angel observerⅡ 六神の加護

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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攻防

幕間

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 崩れた神殿を前に座り込む幼女が二人。一人は彼女らより少し大きな少女を抱いている。もう一人は黒く渦を巻く扉の中心を見つめている。
「姉様」
「大丈夫。姉様はきっとすぐに戻られるはず。だから私たちは姉様を信じて待ちましょうクリオス」
「わかったのですコイオス」
 一際強い風が二人の間を吹き抜ける。
「誰なのです」
 クリオスは立ち上がり、すぐ後ろの茂みを睨みつける。
「おお待て待て。おチビちゃん、俺はネプトゥヌス知ってるだろ」
「ネプトゥヌス・・・おじさんですか」
 クリオスは肩の力を抜き、ネプトゥヌスを見つめる。
「おいおいおじさんはやめてくれ、せめてお兄さんにしてくれねぇか」
「でもクリオスはおじさんだと思うのです」
「コイオスも同意します」
 ネプトゥヌスはやれやれとため息をつき、さらに二人に近づいてしゃがみこんだ。
 その目線はまだ二人より少し高いが、お互い顔の表情は分かる位置となった。
「ちょいと耳貸してくれ。お前さんたちにとっては悪いニュースだ。あの人間『セルバン・イオーニア』が、戦線布告しやがった。今日の午後大規模な地震を引き起こすってな。もちろん人間どもは誰も信じてないが、俺の仲間、海の生物たちがこの地域に全くいねえ。こいつは本当になんかあると思っておいた方がいいぜ」
 それを聞いた彼女らはお互いに顔を見合わせると、
「「待ちます」」
「待つって何を」
「「姉様を」」
 ネプトゥヌスはまたも呆れた顔になる。それもそのはずだ。こんなにも一途な目を向けられてしまうと、彼は何も言うことはできないからだ。
 彼が友としているシャチのレックスにしてもこうしてまっすぐに、目を向けることがあるのに驚くとことがある。
 言ってしまえば、彼は当人でない他の人物がその当人のために尽くす姿勢を美しいと思うのだ。
「好きにしろ。ったくオメェらと言い、あの嬢ちゃんといい。なんでそこまで他人に必死になれる」
「それは君も同じなのではないかな」
 三人のいる空間につむじ風が起きたかと思うと、そこには一人の男の姿があった。
「あんたは・・・」
 ネプトゥヌスは口を開けてその男を見つめる。
「お兄様」
 ポソリとコイオスが呟きに応じるように男は名乗りをあげる。
「大海の守護武神オケアノスただいま推参」
「おいおい、叔父さんが何用だ」
「フッ呼ばれたのでね」
「誰に」
「君の親しい人物だよ」
 くるりとコイオスとクリオスに向き直り、オケアノスは状況を確認すると颯爽と剣を構える。
「コイオス、クリオスそれからネプトゥヌス。一足遅かったようだ」
「今度はなんだよ」
「珍客だ」
「はあ?」
 冥界への入り口のある神殿は海から近く、目と鼻の先が海といった位置にある。
「誰が来たのです」
 クリオスが不安げにオケアノスに問う。すると海側から、
「私だよ」
「てめぇは」
「セルバン・イオーニア。ドーリアカンパニーの社長にして今は・・・」
「丁寧な説明ありがとうと言っておこうか。キミは見ない顔だがそちらの三人よりはマシらしい」
「なんだと、もっペン言ってみろ」
 ネプトゥヌスは猛る。その手には見事な三叉槍が握られている。それはかの天使と同じものだった。
 コイオスは疑問に思う。そういえばあの天使は三叉槍をトリアイナと呼び、またよくよく考えれば結界を張り巡らせていた。アレはウェスタの芸当だったのではと。
「ネプトゥヌス様もしやその槍は『トリアイナ』ですか」
「だったらなんだよ」
「やっぱり」
