angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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大地の章

ひとつの勝利

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 アンゲロスと言う名の天使を呼び出し、この少年か少女かわからないニンフのそばに置いておいた。
「この子が目を覚ましたら、事情を聞いて伝言をお願い」
「ええ、お任せあれロード。して、我がロード、私の所感ではありますがどうもお疲れのご様子。暖かいダージリンなどはいかがでしょうか」
「時間が惜しいの、ごめんねまた今度いただくわ」
 すると、アンゲロスは膝をつき懐から保温ボトルを取り出した。「ではこれをお持ちください」と言って私に差し出したかと思うと、プルトやネプトゥヌスにも色違いのボトルを手渡していた。
 さながら執事のようだ。それもかなりできる。これなら任せられるだろうか。世話とかしたりしだすかもしれないがそれもいいか。
 ボトルはありがたくいただくとして、一度若に連絡をしないと。
「若、若」
「あー、はいはい。呼んだかいお嬢さん」
「若、何してたの。いやまあ、ちょっとラーメン食べてて・・・と、どうやら中央を突破したんだね。お嬢さんはあとはそのまま直進してくれれば美術館があるからその中に入って、起点を破壊すれば終わりだ。最後だからって油断は禁物だよ」
「ハイハイ、わかってるわよー。誰かさんと違って緊張感は最高潮だもの」
「もしかして怒ってるのかい」
「いーえ。一人で勝手にご飯食べてる人にいちいち怒るエネルギー使うとお腹空いちゃうし」
 そのままプツっと無線を切った。
 気持ちを切り替えていかないとね、色々な敵が現れたけどまだ、なんか起こりそうな予感がする。だから気を引き締めていきたいところだ。
 そして、剣を引き出し通りを眺める。
「またぞろぞろと、お出ましね」
「あたしたちもいくわね」
「んじゃ、また後でな」
 さあ、始めようか。ちょっと野蛮で力仕事だけれど、この戦いに明日がかかっているのだから。そしてアツイ視線を感じ振り返る。
 そこには熱い眼差しが私を瞳に映していた。
「なによ。そんなにじっと見つめられるとちょっと・・・・怖いわよ」
「おっと私としたことが失礼しました。いえなんでもありませんマイロード。そんなこのわたくしめにも、鼓舞の一言が欲しいだなんてつゆほどにも思っていないこともないのですが何か」
 メンドクサー。まあ、いいか。後になって愚痴られるよりはマシだろう。
「アンゲロス」
「はい」
「頑張ってね」
「ええ、ありがたき幸せ。このアンゲロス、我がロードに鼓舞されるとはなんて幸せものなのでしょうか」
 陶酔モードに入ってしまった。ちゃんと仕事してくれるのか少し心配だが、んー。なんとかなるか。
「じゃあね。もう行くから」
 翼を広げ湧き出てくる黒騎士の軍勢に飛び込んでいく。粉塵とともに黒騎士の群集を蹴散らして、戦闘を再開する。右の敵を指し穿ち、すかさず左の敵に抜いた剣を水平に切りつけ後ろから来た戦斧を受け止める。そして馬のように手を地面につき、足蹴を後ろの敵に食らわせる。
 ひとつまたひとつと黒騎士を片付けていく。聞いた話によるとプルトはこう言っていた。「倒した黒騎士は冥界が今まで蓄積してきた魂だから、冥界に強制退去するはずよ」と。なので遠慮なくいかせてもらおう。
 地面を這う敵には斬撃を、空を舞う敵には荒ぶる風をそれぞれお見舞いしてやる。
「退いてなさい。怪我するわよ」
 私は市街地の大通りを飛び抜けて起点のある場所にやってきた。細胞増殖と同じく、ひとつは二つに二つは四つに分裂を繰り返しているようだ。だが唯一の救いは機械的なコピーペーストのように増えていることだ。これが本当に生物的に増えるとなると多少なりともグロテスクな絵面に違いない。
