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鳴動の章
決戦〜波動
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「準備はいいかしら」
プルトの乗り気な声が後部デッキに響き渡る。私はイカロスフェザーを、美麗とコリオスはイカロスフェザー・シャドウを装着している。
朝になって後部デッキに来るとプルトによって魔改造されたカタパルトが船の全長を延長させていた。そして今、まさに船のお尻から伸びる三本のカタパルトレールにそれぞれ乗り、プルトの射出カウントを待っている状況である。
「この度は冥界航空ラブ・ザ・プルトをご利用いただきまことにありがとうございます。それではまもなく、空の旅をお楽しみいただきたいと思います。・・・五、四、三、二、一・・・テイクオフ」
「「うきゃああああ」」
プルトの好きなタイミングで私たちは仲良く、揃って大空に放たれる。まったくもって身勝手な話だ。理不尽極まりない罰ゲームである。
作戦は撹乱と炙り出し。相手の敷くルールには乗らず、私たちは私たちのベクトルの戦いをすることが今回の戦なのだ。
「イカロスフェザー、正常稼働。急増の甲冑との相性も良好。さあ、待ってなさいガイア」
そう、いたって単純かつ明快な策それは・・・・・。
「みんな暴れて、暴れて、暴れまくるのよ」
プルトが通信越しに、楽しそうに号令をかける。
コリオスが右翼、美麗が左翼そして、プルトが船で前方の敵を引きつけている間に、海中から後方に回ったネプトゥヌス、最後に私が上空から中核部を攻め落とす。
「この辺で、せーの」
一度、静動をかけて垂直に上昇を開始する。 もワンと雲を抜けると蒼い空を眼前に捉えつつさらに上昇を続ける。真下、直下、眼下に大樹を見据える。
「若、もうちょっと待っててね」
敵の黒い点が四方に散らばっていくのがよく見える。これなら、もし防御に特化した敵がいても私の攻撃が通るはず。
「ケルベロス、フォーメーションφジュピトリアお願いね」
ケルベロスが円を描くように回り出す。その輪が広がり、ゲートが生成され熱を帯びる。呼応するように、ジュピトリアの宝玉も一段と輝き、私はジュピトリアを天に掲げた。
「始まりの一手、ビックバン・ジュピトリア」
振り下ろしたジュピトリアの煌刃の刀身から真っ直ぐにケルベロスの描く輪を通過する。
そのまま大樹を直撃した光は、ものすごい水飛沫を巻き上げた。これだけ派手にやってるんだから、あちらさんも出てこずにはいられまい。
「これ以上は見過ごせん。娘」
「あーら、めちゃくちゃやってるのはお互い様でなくて」
「人が土に還るはもとより、喜ばしいことだ。それが自然に訪れようと私が奪おうと変わらぬ道理よ」
「・・・・・」
「私が自然という虚無の現象。その象徴なのだから」
ガイアの姿が変化していく。すごい力を感じる。一人じゃ厳しいかもしれない。
私とガイアの戦いが幕を開けた。
先手はガイアの刀のような武器による波状攻撃である。一振りで、私の鎧を砕いてしまう。
まともに打ち合えば、推されて負ける。力も手数も向こうが上なら、こちらは機動力で勝負を挑み、体力と信仰力の消耗を待つ。
距離を取り、アローフォームで相手との間隔を掴むのがいいはずだ。
「ミラージュトライアロー、シュート」
放たれた三本の矢は、途中で消える。そしてガイアの背後に一本目の矢が現れ、襲い掛かるがガイアに当たる前に折られてしまったようだ。どうやら背中のゴツいものは、飾りではなく装備らしい。まったく見た目はなんか大樹が人の形で歩いているようだ。
背中の飾り、じゃない装備は私を捉えてビュルンと伸びる。六本の蔓性の植物を模した凶器を避けて、避けて、避け抜く。
これは私の考えだが、きっとあの植物は毒性があるのだろうなと思うと何が何でも避けねばと体も勝手に動いてくれる。
「ちょこまかと、小賢しいハエが、叩き落としてくれる」
蔓を鞭のように扱い私を撃ち墜とさんと荒れ狂う。今になって気づいたが、あの背中はどいう訳か成長しているらしくどんどん数を増していく。
