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RE.プロローグ
観測者
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僕は、時計を何度も見返すが、一向にお嬢さんから連絡が来ない。いや、まだ出発して10分しか経っていない。落ち着かなきゃいけないないのは、僕の方である。GPSの信号は着実に目的地に近づいていた。その時インカムを通して、お嬢さんから連絡が来た。そわそわしていた僕だったが、案外早い連絡に感嘆した。
「早かったね。でどうしたの何かトラブルかい?」
「トラブルってほどじゃないんだけど、同じような建物ばかりだからどこ
の建物に入ればいいの?」
「ちょっと待ってて」
ええと、確か送られて来たメールによると、Cブロックの4だから、
「お嬢さん、今交差点にいるんだろ。何か標識とかないかい?」
「あるけど、私から見て前方がBブロックって書かれてるわ」
「じゃあ、右だ。右に進んでくれ」
「わかったわ」
「そしたら、交差点から4番目の建物に何かおかしなところはないか?」
「ええあった。でも私のいる歩道と反対側の建物から、嫌な感じがする」
僕は内心驚いた。メールは、半信半疑の状態だった。しかし、本当にあるとすれば、まずは、お嬢さん側の建物の屋上から、問題のビル内の様子を伺うのがいいだろう。だが、GPSの赤い点は、道路を横切って、天使がいるであろう。ビルの中に入って行ってしまった。
「おお、お嬢さん?」
「えっ何?今ちょっと忙しい」
プツッ。あっ通信機の電源、切られちゃった。
仕方がないので、もう一度送られてきたメール文を見返す。だが、やはり天使が出るとだけ書いてあって、何故天使を観測しなければならないのかとか、天使が実際にこの建物のどこに現れるのかといった、詳細な情報はどこにも見当たらない。もしかしたら、送り主は元からそういった意図つまり、信憑性の薄い文面をあえて送りつけたのだろうか?そうなると、これを送った人物が悪者ということになる。それだと、僕の夢で見た少年の印象とは大きく異なる。罠に嵌めた線を除外すると、残るは、ただ1つ。緊急だったが故に、内容の薄いメールしか送れなかったということになる。だとすると、少々お嬢さんが危険かもしれない。罠ではないにせよ、メール1つまともに送ることもできないほど、攻撃的な相手なのかもしれない。なんとかお嬢さんが、通信機の電源を入れてくれないだろうか。
依然としてGPSの信号は同じ場所で点滅するばかりだった。そして、お嬢さんから連絡があったのは、お嬢さんが電源を切ってから15分後だった。
「ちょっといいかしら。建物の内部にいるんだけど、人がさっきからみんな倒れているのよ。どうしたらいい?」
「お嬢さんインカムの横にもう1つボタンがあるだろう」
「あった」
「そいつを押してくれ」
おそらくお嬢さんが、ボタンを押したと思われる。その証拠にインターネットを開いていた。三枚目のパネルにお嬢さんと同じ目線のカメラ映像が映し出された。
「何か変わった?」
「今、僕もお嬢さんと同じものを見てる」
「ということは、いちいち報告しなくていいってことね」
「そういうことだね。カメラの感度良好。さっ先へ進もう」
僕は、目線カメラが苦手だ。三半規管が、他人と同調することはなく目線の動きに酔うのだ。だから、ブレの酷いドキュメントや、友達の運転する車なんかは、あまり好ましくないのだ。
「お嬢さん、ごめんよ。ちょっと席を外すよ」
であるから、僕は1度席を外して、目頭を押さえて、椅子にもたれかかった。「あんた、しっかり見てなさいよね。初対面の相手に面倒事押し付けてるの、わかってるの?」とお嬢さんが激しく抗議しているみたいだけど、やはり慣れないものは慣れないな。これは、とんだ失策だった。今度からは別の方法で、周辺映像を撮影しよう。
