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鳴動の章
ガイア
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私はいつものように学校で授業を受けていると、突如として地震が起こり校舎を揺さぶる。それと同時に強い力を感じとり、皆が机の下に潜りこんでいるのを気にも止めずに一目散に屋上へと向かった。
バンッと、建て付けが悪くなっていた扉を蹴飛ばして屋上から街を眺める。
「あれは」
地震かと思われたものの原因はどうやらプレートのせいでなく私の目の前に聳え立つ大樹が下から地面を掘り起こしたからのようだ。
「まだ伸びてる」
天を貫かんとする大樹を見上げるが、この木はあちらこちらから芽吹いているようだ。その証拠に遠目でも確認できるだけで七、八本は目視できる。
その時、私のスマホが鳴り響く。
「繋がった。よかったわ。でもよくないわ。もうんでもなくピンチよ」
電話をかけてきたのはプルトのようだ。若の携帯から掛かってきたがどういう状況なんだろう。いやいや、それよりもプルトがこんなに声色を変えて慌てるなんて珍しいこともあるものだ。
「そんなに慌てても仕方ないわよ。私も状況はわからないでもコレはガイアの仕業だってことぐらいはわかるわ」
「冷静なのはいいことだけど違うのよ。ユグドラシルの世界樹やジャックと豆の木みたいないいものじゃないの。今生えてきてる木はトネリコの木よ」
「トネリコ」
「そうトネリコ、ウラノスの不浄の血を浴びて、厄災や魔をもたらす毒の木。その特徴は毒液を幹から放出し、毒池を生成。そしてその毒池からは無尽蔵にトネリコのニンフを排出し続ける」
「待って、待って。木がヤバイのはわかったわで結局木があるとどうなるのよ」
「不浄の跋扈する地球になってしまうわ」
これといってはっきりとしない表現だけど、簡単な話よくないものがはびこるわけか。
不浄とは具体的にニンフ以外は何かあるのだろうか。
「ニンフ以外に不浄の中に含まれるものはあるの」
「そーね、呪いとか悪魔の類いまた、魔獣なんかが人や世界を喰らうと思うわ」
「わかったわ。学校も今大混乱みたいだから機を見てそっちに戻るわ」
「よろしくね、待ってるわ」
画面をスライドしてスリープにする。
さてと、そろそろ教室に戻らねば抜け出していることがバレてしまう。
教室に入るとまだみんな机の下にいた。何食わぬ顔で机の下に入る一番後ろの席でよかった。隣にいた奏花は「あわわわ、なんまいだーメン」などと変な呪文を唱えている。多分、南無阿弥陀仏とアーメンが合体してしまった結果だろう。
揺れが収まる。机から顔を出すとみんなもひょこひょこと顔を出して、安堵の吐息を漏らす。
「奏花、もう大丈夫よ」
「ほえ、あーヒルデちゃーん。私生きてるよー」
田島奏花と美沢華蓮。前々から誰かに似てるなと思ったけど、そうだよたしかにこの二人はコイオスとクリオスに似てる。
「あっ奏花、ずるい私も」
「きゃっ、ちょっと華蓮まで」
抱きつかれて少し息苦しい。と思っていたら。
「二人ともずるーい。私も」
「私も」
「俺も~」
一人の男子が飛び込もうとした瞬間。私の周りの女子たちがギロリと威嚇する。
束の間の沈黙、私の目と泣きそうな目が合う。私はエヘっと微笑み首を少し傾けた。すると、「若田ヒルデ、恐ろしく可愛い。お前の微笑みで俺は、まん、ぞ、く」
えええ、倒れた。嘘だ。
「おいしっかりしろ。行くなー」
「まだここからじゃねぇか」
男衆がこれは面白いとばかりに小芝居を始め出してしまった。私は窓側に座る神田聖司の方を見た。彼は微妙な表情でこちらを眺めていた。それにしても重い。そして暑い。
「みんな揺れが収まっているうちに避難します。落ち着いて校庭に出てください」
歴史の担当の先生が避難誘導を開始した。これから人数確認が行われるだろうが、なんとかして抜けださなくては。
階段を列になって下る最中コイオスの姿が目にとまる。
「コイオス、結界起動」
「結界起動します」
