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RE.プロローグ
ヒルデ
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晴天の日だった。僕はいつも通り昼寝をしていて、夢を見ていた。
夢の中では、僕は空を飛び下に広がる地上を見下ろしていた。隣には、赤髪の少年の天使が、僕の隣を一緒になって飛んでいた。
「どうだいそらの旅は?」
「最高だよ。でも僕は理系の人間だからなぁ、こういう非現実的な出来事は夢と断言するしか・・・」
しかし、少年は僕の言葉を遮って言う。
「夢なんかじゃない」
「えっ?」
「君に頼みがある。天使を観測して欲しい」
唐突にだが、僕は耳を傾けずにはいられなかった。
「いきなりの事で混乱するかもしれないが、どうか頼む」
それだけ言うと、スゥッと彼の体は透け出して、消えて行く。
「待って」
最後の言葉は、よく聞き取れなかった。しかし、意識は現実へと戻ろうとしていた。
お昼の温かい日差しを浴びて、微睡む眼をゆっくりと開けた。
「ごめんくださぃ」
細々とした声が、僕の耳を抜け脳内に反響した。さっきの夢の言葉が突然思い出される。
「天使を観測しろだってぇ」
「ひっ」
ああそうだった。お客さんはさっき来たんだった。いけない、まだ寝ぼけているようだ。「さて」と言って気持ちを切り替える。
「やあお客さんかなぁ。まぁいいや突っ立ってるのも疲れるだろう。そこに座りなよ?」
「その前に聞きたいことがあるんだけど」
声は若く、とてもはっきりとしていて聞き取りやすい、少女のものだった。しかし、こんな狭い事務所では、声で判断するより、本人を見て確認した方が早いことは、言うまでもないのだが。
僕は回転椅子を入り口に向け少女の顔を拝ませてもらうことにした。少女は、目を細めてこちらを伺っている。しかし問題は少女の表情ではない。その服装である。服装は先程の夢に見た少年のようであり、髪の色も似ている気がした。だが、その疑問は、後回し先に彼女が質問したいと言ったからだ。
「別に構わないよ。なんなりと聞いてくれ」
「それじゃあ、ここは何処?」
内心では、とても笑いが堪えれそうにないが、表情に出してはいけないと、必死に平静を保ったまま返答をしてあげる。
「ここは地球、日本という国の東京に近い都市。そしてここは、三階建てのオフィスビルの、二階の僕の事務所。これでいいかな」
「地球なのはわかるわよ。地球以外に人がいるっていうのあなたは」
彼女の返しは、なかなか手厳しい。現時点では可能性の段階で・・・。
いやこういう話がしたいわけじゃないのだったな。
「その格好さあ。君のその服装、この国ではまず見かけたことがない。他の国でも、似かよった服を着ている人はテレビで見るが、君のそれは全く異なったものだと思ってね。まるで古代ローマを思わせる服装だ」
彼女は、自分の服を見て「そう見えなくもないかも」と小声で言った。その表情は、少し頬が赤らんでいるようにも見えた。太陽が差し込んでいるので、よくは見えないが。
「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。僕は若田 敏彦。設計士をしている。企業の依頼を受けたり、設計したものを売り込んだりして、生活しているんだ。君の名前は?」
「・・・・・」
どうしたんだろう。彼女は、黙って何も言わない。ただ沈黙の時が流れる。
「ない」
「ん?」
「名前、ないの」
へぇー。名前がないのか。珍しいなあ。
「えぇー」
さすがに、このカミングアウトは、驚かずしてどうする。名前がない、どういうことだ。うむ、わからん。ただし1ついい案を思いついた。
「そいつは何とも不便だな。じゃあ僕が名前を考えてあげるよ」
そうだなぁ。昼寝中に出てきたから。
「〈ヒルデ〉と名乗るといいよ」
「ヒルデ」
彼女は僕の名付けた名前を繰り返した。しかし、目の前のお嬢さんと出会えたのは何かの縁かもしれない。ここは一つ賭けてみるか。
「お嬢さん一つ頼みごとがあるんだ」
「ええ、名付けて貰った分は、何でも聞いてあげる」
「それは頼もしい。じゃあ、天使を観測してくれないか?」
再び事務所を静寂が包み込む。
