angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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holy war

堕ちる神

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 学校に通いだして1カ月。11月の終わり、期末テストとやらも問題無く終わり明日は、土曜日にして12月である。被服室の1件以来天使のコールはなかった。
 そして今、真理亜と一緒に大型ショッピングモールにやって来たところなのだ。だが、こんな大きな建物の中に店が1つだけとは、さぞかし立派な商社なのだろう。
「んっ、ヒルデさんそれは違うよ。ショッピングモールに付いている名前は建物の名前で、この中の各お店は、ブースに分けられているんだよ」
「ブース」
「そうブース。分かりやすく言うとそうだなあ、商店街が屋内にある感じかな」
「なるほど、そんな感じなのか」
 さっそく中へ入ってみると天井は高く、4階まで吹き抜けで、下からでも各階にある店の看板ぐらいは確認できる。
「でも何で叔父さん、こんなにたくさんお金くれたのかなぁ」
「わからんが、いい金では無さそうだな」
「何それ、もしかして闇金」
「案外そうかもしれんぞ。そうでなければ、服でも買っておいでよ、なんて言わないだろうさ」
 何故だか今日の若は、朝から上機嫌だった。鼻歌を歌いながら朝ご飯を済ませると、1万円札を10枚置いて、「服でも買っておいでよ」と言って、仕事場へとスキップして行ったのだ。
「よくわからないけど、こんなこと滅多にないから、とことん服を買おうっと」
 真理亜はそう言って意気込み、私の手を引き2階へと連れて来た。どうやら2階には、若者から年配の女性を対象にした服を扱っているようだ。その中の店にとりあえず駆け込んだ。
「何も急ぐことはないのではないか、店は逃げない」
「でも商品と時間は無くなるわ」
 ごもっとも。その後色々見て回り、何着か気に入ったものがあったのでそれを購入して1階のレストラン街へ向かう途中、児童服売り場で私の足を止めた。
「あんた達何やってんの」
「マネキンに」
「口なし」
「あっそう。じゃあね」
 私は、見なかった事にしてその場を立ち去ろうとすると、ダダダダダッと走って近づいて来る足音が聞こえて来るので、振り向くと涙目で私のレースのロングスカートの裾を掴んで、追い縋ろうとする。
「何だよ。こっこんなところでやめろ。私が児童をいじめているみたいみたいではないか」
「いいえ」
「全く」
「「その通りでございます」」
 真理亜がムッとして戻って来た。
「何してるんですか、もう。あれ、コイオスちゃんとクリオスちゃん」
「真理亜様」
 今度は真理亜にしがみ付いく。
「姉様が」
「私たちを」
「邪険にするのですぅ」
「するのですぅ」
 真理亜がこちらを見て、またムッとして言う。
「ダメじゃないですか。こんな小さな子をいじめちゃ」
「いや待て誤解だ」
「言い訳無用」
「だいたい、貴女は人の事を何だと思っているんですか。いつまでたってもって、あら」
 真理亜は、怒るのをやめてしまった。コイオスとクリオスはいつの間にかコリオスへと変化している。
「何で私こんなに怒っているの」
 この感覚、肌が凍るようなそれでいて胸は熱く脈うち、頭が痛い。これは、コールじゃない。神。
「姉様、御気おつけ下さい、ゴッドフォールです」
「場所は分かる」
 コリオスは首を横に振る。しかし何となくだが、神が降りてきたのは屋上の気がしてならない。
「私ちょっと屋上見てくる」
「では私は真理亜様を安全なところへ」
「頼んだわよ」
 私たちは、2手に分かれ状況に対処し始めた。
 エスカレーターもエレベーターも停止し、階段をざっと6階分上がると建物の外に出た。鉄製の階段をさらにもう1階分駆け上がり屋上に何とかたどり着いた。
「酷いな」