ちょっと気持ち悪い。
「うじゃうじゃと気持ち悪いのよ。薙ぎ払ってやる。せいッヤ」
飛行していたケルベロスの二つを、ジュピトリアの持っていないてでひっつかんで、順番にブーメランのように投擲してやる。
右の回転がかかったケルベロスと左の回転がかかったケルベロスは、弧を描き左右から、ザクザクと蔓を斬り刻んでいく。
「ジュピトリア行くわよ。我が剣は聖なる願いの器、救い求めるならば力を貸そう。煌刃ジュピトリアー」
左下から右上にかけて切り上げる。煌刃の軌跡は形と熱を与えられもろともに、襲い来るガイアの蔓を薙ぎ払った。
「はあ、はあ、はあ。これで・・・少しは減ったでしょ」
「勝ったつもりではあるまいなッ」
「くぅう」
ガイアは刀を携え間合いを詰めてくる。右手には刀、左手には鞭剣が握られていて、近接格闘戦を網羅している装備だ。どちらかといえば、オケアノス直伝の大剣スタイルの私はケルベロスの二機をうまく捌いて、ようやく互角に渡り合えるというところである。
これは確かに厳しいの一言に尽きる。「我も少しばかり手伝ってやろう」と見兼ねた過去の私ことゼウスは、力を分けると言って何かしているようだが、感覚的に素早さが上がっているような気がする。「上手く融合すれば奴の力を超えることも出来よう」彼女は簡単に言ってのける。
「でも、そんな簡単にッ、・・・できる、わけないじゃないッ」
ガイアの斬撃を受け流しながら、悪態付く。「口を動かさず感覚を研ぎ澄ませるがよい」ああ言えばこう言う。そんなんだから、もう。
「何ッ」
驚嘆の声を漏らしたのはガイアだった。鞭剣の攻撃は確実に私の体を捉えていたが、私は超越的なスピードでガイアの後方まで移動していたのだ。
当たったと思ったら実はカスリもしていないとなると誰でも驚くだろう。ましてや自分の背後を取られるとは思っても見ないだろうから。
「そろそろ、大人しくしてよねッ」
けれど、ガイアは一つ覚えの攻撃はやはり防がれる。
まあ、これは様子見の一撃だし、防がれるのは仕方ない。
「ブラスターフォーム。ファイア」
ズガガガッと弾が乱れ散り、ガイアに放たれる。背中の蔓はかなり丈夫らしくこれも全て防ぎきる。
大技でないとガイアにダメージを与えられないようだ。しかしそれも目に見えるダメージという意味でだ。見えない部分のダメージ、しいて言うなら体力などは確実に消耗させているに違いない。
あとは、そうだな・・・・・植物由来の武器や防具を装備しているのなら、アレか。地球というフィールドにいる時点でかなりの回復力を有していることになるのは自明の理である。植物の最大な特徴、それは光合成による日中だけは無尽蔵にエネルギーを生成できることにあるのだろう。
聞くところによると、光合成は呼吸よりも効率のいいエネルギーを生成法らしいし。
「貴様、何故我の邪魔立てをするのだ」
「えっ・・・」
ここに来ていきなりの展開に私は少し戸惑いを感じつつも答える。
「若を取り戻すためってのと、人々を守るためよ」
「そうか、ひとつだけ言わせてもらえるならば、前者については私の知るところではない。その若なる人間をさらった覚えはない」
嘘だ。そんな、なら若はどこに・・・、これもガイアの策。いや違う、あの顔は嘘をついているようには見えない。
「若」
「しかし後者の理由で立ち向かってくるのなら、やはりお前とは相容れぬと言うことになるのか」
「ぐっ、しまった。ああああッ」
腹部に走る痛みは、電気のように全身に駆け巡る。
「我にも守るべきものがある。直接
的に救えぬが、破壊を未然に防ぐことは我にもできるのでな」
「ううッ、ナニを。あんただって破壊の限りを尽くしているくせに」
私がそう言うと、彼女は笑みをこぼす。それは次第に高笑いに変わっていった。
「ふはははは。笑わせてくれるではないか、人に寄りすぎたかゼウス。だから貴様は弱い」
プツリと何かが切れる音がした。
何がおかしい。何が、何が、何が・・・・・。
「大切なものを守りたい気持ちは同じでしょう」
「価値が違いすぎる。到底人一人の命では支払いきれんものを我は守っているのだよ」