「さっきからわけわかんねぇぞ」
 コイオスは一人納得する。大変なことだ早くどうにかしてヒルデに伝えなくてはと一人あたふたし出す。それを制したのはクリオスだった。
「コイオス、今は目の前の敵から姉様の身体を守ることです」
「はっ。はそうですねありがとうクリオス」
「はっはっはっ。そこのお嬢さんは合点がいったようだね。そう彼女、天使を模した彼女はあと二人いる。オリュンポスの血を分ける力を持つ彼女があと二人。一人は拿捕されてしまったがまあいい。二人でなんとかなるだろさ」
「貴様、なぜそんなことを」
 険しい表情をしてオケアノスが問う。
「なぜ、愚問だな。それこそ簡単な話トリックよりも動機の方が単純だよ。人間どもを抹殺し、地球本来の姿に戻すためさ」
「なに」
「嘘だと思っているのか。まあそれもいい。その身体の少女の力を取り込めたと思っていたが、十分の一にも満たなかった。だからこうして明け渡してもらおうと思ったが、ニ対一では分が悪いな。ここは引くとしよう次に会った時は必ずその力の全てをいただくからな。さらばだ」
 オケアノスもネプトゥヌスも武器を下ろした。どうやら完全にセルバン・イオーニアは姿を消したらしい。
 ネプトゥヌスはあぐらをかいてその場に座った。
 オケアノスは立ったまま話し出す。
「危機を脱したようで何よりだ。今のやつには私でも敵う相手かわからないのでね。一つ言えることがあるとすれば、やつはすでに人間ではないと言うことだ」
「人の皮を被った。化け物ってか」
「そうだ。邪神よりも数段上位の存在『魔神』の域達するだろう」
 その言葉を聞いて、一同は意気消沈して俯く。漂う空気は重かった。それでも、ネプトゥヌスは問いかける。
「勝算は」
「我々が束となって五分がいいところだろう。理由は三つ。一つはやつ自身の力が規格外であること。二つ目はコイオスが解を得た神の複合体の存在。三つ目は人間だ」
 コイオス以外の二人は口を開けて驚く。
「三つ目はどう言うことなのです」
「そうだよなんで人間が敗因になるだ」
「人間がいることで我々の戦いのスタイルは防戦となることは間違いない。要は、あちらは好き勝手に暴れられるが、私たちは最低限の被害にとどめなければならない。災害レベルは避けるべきだろう。例え火事が起こったとしてももやでとどめなければならないと言うことさ」
 オケアノスの言っていることは、もっともなことだった。たった一人の手で何千、何万もの被害者を出すことは許されない戦いである。
「言いたいことはわかった叔父さん。けどあんたがここに来たってことはもちろん勝機があるってことだろ」
「ああ、その通りだ」
 オケアノスは不敵な笑みを浮かべて言う。
「戻ってきた彼女の力をやつから取り戻す」
「やっぱりそれしかねぇよな」
「待ってください。姉様に死ねとおっしゃるのですか」
 コイオスは涙目で苦言を呈する。
「でもそれしか・・・」
 ネプトゥヌスの反論をオケアノスが制止する。
「それは違う。あくまでプランだ。選ぶのは最終、彼女の意志だよ。彼女が無理だと言うなら戦法を変えるしかない。その場合の多少の犠牲は覚悟せねばならないがね」
「くっ・・・」
 コイオスは押し黙ってしまった。ヒルデ一人の命と人間数百人の命を秤にかけた時、やはり人間の命数百人の方が重いのは自明の理であることは変えようがなかった。
「そんな顔をしないでくださいコイオス、姉様を信じて待ちましょう」
「そう・・・ですね」
 二人はそれぞれ違った心配の仕方をする。コイオスは論理的にクリオスは直感的に。両者のアプローチに差はあれどその最たるものは同じであるため、自然と二人はお互いに何を考えているのかが何となくわかるのだった。
「「今は信じます。姉様を!」」
 二人は確認し合うように、声を重ねた。
 
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