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番外編2.柴咲課長の場合(2)
しおりを挟む今年の新人は、問題児ばかりだった。
「東雲、おつかれ。大丈夫か?……疲れて、いるな?」
「柴咲……おつかれ。いや、新人がな。予想以上に酷くて」
「野洲原、か。お前がそこまで疲労を露わにするなんて珍しい」
休憩所でコーヒーを飲んでいた東雲は遠目から見てもグッタリしていて、声を掛けずにはいられない程だった。
野洲原トウジ。
成績優秀。甘いマスクで営業向き。……その性格を除いては。
「あの鼻っ柱を、へし折ってやるのが俺の仕事だが……なかなか思うようにいかない……クソ、どうしたものか……」
「そんなに天狗なのか?俺にはそんな風には見えないが……それは、大変だな。……というか、珍、しい、な?」
「……?……何がだ……?」
「お前が、他人に……そんなに感情を剝き出しにするのを……初めて、見たかもしれん」
「……言われれば、そう、だな」
人嫌いで他人に対して高い壁がある東雲が、そこまで感情を出すのが珍しくて思わず口をついて出た言葉に東雲も驚いているようだった。
野洲原のエルダーをするようになってから、東雲の空気は少し変わったように思う。
野洲原が傍にいると、東雲の空気は少し穏やかになるのだ。
もしか、して?
俺の勘は外れる事はないが……少し様子を見守るか。
「鼻っ柱を折る、よりも……根気強く仕掛けていったらいい。尊敬の位置に値すれば自然と野洲原も変わっていくだろ」
「……そうだな……有難う、柴咲。少し指導のベクトルを変えてみるよ。……ところで、お前の担当新人は?どうなんだ?」
「立川か。アイツは……女のケツばっかり追いかけている。この前なんか、振られたって目を腫らしながら会社に来て、仕事が手につかないとか言って早退した。それを除けば、顔も悪くないしトークも上手い。あの子は営業は転職だろうと思う」
「女が原因で仕事に支障がでなければいいがな……大丈夫そうか?」
「大丈夫だろう。立川の女好きは多分……本物じゃない」
立川も野洲原が横にいると、空気が優しくなる。
俺はこっちが本命じゃないかと踏んでいる。
東雲と立川の心を乱す人間……ちょっと、いや。かなり面白いな。
「一度、野洲原と飲んでみたいな。今夜誘ってみるか」
「……ふたりだけで、行く、のか……?」
「何か、問題でも?」
「いや……何も、問題は、……ない」
「だよな。じゃあ、そういうことで。東雲は今日中に提出しないといけない資料があったよな。エルダーのお前を差し置いて申し訳ないが、俺はすぐ行動したい質なんでな。おつかれ。」
その日の夜、サシで野洲原と居酒屋でメシを食った。
俺には好意的だったようで、東雲から聞いていた天狗の要素は何もなく、純粋で優しい子だった。
そして、酒がめちゃめちゃに弱い。下戸も下戸だ。
ビールの後に、俺に合わせて飲み慣れない日本酒を煽ったせいで、よぼよぼしている。おじいちゃんか。
「野洲原?帰れそうか?」
「うぅーん……しばさき、かちょう……ちょっと、まって、くらさい……」
「まいったな。俺はお前の家を知らないんだぞ……?……しょうがない。俺の家に、連れて帰るか」
「その必要はない。野洲原は、野洲原の家まで、俺が送り届ける」
声をした先を見ると、息を切らした東雲がいた。
こんな必死な東雲を入社以来見た事が、ない。
「東雲……?え、どうして、ここが」
「野洲原からココで柴咲課長と食事するんで、よかったら部長も来てくださいって連絡をもらっていてな。報連相を叩き込んでおいて正解だった。……こんなに下戸だなんて……新歓の時は何ともなかったよな……?……柴咲には安心していたのか……?いや、考え過ぎか。……しかし、ここまで下戸だと今後の飲み会も配慮しなければ……心配、すぎる。……柴咲。野洲原の代金、ここに置いておく。勘定は任せた」
「いや、俺が奢るつもりだったから……必要ないぞ?」
「俺の担当新人は俺が面倒を見る。受け取ってくれ。じゃ、また明日。」
去年の新人にはそんな事、1ミリもしていなかったじゃないか。
去年は酔いつぶれた新人に付き添いもせずタクシーに押し込んで、運転手に「この住所まで」とメモと現金を渡していただけ。
東雲が、変わりつつ、ある。
その本人も気付いていない変化に、胸が躍った。
「野洲原……すごいな」
その日、ひとりで追加で飲んだ酒は無性にうまかった。
あの東雲が、俺の酒の肴になる日が来るなんて。
野洲原という存在には驚かされてばかりだ。
翌日、野洲原にお礼と謝罪を言われた際に、仕事以外の報連相をするなんて偉いな、なんて言ったら「東雲部長から部長以外と食事に行く時は必ず誰と行くか、それと行先を報告するようにって一番最初に言われたんで守ってるだけです」と言われて呆気にとられた。
コレで自覚ないとか……意味が分からん。
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