元魔王の俺が今世、人間に転生した理由

燈坂 もと

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3.国王陛下の憂鬱。

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「この国を、助けてほしい。この国は魔国との境目に位置をしていて、魔物からの侵略を防ぐ盾になっている国でもある。魔王は不在だが、今、魔力による均衡が危うく、魔物に脅かされている。……この世界に召喚される、という事は……それに見合ったお力がある、という事。突然こんな話、申し訳ない。しかし、我が国も……もうギリギリなのです。」

この世界には、約100年ほど前には魔王もいて。
同時期に、勇者と呼ばれるマスターソードを有した男性と、聖女と呼ばれる聖なる清らかな力を操れる女性が、その他の仲間と共に、魔物の長である魔王を、その剣と浄化の力で消失したという伝説が語り継がれている。

魔王を倒した事で、魔物も現れなくなり、世界は平和になった……らしい。

そして、この世界の魔力均衡をその身で保ってくれていた現魔塔主様の魔力暴走が20年前に起こり、モルドレッド様が余分な魔力を封じて暴走を止めた、という事はこの国の史実を学ぶ上で出てくる必須要項のひとつだ。

魔力均衡を保ってくれていた方の魔力を少なからず封じるという事は、イコール……魔力均衡が保てなくなる、という事。

魔力がアンバランスになると、魔力溜まりが出来てしまう。
そこは魔素が濃くなり、濃くなったところには魔物が生まれやすい。魔物に慣れていない国民は、あっさりとやられてしまう。
我が国の騎士団は精鋭揃いだ。各地に配備はしているがしかし、その魔力溜まりがいつ、どこで出来るのかは魔塔の者の力を持ってしても把握が出来ない。
結局……『魔物』という存在が、国民の命を脅かす元となっている。魔物を恐れず、伸び伸びと自由に各地を移動できる……私は、当時の当たり前だった生活に、国民の安心に想いを馳せているのだ。

そこで、伝説に登場する聖女様を召喚し……魔力溜まりを浄化してもらおうと考えたのが事の始まり。
当時、魔王を封じたとされる聖女様も、異世界から召喚されたとされており、我が国民から聖女様の力が発現する事は難しいとされている。
元来からあるそのお力に、召喚の際に付与される力があり、それが聖女様になるために必要なモノであったと、数100年前に存在していたであろう聖女様本人がおっしゃっていた事であると、そう、この国では語り継がれているのだ。

現魔塔主様が昨年、翌年……つまり今年に異世界から対象者が現れる、と予言された事で『聖女』という存在が現実味を帯び。
今年に入ってから、毎夜毎夜……魔法陣を編み込んで、対象者が引っ掛かるのを待っていた。

そして、今夜。聖女様とおぼしき対象者がふたり、異世界からやって来てくれた。

ひとりは、間違いなく聖女様の器。
私の勘では、逸話に語り継がれている聖女様の髪色と同色の……クリーム色の髪の彼が、本物。
纏っている魔力が明らかに違う。本人は気付いていないが、鍛錬し、その力を会得すれば、かつて魔王を封じた当時の聖女様をも凌ぐ器になり得る。

もうひとりは……来た経緯の確認が必要。
この青年は、何者だ……?魔力は確かに感じる。感じるが、何かが足りない。足りない上に、違和感のある魔力の纏い方だ。黒髪だが、所々、白髪に纏められた髪は、かつての、魔王を彷彿とさせる……なんて、きっとこれは私の考えすぎだろう。娯楽小説の読みすぎかもしれない。

「……改めて。私は、アステルフォード王国、第78代国王レオニス・ガレン・アステルフォード。お二方を、何とお呼びすれば良いだろうか。私の事は、どうか気軽に……レオニスと、お呼びいただいて構わない。」

相手の事を探るには、先ずは自分から。タダでさえ、私の顔の造形は先代に似て圧が強いとされ、難しい話をしている時なんかは、その圧が増すと言われている。
なるべく、柔らかく。微笑みかけながら。
それが、常套手段だと、この世界に生を受けてから、私が学んだ生きる術だ。