「どういうことかしら?要領を得ないんだけど」
「それは僕も同じさ」
正直自分でも分かりきっていない。そんなあやふやなことを頼んでいることは、十分承知しているつもりだ。だから、僕は今、猫の手も借りたいくらい困っていだのだ。
お嬢さんと話している最中に、僕の机に接続されているパソコンにわんさかと、メールが送られ続けているのを僕は見逃さなかった。メールを開けると、そこには知らないソフトのダウンロード情報と、何かの設計図それからおそらく、その設計図の部品となるものの到着日が記されていたのだ。それを目にして僕は、お嬢さんにこうして頼むことにした。他の理由をあげるとすれば、僕には寂しい話、友と呼べるものが、近くにはいなかった。1人は海外で大手企業の技術チーフしている。1人は旅人で絶賛行方不明なのだ。
「まあ、お嬢さん。これからよろしく」
「勝手によろしくしないで」
「でも君、帰れるのかい?」
彼女は、突然扉から現れた。僕の仮説が正しければ、一度閉じた道は繋がらない。
「帰れるわよ」
お嬢さんが、ムキになって事務所のドアを開ける。だが、急にそわそわしだして、何度も開けたり閉めたりを繰り返していた。
「外はただの廊下だよ」
「わ、わかっているわ、そんなこと」
一向に思い通りにならないお嬢さんはついに、吐息を漏らした。
「はあー。で具体的に何をすればいいのかしら?」
「そうか、そうか。頼まれてくれる気になったんだね。関心、関心」
けれども、僕にも具体的なことは分からなかった。だから、
「まず、お互いのことを知ろう。それが、僕らの大きな一歩になるに違いない」
うん、やはりお互いのことを知ってこそのパートナーである。お嬢さんは、どうやらまだ、僕のことを警戒しているようだし、とりあえず警戒を解かなければ、何も始まらないだろう。そう思って僕から話しかける。
「君は、どこからきたんだい?」
「アーバンデクライン」
「荒廃都市か、それでそこは地球なのかい?」
「ううん、どうだろう。空は青かったけど、地上は砂だらけで歩いても歩いても、砂漠だったわ」
お嬢さんは、ソファにもたれて、言った。ふむふむ、都市があるのに荒廃している。けれども空は青いか。なるほど、それが確かなら地球であることは間違いない。だけれども、現代の世界では、あり得ない世界観だな。高層ビル群に砂漠か。感慨深いものだな。
「そこには、人間見たいな人がたくさんいるのかい?」
新たな質問を投げかけた。この質問に対してもお嬢さんの反応が悪い。
「お嬢さん」
「ええ、聞いてるわ。いるにいるんだけど、人間と呼ぶにはふさわしくないのよね。本能的な存在と知識欲だけの存在に二分しているの」
どう言うことだろう。前者は、少なからず想像がつく、しかし後者は、よくわからないな。
「前者は、そうね動物的と捉えてくれればいいわ。けど後者は、もう学習の虫、自分の中の専門分野だけを取り憑かれたように学習している。研究のためなら、他の人間の生死を問わない。そして何より、双方の人間に共通していることなんだけど、意思疎通は不可能、会話なんて以ての外なの。だからアレは、人間じゃない」
そこまで、言わせる存在なのか。だが待てよ、とするとお嬢さんは、どっちなんだ。
「お嬢さんは、どっちなんだ」
「私?私は、どっちでもない。私は悪魔よ」
「悪魔?それってどういう・・・」
お嬢さんは、考え込む。「うーん、なんて言ったらいいのかしら」と、眉間に人差し指を置いて、僕のためにいい説明を考えてくれている。
「例えばの話、自分が昔からパン屋だった気がするみたいな感覚かな」
「ふむ、なんとなくわかるよ。続けて」
「それで、私の場合は昔から、悪魔だった感覚なのよ。どうしてそう感じるかは、わからないのだけれどね」
「オッケー、わかった。お嬢さんの存在云々に関しては、保留としておこう」
「助かるわ」
そして、お嬢さんは本題について聞いてきた。
「でもなんだって、天使の観測なんかしてるのよ」
痛いところを突いてくるものだ。お嬢さんは、探偵になる素養があるのではないか、と思うほどの直感力だ。しかし、これについては、僕が聞きたいくらいなのだ。
パソコンのメールの日付には、お嬢さんと会う数分前の日時が示されている。
「実はね。天使の観測を始めるのは今日からなんだ」
