元魔王の俺が今世、人間に転生した理由

燈坂 もと

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4.元聖女、勘違いと不安。

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僕には、前世の記憶がある。

前世の記憶、といってもそこまで鮮明なモノでもない。
僕が覚醒している時には、日聖 綾女としての記憶のみ。
前世の事は、忘れないでね程度に、目を閉じて夢の世界で見る事が殆ど。

まるで、ふたりで映画館で映画を見ているような感じで。
映像を見ながら、前世の僕が今の僕に「この時こういう事があったんだよ~」と語りかけてくれる。
だから、よく漫画とか小説とかで見る" 前世持ちの人が記憶の情報量が多すぎて発熱したとか、記憶が混濁したとか、その他諸々なんたらかんたら~ " 的なものは僕にはなかったから、その点では本当にありがとう、と前世の僕に感謝を言いたいし、この前の夢でもお礼を言ったら、凄く照れてて前世の僕はとってもかわいい。

前世の僕は女性で。
今と同じクリーム色の髪を『魔力を溜めるため』だと生まれてから一度も切らずに伸ばし続けていて。
魔力が溜まると伸びるのもそこまで早くないらしく、一度も切っていないその髪は、背中くらいまでの長さしかない。
ある時、『勇者』と呼ばれている男性が、前世の僕に髪を留めるためのハンズクリップをプレゼントしてくれた事があった。
でも前世の僕はそれを受け取らなかったんだ。

「……どうして、受け取らなかったの?勇者さん、すごくすごく勇気を出して……渡そうとしてくれてたのに……。」
「だからよ。あのハンズクリップには、勇者の魔力が込められてる。そんな思いの籠ったもの、私は受け取れなかった。……アヤメ、私ね。勇者じゃなくて、別に好きな人がいたの。」

えっ!と突然飛び出した恋バナに思わず大声を出してしまった。
前世の僕の恋バナだなんて、そんなの、聞きたいに決まっているじゃないか!ふんふん!

前世の僕から聞いた特徴は『髪は黒くて、すごく大人で、頼り甲斐のある人』らしい。
はっきりこの人だ!て教えてくれたら、それで済んだんだろうけど、前世の僕はとても恥ずかしがり屋で、恋バナとか周りの人とするようなタイプじゃなかったから、この情報共有だけで精一杯だったそうだ。

そして前世の僕、曰く。" 僕の周りには必ず、前世で共に過ごした人たちが近くにいる "。
という事は、どこかに前世の僕の想い人もいるという事なんだろうと、僕は勝手に確信していた。

前世では告白することも出来ず、聖女としてその生を国民のためだけに費やした僕。
今世では、幸せになりたい。そう思っていた。

もし、僕が別の人を好きになっちゃったらどうするの?って声が聞こえてくるね。
でも安心してほしい。僕は結構、勘が鋭い方だと自負している。

きっと、僕がときめく人が、前世の僕が恋した相手の筈なのだ。

そして、僕の父さんの仕事の関係で引越しした先。
お隣さんに挨拶に行った時に、僕の心臓は、悲鳴を上げた。


「……初めまして。魔咲 王海マサキ オウミ、といいます。歳は、10歳です。父と母は海外に行っていて、殆どいないので……挨拶にこれ以上来られても、紹介できる人がいません。なので、ご挨拶は今日だけで大丈夫です。……アヤメくん、だっけ……?小学校一緒だよね。明日からの学校、道わかんないだろうから、一緒に登校しようか。明日の朝、迎えに行くね。」

よろしくお願いします。と、言い終わって、深々とお辞儀をしてくれた、その人こそ。
8歳の僕が、恋した相手。オウミくんは僕の、初恋なのだ。
その日の夜、夢に現れた前世の僕に、僕は報告をした。思い出すととても心臓が痛い。苦しい。