「ああ、そのまま進んでくれ」
「その必要はないみたい」
お嬢さんの声色が、変わる。眼鏡をかけ直して、カメラ映像を見ると見るからに怪しい子が、お嬢さんの前方からやって来る。
「ねえ、天使ってあの子よね?」
間違いない。十中八九間違いない。この子が天使だ。背中には黒ずんだ翼、ボロボロの服(布?)を着て、ゆらゆらとお嬢さんに近づいて来ている。
「何か聞いて見てくれ。刺激しないように頼むよ」
「わかったわ。あなた誰?」
良い質問だ。存在を問う。まずは、天使であるかそうでないかの確認をする。完璧に近い選択だと思う。さて相手の反応はどうか・・・。
「私は、天使。原初の神に仕える者」
なるほど、原初の神か。神話によって原初の神は、いくらかいる。メジャーなものからマイナーなものまで、探し始めたらキリがない。
「どうしてここにいるの?」
存在の確認の次は、存在理由を問う。お嬢さんは、なかなか慎重派なのかもしれない。僕なら、行動を問いたいね。〈何をしているのか?〉とね。似たようなニュアンスだが、存在理由を問う方が、相手側が答える情報量が格段に多いのだ。例えば、犬の散歩をしている人に行動を尋ねるとすると、答えは「犬の散歩」と、いたってシンプルである。次に存在理由を聞くと、「犬の散歩わするため」となる。そうなると、「どうして」の部分にたくさんの意味合いが含まれる。日課なのか、家族の代わりに散歩しているのか、犬が落ち着かないからなのか。とりあえずその「HOW」の部分に質問された側は、「WHAT」より多く答えなくてはいけないのだ。
天使は真面目なのか、聞かれた質問に1つずつきっちり答えていく。
僕は、ただ固唾を飲み待つのみだ。
「ねえ、どうする?」
「危害を加えられてない以上、こちらから手は出さない」
「でも、もう何人もやられているわ」
「それでも、だよ。お嬢さん」
そう堪えてくれお嬢さん。もし対話が可能な存在ならば、無益な戦闘を避けることができる。しかし、僕の願いとはうらはらに、
「どうしてですか?答えを聞く前に消してあげましょう」
あちらさんは、やる気満々である。
「マズイんじゃない?」
「そうだね、とりあえず撤退してくれ、メールには観測せよとしか書かれていない。だから、一応目的は達成しているから・・・。お嬢さん、お嬢さん」
お嬢さんとの通信が途切れた。僕が思うに、相手側がかざした手から、ジャミングやら何やらが発生したのだろうと、僕は推測して見たものの、推測では事態は解決しない。
止む終えず、僕もお嬢さんのいるビルへと向かい。事務所を出た。
ビルの目の前の通りに来てみると、お嬢さんが、丁度中からよろめきながら、出てくるところに出くわした。
「お嬢さん」
「ああ、疲れた」
「お疲れ様。であの子は?」
「消えた」
「消えた?」
「あの子が手をかざした瞬間に外がピカッと光ったかと思うと、あの子は消えてたのよ」
なるほど、天使を観測するだけでいいとは、そういうことなのか。天使を観測すれば自動的に天使を削除、または退去させることができる。だから、目にするだけでいい。
お嬢さんは、ガードレールにもたれかかって、ひと息つく。
そんな彼女の体は思っていた以上に傷だらけである。僕は少し申し訳ない気持ちになった。
「お嬢さん、傷を見せてごらん」
「い、いいわよ別に。大したことじゃないし」
お嬢さんは、スッとガードレールに預けていた体を起こして、ビルの中に再び入って行った。
「どうしたんだい、何か気になることでも?」
「気になることって、中に倒れてる人がいっぱいいたでしょ」
とお嬢さんは言うが、僕は知っていた。中には、もう倒れている人はいないのだ。
ビルの中では、忙しそうに人々は出入りして、見慣れたオフィスの情景である。