「もう怒ったわ。命を値踏みするようなあなたには何も守ることはできないんだから」
ジュピトリアを分離しハーキー・ジィアンとゼニルに分ける。ゼニルを放り投げ、一足のうちに跳躍した。ギュンだか、ドンだかそんな感じの音を立てて、ガイアの懐に現れる。
それをガイアは目で捉えられずに、私が彼女の腹部を彼女が気づくより早く切り裂いた。
血は出ない。代わりに何か紫がかった粘性のものが傷口から溢れている。
「おのれ、小娘が我相手に手を抜くか、くぅぅううう。かくなる上は。はぁあ」
ガイアが両手を広げると、背中にあった蔓は彼女に巻きついて行き、彼女を取り込んでいく。
「ガイア、あなた・・・」
出来上がったそれは、私の身長の三倍ほどの大きさの巨人となった
「力の一端を見せてやろう。地上があるから天があるのだと、存分に思い知るがいい」
巨人は大太刀を大振りする。のろまかと思ったが、かなり素早い振りで避けるのも難しい。なんといっても腕が六本で太刀、斧、剣、鎚、杖、槍をそれぞれ振り回す。
・・・・・最悪だ。
腕が六本と称したが、日本の千手観音像のようではなく、腕がそれぞれ、独立して動き回っている。巨人自体の腕には、荘厳な作りの盾が構えられている。あー、面倒くさい。ほとんど七対一のようなものだ。コリオスを呼び戻すか。幻想の神である彼女なら、打開の策の一つや二つはありそうなものだが。
けれど私は諦めた、というより覚悟を決めたというべきか。一応魂は二つあるわけで、それは二人となんら差異はない。ならば、景気良く行こうじゃない。
「お願いね、私」
「仕方あるまいな」
私はハーキーを握る手に熱がこもる。
ありがたいことは、ガイアの武器はどれも的が大きいことだ。攻撃を当てるのは容易い。あとはあの盾がどれほどの強度でどんな力があるのかということだ。
唯一ガイアが自ら手にしている武具。きっと見掛け倒しではないのだろう。油断は禁物、未知数なものに警戒しすぎても損ではないはずだ。
ゼニルのグリップをぐいと先端の方に押し込むと、接続されたケルベロスが変形し、その刃から煌刃が二本形成される。
「ゼニル、モードベータ」
こちらも準備が整った、二回戦と洒落込もうか。
私は強く空を蹴り、ガイアに致命的な一打を与えんと立ち向かう。
プルトの乗り気な声が後部デッキに響き渡る。私はイカロスフェザーを、美麗とコリオスはイカロスフェザー・シャドウを装着している。
朝になって後部デッキに来るとプルトによって魔改造されたカタパルトが船の全長を延長させていた。そして今、まさに船のお尻から伸びる三本のカタパルトレールにそれぞれ乗り、プルトの射出カウントを待っている状況である。
「この度は冥界航空ラブ・ザ・プルトをご利用いただきまことにありがとうございます。それではまもなく、空の旅をお楽しみいただきたいと思います。・・・五、四、三、二、一・・・テイクオフ」
「「うきゃああああ」」
プルトの好きなタイミングで私たちは仲良く、揃って大空に放たれる。まったくもって身勝手な話だ。理不尽極まりない罰ゲームである。
作戦は撹乱と炙り出し。相手の敷くルールには乗らず、私たちは私たちのベクトルの戦いをすることが今回の戦なのだ。
「イカロスフェザー、正常稼働。急増の甲冑との相性も良好。さあ、待ってなさいガイア」
そう、いたって単純かつ明快な策それは・・・・・。
「みんな暴れて、暴れて、暴れまくるのよ」
プルトが通信越しに、楽しそうに号令をかける。
コリオスが右翼、美麗が左翼そして、プルトが船で前方の敵を引きつけている間に、海中から後方に回ったネプトゥヌス、最後に私が上空から中核部を攻め落とす。
「この辺で、せーの」
一度、静動をかけて垂直に上昇を開始する。 もワンと雲を抜けると蒼い空を眼前に捉えつつさらに上昇を続ける。真下、直下、眼下に大樹を見据える。
「若、もうちょっと待っててね」
敵の黒い点が四方に散らばっていくのがよく見える。これなら、もし防御に特化した敵がいても私の攻撃が通るはず。
「ケルベロス、フォーメーションφジュピトリアお願いね」
ケルベロスが円を描くように回り出す。その輪が広がり、ゲートが生成され熱を帯びる。呼応するように、ジュピトリアの宝玉も一段と輝き、私はジュピトリアを天に掲げた。