「聖女ちゃん……!恋って、恋って……苦しいんだね……!」
「えっ。アヤメどうしたの……?」
「聖女ちゃんが恋した相手に出逢ったよ……!髪は黒くて、すごく大人で、頼り甲斐のある人……!うううう。今思い出してもかっこ良すぎて胸が痛い……!……僕、頑張るね!聖女ちゃんと僕の想い人と……今世では、絶対に、結婚するから。」
「え、アヤメ、待って……?彼はこの世界には、いない筈……あ、聞いてない」


何とかしてオウミくんに触れたくて。
ずっと頑張っていたけど、上手くいかなくて。
どうしても手を繋ぎたくて、僕が4年生になった日の朝、我儘をぶっ放してみたら、手を繋いでくれたオウミくんはその場でぶっ倒れた。えっ、なんで。
すぐに病院に行ったけど、原因不明で。でもパパとママからはアヤメが原因としか考えられないと接触禁止令を敷かれてしまった。
お小遣いとおやつの搾取を持ち出されては従うより他ない。
それに、大好きなオウミくんが僕のせいで倒れるのをもう見たくもなかったから。

それにしても……好きな人に触れられないって、すごくしんどい。
僕はオウミくんと沢山、色んな事、したいし、されたい、のに…………って、こんなこと言う事じゃないのは分かってるけど。でも前世でも清らかなまま生涯を終えたせいか、欲望が爆発している。ごめん。
前世聖女だけど今世、元気な男の子だから、妄想するくらい許してほしい。僕はただ、オウミくんが大好きなだけ。


だから、あの夜も。月が大きくて本当に綺麗で。
スマホじゃ肉眼で見てる風には撮れないけど、どんな些細なやり取りでもいいから、少しでも彼とやり取りをしたくて。
月に向かってスマホを翳したら、足元に青白い図形が現れた。

瞬間、目の前が真っ暗になった。
きっと、この世界から僕はいなくなると、そう感じた。
遠のく意識の中、オウミくんともう会えないとか、オウミくんと離れたくないとか。
頭の中はオウミくんの事しかなくて。

彼と離れ離れになっちゃう悲しさに、胸が痛んだ。


……ぐわんぐわんして、気持ち悪い。頭に靄がかかったような感覚。
重い瞼を開けると、夢でよく見た格好の人たちが沢山いて。
ここは前世で過ごした場所だって、はっきりと分かる。

不安になってあたりを見回すと……まさかの、人。

「……ッ!うそ……!……会えないと、思ってた……!」

僕の大好きな、オウミくんが倒れていた。


もうこれって運命でしかないと思う。
僕とオウミくんは切っても切れない、離れられない関係なんだ。


意識を取り戻したオウミくんと少し話をしていたら、金髪のイケメンさんがやってきた。
言われるがままに、手を取り歩く。
オウミくんは黒髪のイケメンさんの手は取らずに、自分の足で歩みを進める様に、更に心臓が痛い。
どこまでも恰好良い。彼は僕の心を離してくれない。

途中、魔法陣の上に乗り、ワープというのも経験したけどぐにゃぐにゃして変な気分だった。
「鍛錬を積めば、何も感じなくなりますよ」と国王陛下に言われ、これから沢山勉強しなければいけないんだろうなと夢の中で聖女ちゃんが勉強に修行に頑張っていた様子を思い出す。

きっと僕がここに呼ばれたのは……夢の中で聖女ちゃんが僕に語り掛けてくれたのは、僕の力が必要だからだろう。


王宮の応接の間へ通されて、国王様の話を聞いていると案の定その事だった。
自己紹介を交わしていると、レオニス様がそわそわし始めた。
ん?一体どうしたんだろう。何だか入り口をちらちら見ている。

「レオニス様……?どうか、されましたか?」
「あ、ああ。すまない。魔力が近付いてきていてね。ちょっと、そわそわしてしまった。」
「陛下、異世界の方にまでバレるくらいそわそわするのはやめてください。」
「す、すまないカイル……!お逢いするのが本当に久しぶりなんだ……緊張、している。」
「ほんとに……しょうがないですね。」

(魔力?誰の……)

そう考えたところで、青白い光が部屋中に広がった。

「……っ!まぶし……っ!」
「……いらっしゃった……!」

「……来たか。」

(オウミ、くん?)


