angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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鳴動の章

エスケープ

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 船内に戻るとどこかで見たようにまたクリオスが膨れっ面をして私たちを出迎えた。
「コイオスどうしたの」
「ああ、クリオスですか。あの子、姉様と美麗様が長々と抱擁していたことにヤキモチを焼いているだけです。お気になさらずと言いたいところですが・・・」
 おっと、この展開はちょっと面倒くさそうな予感がする。
 仕方なくパッと両手を広げて待っていると私の両サイドに二人が吸い寄せられるように抱きついてきた。
 はあ、やれやれ。
 美麗はクスクスと笑っている。そして美麗もまた私の背後から肩に手を回して抱きしめてきた。
「アーッ、ずるいですよ。ミレイ様は二回目なのですぅ」
「美麗様、自重されるべきとコイオスも申し上げたいです」
「何のことでしょうねぇー。ヒルデ」
 コイオスとクリオスは二人してワナワナと震えながら口を抑える。
「「よ、呼び捨てぇー」」
「コイオス聞きましたか、聴きましたか」
「ええ、クリオス。私もキャラを失うほどの衝撃です。美麗様が姉様のことを呼び捨てにするほどの間柄になられているなんて」
 うーん。そんなに注視するところなのかなぁ。私はむしろようやく蟠りというか、壁みたいなのがなくなって嬉しいくらいなのだけど。
「美麗、ご飯の準備しましょ」
「分かりました。ヒルデ」
 二人は頭を抱えて部屋に戻っていった。
 本当にどうしたものか。確かこんな時の気持ちは若が教えてくれたっけ。
「なんだかなー」
 私はボソリと呟いた。そう若がよく呟くこのフレーズ、一言で色々と含みがある。
 厨房に立つ。さてとここは日頃の真理亜の後ろ姿を見ている私が一肌脱ごうかしら。
「ヒルデ、野菜の準備は終わってるよ早速煮込もうか」
 何という手際の良さか、美麗はすでに鍋底で炒めた玉ねぎを取り出してお肉を焼き始めている。ニンジン、ジャガイモの順に投入し、玉ねぎを最後に入れ水を入れる。そして沸騰して来たらカレールーを入れ、さらに一煮立ちさせて味噌を適量こぼすとケチャップをほんの少し加える。
 厨房の中はもうスパイスの香りでいっぱいになっている。
「匂いに誘われて来てみたが、美麗の嬢ちゃんが作ったのか。大したもんだ、廊下まで臭って来たぜ」
「いいえ、二人で作ったんですよ」
「まぁ、そういうことにしておくか」
「な、何よ私だってちゃんと手伝ったんだからね」
 したり顔でネプトゥヌスは席に着く。
 私も鍋を出したり、お皿を出したり、ご飯を炊飯器で炊いたり、カレーを混ぜたりしたんだから。
 カレーの盛り付けも終わり皆一堂に会しカレーを食べ始めた。
「食べながら聴いて欲しいの」
「「・・・・・」」
 私は、みんなの意識がこちらに向いていることを確認すると、私は確認としてみんなに語りかける。
「ガイアの大樹、そうね今はマザーツリーとでも呼びましょうか。ここではガイアのルールが働いていて、私たちは飛行することができない。けれど人間の作ったものなら、飛行することが可能になる。他にも私たちに不利な規則がこの場所にはたくさんあるかもしれない。一つは飛行能力、もう一つは体力の低下、そして信仰力の変換率の減少。どれも致命的だけど、手はあるはずなの。お願いみんなの知恵と力を貸して」
「お任せを、姉様」
「クリオスも張り切っちゃいますよ」
 ネプトゥヌスとプルトも深く頷き、私は「ありがとう」と小声で答える。
 そうなると策を練らなければならない、すると美麗がツンツンと私をつついてきた。
「・・・・」
「ちょっと、試したいことがあるんですが」
 ニンマリと不敵な笑みをこぼす美麗を横目に彼女はコイオスとクリオスを連れてデッキに出る。
