angel observer

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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幻想の双子-1

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   10月も末、日本では神無月と言うらしいが神がいないという事はどういう事だろうか。しかしそれも末。
「確か、出雲の国に神議りに行ってるとかだったかな」
「私も聞いたことある。日本中の神様が集まって会議してるんだよね」
 現在、午後9時過ぎ日本の神についての話になったのは、テレビで<10月最後に行きたい場所>というコーナーを見たためである。
「そう言えば私、ここに来てまだ何処にも行った事ないぞ」
「そうだなぁ。じゃあ、明日3人でどこか行くかい」
「それなら私、あの公園が良い」
 真理亜が指差す方を見ると、若い頃の若とそれよりちょっとだけ、年上そうな男女が肩を並べて微笑んでいる写真だった。
「あの2人は、誰なのだ」
「あの2人は、私のお父さんとお母さんだよ。私ね、知りたいの。お父さんとお母さんが何を見て、何を聞いて、・・・・何で死んじゃったのか」
 若はいたたまれないと言わんばかりに、顔を窓の方に向けている。その窓ガラスに映った彼の顔は、悲壮に満ちていた。
「だからね、まずはその写真見たいにそこに行ったら、お父さんとお母さんが何で楽しそうにしているのか、わかるかもしれないと思って」
 沈黙の後、若がバッと立ち上がり言う。
「ようし、そうと決まれば明日必ず公園に行こう」
「ふむ、そうだな」
 明日は、土曜日、天気は晴れ。これほどの好条件を逃すわけにはいかない。
「で、そこどこなの?」
真理亜と若は、2人揃って、「「あっ」」などと気の抜けた声を漏らす。行き先の場所を知らなかったようだ。
 若に関して言えば、覚えていてもいいはずなのだが、と思ったが彼自身、ずいぶん前の事だと言うし仕方ないのかもしれない。
「叔父さん頑張って思い出してー」
 真理亜は、若のセーターの胸ぐらを掴み揺さぶる。
「ゴッごめん、でも本当、忘れちゃったんだ」
 すると私の横から、
「それは、この町の」
「大きな公園」
「そうか、ありがとう、って」
 誰だ今の声、もしかして幽霊。
 若と真理亜は案の定私の後ろを指さして、わなわなと2人揃って口をパクパクさせている。意を決して後ろに振り返ると誰もいなかった。
「あれ、誰もいない」
「いやいや、いたよ絶対」
「わっ私もいたと思う」
「うーん、でも誰もいないしなぁ。あっ若、携帯端末がチカチカしてるぞ」
 若が、端末を手に取りいじりだすと、真剣な表情になって、
「お嬢さん、コールだ。目的地、中央国立公園」
 国立公園。地図を見る限りこの公園が明日の目的地のはずだ。はぁあ。期待が一気に冷めてしまいそうだ。
「そんな顔しないでくれ、なっ、下見ついでに行ってきておくれよ」
「仕方ないわね。で、反応は」
「えっと、反応は2つ、でも今回はそのちょっとしたレアケースだな」
 真理亜は、ポカンとした表情で、何が起こっているのか理解できていないらしいが無理もない。出来るだけ関わらせたくない、という若の希望である。
「レア」
「ああ、2つとも天使なんだ。しかもなぜか動きが無い。ああ気になるな」
 若ってこんなキャラだったけ、と思いつつ私は、身支度を済ませ、家を出た。
 寒くなってきたな。なんて思いながら、漆黒の空へ飛翔する。時間も時間だし、人的被害は0だろうけど、一体どこから湧いてくるのか。
 最近慌ただしい出発が多くなってきて心の休む暇もない。
「眠らない街か」
足元には、人工的な光に包まれた大都市が広がっている。
 時刻は午後11時を指す巨大な時計のついたビルが知らせてくれる。と、そうこうしている間に目的地の公園にたどり着いた。上空からは、緻密に計算されて植えられたであろう木が規則正しく連なっており、ところどころ、ガス灯をイメージしたのかレトロな街灯が、並木道を優しく照らしている。その突き当たりには、円形の噴水広場が公園の中央を我が物顔で占拠しているわけなのだが、噴水の端にそれはいた。