「何それ?いい加減なことならお断りよ私」
「まあまあ、信じられないかもしれないんだけど、お嬢さんと出会う前に、僕は昼寝をしていた」
コクコクと、お嬢さんが相づちをうつ。あー、昼寝してたの見られてたか。まあ、それなら、話が早くて助かる。
「それで、僕は夢を見たんだ。丁度、お嬢さんと同じような服装の少年が、天使を観測しろって、言ってきてね。そうしたら、このパソコンに天使の出現する場所と時間がメールで送られてきたと言うわけなんだ」
お嬢さんは、僕の隣でパソコンの画面を食い入るように見つめる。そのため僕は一度立ち上がって、空になったコーヒーを注ぎに行った。後ろ目にお嬢さんを見ると、ちゃっかり僕の椅子に座って、カチカチとマウスをクリックしてパソコンをいじっている。
「この場所に行けばいいのね?」
「多分ね」
「私、この世界初めてなのだけど、役割は、本当に私が外に出る役目でいいのかしら?」
「問題ないよ。僕は動くことが大の苦手なんだ」
「呆れた。自分が動きたくないだけだなんて」
お嬢さんは、そう言うと立ち上がって扉へ向かう。行く気になってくれたのだろうか。
「何でもお願いを聞くって言っちゃたし、今回だけは手伝ってあげる」
僕は、そうそうと言って、お嬢さんにインカムを手渡した。
「何これ」
「インカム。通信機さ。上のボタンを押すと、電源がつく。GPSも内蔵されているからサポートは、任せてくれ。目的地までは、僕が案内するよ。さあこうやって耳につけて」
僕が持つ別のインカムを耳につけて見せると、お嬢さんも同じように耳に装着した。僕がどうしてこんな、利益も産まないことをしようと思ったのかわわからない。だけど、これだけは分かる。この活動は、やらなければならないと、思わずにはいられかった。
「じゃ、早いとこ終わらせましょ」
「うん、行ってらっしゃい」
僕は、お嬢さんを見送った。パソコンと自分のインカムをケーブルで繋ぎ、インカム同士が受信する。GPSを起動させる。僕の机にある3つのモニターを全て起動させ、送られてきた地図を正面のモニターに映し出し、GPSの画面を立ち上げる。最後のモニターにはインターネットを立ち上げておいた。これで準備万端。あとはお嬢さんが、目的地にたどり着くのを待つだけだ。
夢の中では、僕は空を飛び下に広がる地上を見下ろしていた。隣には、赤髪の少年の天使が、僕の隣を一緒になって飛んでいた。
「どうだいそらの旅は?」
「最高だよ。でも僕は理系の人間だからなぁ、こういう非現実的な出来事は夢と断言するしか・・・」
しかし、少年は僕の言葉を遮って言う。
「夢なんかじゃない」
「えっ?」
「君に頼みがある。天使を観測して欲しい」
唐突にだが、僕は耳を傾けずにはいられなかった。
「いきなりの事で混乱するかもしれないが、どうか頼む」
それだけ言うと、スゥッと彼の体は透け出して、消えて行く。
「待って」
最後の言葉は、よく聞き取れなかった。しかし、意識は現実へと戻ろうとしていた。
お昼の温かい日差しを浴びて、微睡む眼をゆっくりと開けた。
「ごめんくださぃ」
細々とした声が、僕の耳を抜け脳内に反響した。さっきの夢の言葉が突然思い出される。
「天使を観測しろだってぇ」
「ひっ」
ああそうだった。お客さんはさっき来たんだった。いけない、まだ寝ぼけているようだ。「さて」と言って気持ちを切り替える。
「やあお客さんかなぁ。まぁいいや突っ立ってるのも疲れるだろう。そこに座りなよ?」
「その前に聞きたいことがあるんだけど」
声は若く、とてもはっきりとしていて聞き取りやすい、少女のものだった。しかし、こんな狭い事務所では、声で判断するより、本人を見て確認した方が早いことは、言うまでもないのだが。
僕は回転椅子を入り口に向け少女の顔を拝ませてもらうことにした。少女は、目を細めてこちらを伺っている。しかし問題は少女の表情ではない。その服装である。服装は先程の夢に見た少年のようであり、髪の色も似ている気がした。だが、その疑問は、後回し先に彼女が質問したいと言ったからだ。
「別に構わないよ。なんなりと聞いてくれ」
「それじゃあ、ここは何処?」
内心では、とても笑いが堪えれそうにないが、表情に出してはいけないと、必死に平静を保ったまま返答をしてあげる。