列から離れようと階段とは逆の方向に向かって歩き始める。袖をくいと引っ張られる。
「先輩っ。先輩どこへ行くんですか」
「水季」
私は水季の存在を失念していた。感応能力の高い彼女はコイオスの術をすり抜けてしまうようだ。
「私はね水季。あなたの思うような先輩ではないわ」
いっそこのまま本当のことを言ってしまおうか。
「そんな、先輩は私のヒーローなんです。でも、今日はなんだかとても心配で、私知っているんですよ。本当は先輩はいつも私たちのことを守ってくれているんだってこと」
そういえば、前にエキドゥナが現れた時も彼女はいたな。なら本当に隠してても仕方がないわけだ。
「インストール」
私は戦闘着を身に纏い、水季と対峙する。
「先輩」
「これが私よ。どうびっくりしたかしら。ここなら安全よ。あなたと同じ学年のコイオスとクリオスが守ってくれるわ」
私は窓枠に足を掛ける。
「先輩は、先輩はどこへ」
「・・・・・」
少し答えに迷いそして私はその問いに答える。
「戦場よ」
翼を広げて飛翔する。学校との距離は広がるがただ前を見据えて羽ばたいた。大樹は蒼天を貫くように生えている。
また、街の至る所から硝煙が立ち上り、火災も激しいようだ。
「おい、敵だ手早く片付けろ」
過去の私がナビゲートしてくれるらしい。「体がなくなるのは不便だからな」というのは本人の言だ。
「ニンフの滓のようなものだ。お前の敵ではないよ」
「わかったわ。でも油断はしないわよ」
そんな速さで私は捉えられないわよ。
ハーキーを縦から引き抜きなます切りにする。三体のニンフはことごとく塵となった。
コイツら脆いわ黒騎士より弱いんじゃないの。
「馬鹿め、コイツらは生まれたばかりだ。人々を襲い恐怖を吸い取れば自動的に強化される。そら、次の相手はなかなかの手練れだぞ」
短剣を投げつけてきた。ゼニルでそれを防ぎ、背中から飛来する短剣を斬り払う。
「いた、このぉぉぉ」
ゼニルで防ぐだけじゃダメか、飛び道具には飛び道具。
「トランス、ライフル。飛べ、ケルベロス」
ケルベロスが相手に喰らいつく。敵がまごついたところを狙い撃つ。
「捉えた、ファイヤ」
放出された球が相手の腕を貫通する。手練れというだけなかなかの動きだ。致命傷となる急所への攻撃をうまく防いでいる。
「ええ、今の避けちゃうか」
「見てられん。少し変われ」
「ちょちょちょ」
背中から地面に打ち付けられた。
「いたたた、もーういきなりとかやめてよね」
「少し変われといったが」
「そうだけど」
白い空間で私は椅子に腰掛けテレビを眺める。一悶着の隙に距離を蹴られてしまったようだが、速さに慣れてる彼女はあっという間に先程の敵を見つけると、苛烈な一撃を繰り広げる。
「ケルベロスよ戻れ、ケルベロス前方に展開。泣く暇もなく消してやろう。 煌めく星はお前を包む『ハーキー・ジィアン』」
剣先に収束した光はケルベロスが展開した魔法陣を通過し拡散してあたり一帯を光で飲み込んだ。
「あー、容赦ないな。前からだけど」
「褒め言葉として受け取ろう。さっさと戻れ」
「はいはい、よっと」
テレビに飛び込み。元の視界に戻る。
「ふーん、器用なものね建物には当ててないんだ」
「当たり前だ。というよりもこのくらいできて当然だが何か」
いいもん、私はまだ修行中ですよーだ。
さて、追手もないみたいだし若は事務所かしら。プルトもいたみたいだし、ともかく事務所に行くしかないわね。
よっ、フワリと事務所前に着地して二階の事務所の扉を開ける。すると事務所は様変わりしていた。何というか散らかってるわね。
「あらっ早かったわね敏彦ちゃん、ヒルデが来たわよ」
「んっああ、お嬢さん思ってたより早かったね」
「まあ、なんとかね。それより状況は」
若はノートパソコンをいじって、私に画面を見せた。
「見ての通りさ、前回も見せたかもしれないけど、この世界地図の赤いところ既に墜ちたところだ」
「ワシントン、ロシア西部、フランス、エジプト、ギリシャというところかしら、アジア諸国は抵抗しているのかしら特に侵食は見られないわね」