「始まりの一手、ビックバン・ジュピトリア」
振り下ろしたジュピトリアの煌刃の刀身から真っ直ぐにケルベロスの描く輪を通過する。
そのまま大樹を直撃した光は、ものすごい水飛沫を巻き上げた。これだけ派手にやってるんだから、あちらさんも出てこずにはいられまい。
「これ以上は見過ごせん。娘」
「あーら、めちゃくちゃやってるのはお互い様でなくて」
「人が土に還るはもとより、喜ばしいことだ。それが自然に訪れようと私が奪おうと変わらぬ道理よ」
「・・・・・」
「私が自然という虚無の現象。その象徴なのだから」
ガイアの姿が変化していく。すごい力を感じる。一人じゃ厳しいかもしれない。
私とガイアの戦いが幕を開けた。
先手はガイアの刀のような武器による波状攻撃である。一振りで、私の鎧を砕いてしまう。
まともに打ち合えば、推されて負ける。力も手数も向こうが上なら、こちらは機動力で勝負を挑み、体力と信仰力の消耗を待つ。
距離を取り、アローフォームで相手との間隔を掴むのがいいはずだ。
「ミラージュトライアロー、シュート」
放たれた三本の矢は、途中で消える。そしてガイアの背後に一本目の矢が現れ、襲い掛かるがガイアに当たる前に折られてしまったようだ。どうやら背中のゴツいものは、飾りではなく装備らしい。まったく見た目はなんか大樹が人の形で歩いているようだ。
背中の飾り、じゃない装備は私を捉えてビュルンと伸びる。六本の蔓性の植物を模した凶器を避けて、避けて、避け抜く。
これは私の考えだが、きっとあの植物は毒性があるのだろうなと思うと何が何でも避けねばと体も勝手に動いてくれる。
「ちょこまかと、小賢しいハエが、叩き落としてくれる」
蔓を鞭のように扱い私を撃ち墜とさんと荒れ狂う。今になって気づいたが、あの背中はどいう訳か成長しているらしくどんどん数を増していく。
ちょっと気持ち悪い。
「うじゃうじゃと気持ち悪いのよ。薙ぎ払ってやる。せいッヤ」
飛行していたケルベロスの二つを、ジュピトリアの持っていないてでひっつかんで、順番にブーメランのように投擲してやる。
右の回転がかかったケルベロスと左の回転がかかったケルベロスは、弧を描き左右から、ザクザクと蔓を斬り刻んでいく。
「ジュピトリア行くわよ。我が剣は聖なる願いの器、救い求めるならば力を貸そう。煌刃ジュピトリアー」
左下から右上にかけて切り上げる。煌刃の軌跡は形と熱を与えられもろともに、襲い来るガイアの蔓を薙ぎ払った。
「はあ、はあ、はあ。これで・・・少しは減ったでしょ」
「勝ったつもりではあるまいなッ」
「くぅう」
ガイアは刀を携え間合いを詰めてくる。右手には刀、左手には鞭剣が握られていて、近接格闘戦を網羅している装備だ。どちらかといえば、オケアノス直伝の大剣スタイルの私はケルベロスの二機をうまく捌いて、ようやく互角に渡り合えるというところである。
これは確かに厳しいの一言に尽きる。「我も少しばかり手伝ってやろう」と見兼ねた過去の私ことゼウスは、力を分けると言って何かしているようだが、感覚的に素早さが上がっているような気がする。「上手く融合すれば奴の力を超えることも出来よう」彼女は簡単に言ってのける。
「でも、そんな簡単にッ、・・・できる、わけないじゃないッ」
ガイアの斬撃を受け流しながら、悪態付く。「口を動かさず感覚を研ぎ澄ませるがよい」ああ言えばこう言う。そんなんだから、もう。
「何ッ」
驚嘆の声を漏らしたのはガイアだった。鞭剣の攻撃は確実に私の体を捉えていたが、私は超越的なスピードでガイアの後方まで移動していたのだ。
当たったと思ったら実はカスリもしていないとなると誰でも驚くだろう。ましてや自分の背後を取られるとは思っても見ないだろうから。
「そろそろ、大人しくしてよねッ」
けれど、ガイアは一つ覚えの攻撃はやはり防がれる。
まあ、これは様子見の一撃だし、防がれるのは仕方ない。
「ブラスターフォーム。ファイア」
ズガガガッと弾が乱れ散り、ガイアに放たれる。背中の蔓はかなり丈夫らしくこれも全て防ぎきる。