「あれか、コマンド<降下>」
《降下開始》
 なんか、どんどん「イカロス」が便利になって行く気がする。スッと軽く降り立つと目的のそれを見つめる。しかし、私はすぐに呆れてしまうのだった。
「えっ、寝てる」
 肩を寄せ合い、スヤスヤと2体の天使は大人しく寝息をたてるばかりである。おそるおそる近いたが、気づかれてはいないようだ。すると、
「おはよう」
「ございます」
 天使は目を覚ました。その寝起きの顔はわりと普通だったけど、その眼には、感情がなかった。
「姉様」
「お迎えに」
「「上がりました」」
独特な話し方をする2人は、私の両手をそれぞれ引っ張ろうと、手を伸ばしてくるのを私は拒み掴まれる前に、手を引っ込めた。
「姉様」
と、ポニーテールの根元が三つ編みになっている方が、首を傾げる。
「なっ、何よあんた達。誰かと間違えてるんじゃない」
「いいえ、私にとって、姉様はあなた、ただ1人」
と、ツインテールの根元が三つ編みになっている方が、宣言する。
「さあ、姉様」
「さあ、姉様」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
私は、初めて恐怖を感じた。
   私は、噴水広場に背を向け走り出した。
 ふと後ろを振り返ると、2人はその場に突っ立っているだけで追ってこない。かと思ったら、2人は直線的な軌道で、ミサイルかのごとく、凄まじい速さで飛んでくる。
「ちょ、ちょっとウソでしょ」
 思わず脇の茂みに飛び込み、さらに、公園の木々が多く生えてる方へ駆け出した。もう何なのよ、あの<ポニ編み>と<ツイ編み>は、あんなのどうやって観測しろって言うの、追ってくるし、飛んでくるし、止まったらこっちがやられる。
「「angel phantasm」」
天使が何か叫んだが、天使の声に耳を貸すこともなく、ただ懸命に走り続ける。しかし、どうやら一周してしまったのか先ほどの噴水広場に戻ってきた。
 四方に延びる道のうち、今、来た道を引き返すことはできない。
 私は、あえて芝生の広場に出て1度どれくらい距離を離せたのか確認することにした。ちょっとした丘の上で這いつくばって、目を凝らし観察する。
「げっ、何あれ、どこか隠れられる場所は・・・あった」
数が尋常じゃない。というか何で増えているの、さっきまで2人だったはずが、今や数百人くらいになっている。
「あっ」
 先ほどの謎の言葉は、詠唱だったのだ。そうとわかった瞬間に一目散に公衆トイレに逃げ込んだ。
 ここでひとまず、やり過ごそう。
   トイレの個室で息を潜め、奴らが来ないことを祈る。が、どうやら祈りは届かなかったようだ。
「姉様」
「ここに」
「いらっしゃるのは」
「わかっております」
「「さあ、観念して出て来てください」」
いちいち癇に触る話し方をする。分身した奴らが周りで、同じ言葉を繰り返し続けている。
 冷や汗が頬を伝うのと同時に個室の扉が、<コンコン>と鳴り、<ドンドン>と鳴り、しまいには<ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ>と扉を荒っぽく押したり引いたりしている。その時、何かを<ダン>と蹴る音が聞こえ、しゃがむと、私の頭上にあったはずの天井が爆音と共に、粉砕していた。
「キャァァァ」
 破片が降り注ぐ中また芝生の広場に、よろよろと出て行くと、360度、見渡す限りの<ポニ編み>と<ツイ編み>が、軍団が行進をしてやって来る足音が地を鳴らす。
 たまらずイカロスを起動させ飛び立つ体勢をとる。
「イカロス、上昇、急上昇しなさい」
『緊急上昇』
だが、時すでに遅し。30センチ浮いたところで、両足首を掴まれ尻餅をつく。
「ふぎゃあぁ」
今、変な声が出た。
「御覚悟を」
「ひっ」
彼女らの群れが、私という餌を求めとびかかってくる。体のあちこちを2人(実際は2人の複製らしきものたち)が、触れる度に意識が遠のいていく。
「や・・・め・・・て」
そこで私の意識はなくなった。
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