ふむふむとプルトは画面とにらめっこする。
「それなんだけどねこれらの国家にはある共通点があるんだ。ギリシャを除いてね」
ある共通点、大国ということは見ればわかるけど、それ以外の何かガイアがまず潰しておきたい理由がこの国々にはあった。それは・・・・・。
「核」
「おー、さすがだねお嬢さん。ご明察そう核兵器を持っている国だったんだ」
「ギリシャは私たちのエデンへのパスを封じる意味があるから、必然的に私の冥界も封じたということね」
人間がガイアに勝つには核兵器で大地を焼き尽くせばいい。だがそんなことをしては地球がいくつあっても足りないだろう。けれどガイアは保険として先に人間たちの最終手段を奪ったわけか。だとすると次の目標は、
「中国ね」
「すごいなお嬢さん、今日はいつも以上に冴えてるね。その通り、今中国周辺国は次々と非常事態宣言を発令している。ということは、既に敵が包囲網を形成しつつあるということなんだけれど」
要はこの中国が大国の中で最後の核保有国なわけで、人類にとっての最終防衛地ということだ。
「それで、既に落とされたところはどういう状況なの」
「酷い有様だよ。基地周辺の施設及び兵器はもう破壊されて各国政府は機能していない。海外メディアは『人類滅亡の危機』なんて言って大騒ぎしてるよ」
おそらく核の力を封じた後はきっと世界中の電力施設を破壊しに来るだろう。そうなってからでは本当に人類滅亡の危機といって差し支えない状況になる。
「私はガイアを追うわ。防衛に徹しても、彼女の攻撃目標はいくつもあるわけで、網を貼ってお引き出せなければ無意味だわ」
「僕もプルトさんも同じだ。攻めに転じるのがいいだろうと思う」
「けれど、ガイアがどこにいるのかわからないわヒルデ、あなたは見当がついて」
確かに、彼女が次に攻めたいのは中国の軍事施設だろうけど、彼女にもエキドゥナのような将がいるだろう。となると彼女が、いや、彼女ではない。
魔剣カイキが意志を持って動いているなら一番邪魔な存在は・・・・・。
「学校」
魔剣カイキの次の目標は美麗だ。ならば美麗戦意を失わせるために動くとすると、奏花と華蓮が危ない。
私は事務所を飛び出して、再び学校へと向かうため翼を広げた瞬間に肩をグイと引き寄せられる。
振り返るとそこにはムネモシュネが髪の毛を弄りながら私に告げる。
「見事に復活したと下界に降りてみたら、私のおもちゃがめちゃくちゃにされていたので、あなたで遊ぼうと思っていたんですけど、どちらへ行かれるのかしら私のあなた」
「友達を守りに行くのよ」
「そんなこと知ってます。一人で行くつもりだったんですか。死にますよ。それはそれで面白そうですけど」
「学校にはコイオスとクリオスもいるわ、一人では戦わない。一人の力は限られているもの」
ムネモシュネはなぜかイライラとしているらしく髪の毛をクルクルする速度が増していく。
「ああもう、どうしてここまで行ってわからないのかしら。一度しか言いませんからよく聞いてください。私が手伝ってあげます」
「・・・・・」
「どうして、だんまりなんですか」
いやー。あまりにも脈絡がないもので前置きとの関連性が全くなかい。
「関連性とかどうでもいいことです」
「そうだこれ、返すね。結構助かったわ」
レコードをムネモシュネに手渡す。
「なんだかページ数がやたら増えてるみたいだけど、確かに受け取ったわ」
ムネモシュネが復帰したのは心強い。数的戦力を確保したわけだし。ここはやはり好意を有り難く受け取らせてもらおう。
「私、そろそろ行くわね。後はプルトに聞いて、あっそれと『おかえり』」
「なっ」
ムネモシュネは顔を真っ赤にして俯いて何やらボソボソと呟いている。
ともあれ急ぎ学校へ向かわねば、嫌な感じがずっとしている。体を少し沈ませてその反動で飛翔する。
さあて、また邪魔が入るだろうけど突っ切らせてもらうから。
行くぞぉ。
強く羽ばたき空を押す。それからは滑空に近い飛び方であっという間に学校の結界の中に入った。すると一筋の光が私の行く手を阻む。
「さすがですね。ヒルデさん。ガイアは倒させません」