「ここは地球、日本という国の東京に近い都市。そしてここは、三階建てのオフィスビルの、二階の僕の事務所。これでいいかな」
「地球なのはわかるわよ。地球以外に人がいるっていうのあなたは」
彼女の返しは、なかなか手厳しい。現時点では可能性の段階で・・・。
いやこういう話がしたいわけじゃないのだったな。
「その格好さあ。君のその服装、この国ではまず見かけたことがない。他の国でも、似かよった服を着ている人はテレビで見るが、君のそれは全く異なったものだと思ってね。まるで古代ローマを思わせる服装だ」
彼女は、自分の服を見て「そう見えなくもないかも」と小声で言った。その表情は、少し頬が赤らんでいるようにも見えた。太陽が差し込んでいるので、よくは見えないが。
「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。僕は若田 敏彦。設計士をしている。企業の依頼を受けたり、設計したものを売り込んだりして、生活しているんだ。君の名前は?」
「・・・・・」
どうしたんだろう。彼女は、黙って何も言わない。ただ沈黙の時が流れる。
「ない」
「ん?」
「名前、ないの」
へぇー。名前がないのか。珍しいなあ。
「えぇー」
さすがに、このカミングアウトは、驚かずしてどうする。名前がない、どういうことだ。うむ、わからん。ただし1ついい案を思いついた。
「そいつは何とも不便だな。じゃあ僕が名前を考えてあげるよ」
そうだなぁ。昼寝中に出てきたから。
「〈ヒルデ〉と名乗るといいよ」
「ヒルデ」
彼女は僕の名付けた名前を繰り返した。しかし、目の前のお嬢さんと出会えたのは何かの縁かもしれない。ここは一つ賭けてみるか。
「お嬢さん一つ頼みごとがあるんだ」
「ええ、名付けて貰った分は、何でも聞いてあげる」
「それは頼もしい。じゃあ、天使を観測してくれないか?」
再び事務所を静寂が包み込む。
「どういうことかしら?要領を得ないんだけど」
「それは僕も同じさ」
正直自分でも分かりきっていない。そんなあやふやなことを頼んでいることは、十分承知しているつもりだ。だから、僕は今、猫の手も借りたいくらい困っていだのだ。
お嬢さんと話している最中に、僕の机に接続されているパソコンにわんさかと、メールが送られ続けているのを僕は見逃さなかった。メールを開けると、そこには知らないソフトのダウンロード情報と、何かの設計図それからおそらく、その設計図の部品となるものの到着日が記されていたのだ。それを目にして僕は、お嬢さんにこうして頼むことにした。他の理由をあげるとすれば、僕には寂しい話、友と呼べるものが、近くにはいなかった。1人は海外で大手企業の技術チーフしている。1人は旅人で絶賛行方不明なのだ。
「まあ、お嬢さん。これからよろしく」
「勝手によろしくしないで」
「でも君、帰れるのかい?」
彼女は、突然扉から現れた。僕の仮説が正しければ、一度閉じた道は繋がらない。
「帰れるわよ」
お嬢さんが、ムキになって事務所のドアを開ける。だが、急にそわそわしだして、何度も開けたり閉めたりを繰り返していた。
「外はただの廊下だよ」
「わ、わかっているわ、そんなこと」
一向に思い通りにならないお嬢さんはついに、吐息を漏らした。
「はあー。で具体的に何をすればいいのかしら?」
「そうか、そうか。頼まれてくれる気になったんだね。関心、関心」
けれども、僕にも具体的なことは分からなかった。だから、
「まず、お互いのことを知ろう。それが、僕らの大きな一歩になるに違いない」
うん、やはりお互いのことを知ってこそのパートナーである。お嬢さんは、どうやらまだ、僕のことを警戒しているようだし、とりあえず警戒を解かなければ、何も始まらないだろう。そう思って僕から話しかける。
「君は、どこからきたんだい?」
「アーバンデクライン」
「荒廃都市か、それでそこは地球なのかい?」
「ううん、どうだろう。空は青かったけど、地上は砂だらけで歩いても歩いても、砂漠だったわ」
お嬢さんは、ソファにもたれて、言った。ふむふむ、都市があるのに荒廃している。けれども空は青いか。なるほど、それが確かなら地球であることは間違いない。だけれども、現代の世界では、あり得ない世界観だな。高層ビル群に砂漠か。感慨深いものだな。
