angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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holy war

神の座

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   無事に帰ってくる事はできたが、しばらくは動けそうにないため布団の中で、コリオスから詳しい説明をしてもらうことにした。
「えっとですね、聖戦というのはもともと・・・」
 聖戦というのはもともと、神族の長を決める儀式の1つだった。しかし今回は特殊で、神がその任期の途中で命を落としたため、その子供たち、つまりはティタン12神が血で血を洗うバトルロイヤルに発展してしまったそうだ。神同士が戦うのも問題だが、厄介なのは天使の存在である。神の戦いといっても実際に戦うのは、天使なのだ。この天使を神が作製し使役することで、天使が神の力を一時的に発揮することができるようだ。
「おわかりいただけたでしょうか」
「姉様」
「天使の昇華には、意味があるの。あと、わざわざ砂になるのはどうして」
 クリオスの手には、いつの間にか粘土の塊が、そしてその手を動かしながら説明を始める。
「姉様、人は粘土でできているというお話しをご存知でしょうか」
「まあ、一応」
「天使が昇華する前に雷が、天使に落ちるのを覚えていますか」
 言われてみればそうだったような。
「そのお話しでは出来上がった人形を焼くと人間の完成なのだとか。ですが、ご存知の通り人は人から生まれ、神が介在する余地はありません」
 わりと必死になってこねていた粘土が、いびつながらも人をかたどっているが、気に入らなかったのか小さな手で挟み潰した。
「つまり、天使は神が作り出した作品の1つなのです。加えて言うなら、原寸大の人の形をあのクオリティで作り上げるのは、かなりの時間と労力を要しますね」
「説明ご苦労、クリオス」
「大したことありません、コイオス」
 一通りは理解した。しかし巻き込まれたといっても、まだ相手の正体が分からない段階だと言うのに、そう決めつけてよいものか。
「さすが、姉様」
「慎重でいらっしゃる」
「相手が天使なのか生身の神なのか分からないものか」
 2人は顔を見合わせて首を傾げ思案する。
「直に確かめるのが良いかと」
 聴き手に徹していた若が、話に割って入ってきた。
「そんなこともあろうかと既に手は打ってあるよ」
 いつものことだが、とてつもなく嫌な予感がする。若の案は、私にとってデメリットが多すぎるのだ。
「なんと、ジャジャーン」
 若の手には、北ノ峰高校の制服。
「そう潜入調査だ」
 と声高らかに言うと
「「さすがは、若様」」
 とコイオスとクリオスが声をそろえて若を褒め称える。それでも神か。とりあえずそんなことは置いておいて、私の答えは、ただ1つ
「断る」
「ええ、なんでさ。似合うと思ったのにな」
 私は着せ替え人形じゃないぞ。まったく、何かあるのかと思えばいつもこうだから、若はまだまだなのだ。
「私は、ヒルデさんに制服着て欲しいな。なんて」
 突然、部屋に入ってきた真理亜が、予想だにもしないことを言った。
「だよね。やっぱり着るべきだよ。それに、僕の仮眠室貸してあげてるんだから」
「それとこれと話が・・・」
 私は負けた。真理亜に着替えるのを手伝ってもらって、制服に着替えた。
   数分後、事務室の方に行くと、若とコイオス、クリオスが仲良く大のソファに座って、テレビを1列に並んで見ていた。
「あっ、着替え終わったんだね」
 下から順に、じっくり見て、
「うん、やっぱり思った通り、生活感があっていいよ」
「私もそう思うわ。なんか、制服には制服にしかない良さがあるものね」
 若と真理亜は自分のことのように喜び、はしゃいでいる。まっ似合っているのなら問題は無いのだが。なんて。
「姉様」
「考え事」
