angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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holy war

人の性は善か悪か

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 すでに2回訪れている北ノ峰高校の職員室前に、改めて正式に生徒として立っている。
「失礼します」
 ドアを開け職員室の中に入る。と、手を挙げ、私を呼ぶ教師が1人。
「こちらへどうぞ。おはようございます。若田ヒルデさん、出身はギリシャで間違いありませんか」
「はい、間違い無いです」
「では、改めて2年2組へようこそ。私が担任の日出陽菜(ひのではるな)です。困ったことがあったら相談してね。今からHR(ホームルーム)だから自己紹介してもらうけど、いいかしら」
「ええ、構いません」
「じゃあ、行きましょうか」
 
 教室に入ると、生徒たちがザワザワと騒々しい。
「皆さん静かに」
 先生が、注意すると生徒たちは静まり返り、「では自己紹介を」と言うように、先生はにっこりとこちらに微笑み掛けた。
「えっと、若田ヒルデです。日本のことを学びに来ました」
「どこの国から来たんだ」
 と男子生徒が、問いかけてきた。
「ギッ、ギリシャですよ」
「ギリシャかぁ、言われてみればそんな感じだなぁ」
 どんな感じだよ。この喋り方いつまでもつかな。正直ツライ。
「あっあの僕と友達になって下さい」
「あっずりぃー、俺も」
「じゃあ、俺も」
 男子生徒たちが立ち上がって次から次へと、こちらにじわじわにじり寄ってくる。若からもらった自己紹介のメモをこっそり見ると、困った時の対処法が書いてあった。よしこれだ。
 男子生徒たちの後ろでは、先生が困った顔をしている。ここは手早く済ませよう。
「あの、えっと、な、仲良くしてくれてもいいんだからね」
 言ったら言ったで恥ずかしい。どうしよう男子生徒たちの顔が固まっているよ。絶対ドン引きされてるよー。
 若のバカ。
「バカ」
 あっ、口が勝手に。語尾だけが言葉になって教室にこだましたように思った。顔に熱を帯びるのがわかる。すると、男子生徒たちは歓声を上げて喜び出した。
「この子照れてる」
「ツンデレだ」
「かわいい」
 チャイムがちょうどいいタイミングで鳴ると、男子生徒たちは教室から走って出て行ってしまった。約14名。ホームルームと一限目の間の休み時間のことである。
「赤毛のツンデレ来たー」
「イェーイ」
 一方、女子たちは冷ややかな顔付きをしている。列の一番前に座っている女子生徒が話しかけて来た。
「男子ってあんなんばっかだからさ、気にしないで」
 もう1人駆け寄って来て私に尋ねる。
「何であんなに喜んでいたの」
「これを言っただけなのですが」
メモを渡すと、女子生徒は、溜め息をつく。
「貴女これどうしたの」
「ホームスティのご主人にもらった物です」
 すると今度はその紙を女子たちが回し読みして、最後に読んだ1人が言う。
「最初はあんたが、よっぽどの垂らしなのかと思ったけど、何か納得したわよ。まぁ、災難だったわね。同情するわ」
「また男子に何かされたら言ってね」
「その時は、力になるわよ」
「ありがとう」
 と苦笑いしながら答える。
 その後、男子の目が気になりながらも午前の授業が終わり、若に1度連絡する手はずだったが、女子生徒たちが私の周りを囲むように話しかけてくるので、1人になる時間がなかった。
「そうだ、次、家庭科だよ被服室行かなきゃ」
「被服室」
 私は大声を出して椅子から勢いよく立ち上がる。みんなは、ビックリして口が開いている。
「どうしたのいきなり」
「エッ、あっ見学に来た時被服室に忘れ物してたの思い出して。エヘヘへ」
「そうだったの」
「早く行こうあと5分だよ」
 数名の女子に連れられて、被服室で裁縫の授業をした。その間、私は、この部屋に何か異常が無いか見回すが、特にこれといったものは無い。特別ここに何かあるわけでもなさそうだ。窓の外には、プールがあるだけだし。むっ、プール。ひょっとして、
「更衣室はプールのよこにあるのですか」
「更衣室、確かにプールの横よ。でも、それがどうかした」
「いいえ、ただ明日1限体育だったなと思いまして、更衣室はどこかなと」
「そっか明日1限体育か」
 目の前に座っているのは、教室の一番前に座っている唯一の女子生徒、田島奏花(たじまそうか)という明るい性格の子だ。左に座っている子は神田聖司(かんだせいじ)という男子で左斜め前に座っているのがメモを最後に読んだ美沢華蓮(みさわかれん)という落ち着いた感じで背が高く長いストレートの黒髪を揺らしている。
 不意に奏花が尋ねる。
「ねぇ放課後暇」
「えっ私。そうね」
 この後といえば、再びこの教室に来てさらに、詳しく調べなくてはいけない。
「ごめんなさい。妹たちを迎えに行かないと」
「そっかぁ、じゃあ仕方ないよね」
「田島さん、カフェもいいけど勉強もしてはいかがかな」
「華蓮ちゃんは、手厳しいなぁ」
 私は、せっかくのお誘いだが、天使探索を優先したいので、さらりと断ったが奏花は、何ひとつ不満そうな顔をせず、「残念ザンネン」と笑顔で理解してくれた。次は、付き合いよく誘いに乗るとしよう。