お嬢さんは、驚きからか目を見開いて、固まっている。僕もここへ来た時は、確かに驚いた。だが、今では何もなかったかのように、このビルは機能しているのが現実だ。受け入れてもらうしかない。おそらく、1階のフロントが、この様子だから、上の階ももう元どおりで、さっきまでのことは誰も気にしていないんだろな。
「さっ、帰ろうお嬢さん。謎解きは帰ってからじっくりと、ね」
「そうね、私疲れたわ」
僕とお嬢さんは、現場を後にした。
「早かったね。でどうしたの何かトラブルかい?」
「トラブルってほどじゃないんだけど、同じような建物ばかりだからどこ
の建物に入ればいいの?」
「ちょっと待ってて」
ええと、確か送られて来たメールによると、Cブロックの4だから、
「お嬢さん、今交差点にいるんだろ。何か標識とかないかい?」
「あるけど、私から見て前方がBブロックって書かれてるわ」
「じゃあ、右だ。右に進んでくれ」
「わかったわ」
「そしたら、交差点から4番目の建物に何かおかしなところはないか?」
「ええあった。でも私のいる歩道と反対側の建物から、嫌な感じがする」
僕は内心驚いた。メールは、半信半疑の状態だった。しかし、本当にあるとすれば、まずは、お嬢さん側の建物の屋上から、問題のビル内の様子を伺うのがいいだろう。だが、GPSの赤い点は、道路を横切って、天使がいるであろう。ビルの中に入って行ってしまった。
「おお、お嬢さん?」
「えっ何?今ちょっと忙しい」
プツッ。あっ通信機の電源、切られちゃった。
仕方がないので、もう一度送られてきたメール文を見返す。だが、やはり天使が出るとだけ書いてあって、何故天使を観測しなければならないのかとか、天使が実際にこの建物のどこに現れるのかといった、詳細な情報はどこにも見当たらない。もしかしたら、送り主は元からそういった意図つまり、信憑性の薄い文面をあえて送りつけたのだろうか?そうなると、これを送った人物が悪者ということになる。それだと、僕の夢で見た少年の印象とは大きく異なる。罠に嵌めた線を除外すると、残るは、ただ1つ。緊急だったが故に、内容の薄いメールしか送れなかったということになる。だとすると、少々お嬢さんが危険かもしれない。罠ではないにせよ、メール1つまともに送ることもできないほど、攻撃的な相手なのかもしれない。なんとかお嬢さんが、通信機の電源を入れてくれないだろうか。
依然としてGPSの信号は同じ場所で点滅するばかりだった。そして、お嬢さんから連絡があったのは、お嬢さんが電源を切ってから15分後だった。
「ちょっといいかしら。建物の内部にいるんだけど、人がさっきからみんな倒れているのよ。どうしたらいい?」
「お嬢さんインカムの横にもう1つボタンがあるだろう」
「あった」
「そいつを押してくれ」
おそらくお嬢さんが、ボタンを押したと思われる。その証拠にインターネットを開いていた。三枚目のパネルにお嬢さんと同じ目線のカメラ映像が映し出された。
「何か変わった?」
「今、僕もお嬢さんと同じものを見てる」
「ということは、いちいち報告しなくていいってことね」
「そういうことだね。カメラの感度良好。さっ先へ進もう」
僕は、目線カメラが苦手だ。三半規管が、他人と同調することはなく目線の動きに酔うのだ。だから、ブレの酷いドキュメントや、友達の運転する車なんかは、あまり好ましくないのだ。
「お嬢さん、ごめんよ。ちょっと席を外すよ」
であるから、僕は1度席を外して、目頭を押さえて、椅子にもたれかかった。「あんた、しっかり見てなさいよね。初対面の相手に面倒事押し付けてるの、わかってるの?」とお嬢さんが激しく抗議しているみたいだけど、やはり慣れないものは慣れないな。これは、とんだ失策だった。今度からは別の方法で、周辺映像を撮影しよう。
「ああ、そのまま進んでくれ」
「その必要はないみたい」
お嬢さんの声色が、変わる。眼鏡をかけ直して、カメラ映像を見ると見るからに怪しい子が、お嬢さんの前方からやって来る。
「ねえ、天使ってあの子よね?」