「「ですか」」
「いっいや、な、なんでもない」
 独り言をを聞かれてしまったようだ。しかし、コイオスもクリオスも首を傾げて、はてなという顔をする。すると、若が手を「パンッ」と鳴らす。
「さて、お嬢さんの制服のお披露目も無事済んだことだし。もう分かってるよね」
「はい」
 ???。
「え、なに、もしかしてお嬢さん制服着てこそこそ学校の隅に隠れてるつもりだったのかい」
「違うのか。これはただの士気向上のためだとばかり」
「ノン、ノン。ナンセンスだよ」
 人を小馬鹿にしたような言い方をする若の人差し指が、左右に動く。
「一発、殴っていいか」
「それは勘弁。僕が言いたいのは、学校では、私服の方が目立つってことさ。この間の時みたいに、生徒に見つかったら面倒でしょ。だからこうして周りの当たり前の情景に合わせるのさ」
「それは分かるが」
「だからこそ、クラスに転入するんだそして、楽しいスクールライフをっと」
 若は咳払いをして続ける。
「コホン。ともかく、明日からお嬢さんは北ノ峰高校の生徒となるのだ」
 つかの間の沈黙。
「叔父さんそれ聞いてない」
「うん、真理亜にも秘密だったし。はなしたのは、コイオスちゃんだけだよ」
 すると、コイオスがずいっと、進み出て得意げに話し出した。
「姉様、ご安心を。手はずはすでに整っております。転入手続きを済ませ、さらに転入試験もすでにパスしたことになっています。姉様のクラスは、たしか・・・」
 コイオスは頭コツコツと、拳で数回叩いて思い出そうとするが、忘れてしまったらしく終いには、
「お楽しみですよ。姉様」
 何だとーう。という展開に。全く先が思いやられる。
 次の日、私と真理亜は、それぞれの学校に向かうべく家を出発する。どうやら途中までは、行き先が同じようなので、2人で街のバス停まで一緒に歩く。
「何だか姉妹みたいだね」
「そうだな。こうして2人だけで外を出歩くというのもたまにはいいものだな」
「残念ながら」
「姉様は」
「私たちの姉様ですので」
 コイオスとクリオスが、何処からか現れて、真理亜に抗議する。しかし真理亜も黙ってはいない。
「でも、血は繋がってないんでしょ」
「ぐっ、そ、それは」
「そうなのですが」
 2人は、的確な指摘にたじろぎ、反抗することが出来ないでいると、真理亜が乗るというバスが停車し、真理亜は、バスに乗り込み学校へ向かった。
「「血縁などただの飾りなのです」」
 2人して本人がいなくなったあとに文句言うが、それを見ているのが虚しい。
「姉様」
「ひとつ」
「お伝えし忘れたことが」
「んっ」
「神の座を賭けた」
「戦いからは」
「「降りれません」」
 コイオスとクリオスは、いつになく険しい表情で、最初に出会った時のような顔して告げる。
「すでに、姉様は」
「巻き込まれ、状況の一部となってしまいました」
「ここからは」
「生死を賭けた」
「「sudden deathと、言っても過言ではないでしょう」」
 sudden deathか、巻き込まれていることは、それほど驚くこともない。あながち、そうだろうとは思っていた。
「ああ、私は大丈夫だ。心配するな。それに、私とて落ちぶれてはおらんのだ。なんてね」
 おどけた風に私が言うと2人はいつもの顔、ちょっととぼけたような顔に戻ったので、一応安心してくれたことだろうと思った。
「もしもの時があれば、いつでもお呼びください」
「お命だけは、どうか御大切に」
 2人は、珍しくそれぞれの思いを口にした。根本的には、私のことを思ってくれていることは同じようだが、この2人にも1つずつ心がちゃんとあるのだな。終始話すことが一緒なので、分かりにくいが、何だちゃんと自分の意思があるじゃないか。私は、少し嬉しくなって跳ねそうな心を抑えて、
「行ってきます」
 と言って、端から見れば小学生低学年程の双子に手を振っている自分がいたのだった。
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