 そこで見た光景は凄まじいものであった。車は八つ裂き、パーキングの標識は真ん中からポッキリ折れ、街灯のガラス片が辺り散らばって、地面がキラキラと輝く。
 歩くたびパキパキッとガラスが砕ける音が鳴る。しかし、目の前にいる神は気づかない。なにも神は1人というわけではない。しかも、その神は、まさに戦闘中といったところだ。
 私はとにかく車の残骸の陰に隠れて様子を伺う事にした。
 1人は剣。大剣かなぁ。そしてもう1人は、戦斧。ハルバードというヤツだな。大剣の神はすらっとしているがバランスよく肉体が鍛えられている。戦斧の神は極限まで筋肉を鍛えたという様にゴツいしデカい。
 2人は神と言うのに相応しく足を地につけずに戦っている。剣と斧が激しくぶつかり合い、その衝撃で屋上の車がさらに吹き飛ぶ。
「ここも危ないか」
 私は、リュックサックからイカロスを取り出し装着した。その時大剣が、私目掛け飛んでくる。
「嘘でしょ」
 慌てて翼を展開し後ろへ飛ぶが蹴りが甘く、跳ねた程度だったが間一髪剣を避けることができた。剣は私の広げた足の真ん中に刺さっている。しかし、今度はデカブツが私の右隣に落ちてきた。私は一瞬、血の気が引くのがわかった。上を見上げると大剣の神が、意地悪そうな顔して、ニッと笑う。ムカつく。
「アッタマキターー。何よあんた、降りてきなさい」
「背中には気をつけろ」
 振り返るとデカブツが、斧を私に振り下ろそうとしている。
「ひぇぇぇー、んんん」
 そんな中、私に出来ることといったら身を屈めることくらいである。だが、斧が私を切り裂くことはなかった。いつの間にか大剣を持って斧を防ぐ男の背が目の前にあった。
「早く逃げろ。こいつは、もう落ちている。背中のそれで飛べるのだろう」
「ええ」
 ここにいても仕方ない。急ぎ退避せねば。イカロスの翼を広げ屋上から離脱する。ある程度の高度に達し再び眼下を見ると、先ほどまで受け手だった大剣の男は戦斧のデカブツを押している。そして、1度間合いを広げ、大剣の男は跳躍し、逆手に持った剣をデカブツに向け狙い済ますと、剣は眩しく紅く輝く。私はある種の恐ろしさを感じながらその様子を見守る。
 デカブツは大剣の男に向かって跳躍するが時すでに遅し。男が投擲した大剣が、デカブツを頭から串刺しにして、屋上に突き立つ。デカブツは黒い光を散らして跡形も無く消え去った。
「がっ、はぁ」
 突然のことで驚いたが、男が私の背を回し蹴りし、私はそのまま地面に一直線、私の体は、ショッピングモールの花壇の土を抉った。
「うっああ、痛っ」
 私自身驚いたことに、擦り傷と首を捻挫した程度の怪我で済んだ。
「やっぱり、ム・カ・ツ・クーー」
「キャンキャン吠えるな、これでも助けてやったんだ。ありがたく思え」
 男を見ると、左腕に数本の矢と右脚を槍が突き刺さっている。
「ちょっと、何であんたが怪我してんのよ」
 男はふわっと、地に足を付け豪快に脚の槍を抜き去り、そのまま地べたに座る。
「何で、それは決まっているだろう。君を助けてやったと先ほども言ってやったであろう。この矢とあの槍は、君を狙ったものだ。その心の臓を穿つためにな」
「そんな誰が」
「私の知るところではないな。大方、つまらぬ者の小細工だろうな」
 私を狙う。何のために、最近少し目立ち過ぎた。いや、そんなことはないと思うけど、でももしそうだとしたら。この先、命を狙われ続けるのか。
「ふむ、まあ、そんなに落ち込むことはない」
「他人事みたいに言って、神様はお気楽でいいですね」
「私は神だが、何か」
 くぅぅぅー。何かしら、いちいち腹が立つわ。いけない、いけない。まだこの神が敵が味方分からないんだから気を引き締めないと。
「ああそうだ。私の名は、オケアノス。だが名前などどうでも良い。問題はそこでは無い。1つ聞きたいのだが何故、君から神と同じ血の匂いがするのか気になるのだが」
 はい・・・・・。脳の活動が一瞬停止する。そしてまた何を聞かれたのかを再確認する。『神と同じ血の匂い』私にも何のことだか、皆目検討もつかない。