間違いない。十中八九間違いない。この子が天使だ。背中には黒ずんだ翼、ボロボロの服(布?)を着て、ゆらゆらとお嬢さんに近づいて来ている。
「何か聞いて見てくれ。刺激しないように頼むよ」
「わかったわ。あなた誰?」
良い質問だ。存在を問う。まずは、天使であるかそうでないかの確認をする。完璧に近い選択だと思う。さて相手の反応はどうか・・・。
「私は、天使。原初の神に仕える者」
なるほど、原初の神か。神話によって原初の神は、いくらかいる。メジャーなものからマイナーなものまで、探し始めたらキリがない。
「どうしてここにいるの?」
存在の確認の次は、存在理由を問う。お嬢さんは、なかなか慎重派なのかもしれない。僕なら、行動を問いたいね。〈何をしているのか?〉とね。似たようなニュアンスだが、存在理由を問う方が、相手側が答える情報量が格段に多いのだ。例えば、犬の散歩をしている人に行動を尋ねるとすると、答えは「犬の散歩」と、いたってシンプルである。次に存在理由を聞くと、「犬の散歩わするため」となる。そうなると、「どうして」の部分にたくさんの意味合いが含まれる。日課なのか、家族の代わりに散歩しているのか、犬が落ち着かないからなのか。とりあえずその「HOW」の部分に質問された側は、「WHAT」より多く答えなくてはいけないのだ。
天使は真面目なのか、聞かれた質問に1つずつきっちり答えていく。
僕は、ただ固唾を飲み待つのみだ。
「ねえ、どうする?」
「危害を加えられてない以上、こちらから手は出さない」
「でも、もう何人もやられているわ」
「それでも、だよ。お嬢さん」
そう堪えてくれお嬢さん。もし対話が可能な存在ならば、無益な戦闘を避けることができる。しかし、僕の願いとはうらはらに、
「どうしてですか?答えを聞く前に消してあげましょう」
あちらさんは、やる気満々である。
「マズイんじゃない?」
「そうだね、とりあえず撤退してくれ、メールには観測せよとしか書かれていない。だから、一応目的は達成しているから・・・。お嬢さん、お嬢さん」
お嬢さんとの通信が途切れた。僕が思うに、相手側がかざした手から、ジャミングやら何やらが発生したのだろうと、僕は推測して見たものの、推測では事態は解決しない。
止む終えず、僕もお嬢さんのいるビルへと向かい。事務所を出た。
ビルの目の前の通りに来てみると、お嬢さんが、丁度中からよろめきながら、出てくるところに出くわした。
「お嬢さん」
「ああ、疲れた」
「お疲れ様。であの子は?」
「消えた」
「消えた?」
「あの子が手をかざした瞬間に外がピカッと光ったかと思うと、あの子は消えてたのよ」
なるほど、天使を観測するだけでいいとは、そういうことなのか。天使を観測すれば自動的に天使を削除、または退去させることができる。だから、目にするだけでいい。
お嬢さんは、ガードレールにもたれかかって、ひと息つく。
そんな彼女の体は思っていた以上に傷だらけである。僕は少し申し訳ない気持ちになった。
「お嬢さん、傷を見せてごらん」
「い、いいわよ別に。大したことじゃないし」
お嬢さんは、スッとガードレールに預けていた体を起こして、ビルの中に再び入って行った。
「どうしたんだい、何か気になることでも?」
「気になることって、中に倒れてる人がいっぱいいたでしょ」
とお嬢さんは言うが、僕は知っていた。中には、もう倒れている人はいないのだ。
ビルの中では、忙しそうに人々は出入りして、見慣れたオフィスの情景である。
お嬢さんは、驚きからか目を見開いて、固まっている。僕もここへ来た時は、確かに驚いた。だが、今では何もなかったかのように、このビルは機能しているのが現実だ。受け入れてもらうしかない。おそらく、1階のフロントが、この様子だから、上の階ももう元どおりで、さっきまでのことは誰も気にしていないんだろな。
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