すると、本命だと感じているクリーム色の三つ編みの彼が、恐る恐る口を開いてくれた。

「……え、と。お話、してくださってありがとうございました。僕なんかでよければ、何をどうしたらいいか分からないけど、力になりたいです……!僕は、ヒジリ アヤメ、と言います。ヒジリがファミリーネームなので……僕の事もアヤメ、と呼んでいただいて、構いません。……陛下?の事は……レオニス様、とお呼びしても……?」
「ええ。構いません。……では、アヤメ様と、お呼びいたします。」

よろしく、おねがいします…!と、信じ難い話を素直に受け入れてくれたこの青年の心根は、真っ直ぐで清らか。
間違いなく、聖女様の器であろう。

「……俺は、マサキ オウミ。ファミリーネームはマサキです。マサキでもオウミでも。好きなように呼んでくれて構いません、国王陛下。」
「……では、オウミ様と、お呼びしても?」
「ええ、なんとでも。それにしても……陛下は、随分と、若くして即位されたんですね?……国王なんて、年配の方がされるものかと、思っていましたが。」
「……私は、今年で29歳になります。昨年、私の父が崩御しまして……まだまだ、未熟者ですよ。」


私が即位をしたのは、昨年。
父王が崩御し、第一継承者であった兄が私に王位継承権を譲位した事が事の発端だ。

表向きは、身体が弱いため、公務に耐えられない。
そのため、騎士上がりで公務もこなす能力の高い弟の私の方が適任だと、身を引いた形になっている。

が、しかし。本音はこうだ。

我が国は一夫一妻制で、側妃も娶らない。
そのため、婚姻してから子種が宿るまでの間、伴侶と毎夜、閨を共にする事が習わしになっている。
伴侶となる相手は政略的なものではなく、恋愛を経て娶る。
子種を授ける事の出来る者かどうかを本能で察知して、恋をするのだ。アステルフォードの遺伝子はその察知能力の高さは随一らしい。
どこでそんな調査が行われているかは不明だが、子孫繁栄具合を見ると……確かに、と頷くところもある。

幼少期より婚約者を立て、その者に妃教育を受けさせる、というのがどの国でも罷り通っている常識であるが、我が国は幼少期より、忠誠を誓う側近にその教育を施し、国王が選んだ妃にその教育を伝授しながら、サポートするという制度を取っている。
恋愛感情も何も育っていない小さい婚約者に長きに渡り、妃教育を強いるのは、正直に言うとイジメそのものだ。
その者だけに負担を課すのを毛嫌った35代国王が、仕組みそのものを変更したのが、今のスタイルの始まりとされている。
その時の国王が「えっ、好きな人と結婚できないの?意味わからん」と暴動を起こした、という逸話が我が家ではこっそりと語り継がれている。

側近……つまりは、私でいうところの、カイルがその立ち位置だ。
カイルは素晴らしく有能で、感情的になる事はない。
幼少の頃より、私への忠誠を誓ってくれた、側近としても、友人としても、信頼のおける者。

因みに、兄にも側近がいて同じ様に幼少期より教育を受けており、カイルが対応できない際のフォローもできる仕組みになっている。

そして……閨の件に話は戻るが。
アステルフォードの遺伝子は、絶倫だ。

100発100中で、婚姻してから1か月以内に歴代の王は子孫を繫栄させてきた。というのが有名な歴史である。

兄はそのプレッシャーに耐えきれず。
王位継承権を、私に譲位した。

兄のプレッシャーもよくわかる。
歴代がそうだったからと言って、自分がそうだとは限らない。
兄と一度、閨の事で話し合いの場を設けた。
む?今、ぷくく。という笑い声が聞こえたな。これは、笑い事ではない。
子孫を繁栄できるかどうかの、大事な話し合いである。

因みに私も兄も、女性とも男性とも、を今迄した事は一度たりともないのだ。
何故なら、全力で婚姻後相手に己の欲望をぶつけるため。
小さい頃からの教育で、相手を伴う本番行為はどんな状況であっても婚姻まではしてはならない、という教えに忠実に従っているのだ。何せ我ら兄弟は真面目なのだ。今迄いかなる誘惑にも耐え忍んできた結果なのだ。褒めてほしい。