「美麗」
「大人しくしているなら危害は加えません。私はいえ、私がガイアを助けるまではお願いですから」
「私はガイアを殺しに来たんじゃない。魔剣を破壊するために来たわ。そしてみんなを守るために。あなたも気づいているでしょ、あの剣が危険だということを」
ブンブンと、シュピトリアの煌刃を生成し構える。どういう理由があるにしても、こちらを通してくれるつもりはないようだ。
ガイアを止めることに関しては一致しているのに何が彼女のお気に召さないのだろうか。
「あなたがどうしてもというのなら押し通るまで」
「こちらにも通したい意地があります」
美麗の業火は火花を散らせ、私の煌刃は眩く光る。あともう一足というところで、届く声がある。
「ダメー」
私の刃先は美麗の腹に、美麗の槍の切っ先は私の顎の下にお互い届くか届かないかのところで止められた。
二人して声の方向くと、そこには息を切らせて近づいてくる奏花の姿があった。
「私、思い出したよ。美麗ちゃん。もうこんなの終わりにしようよ。ヒルデちゃんも二人とも優しいしあったかいのに、傷つけ合うなんて悲しいよ」
「奏花、待ちなってもう、ふぅ」
後方からは華蓮が走って来た。その矢先、地面が爆発し美麗共々吹き飛ばされる。
「美麗、貴様には世話になったがこれでしまいじゃ、そなたの宝もろとも砕いてやろう」
声の方を見上げると、ガイアが矢をつがえて狙いを定め詠唱する。
「人は皆一様に滅ぼす。一の矢は憎しみを、二の矢は怒りを、三の矢は暴力をトライ・レイ」
「ガイア、待って。逃げて奏花ちゃん華蓮ちゃん」
狙いは奏花と華蓮か。美麗の悲痛な叫びは辺りに響く。私は立ち上がり二人の元へ駆け出すがこの距離では先にあの矢が彼女たちを貫いてしまう。
座り込んでいる奏花と華蓮は互いに抱き合い目を伏せ動くことができない。
誰でもいい、二人を守って。
「ホールド・アウト」
離れた距離からも聞こえる矢の空を穿つ音を頭の上に聞きながら手を伸ばす。
ダメだ届かない。
もう・・・・・。
爆煙と共にまたしても私たちは光に包まれた。
バンッと、建て付けが悪くなっていた扉を蹴飛ばして屋上から街を眺める。
「あれは」
地震かと思われたものの原因はどうやらプレートのせいでなく私の目の前に聳え立つ大樹が下から地面を掘り起こしたからのようだ。
「まだ伸びてる」
天を貫かんとする大樹を見上げるが、この木はあちらこちらから芽吹いているようだ。その証拠に遠目でも確認できるだけで七、八本は目視できる。
その時、私のスマホが鳴り響く。
「繋がった。よかったわ。でもよくないわ。もうんでもなくピンチよ」
電話をかけてきたのはプルトのようだ。若の携帯から掛かってきたがどういう状況なんだろう。いやいや、それよりもプルトがこんなに声色を変えて慌てるなんて珍しいこともあるものだ。
「そんなに慌てても仕方ないわよ。私も状況はわからないでもコレはガイアの仕業だってことぐらいはわかるわ」
「冷静なのはいいことだけど違うのよ。ユグドラシルの世界樹やジャックと豆の木みたいないいものじゃないの。今生えてきてる木はトネリコの木よ」
「トネリコ」
「そうトネリコ、ウラノスの不浄の血を浴びて、厄災や魔をもたらす毒の木。その特徴は毒液を幹から放出し、毒池を生成。そしてその毒池からは無尽蔵にトネリコのニンフを排出し続ける」
「待って、待って。木がヤバイのはわかったわで結局木があるとどうなるのよ」
「不浄の跋扈する地球になってしまうわ」
これといってはっきりとしない表現だけど、簡単な話よくないものがはびこるわけか。
不浄とは具体的にニンフ以外は何かあるのだろうか。
「ニンフ以外に不浄の中に含まれるものはあるの」
「そーね、呪いとか悪魔の類いまた、魔獣なんかが人や世界を喰らうと思うわ」
「わかったわ。学校も今大混乱みたいだから機を見てそっちに戻るわ」
「よろしくね、待ってるわ」
画面をスライドしてスリープにする。
さてと、そろそろ教室に戻らねば抜け出していることがバレてしまう。