「そこには、人間見たいな人がたくさんいるのかい?」
新たな質問を投げかけた。この質問に対してもお嬢さんの反応が悪い。
「お嬢さん」
「ええ、聞いてるわ。いるにいるんだけど、人間と呼ぶにはふさわしくないのよね。本能的な存在と知識欲だけの存在に二分しているの」
どう言うことだろう。前者は、少なからず想像がつく、しかし後者は、よくわからないな。
「前者は、そうね動物的と捉えてくれればいいわ。けど後者は、もう学習の虫、自分の中の専門分野だけを取り憑かれたように学習している。研究のためなら、他の人間の生死を問わない。そして何より、双方の人間に共通していることなんだけど、意思疎通は不可能、会話なんて以ての外なの。だからアレは、人間じゃない」
そこまで、言わせる存在なのか。だが待てよ、とするとお嬢さんは、どっちなんだ。
「お嬢さんは、どっちなんだ」
「私?私は、どっちでもない。私は悪魔よ」
「悪魔?それってどういう・・・」
お嬢さんは、考え込む。「うーん、なんて言ったらいいのかしら」と、眉間に人差し指を置いて、僕のためにいい説明を考えてくれている。
「例えばの話、自分が昔からパン屋だった気がするみたいな感覚かな」
「ふむ、なんとなくわかるよ。続けて」
「それで、私の場合は昔から、悪魔だった感覚なのよ。どうしてそう感じるかは、わからないのだけれどね」
「オッケー、わかった。お嬢さんの存在云々に関しては、保留としておこう」
「助かるわ」
そして、お嬢さんは本題について聞いてきた。
「でもなんだって、天使の観測なんかしてるのよ」
痛いところを突いてくるものだ。お嬢さんは、探偵になる素養があるのではないか、と思うほどの直感力だ。しかし、これについては、僕が聞きたいくらいなのだ。
パソコンのメールの日付には、お嬢さんと会う数分前の日時が示されている。
「実はね。天使の観測を始めるのは今日からなんだ」
「何それ?いい加減なことならお断りよ私」
「まあまあ、信じられないかもしれないんだけど、お嬢さんと出会う前に、僕は昼寝をしていた」
コクコクと、お嬢さんが相づちをうつ。あー、昼寝してたの見られてたか。まあ、それなら、話が早くて助かる。
「それで、僕は夢を見たんだ。丁度、お嬢さんと同じような服装の少年が、天使を観測しろって、言ってきてね。そうしたら、このパソコンに天使の出現する場所と時間がメールで送られてきたと言うわけなんだ」
お嬢さんは、僕の隣でパソコンの画面を食い入るように見つめる。そのため僕は一度立ち上がって、空になったコーヒーを注ぎに行った。後ろ目にお嬢さんを見ると、ちゃっかり僕の椅子に座って、カチカチとマウスをクリックしてパソコンをいじっている。
「この場所に行けばいいのね?」
「多分ね」
「私、この世界初めてなのだけど、役割は、本当に私が外に出る役目でいいのかしら?」
「問題ないよ。僕は動くことが大の苦手なんだ」
「呆れた。自分が動きたくないだけだなんて」
お嬢さんは、そう言うと立ち上がって扉へ向かう。行く気になってくれたのだろうか。
「何でもお願いを聞くって言っちゃたし、今回だけは手伝ってあげる」
僕は、そうそうと言って、お嬢さんにインカムを手渡した。
「何これ」
「インカム。通信機さ。上のボタンを押すと、電源がつく。GPSも内蔵されているからサポートは、任せてくれ。目的地までは、僕が案内するよ。さあこうやって耳につけて」
僕が持つ別のインカムを耳につけて見せると、お嬢さんも同じように耳に装着した。僕がどうしてこんな、利益も産まないことをしようと思ったのかわわからない。だけど、これだけは分かる。この活動は、やらなければならないと、思わずにはいられかった。
「じゃ、早いとこ終わらせましょ」
「うん、行ってらっしゃい」
僕は、お嬢さんを見送った。パソコンと自分のインカムをケーブルで繋ぎ、インカム同士が受信する。GPSを起動させる。僕の机にある3つのモニターを全て起動させ、送られてきた地図を正面のモニターに映し出し、GPSの画面を立ち上げる。最後のモニターにはインターネットを立ち上げておいた。これで準備万端。あとはお嬢さんが、目的地にたどり着くのを待つだけだ。
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