大技でないとガイアにダメージを与えられないようだ。しかしそれも目に見えるダメージという意味でだ。見えない部分のダメージ、しいて言うなら体力などは確実に消耗させているに違いない。
あとは、そうだな・・・・・植物由来の武器や防具を装備しているのなら、アレか。地球というフィールドにいる時点でかなりの回復力を有していることになるのは自明の理である。植物の最大な特徴、それは光合成による日中だけは無尽蔵にエネルギーを生成できることにあるのだろう。
聞くところによると、光合成は呼吸よりも効率のいいエネルギーを生成法らしいし。
「貴様、何故我の邪魔立てをするのだ」
「えっ・・・」
ここに来ていきなりの展開に私は少し戸惑いを感じつつも答える。
「若を取り戻すためってのと、人々を守るためよ」
「そうか、ひとつだけ言わせてもらえるならば、前者については私の知るところではない。その若なる人間をさらった覚えはない」
嘘だ。そんな、なら若はどこに・・・、これもガイアの策。いや違う、あの顔は嘘をついているようには見えない。
「若」
「しかし後者の理由で立ち向かってくるのなら、やはりお前とは相容れぬと言うことになるのか」
「ぐっ、しまった。ああああッ」
腹部に走る痛みは、電気のように全身に駆け巡る。
「我にも守るべきものがある。直接
的に救えぬが、破壊を未然に防ぐことは我にもできるのでな」
「ううッ、ナニを。あんただって破壊の限りを尽くしているくせに」
私がそう言うと、彼女は笑みをこぼす。それは次第に高笑いに変わっていった。
「ふはははは。笑わせてくれるではないか、人に寄りすぎたかゼウス。だから貴様は弱い」
プツリと何かが切れる音がした。
何がおかしい。何が、何が、何が・・・・・。
「大切なものを守りたい気持ちは同じでしょう」
「価値が違いすぎる。到底人一人の命では支払いきれんものを我は守っているのだよ」
「もう怒ったわ。命を値踏みするようなあなたには何も守ることはできないんだから」
ジュピトリアを分離しハーキー・ジィアンとゼニルに分ける。ゼニルを放り投げ、一足のうちに跳躍した。ギュンだか、ドンだかそんな感じの音を立てて、ガイアの懐に現れる。
それをガイアは目で捉えられずに、私が彼女の腹部を彼女が気づくより早く切り裂いた。
血は出ない。代わりに何か紫がかった粘性のものが傷口から溢れている。
「おのれ、小娘が我相手に手を抜くか、くぅぅううう。かくなる上は。はぁあ」
ガイアが両手を広げると、背中にあった蔓は彼女に巻きついて行き、彼女を取り込んでいく。
「ガイア、あなた・・・」
出来上がったそれは、私の身長の三倍ほどの大きさの巨人となった
「力の一端を見せてやろう。地上があるから天があるのだと、存分に思い知るがいい」
巨人は大太刀を大振りする。のろまかと思ったが、かなり素早い振りで避けるのも難しい。なんといっても腕が六本で太刀、斧、剣、鎚、杖、槍をそれぞれ振り回す。
・・・・・最悪だ。
腕が六本と称したが、日本の千手観音像のようではなく、腕がそれぞれ、独立して動き回っている。巨人自体の腕には、荘厳な作りの盾が構えられている。あー、面倒くさい。ほとんど七対一のようなものだ。コリオスを呼び戻すか。幻想の神である彼女なら、打開の策の一つや二つはありそうなものだが。
けれど私は諦めた、というより覚悟を決めたというべきか。一応魂は二つあるわけで、それは二人となんら差異はない。ならば、景気良く行こうじゃない。
「お願いね、私」
「仕方あるまいな」
私はハーキーを握る手に熱がこもる。
ありがたいことは、ガイアの武器はどれも的が大きいことだ。攻撃を当てるのは容易い。あとはあの盾がどれほどの強度でどんな力があるのかということだ。
唯一ガイアが自ら手にしている武具。きっと見掛け倒しではないのだろう。油断は禁物、未知数なものに警戒しすぎても損ではないはずだ。
ゼニルのグリップをぐいと先端の方に押し込むと、接続されたケルベロスが変形し、その刃から煌刃が二本形成される。
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