教室に入るとまだみんな机の下にいた。何食わぬ顔で机の下に入る一番後ろの席でよかった。隣にいた奏花は「あわわわ、なんまいだーメン」などと変な呪文を唱えている。多分、南無阿弥陀仏とアーメンが合体してしまった結果だろう。
揺れが収まる。机から顔を出すとみんなもひょこひょこと顔を出して、安堵の吐息を漏らす。
「奏花、もう大丈夫よ」
「ほえ、あーヒルデちゃーん。私生きてるよー」
田島奏花と美沢華蓮。前々から誰かに似てるなと思ったけど、そうだよたしかにこの二人はコイオスとクリオスに似てる。
「あっ奏花、ずるい私も」
「きゃっ、ちょっと華蓮まで」
抱きつかれて少し息苦しい。と思っていたら。
「二人ともずるーい。私も」
「私も」
「俺も~」
一人の男子が飛び込もうとした瞬間。私の周りの女子たちがギロリと威嚇する。
束の間の沈黙、私の目と泣きそうな目が合う。私はエヘっと微笑み首を少し傾けた。すると、「若田ヒルデ、恐ろしく可愛い。お前の微笑みで俺は、まん、ぞ、く」
えええ、倒れた。嘘だ。
「おいしっかりしろ。行くなー」
「まだここからじゃねぇか」
男衆がこれは面白いとばかりに小芝居を始め出してしまった。私は窓側に座る神田聖司の方を見た。彼は微妙な表情でこちらを眺めていた。それにしても重い。そして暑い。
「みんな揺れが収まっているうちに避難します。落ち着いて校庭に出てください」
歴史の担当の先生が避難誘導を開始した。これから人数確認が行われるだろうが、なんとかして抜けださなくては。
階段を列になって下る最中コイオスの姿が目にとまる。
「コイオス、結界起動」
「結界起動します」
列から離れようと階段とは逆の方向に向かって歩き始める。袖をくいと引っ張られる。
「先輩っ。先輩どこへ行くんですか」
「水季」
私は水季の存在を失念していた。感応能力の高い彼女はコイオスの術をすり抜けてしまうようだ。
「私はね水季。あなたの思うような先輩ではないわ」
いっそこのまま本当のことを言ってしまおうか。
「そんな、先輩は私のヒーローなんです。でも、今日はなんだかとても心配で、私知っているんですよ。本当は先輩はいつも私たちのことを守ってくれているんだってこと」
そういえば、前にエキドゥナが現れた時も彼女はいたな。なら本当に隠してても仕方がないわけだ。
「インストール」
私は戦闘着を身に纏い、水季と対峙する。
「先輩」
「これが私よ。どうびっくりしたかしら。ここなら安全よ。あなたと同じ学年のコイオスとクリオスが守ってくれるわ」
私は窓枠に足を掛ける。
「先輩は、先輩はどこへ」
「・・・・・」
少し答えに迷いそして私はその問いに答える。
「戦場よ」
翼を広げて飛翔する。学校との距離は広がるがただ前を見据えて羽ばたいた。大樹は蒼天を貫くように生えている。
また、街の至る所から硝煙が立ち上り、火災も激しいようだ。
「おい、敵だ手早く片付けろ」
過去の私がナビゲートしてくれるらしい。「体がなくなるのは不便だからな」というのは本人の言だ。
「ニンフの滓のようなものだ。お前の敵ではないよ」
「わかったわ。でも油断はしないわよ」
そんな速さで私は捉えられないわよ。
ハーキーを縦から引き抜きなます切りにする。三体のニンフはことごとく塵となった。
コイツら脆いわ黒騎士より弱いんじゃないの。
「馬鹿め、コイツらは生まれたばかりだ。人々を襲い恐怖を吸い取れば自動的に強化される。そら、次の相手はなかなかの手練れだぞ」
短剣を投げつけてきた。ゼニルでそれを防ぎ、背中から飛来する短剣を斬り払う。
「いた、このぉぉぉ」
ゼニルで防ぐだけじゃダメか、飛び道具には飛び道具。
「トランス、ライフル。飛べ、ケルベロス」
ケルベロスが相手に喰らいつく。敵がまごついたところを狙い撃つ。
「捉えた、ファイヤ」
放出された球が相手の腕を貫通する。手練れというだけなかなかの動きだ。致命傷となる急所への攻撃をうまく防いでいる。
「ええ、今の避けちゃうか」
「見てられん。少し変われ」
「ちょちょちょ」
背中から地面に打ち付けられた。
「いたたた、もーういきなりとかやめてよね」