 と私の好みはさておき、あれを可能とする起点を破壊し増殖行動を停止させねばなるまい。
 あたりを確認する。
 うむ、変なオブジェがたくさんある。どれも怪しい気配がする。これも相手の工作であろうがおそらく時間稼ぎしか念頭に置いていないとみえる。
「私は本命じゃないってことなの」
 若の話では、最終起点に強力な敵がいると言っていたが、敵どころか黒騎士すらいないとなるとやはり何かがおかしい。
「若、起点のポイントについたそっちで何か見えない。こっちは敵もいないし、気配が分散してて起点がわからないわ」
「了解。こっちもいたって平穏そのものだよ。ただ残りの二人はかなり乱戦模様だ。君をおびき出すための罠かもしれない。十分警戒してくれ。起点については現在解析中もうちょっと待っててくれ」
「わかった、ありがと」
 無線を切りとりあえず邪の気配がするオブジェを切り倒す。
 やはり何もない。だからといって邪の気配がなくなるわけではない。どうにもそこかしこに散りばめられているのだとしたら、ここにあるオブジェをかたっぱしから破壊する必要が出てくる。
「やあ、そこの神様」
「誰だ」
「おっとっと、ステイステイ。剣を納めてほしいな。私は敵じゃないけど味方でもない。およそ地母神といったところかな。ここの」
「地母神」
「そっ、私はここユーラシア大陸のロシアという地に生まれし古代神。君たちのおばあさんだかがかなり好き放題してて迷惑だからね。ちょっと見に来たんだけど」
「あー、うん・・・・・そうね」
「見たところ、どうやらあなたはあちら側ではないみたい。あなたも困らされている側かな。おやあなたにお客さんね。私は隠れているわ」
 すっと降り立つ私への客。私は目を疑った。
「美麗」
「お久しぶりですね。ヒルデさんああ、この格好ですかご覧の通りですかね」
 美麗は少し派手な装飾が施された戦装束を身にまとっていた。彼女は苦笑いを浮かべている。
「今回は体を操られているわけではないの、私個人の意志であなたに敵対します。本当にごめんなさい」
「ごめんなさいって、どうして」
「この戦はあなたたちの勝利だけれどあの人が後退する時間は稼がせてもらいますから」
 美麗は炎に包まれた槍を構える。私は突然のことに投げやりに剣を構える。
「この炎は裏切りの火炎。ことごとく廃にはできずとも、叡智を与えるひと刺しとならん。プロメテウス・ボルトゥ」
 聖剣で振り払い辺りに火の粉が散る。そうかと思えば、聖剣の刃が黒く焦げ付いていた。
「なっ」
「どうか引いてくださいヒルデさん。あなたを傷つけたくない」
 わざと聖剣を狙ったかのような口ぶりだった。まさかそんな、美麗がこれほどの力を持っているなんて。
 悔しいけれど聖剣がなければ何もできない。私は美麗を見つめたまま飛び立った。ただ唇をかみしめることしか今はできない。
 彼女は哀しげな笑みをしたまま私を見上げていた。私もそれを見ると少し胸がキュウと締め付けられるように痛む。「美麗」と口から吐き出る。驚きと混乱の入り交じった呟きを喉に押し込み。夜明けの空に羽ばたいた。
 
 どうして彼女がまた。という疑問は頭から消えそうにない。
「ヤッホー。やっぱりお客さんだったね。私の勘はよく当たるんだ」
 どこからか声がさっきの少女の声がする。
「ここ、ここ。よいしょっと」
「なんか縮んでない」
「仕方ないでしょ、あなたたちがなんとかしてくれたわけだけど、この地はかなり荒れてしまったわ。私の力が弱まるのも当然よ」
 アンゲロスがこちらを見上げてお辞儀する。私はすぐさま降り立ちアンゲロスに尋ねた。
「変わったこととかなかった」
「いえ、何も。捉えた方が灰になってしまったくらいです」
「ええっ。自殺するのをみすみす逃したの」
