12 / 16
番外編2.柴咲課長の場合(3)
しおりを挟むそんなある日、立川が慌てて俺に提出物を持ってきた。
「課長~!すんません!これ、遅くなりました……!」
「ん?ああ。思ったより早かったな。明後日までで、よかったのに」
「え?柴咲課長……俺の事探してたって、東雲部長が」
「……ああ。そう、そうだ。コレ。コレが欲しくてな。有難う。助かったよ」
咄嗟にフォローしたが……これは……多分に野洲原が絡んでいるな。
東雲が嘘を吐くのなんて、今まで一度もない。
吐いていたとしても他人にバレないよう完璧に隠すだろう。
それが、口裏を合わせていない俺を引き合いに出したという事は……咄嗟の判断で、切羽詰まっていた状況だったという事だ。
状況の確認をしようと、戻ってきた東雲を完全防音の会議室に連れ出した。
「俺が……立川を、探していたって?」
「……すまない。咄嗟にお前の名前を、使ってしまった」
「こんな穴のある嘘、お前らしくないな。どうした?」
少し言い淀んだ後、その重い口がゆっくりと開く。
「……俺は……野洲原が、好きだ。……あの子を、手に入れたい」
「そうか。やっと自覚、したんだな」
「……?!……どういう、ことだ……」
「気付いてなかったんだろうが、結構最初から。お前は野洲原にヤラれていたぞ?多分、俺しか気付いていないが」
「そ、う……か。……すごいな、柴咲」
「うかうかしてると、横から取られかねないから……気をつけろよ?」
「立川、か……アイツは……無自覚だろう。それよりも野洲原の気持ちが今、立川に向いている。下手に動くと堕とす所か不信感を抱かせてしまう。野洲原の気持ちが落ちている時を狙うよ。取り敢えず立川には女を切らさないように手配しなければ……」
「こわ。粘着質な営業部トップに狙われると……こんな事になるんだな」
「計画的と言ってくれ。俺は……狙った獲物は、逃さない」
それから、特に東雲が野洲原に対して動くことなく月日は過ぎ。
その間、立川の女の入れ替わりは激しさを見せていて、「俺、今めっちゃモテ期来てるわ~!」と浮かれた口調で話す立川を表面上は明るく接していても空気が重い野洲原を見て、着々と東雲の罠が遂行されている……と慄いたのはつい最近の話。
そして、東雲の宣言通り……野洲原は翌年、東雲の手に堕ちた。
東雲は直様、社長に報告。
社内でも野洲原しか見えていないから近寄るなアピールをかまし、誰もが吸い寄せられる様に近付いていたのをシャットダウンし、東雲は野洲原にのみ近寄る、という不思議な図式が完成していた。
東雲の頭の中がドピンクで、お花畑一択かと言えばそうでもない。
仕事は去年の倍以上をこなして、今年の利益は相当なものだったが、その大半は東雲の鬼の様な営業の賜物で。
公の部分に挟み込む私の部分を、誰にも文句を言わせない恐ろしい男に……俺の同期は変貌していた。
社長は「野洲原くんを餌に東雲くんがしゃかりきに働いて、売上げが上がるなら、全然構わんよ」と利益しか考えていない生粋の経営者で。
社長がそんな考えなら、と東雲に文句を言う社員はひとりとしていなかった。
そして、事件は起きる。
東雲の初めて出来た愛しい恋人が、付き合い始めて……初めて、夜メシを自分と食べずに同僚と食べると言い出したのが事の発端だ。
新人の頃から叩き込まれた報連相を真面目で純粋な同期の恋人は遺憾無く発揮したのだ。
まあ、後から揉めるよりそっちの方がいいし、定時以降、残業がない日ほど、自分を拘束して直帰する彼氏には報告する必要があったのだろうが。
明日の会議用の資料の最終調整で応接室で打ち合わせが終わったところだった。
スマホにチャットの着信音が鳴り、画面を開いた東雲の空気が凍りに凍った。
「…………………………は?」
「……し、東雲?ど、どう、した」
俺は、他人の空気が変わると、瞬時に分かる。
空気の冷え切った東雲を前に俺にしては珍しく、どもってしまった。
嫌な予感、しか、ない。
「……トウジが、今夜……彼女に振られた立川と夜ご飯を食べに行くから、夜は今日は別にしたいと」
「アイツ、また別れたのか……何人目だ……?」
「……立川の彼女の数など知らん。カウントするのも阿呆らしい。……しまったな……トウジの事で頭が一杯で立川に女を回すのを失念していた……てっきりうまく行っているものだと」
苦虫を潰したような表情の東雲に、何事かと問い糺すと、まさかの回答がやってきた。
「……今日、トウジの霰もない姿を……立川に見られてしまったんだ……発破をかけてしまったかもしれん」
「な、どういう状況だったんだ……お前が、そんなミス、ありえない」
「昨日からの出張……トウジを連れて行けなかっただろう?……トウジを見つけて、堪らなくなって鍵も掛けず手を出していたら、声が漏れていた様でな……立川に聞かれてしまった。」
「それは……東雲らしくない」
「俺が俺らしくなくなるのは、かわいい赤ずきんにだけだ。こればかりは俺にもどうにも出来ない。問題は、俺のかわいい……大事な赤ずきんを付け狙う恐ろしい狼の会食の誘いだ。あの様子だと……奴の中で、変化が起こり恐れていた事態になっているに違いない。狼を野放しにするのは危険すぎる。さて……どうしたものか」
東雲の表情は、狼から赤ずきんを助ける優しい猟師の顔ではない。
泥棒をしようとしている狼に制裁を加えようとしている獣の顔だ。怖すぎる。
そこからの東雲の動きは匠の技で。野洲原から得た情報を元に、営業部トップの技を遺憾無く発揮していく様に横で見ていて笑いが止まらない状況だった。
的確に迅速に。どんな無理難題だろうと涼しい顔をしてやってのける超敏腕っぷりは新入社員の頃から衰えることを知らず、寧ろ磨きがかかっていて。東雲に頼まれたのもあったが、俺も自ら現場に赴くことを希望した。
こんな楽しい現場、見ないわけにはいかないだろう?
俺の予想は……百ゼロで、東雲の圧勝だ。
48
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ナイショな家庭訪問
石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■
「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」
「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」
「貴方が好きです」
■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■
「前のお宅でもこんな粗相を?」
「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」
◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆
表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています
http://www.jewel-s.jp/
泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。
ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。
高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。
そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。
文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる