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holy war
聖戦
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都市の国立公園に遊びに来た帰りのことである。突如、若の携帯端末が警告音を発し、天使のコールを知らせる。
「やれやれ、こういう日ぐらいはゆっくりさせてくれないかな」
などと、諦めに似た泣き言を言いながら私にコールの位置を伝えると二手に分かれ私は、コール地点に向かう。
若は、真理亜とコイオス、クリオスを連れて事務所へと向かう。若曰く、ここからなら事務所の方が近くて設備も整っているのだとか。
とにもかくにも、早々にイカロスを起動させて陽の傾く茜色の空を鴉のような黒き翼が斬り裂いて行く、目的地は、またもあの学校。因縁浅からぬ、というやつだろうか。
<お嬢さん聞こえるかい、今回は校舎内の被服室という教室なんだけど、3階の西側にあるんだ。だから屋上から入ってくれ>
「屋上の扉は開いているのか」
<ああ、心配ないよ。屋上は6時まで吹奏楽部が使っているらしいから、貯水タンクの裏にでも降りれば問題ないさ>
まったく、簡単に言ってくれる。
しかし、ぶつぶつ文句を言っても仕方がない。そうこうしている間に目的地の上空であるが、やはり吹奏楽部が屋上にて練習中であった。死角である真上から垂直に下降し、貯水タンクの裏に身を隠す。上級生らしき女子生徒が、屋上で散り散りに練習していた生徒たちをまとめて、屋上から立ち去っていった。
「ふう。まずはひと安心ね」
楽器のケースや楽譜を置く台も置いていってしまっているし、どうやらまだ帰ってしまった訳ではなさそだ。今のうちに下りてしまおう。
校舎内に入ると、先ほどまでの生徒たちの騒がしさが嘘のように、今は、この校舎は静まり返っていた。すると誰かが階段を上ってくる足音が聞こえ、とっさに掃除用具ロッカーの中に身を隠す。
「水泳部が練習してる間にね、制服も下着も盗まれちゃたらしいよ」
「こわーい。それって昨日と同じ犯人じゃない」
などと言って、女子生徒たちは、屋上の片付けをしだした。その隙に私は、階下へ進み被服室へと向かう。
被服室に到着し、とりあえずドアを少し開けて中をのぞくと、誰か窓の外を眺めている。すると外を見ていた人物は、こちらに近づいて来た。
「まずい」
逃げ出すのに遅れた私を、その人物が呼び止める。
「君、いったいここで何をしているのかね」
どうしよう。見つかってしまった。ここは、なんとか誤魔化せないだろうか。一か八かやるしかない。
「えっと、家庭科部でちょっと忘れ物を」
「何を忘れたのかな」
「はぁあ、ああ、それは」
そんなこと言われても、どうしようもないではないか。辺りをチラチラ、いい口実はないかと探っていると、ちょうど文化祭の案内のチラシを見つけた。よしこれだ。
「文化祭の出し物で必要なものなのですが」
「ふむ、文化祭では家庭科部は何をするのだね」
そんなことどうでもいいでしょ、もう。さっきのチラシに視線を戻すと、各部活動の出し物の一覧が載っていた。ああ、チラシさまさまね。
「ファ、ファッションショーですよ。是非先生も来てくださいね」
「それは楽しそうだ。是非行かせてもらうよ」
そう言うと、男性教員はやっとドアの前から立ち去って行ってくれた。
「はあ、疲れた」
被服室の扉の取っ手を右にスライドさせ、足を踏み入れた瞬間、体の全身に電気が走ったかのように、痺れその場にへたり込んだ。
「うっ・・・がはっ・・・・」
何なんだこれは、シャレにならないじゃないか。その時たまたま持っていた若の携帯端末が鳴り響く。
<お嬢さん、無事かい。返事をしてくれ>
「えぇ何とか、でも動けそうにないかも」
<ああ、インカムの音が拾えなくなった時点で何かあったとは思っていたけど。そうか、動けないんじゃどうしようもないしなぁ>
「コイオスとクリオスこっちに来させて欲しい」
<わかった。すぐに迎えに行ってもらうよ>
端末の通話は切れ、また退屈な時間がやってきた。そうは言っても、体の自由は利かないし感覚も少し曖昧であるため、寒いのか、暑いのかも分からない。座っていられるのが不思議なくらいだ。誰かが来たらまずいな。何て思っているところに私は、声をかけられた。
「あっ、やっぱり」
穏便に事を済ませて来たというのに、2年目にして少し気が緩んだのかもしれないな。
「ヒルデさんですよね。あの時はありがとうございました。あのぉなにされてるんです」
声の主は、北東 水季のものだった。何故か少し安堵する心。
「すまない校長室を探していたところ、急に立ちくらみがしてな」
「そうだったんですか。大変早く保健室に行かなくっちゃ」
「いや、いい本当に大丈夫、大丈夫だから」
その時、水季の後方の窓ガラスが吹き飛ぶ。
「ひゃ」
突然のことに水季は、しゃがみ込んで小さくなっている。
「御覚悟」
窓から侵入してきたコイオスとクリオスが、水季にえいっと、首筋に強烈なチョップ撃ち込むと、水季は力無くその場に倒れた。
「おい、お前ら、もっとマシなやり方はなかったのか」
「緊急事態と」
「若田様がおしゃってましたので」
はぁー。窓ガラス3枚蹴破ったり、女子生徒を気絶させたりどうするのよ。
「ささ、姉様」
「お急ぎください」
「追っ手が」
「参りますので」
屋上に置いておいたイカロスを、ちゃっかり持ってきていたため、クリオスが、動けない私の代わりに、手早く私に装着し、コイオスとクリオスが私の両手を引き窓から外へ勢い良く飛び出し、何とか離脱することができた。
手を引くコイオスが、ぽそりと呟く。
「先日、コリオスとしてお話しした際に、時が来れば我々のことを話すと言いましたが」
「私どもの予想を大きく裏切り、こんなにも早くお伝えしなくてはいけなくなりました」
とクリオスが続いて呟く。そして彼女たちはまた声をハモらせて言う。
「「お姉様、私たちはどうやら聖戦に巻き込まれてしまったようなのです」」
地平線に乗っかっている太陽が、やけに遠くに感じるのだった。
「やれやれ、こういう日ぐらいはゆっくりさせてくれないかな」
などと、諦めに似た泣き言を言いながら私にコールの位置を伝えると二手に分かれ私は、コール地点に向かう。
若は、真理亜とコイオス、クリオスを連れて事務所へと向かう。若曰く、ここからなら事務所の方が近くて設備も整っているのだとか。
とにもかくにも、早々にイカロスを起動させて陽の傾く茜色の空を鴉のような黒き翼が斬り裂いて行く、目的地は、またもあの学校。因縁浅からぬ、というやつだろうか。
<お嬢さん聞こえるかい、今回は校舎内の被服室という教室なんだけど、3階の西側にあるんだ。だから屋上から入ってくれ>
「屋上の扉は開いているのか」
<ああ、心配ないよ。屋上は6時まで吹奏楽部が使っているらしいから、貯水タンクの裏にでも降りれば問題ないさ>
まったく、簡単に言ってくれる。
しかし、ぶつぶつ文句を言っても仕方がない。そうこうしている間に目的地の上空であるが、やはり吹奏楽部が屋上にて練習中であった。死角である真上から垂直に下降し、貯水タンクの裏に身を隠す。上級生らしき女子生徒が、屋上で散り散りに練習していた生徒たちをまとめて、屋上から立ち去っていった。
「ふう。まずはひと安心ね」
楽器のケースや楽譜を置く台も置いていってしまっているし、どうやらまだ帰ってしまった訳ではなさそだ。今のうちに下りてしまおう。
校舎内に入ると、先ほどまでの生徒たちの騒がしさが嘘のように、今は、この校舎は静まり返っていた。すると誰かが階段を上ってくる足音が聞こえ、とっさに掃除用具ロッカーの中に身を隠す。
「水泳部が練習してる間にね、制服も下着も盗まれちゃたらしいよ」
「こわーい。それって昨日と同じ犯人じゃない」
などと言って、女子生徒たちは、屋上の片付けをしだした。その隙に私は、階下へ進み被服室へと向かう。
被服室に到着し、とりあえずドアを少し開けて中をのぞくと、誰か窓の外を眺めている。すると外を見ていた人物は、こちらに近づいて来た。
「まずい」
逃げ出すのに遅れた私を、その人物が呼び止める。
「君、いったいここで何をしているのかね」
どうしよう。見つかってしまった。ここは、なんとか誤魔化せないだろうか。一か八かやるしかない。
「えっと、家庭科部でちょっと忘れ物を」
「何を忘れたのかな」
「はぁあ、ああ、それは」
そんなこと言われても、どうしようもないではないか。辺りをチラチラ、いい口実はないかと探っていると、ちょうど文化祭の案内のチラシを見つけた。よしこれだ。
「文化祭の出し物で必要なものなのですが」
「ふむ、文化祭では家庭科部は何をするのだね」
そんなことどうでもいいでしょ、もう。さっきのチラシに視線を戻すと、各部活動の出し物の一覧が載っていた。ああ、チラシさまさまね。
「ファ、ファッションショーですよ。是非先生も来てくださいね」
「それは楽しそうだ。是非行かせてもらうよ」
そう言うと、男性教員はやっとドアの前から立ち去って行ってくれた。
「はあ、疲れた」
被服室の扉の取っ手を右にスライドさせ、足を踏み入れた瞬間、体の全身に電気が走ったかのように、痺れその場にへたり込んだ。
「うっ・・・がはっ・・・・」
何なんだこれは、シャレにならないじゃないか。その時たまたま持っていた若の携帯端末が鳴り響く。
<お嬢さん、無事かい。返事をしてくれ>
「えぇ何とか、でも動けそうにないかも」
<ああ、インカムの音が拾えなくなった時点で何かあったとは思っていたけど。そうか、動けないんじゃどうしようもないしなぁ>
「コイオスとクリオスこっちに来させて欲しい」
<わかった。すぐに迎えに行ってもらうよ>
端末の通話は切れ、また退屈な時間がやってきた。そうは言っても、体の自由は利かないし感覚も少し曖昧であるため、寒いのか、暑いのかも分からない。座っていられるのが不思議なくらいだ。誰かが来たらまずいな。何て思っているところに私は、声をかけられた。
「あっ、やっぱり」
穏便に事を済ませて来たというのに、2年目にして少し気が緩んだのかもしれないな。
「ヒルデさんですよね。あの時はありがとうございました。あのぉなにされてるんです」
声の主は、北東 水季のものだった。何故か少し安堵する心。
「すまない校長室を探していたところ、急に立ちくらみがしてな」
「そうだったんですか。大変早く保健室に行かなくっちゃ」
「いや、いい本当に大丈夫、大丈夫だから」
その時、水季の後方の窓ガラスが吹き飛ぶ。
「ひゃ」
突然のことに水季は、しゃがみ込んで小さくなっている。
「御覚悟」
窓から侵入してきたコイオスとクリオスが、水季にえいっと、首筋に強烈なチョップ撃ち込むと、水季は力無くその場に倒れた。
「おい、お前ら、もっとマシなやり方はなかったのか」
「緊急事態と」
「若田様がおしゃってましたので」
はぁー。窓ガラス3枚蹴破ったり、女子生徒を気絶させたりどうするのよ。
「ささ、姉様」
「お急ぎください」
「追っ手が」
「参りますので」
屋上に置いておいたイカロスを、ちゃっかり持ってきていたため、クリオスが、動けない私の代わりに、手早く私に装着し、コイオスとクリオスが私の両手を引き窓から外へ勢い良く飛び出し、何とか離脱することができた。
手を引くコイオスが、ぽそりと呟く。
「先日、コリオスとしてお話しした際に、時が来れば我々のことを話すと言いましたが」
「私どもの予想を大きく裏切り、こんなにも早くお伝えしなくてはいけなくなりました」
とクリオスが続いて呟く。そして彼女たちはまた声をハモらせて言う。
「「お姉様、私たちはどうやら聖戦に巻き込まれてしまったようなのです」」
地平線に乗っかっている太陽が、やけに遠くに感じるのだった。
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