 そのまま7限も終わり、放課後を迎えた学校は、先日の通り部活動にいそしむ活気溢れる声が聞こえるのみである。しかし、私はその声に耳を貸すこともなく、再び被服室の前にやって来ていた。扉に手を掛け戸を開ける。そして、足を教室の中へ運ぶ。やはり、今日は、教室に入れるらしく、難なく扉の罠をクリアする。
「今日は大丈夫だな」
「おや、ネズミが入り込んだようだな」
!?。後ろを振り向くと扉の鍵は閉まっている。いつの間にか、部屋の奥の準備室の方に男が1人立っている。
「さぁ、こっちへおいで」
 男はそう言って私に近づいて来る。その距離は、徐々に縮まり1メートルもない場所までやって来て、男は、いきなり私の手首を掴み準備室へ強引連れ込もうとする。
「悪い生徒には、たっぷり罰を与えんとな」
「放せ。クッこの」
 そうだ、若のメモ。あれが役に立つかもしれない。教室で男子たちが喜んだように、ツンデレとやらを演じれば、
「ねぇ、放してくれたら中に入ってあげなくもないんだから」
「そうか、そうか。何だ最初から私に用があったのか」
「あんたになんか用なんてないんだから、・・・バカ」
 幸いなことに、夕日がまどからさしこんでいたため、少し照れた顔すれば何てことはない。男は案の定、笑みを浮かべる。
「照れ屋さんなんだね」
 両手を広げてトンチンカンなことを男は言っている。
「じゃあなッと」
私は、身をかがめて男のみぞおちを勢いよく殴りつけた。無防備だった男は、前のめりに倒れ気絶してしまった。すると、
「アーララ。伸びちゃってるわねこいつ。これじゃ使い物にならないな」
 倒れた男をツンツン、と人差し指で突いている天使がいた。
「こんにちはこんばんは、午後6時ってどっちが正しいのかしらね」
「お前は天使か神か」
「私は天使かな、悪魔さん。女どうしだけど続き、やる」
 天使は、唇に指を当てて言う。
「私を誘惑しててどうするの。ふざけるないで」
 天使は、何に驚いたのかわからないが驚いたという風に口をポカンと開けている。
「キャッハハハ。悪魔さん、悪魔さん。貴女本当にそうなの」
「何がだ」
「いいえ、こっちの話よ。まっいいわなら教えてあげる。いい、この世界にはね、男女だけではなく男男、女女で愛し合う者たちもいるの。でもそれは問題じゃない。問題なのは、彼らは欲を押し殺していることよ」
「欲だと」
「ええそうよ、だから私は、この男の押し殺していた欲を解き放った」
 私は倒れた男を見る。何とも惨めな姿だ。男の頬を涙が伝っていたのを私は見逃さなかった。
「どこの天使か知らないけれど、勘違いしているのはお前の方だ」
「何ですって」
「欲望のままに行動しては獣と同じよ。人っていうのはねぇ相手の事を大切にしたいって思うから本当の事を口に出さずに押し殺している。そういう気遣いを嬉しく思うから相手の努力を受け入れ、初めて本当の愛情を注ぐものよ」
「綺麗事ね。ほざかないで」
「私は、何度だって言う。お前は愛を知らない。サキュバスのような事をしているお前に愛はわからない」
 天使はもの凄い表情をして激しく憤怒しだした。
「私が何って、私が何って聞いているのよ」
「淫乱の悪魔  サキュバス」
「いやああああああああぁぁぁぁ」
 私は咄嗟に耳を塞いで天使かなを見ると、天使は肩で息をしてとても苦しそうに胸を押さえていた。
「私大丈夫。ええ大丈夫よ私。手も汚れてない。羽ちゃんとあるわ。そうよまだ私は・・・」
「欲にまみれている」
「黙れ、うるさい、話しかけるな。いやっ、熱いああ」
 いきなり、天使は緑の炎に身を焼かれ出した。ジワジワと天使の服が塵となり、体の皮膚が露わになるが火傷はしていないようで、その代わりに黒い靄が体から抜けて、炎が青く燃え自然と鎮火した。天使はぐったりとへたり込んで大人しくなっていた。その時、
「姉様」
「今お助けします」
「「あれ」」
「遅いわよ、あんた達」
 コイオスとクリオスがドアをガラガラっと威勢よく開け放ったが、ほとんど事は片付いてしまっている。そんなことも気にせず2人は動かなくなった天使を診て言う。
「これは」
「ただの」
「「天使です」」
「つまり、自我は消えているということか」
「「はい」」
 私はお決まりの詠唱に入る。
「angel NO.9 observe complete」
 天使が叫んだ時に、窓ガラスは粉々に砕け散ってあたりに散乱している。天使はそんなごちゃごちゃした周辺の状況に反して、静かに雷雲の稲妻に浴びて塵となり窓から風にのって舞って行った。
「姉様」
「追手が参ります」
「お早く」
「この男は」
クリオスは自信満々に言う。
「この男は、どうやら教頭という役職の者で、下着泥棒なのです。なのでガラス8枚分の負担をするという罰を与えましょう。欲望を抑え切れず天使をコールした報いなのです」
「クリオス熱くなってはダメよ」
「心配しないでコイオス」
 あのう、コイクリシスターズよ、逃げるのでは。コイオスが私にイカロスを差し出しそれを手早く身に付け、前回と同じ要領で家に帰宅する。その道中クリオスが話しかけてきた。
「あれは自我の焼失というものです」
「緑の炎から青い炎になるやつのことか」
「はい、おそらくですが、彼女第9の天使の体が、あの自我に耐えれなくなったのだと思われます。いわゆるキャパオーバーというやつですね」
 クリオスは、ニッと笑ってみせた。
 とりあえずこれでもう学校に行かなくていいわけだ。はぁ、疲れた。人の性は善なのか、悪なのか、計るのは難しいものだな。輝く夕日は、答えることもなく峰の中へ沈んで行った。
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