「少し変われといったが」
「そうだけど」
白い空間で私は椅子に腰掛けテレビを眺める。一悶着の隙に距離を蹴られてしまったようだが、速さに慣れてる彼女はあっという間に先程の敵を見つけると、苛烈な一撃を繰り広げる。
「ケルベロスよ戻れ、ケルベロス前方に展開。泣く暇もなく消してやろう。 煌めく星はお前を包む『ハーキー・ジィアン』」
剣先に収束した光はケルベロスが展開した魔法陣を通過し拡散してあたり一帯を光で飲み込んだ。
「あー、容赦ないな。前からだけど」
「褒め言葉として受け取ろう。さっさと戻れ」
「はいはい、よっと」
テレビに飛び込み。元の視界に戻る。
「ふーん、器用なものね建物には当ててないんだ」
「当たり前だ。というよりもこのくらいできて当然だが何か」
いいもん、私はまだ修行中ですよーだ。
さて、追手もないみたいだし若は事務所かしら。プルトもいたみたいだし、ともかく事務所に行くしかないわね。
よっ、フワリと事務所前に着地して二階の事務所の扉を開ける。すると事務所は様変わりしていた。何というか散らかってるわね。
「あらっ早かったわね敏彦ちゃん、ヒルデが来たわよ」
「んっああ、お嬢さん思ってたより早かったね」
「まあ、なんとかね。それより状況は」
若はノートパソコンをいじって、私に画面を見せた。
「見ての通りさ、前回も見せたかもしれないけど、この世界地図の赤いところ既に墜ちたところだ」
「ワシントン、ロシア西部、フランス、エジプト、ギリシャというところかしら、アジア諸国は抵抗しているのかしら特に侵食は見られないわね」
ふむふむとプルトは画面とにらめっこする。
「それなんだけどねこれらの国家にはある共通点があるんだ。ギリシャを除いてね」
ある共通点、大国ということは見ればわかるけど、それ以外の何かガイアがまず潰しておきたい理由がこの国々にはあった。それは・・・・・。
「核」
「おー、さすがだねお嬢さん。ご明察そう核兵器を持っている国だったんだ」
「ギリシャは私たちのエデンへのパスを封じる意味があるから、必然的に私の冥界も封じたということね」
人間がガイアに勝つには核兵器で大地を焼き尽くせばいい。だがそんなことをしては地球がいくつあっても足りないだろう。けれどガイアは保険として先に人間たちの最終手段を奪ったわけか。だとすると次の目標は、
「中国ね」
「すごいなお嬢さん、今日はいつも以上に冴えてるね。その通り、今中国周辺国は次々と非常事態宣言を発令している。ということは、既に敵が包囲網を形成しつつあるということなんだけれど」
要はこの中国が大国の中で最後の核保有国なわけで、人類にとっての最終防衛地ということだ。
「それで、既に落とされたところはどういう状況なの」
「酷い有様だよ。基地周辺の施設及び兵器はもう破壊されて各国政府は機能していない。海外メディアは『人類滅亡の危機』なんて言って大騒ぎしてるよ」
おそらく核の力を封じた後はきっと世界中の電力施設を破壊しに来るだろう。そうなってからでは本当に人類滅亡の危機といって差し支えない状況になる。
「私はガイアを追うわ。防衛に徹しても、彼女の攻撃目標はいくつもあるわけで、網を貼ってお引き出せなければ無意味だわ」
「僕もプルトさんも同じだ。攻めに転じるのがいいだろうと思う」
「けれど、ガイアがどこにいるのかわからないわヒルデ、あなたは見当がついて」
確かに、彼女が次に攻めたいのは中国の軍事施設だろうけど、彼女にもエキドゥナのような将がいるだろう。となると彼女が、いや、彼女ではない。
魔剣カイキが意志を持って動いているなら一番邪魔な存在は・・・・・。
「学校」
魔剣カイキの次の目標は美麗だ。ならば美麗戦意を失わせるために動くとすると、奏花と華蓮が危ない。
私は事務所を飛び出して、再び学校へと向かうため翼を広げた瞬間に肩をグイと引き寄せられる。
振り返るとそこにはムネモシュネが髪の毛を弄りながら私に告げる。
「見事に復活したと下界に降りてみたら、私のおもちゃがめちゃくちゃにされていたので、あなたで遊ぼうと思っていたんですけど、どちらへ行かれるのかしら私のあなた」