「いえいえ、あれは上位の権限での退去術式でした。私が止めようものなら、たちどころに我が身も灰塵となっていたことでしょう」
「そう・・・・・なの。ごめんなさい」
「お顔をお上げくださいお嬢様。お勤めご苦労様でした。そのご様子ではまだ戦いは続くのでしょうな。であるならば一度戻り備えを固めておくべきと愚考いたします」
「そうよね。ありがと。これからだものね、アンゲロス、戻ったらあなたの紅茶ご馳走してくれないかしら」
「もちろんですともお嬢様。常に最高の一杯をご提供いたしましょう。それに降りかかる火の粉は払われました。これは立派な勝利と言って良いでしょう。そう気を落としてはもったいないというもの」
 そうれもそうだ。彼らはこなの中域から離脱していった。ガイアの反応ももう薄い。起点を破壊し敵の増加を阻むことができたのは事実だった。
「ええ。帰りましょアンゲロス」
 アンゲロスは仰々しくお辞儀をして天使の書に帰還した。
 そして私は、私の肩に乗る小さな神様に話しかける。
「私も付いて行くとしよう。あなたが私の味方であるかどうかを見定める為に」
「それとなくもっともらしい理由を作ったわね」
「そうでもないよ。もとい神とは裁定する審判者なのだから、畏敬を抱かれなければならないのに、君たちが特異なんのさ」
 私は恐れられてまで神を名乗りたくないな。ただこのまま今のように人の近くで寄り添うことが神の務めだと思うからだ。
「まあこの話はあなたの帰るべき場所に帰ってからにしよう」
 ベースキャンプで待つ若のもとへと再び飛び立つ紅く染まる空は煌めきを増している。しかし日本ではこの太陽が今にも顔を隠そうとしている頃なのだろう。
「みんなに会えるのは夜かな」
 ああでも、聖剣が・・・・・。
 私は黒焦げの聖剣を取り出す。柄の部分まで焦げ付いてもうぼろぼろだ。刃こぼれもしている。さてどうしたものか。
 はぁああ。
「叛逆の力か。こいつは強力な力いや想いかな」
 ひょこっと甲冑の隙間から小さな彼女が顔を出す。アンゲロスと話しているときはどこへいっていたのやら。そうかと思えばまた私の近くにいる。
「叛逆。プロメテウスなんとかってやつのことかしら」
「そうとも君の方が詳しいと思っていたけど、ああなるほど、なるほど」
「何がなるほどなの」
「いや、言いたかっただけさ」
 お茶目に気取っても私は肩透かしを食らったわけで全く嬉しくないのだが。
「それはそうと君の拠点とやらに急ぐといい」
「何焦ってるのよ」
「それも付いたらまとめて話すから今はお預けだよ」
 じれったいなと思うが、彼女はおちゃらけた風でいてその実、まじめな性格そうだ。きっと話すと言ったら話してくれるだろう。
「着いたわよ。ただいま、若、若」
 読んでも若がいない。そんなに広いわけじゃないし隣の部屋かな。
「若。プルトッ、ネプトゥヌスもどうしたの」
 プルトはソファで横になっている。ネプトゥヌスは散らかった部屋の隅で曲がったタバコを加えていた。
「やられたわ、完膚なきまでにね」
「クソったれ。人間に負けるたぁ思ってもいなかっかったぜ。タクッ」
 そう言って、ネプトゥヌスは床にタバコを擦り付けて火を消しポイとそれを投げ捨てる。
「敏彦ちゃんは離脱したわ。天使に命じて透明化して逃したの。私たちのブラフが少しは通用してくれればいいのだけどね」
「悪りぃが嬢ちゃん。扉でエデンに繋いでくれ」
「それって、和泉でいいの」
「ああ、頼む。肋が折れてやがるからよ」
 扉を召喚し、簡易な方法で今は面倒な手順は省略。どこに出るかはわからないけど。
「繋げ扉よ『戻しの和泉』へ」
 ゴゴゴゴゴと荘厳な装飾の扉は重く開く。そしてその向こうには確かに和泉が広がっていた。
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