そうなると、お互いの能力を推し量れるのは、唯一……自慰行為、という事になる。
兄との話し合いの結果。

……圧倒的勝利で私が王位を継承することが決まってしまった。

アステルフォードの国民たちよ、こんな決め方ですまない。しかし、大事な事なのだ。

そして、今。私は非常に困っている。
私が、今……本能でつがいたい、と思っている人物は……男性、なのだ。

私が、恋焦がれて止まないそのお方は……現魔塔主様。
の方のお名前は、モルドレッド様が魔力制御を行った際に暴走した魔力と共に封じ込めてしまって、モルドレッド様も、本人ですら記憶にないらしい。
彼の方の噂は、噂好きの貴族たちが夜会で面白がってよく話していたので、覚えている。

生まれた瞬間に生命の禁忌を犯し、100をも犯したその人は、一体どんな方なのだろうと。

その存在に、興味を持つな、という方が無理があった。

昨年行われた魔塔主就任式は、ごく少数の限られた人数でのみ行われた。
真の魔塔主様の存在を知るのは、私と、側近で近衛騎士であるカイル。そして兄のダグラスと兄の側近のみ。
どこで、事実が漏れるか不明なため、必要最小限のみに留めている。

就任式に登場された出で立ちは、いつもの大きめのローブを纏い、フードを目深に被ったお付きの方スタイル。
モルドレッド様に促され、ローブを脱いだそのお姿に

私は、一瞬で心を奪われた。

白く透明な肌。
湖の水面を思わせるようなキラキラした水色の光り輝く髪と瞳。
ピンク色の愛らしい口唇。

噂で伺う、壮絶な過去を背負っている、という彼の方の背景バッググラウンドも相まって、切なく、清らかで、壊れてしまいそうなその佇まいに。
私は、気付けば、動けなくなったのを今でも覚えている。

式典の最中だというのに動かない国王わたしに、「……どうか、されましたか……?」と小声で声掛けしてくださった、そのお声も愛らしくて胸がギュッとなる。

初めての感情に、どうしたらいいのか。
こんなに心臓を振り回されるのは、生まれて初めてだ。

目の前の方に少しでも恰好良い自分を見せたいのに。
現実は情けない姿を晒してしまい、心の中で溜息を吐く。

「申し訳ない。緊張していて。」と本音(と言っても式典事態には一切緊張していない。私が緊張しているのは魔塔主様に対してである)も混じった言い訳をすれば、「大丈夫です。僕も、緊張しています。」と柔らかく微笑みを向けられて心臓が悲鳴を上げた。
今迄どんな困難な戦に出向いても、白旗を自ら掲げたことはないこの私がだ。
この目の前の……見た目年齢が遥かに私よりも若く、美しく、力では確実に私には適わないであろうお方に、心の中で白旗を掲げる。完全なる敗北だった。
28年間生きてきて、これ程、他人に心揺さぶられた事はない。

私が即位したのと同時期に魔塔主に就任した、若き天才。
いや、前魔塔主であるモルドレッド様からの情報によると、もう100歳は優に超えているとの事。


それでも。

私の横に、いてほしいと。

彼を欲している自分がいて。


魔塔主就任式閉会直後、その日の公務は翌日に繰り下げるよう指示をして……慌てて自室に駆け込んだ。
彼の方が頭から離れず……半日は部屋から出られないほどに、彼の方を望んでいる自分に驚いたのは記憶に新しい。

子種が男性間で授からないのは分かり切っている。百も承知だ。生命の錬成は禁忌に値することも。

しかし、そんな禁忌を犯してでも、私は彼がいいと望んでいる。

お互いの事を何も知らないまま、私の気持ちだけが膨らみ続けている今。
何とかして私の事を知ってもらいたくて……勇気を出して、書簡を送ったのが1か月も前の事。
待てど暮らせど返事は来ず。
そういえば、と魔塔主様の制約を思い出し、モルドレッド様にお声掛けしたのがつい先日。

そして、今日。

私の、目の前に……大きいローブを纏い、フードを目深に被った愛しい彼が、現れた。


いつか、手に入れたい……必ず


 ───────── 私の、伴侶に。







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