「友達を守りに行くのよ」
「そんなこと知ってます。一人で行くつもりだったんですか。死にますよ。それはそれで面白そうですけど」
「学校にはコイオスとクリオスもいるわ、一人では戦わない。一人の力は限られているもの」
ムネモシュネはなぜかイライラとしているらしく髪の毛をクルクルする速度が増していく。
「ああもう、どうしてここまで行ってわからないのかしら。一度しか言いませんからよく聞いてください。私が手伝ってあげます」
「・・・・・」
「どうして、だんまりなんですか」
いやー。あまりにも脈絡がないもので前置きとの関連性が全くなかい。
「関連性とかどうでもいいことです」
「そうだこれ、返すね。結構助かったわ」
レコードをムネモシュネに手渡す。
「なんだかページ数がやたら増えてるみたいだけど、確かに受け取ったわ」
ムネモシュネが復帰したのは心強い。数的戦力を確保したわけだし。ここはやはり好意を有り難く受け取らせてもらおう。
「私、そろそろ行くわね。後はプルトに聞いて、あっそれと『おかえり』」
「なっ」
ムネモシュネは顔を真っ赤にして俯いて何やらボソボソと呟いている。
ともあれ急ぎ学校へ向かわねば、嫌な感じがずっとしている。体を少し沈ませてその反動で飛翔する。
さあて、また邪魔が入るだろうけど突っ切らせてもらうから。
行くぞぉ。
強く羽ばたき空を押す。それからは滑空に近い飛び方であっという間に学校の結界の中に入った。すると一筋の光が私の行く手を阻む。
「さすがですね。ヒルデさん。ガイアは倒させません」
「美麗」
「大人しくしているなら危害は加えません。私はいえ、私がガイアを助けるまではお願いですから」
「私はガイアを殺しに来たんじゃない。魔剣を破壊するために来たわ。そしてみんなを守るために。あなたも気づいているでしょ、あの剣が危険だということを」
ブンブンと、シュピトリアの煌刃を生成し構える。どういう理由があるにしても、こちらを通してくれるつもりはないようだ。
ガイアを止めることに関しては一致しているのに何が彼女のお気に召さないのだろうか。
「あなたがどうしてもというのなら押し通るまで」
「こちらにも通したい意地があります」
美麗の業火は火花を散らせ、私の煌刃は眩く光る。あともう一足というところで、届く声がある。
「ダメー」
私の刃先は美麗の腹に、美麗の槍の切っ先は私の顎の下にお互い届くか届かないかのところで止められた。
二人して声の方向くと、そこには息を切らせて近づいてくる奏花の姿があった。
「私、思い出したよ。美麗ちゃん。もうこんなの終わりにしようよ。ヒルデちゃんも二人とも優しいしあったかいのに、傷つけ合うなんて悲しいよ」
「奏花、待ちなってもう、ふぅ」
後方からは華蓮が走って来た。その矢先、地面が爆発し美麗共々吹き飛ばされる。
「美麗、貴様には世話になったがこれでしまいじゃ、そなたの宝もろとも砕いてやろう」
声の方を見上げると、ガイアが矢をつがえて狙いを定め詠唱する。
「人は皆一様に滅ぼす。一の矢は憎しみを、二の矢は怒りを、三の矢は暴力をトライ・レイ」
「ガイア、待って。逃げて奏花ちゃん華蓮ちゃん」
狙いは奏花と華蓮か。美麗の悲痛な叫びは辺りに響く。私は立ち上がり二人の元へ駆け出すがこの距離では先にあの矢が彼女たちを貫いてしまう。
座り込んでいる奏花と華蓮は互いに抱き合い目を伏せ動くことができない。
誰でもいい、二人を守って。
「ホールド・アウト」
離れた距離からも聞こえる矢の空を穿つ音を頭の上に聞きながら手を伸ばす。
ダメだ届かない。
もう・・・・・。
爆煙と共にまたしても私たちは光に包まれた。
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独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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