オウミくんの青白い光に向かう表情は、今まで見た事のない……穏やかで、愛しさが溢れる表情で。
……まるで、好きな子を、見るような。

「……どういう、こと……?」

青白い光の中から、魔法陣が現れて。
魔法陣が下から上に移動したと思ったら、白いお髭のお爺さんと黒いローブを纏った人が現れた。

「魔塔主様、モルドレッド様。突然の変更申し訳ございません。確認せねばならぬ事があり、お力をお貸しいただきたい。人払いはしてあります。ここには、私と、カイルと対象者2名のみしかおりません。……どうか、お顔を。」
「……承知いたしました。では、このままでは不敬にあたりますので。お目汚しですが、失礼します。」

レオニス様の後に、黒いローブを纏った人から可愛らしい声が聞こえる。
話し終わると、可愛い声の主は目深に被ったフードを取った。

現れたのは、水色のキラキラした髪色と瞳。
くりくりの大きな瞳に、透明な肌。ピンク色の艶やかな口唇。
めちゃめちゃ可愛い子が、舞い降りた瞬間だった。

(かわいすぎ……!)

「……ッ!……んんっ。ご無沙汰しております、魔塔主様。お足運びいただき恐縮です。」
「とんでもありません。あ、陛下……以前送付いただいた書簡のお返事、出来ておらず申し訳ありません。……その。なんというか……えっと、た、大公に確認も、必要でしたので……」
「!いえ。こちらこそ、突然あの様な書簡を送り付けてしまい、申し訳ない。」
「いえ、それは、大丈夫です。あの、お受けいたします。日程等確定しましたら、ご連絡ください。……不敬な方法で、申し訳ない。本来なら書簡にてお返事するべき所ですが、陛下本人に直接お伝えした方が早いと思い。口頭ですみません。後程、改めて書簡を送付いたします。」
「……ッ!承知、いたしました……!不敬、などでは、ありません。……嬉しいです、すごく。では、魔塔主様より書簡を頂戴次第、日程連絡いたします。」

レオニス様……めちゃめちゃへにょにょだ。
もう、見てるだけで分かる。魔塔主様に対する『好き』が溢れまくってる。
その魔塔主様は、全く気付いてないっぽいけど……不憫。

「……ところで。ふたり、いますね。どちらかは目星がつかれているのでしょうか。」
「ええ。魔塔主様に確認いただきたいのは……黒髪の、彼。名はマサキ オウミと言います。」
「マサキ、オウ、ミ……。……っ。……では、オウミ様、とお呼びしても?」

可愛い『魔塔主様』と呼ばれる男の子?女の子?は、オウミくんに近付いた。
オウミ、という名前に躊躇いがあるように感じたけど……気のせい、だろうか……?

するとオウミくんは、魔塔主様に近付いて、魔塔主様の手を取り優しく手の甲に口付けをした。

(何が、起こってる……?)

「ああ。……様付けは、いらない。呼び捨てで構わない。あと、敬語も必要ない。俺も敬語は使わない。」
「……?!」
「……陛下、大丈夫です。僕は何も問題ありません。わかった。よろしく、オウミ。」

何だか、嫌な予感がする。

オウミくんは僕と結婚して、僕のお婿さんになる人だとずっと思っていた。
でも、さっきの……『魔塔主様』が現れるであろう光に向かってのオウミくんの表情と今の言動。

オウミくんの、心が誰にあるのか
今迄、僕だけだって思い込んでいて考えようともしていなかった。

でも、それは……間違っていたのかも。


もしかして、僕じゃなくて。


彼の、心、には




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