりで、部長が軽く開けてた扉をガバッと開けた。
「……っ?!立川……!?」
「ヤスー!帰ってきたら相談乗って欲しいことあるから、俺んとこ来て!」
「……たっ、ち、かわ!?な!ちょ、今だめ……!」
そこには、桃色に上気した肩が剥き出しに顕になって、座り込んでいる同期が居て。
俺は、恋愛対象は女の子だ。
男なんて、今まで1ミリもかわいいなんて、思ったこと無かった。
……いや、笑ったヤスにだけは、感じてたけど。
ましてや、男にエロさなんて……微塵も。
いや
なんじゃ、これ
えっ ろ
「立川……?どういう、つもりだ」
「……っ、すみま、せん。失礼、しま、す」
慌ててドアをバタンと閉めて。
猛スピードで駆け出した。
行き先は、予定のなかった……トイレの個室だ。
トイレに、行かないと……ヤバい。
(……っ、これ、出さないと……マズい……!)
ヤスを見た瞬間に、彼女と触れ合っても微塵も反応してなかったソコが、ギチギチに硬くなって俺の欲望が顔を覗かせていた。
俺は、ヤスで……興奮、している。
そういや。彼女とする時もなかなかイけなくて、ふと頭の中でヤスの笑顔が映し出される度に、俺の硬度は増して達する事が殆どだった事を思い出して。
俺は、いつから……ヤスの事、そういう風に見てたんだろう。
そりゃ、彼女と長続きせん。
本命が、近くにいたんだから。
不毛な初恋に、今更ながらに気付いた自分が愚かすぎて泣けてくる。
「……あーもー……なんで今更……気付いちゃったかなあ……」
恋敵は営業成績トップで最高にスパダリすぎる完璧上司。
想い人は、その彼氏にメロメロの俺の事眼中にない同期。
「俺ってこれ……負け戦じゃね?」
「立川……さっきは、その、変なとこ見せてごめん。……それより……負け戦、って……白川物産の商談、上手く行かなさそうなのか?何か、手伝える事あったら手伝うから、言って」
さっきまで、俺の脳内で犯されまくっていた同期が心配して優しい声をかけてくれた事に、心臓が悲鳴を上げた。
彼女にも、こんなに、心臓が痛くなった事、ない。
「……っ、なん、でも……ないよ……?」
「……?立川、何か様子変じゃない?大丈夫?体調悪いなら、引き継ぐから帰ったら?」
マジで。
なんなん。
爆裂に可愛すぎるだろ。
コイツ、こんな……可愛かったっけ……???
少しでも、ふたりだけの時間が欲しい。
同期で仲良しの特権を、今日ばかりは濫用させて。
「体調は、大丈夫。それより……今夜、時間空いてない?今朝彼女にフラれてさ……ヤケ酒、付き合って欲しいんだけどぉ……」
「えっ、マジか。本当に大丈夫?……でも、いつもより……スッキリしてる?でも……最近、立川と飲みに行けてないしな。分かった。もつ鍋、食いに行こ。行ってみたかったとこあるんだよね。話、聞くよ。」
俺の、事、何でもわかってる。
いつもと違うってすぐに見抜く同期に……愛しさがヤバい。
今夜だけは、俺のために何とか彼氏の拘束を薙ぎ払って?
来てくれた分、めちゃめちゃに優しくするし。
あわよくば。
俺の事、もっと、知って欲しい。
───────────
ありがとうございました!
立川に感じた可能性…!笑
立川の場合は終わりですが
番外編、もう少し続きます。
またお会いできたら嬉しいです!
2025.12.11 燈坂 もと
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