「ちょっとお二人のお力をお借りしてヒルデのデバイスを複製してほしいんです」
「より確実なのはコリオス時に作り出すのが最も確実かつ完成度が高いと思います」
「ぐるぐるってやって、バリバリって作るもんね」
 確かにイカロスフェザーが人数分あれば楽っちゃ楽なのだろうけれど、そううまく行くものなのか。
「個数が2つくらいなら作る分にはできます」
「コイオスの言うとおり作るだけなら楽勝なのですよ」
「「ですが」」
「その分、性能はオリジナルと比べるべくもなく当然の如く劣化するということですね」
 美麗たちは着々と話を進めていく。ちょっと心配だけど、その案で進めていく他ないようだ。
 ネプトゥヌスとプルトは通常運転でいくというし、性能が落ちると言ってもそんな差は出ないと思うが、どの程度の差になるのか聞いてみるか。
「ねえ、コイオス。劣化って実際にはどの程度なのかしら」
「鷹とインコくらいですかね」
 空は飛べるみたい。と安心したいところではあるが、そうはいかない。
「だ、大丈夫なの・・・それ。私にはかなりの差に感じるのだけど」
「大丈夫です。姉様、雄ライオンと雌ライオンくらいなものですよ」
 クリオスが自信たっぷりに答えるが、残念ながら私はコイオスの答えを聞いてしまった後なので、クリオスの変な信頼トンデモフェイスを私は許容できない。
 コイクリの二人は、「では、下準備がありますので」とそそくさと自室に戻って行った。
「大丈夫かしら」
「大丈夫ですよ。きっと」
 食事の後片付けをサッと終わらせて、私も自室に戻ることにしよう。
「手伝います」
「いいわよ。美麗は休んでて、そのかわり明日はウンと働いてもらうから」
「・・・・・そうですね。そうさせてもらいます。ではおやすみなさい。ヒルデ」
「うん、おやすみ美麗」
 勝手に使ってしまっているが、艦もこの戦いが終わったら元の場所に戻さないといけない。だから負けられないわね。
 洗い物と水回りのお掃除を済ませて、後部デッキにやってきた。明日は頑張らないととは思いつつ、やはり少し弱気な私がいることもまた事実であり、夜風はそんな私の心を落ち着かせる。
「悪くない風ね」
 ここまできてやらないということはないけれど、ガイアには戦いを挑みに行くというより、聞きたいことがたくさんある。
 彼女が何を企んでいるのか見えてこないというのは、どうにも安心して戦うことができない理由のひとつなのだ。
「お隣いいかしら」
「プルト。明日の準備」
「そうよ。・・・浮かない顔ね。ひとっ飛びしてきたら、見ててあげるから」
 ふむ、それもいいかもしれない。星空の海を気兼ねなく飛ぶことは明日からは難しいだろうから。
 お言葉に甘えよう。
「ちょっと待ってて」
 そう言うとプルトは指をパチンと一度鳴らし、何かを待つ。すると後部デッキに冥界にあったカタパルトがいつのまにか出来上がっている。
「さっ、乗って」
 言われるがままに足場に乗り、先のように射出された。
 ガイアの力も弱く私は自分の翼で宙を舞う。フワリと気流に乗って上昇し、雲の少し下を飛び続けた。初夏には少し早いが、割と暖かいと感じた。
 足の裏に力を込めて、空を蹴る。あの子が言った通り良い加速が得られた。羽ばたかずスピードに乗りさらに加速する。
 今度は水面ギリギリをそのままの速度で飛んだ。そのため海面は激しく巻き上げられて私が飛んだ軌跡を海面に描いたかのようだった。
 そしてくるり、くるりとロールをかけて最後に後部デッキの直上でバッと翼を広げ静止する。そのあとはゆっくりと着地して翼をしまった。
「どう。いいリフレッシュになったかしら」
「そうね、思ったより楽しめたわ。準備頑張ってね。私はもう休むわ。お疲れ様」
「ええ、しっかり休むのよ。おやすみ」
「おやすみプルト」
 私はデッキから船内に戻り少し硬い布団に潜り込むのであった。今夜はゆっくり眠れそうだ。
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