 そこで私は袖から露出している肩の辺りの匂いを嗅いでみるが、そもそも神の血の匂いを知るはずも無く、ただ少し恥ずかしくなる。
「んっ、どうした。熱でもあるのか」
「なっ、あるわけないでしょ」
「ならどうして、頬を紅くする」
「何でもいいのよ。放っておいて」
 はぁ。なんか疲れちゃったわ。すると上空からコイオスとクリオスが降りてきた。すでに、合成虚像の幻影は解けいつものちびっこい身体が、2つ私の元に駆け寄ってくる。
「姉様」
「お怪我は」
「大丈夫よ問題なし、ね」
「そうですか」
「お怪我がなく何よりです」
 オケアノスはまだ私をじっと見て何か考え込んでいる。
「何か」
「やはり君、人間でないな」
「そうよ。私は、悪魔って呼ばれているわ」
「いや、それは天使どもがそう呼ぶだけで、君自身の事ではない。天使たちは、外敵と認めた者を異端な者、つまり悪魔として扱う様に使役されているだけだ」
「それについては、私からは何も言えないわよ」
「どうして」
 オケアノスは眉1つ動かさず、返答を求める。だが仕方ない。私の記憶は2年経っても曖昧なままなのだから。
「記憶が曖昧なのよ。2年より前のことがすっかり抜け切ってるの」
「兄様」
「どうか今日のところは」
「「日を改めて下さいませ」」
 オケアノスはクリオスにいつから私と一緒にいるのかを尋ねた。
「クリオス」
「はい」
「彼女とはいつから」
「先月の半ばだったかと」
「出会って間もないというわけか。しかし私もこの手の分野には長けていなくてね。見ての通り武芸や決闘、戦闘ならいささか心得ているのだが、深層心理を引っ張り出すの事は、難しそうだな。彼女が降りてくるのを気長に待つか。時間を取ってすまなかった。コイオス、クリオス彼女が降りて来ていたら一報入れてくれ」
「「分かりました」」
「確かに彼女なら」
「心の底に眠る記憶を」
「「呼び起こすことが出来ましょう」」
 勝手に話が進んでいくのだが。彼女って誰。
「おーい」
「ですが」
 コイオスとクリオスは、私の呼びかけを無視してコリオスに変化し、オケアノスに言う。
「姉様をお切りになるのならまず、私たちを倒してからにして下さいまし」
 オケアノスは初めて笑った。
「フッ、生憎だが私は、聖戦に興味はない。我が妹たちよ、近頃弟らが堕天しているのを知っているか」
「まさか、兄様たちが堕ちなさったのですか」
「まだヒュペリオンとイアペトスだけだが、妹たちは分からないだが、男勢より威勢の良い妹たちだ、心配はいらんだろう」
 なるほど、さっきのデカブツはそのヒュペリオンかイアペトスどちらかだったという事か。
「ほう、君は気付いたようだな。そうだ、私は堕ちてしまった弟をもとに戻す・・・、ことはできないためこうしてせめてもの手向けに、長男自ら斬り伏せてやっているというわけだ」
 あのデカブツの最後はよく覚えている。あの顔、苦しみから解放されたような、安らぐ表情。
「まあ、あまり快くはないが、私以外に任せるわけにはいかないのでね。・・・そういう訳だ。コイオス、クリオス先ほどのことは頼んだぞ」
 そう言って、オケアノスは、怪我の手当てもロクにせず、飛翔して舞って行ってしまった。自身の身内に手をかけるのは、一体どれほど辛いことなのだうか。きっと私なら、その手段しか見つけられない自分を呪うだろうな。
「いいえ、姉様はきっと乗り越えられるでしょう。その悲しみも、辛さもだから上兄様も解放した中兄様たちの安心するお顔をご覧になって、その苦しみと責任を背負いなさる覚悟をしたのだと私は、思いますわ」
 若や真理亜、コイオス、クリオス。大切な人たちという認識がより明確になりつつある。そして、失いたくないという事も、私は思うようになったのだな。
「行こうコリオス、真理亜を早く迎えに」
 私はそう言って駆け出した。大切なものを取りこぼさないように。
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