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第21話・願いは突然叶う事がある
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シャルロッテさん達が経営する宿屋で開催された久しぶりの酒場は、大盛況の内に終わりを迎えた。
それにしても、あの様に大きな酒場を展開したにしては、珍しくコレと言った大問題は起きなかった。だがそれも、当然と言えば当然と言える。
なぜならこちらには、ティアとユキという優秀なモンスタースレイヤーが2人も揃っているのだから。
もちろんティアとユキがモンスタースレイヤーである事は、酒場に来たお客さん達は知らなかっただろうけど、途中で起こったトラブルをティアとユキが解決してくれた事により、2人の事はすぐに話題となってモンスタースレイヤーである事も知れ渡った。
そしてその2人がモンスタースレイヤーであると知れ渡れば、よほどの馬鹿者でない限りは問題を起こそうなどとは思わないだろう。つまり、ティアとユキがあの場に居ただけで、十分なトラブル防止効果があったわけだ。
こうして酒場が開かれた翌日の早朝。
部屋から出て下の階へ向かっていると、一階の受付カウンターがある場所に、なんとなく見覚えのある4人の女性達が集まっているのが見えた。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
受付カウンターに集まっていた女性達はみんな嬉しそうな笑顔を浮かべ、シャルロッテさんに向かって頭を下げていた。
「おはようございます。シャルロッテさん」
「あっ、エリオス君。おはよう。昨日はお手伝いありがとう。とっても助かっちゃった」
「いえ。お役に立てて良かったです。ところで、この方達は?」
「この人達はね、昨日ユキちゃんに助けてもらった人達なの」
「ああ。どおりで見覚えがあるなと思いましたよ」
「それでね、みんなうちの宿屋で働きたくて、こうして来てくれたんだって」
「そうなんです! 出されたお酒や食べ物も凄く美味しかったし、店の雰囲気も良かったから。それに、ホワイトプリンセスもこの宿屋を気に入ってるって聞いたので、これは是が非でもここで働きたいと思ったんです! ねーっ!」
「「「うん!!」」」
「なるほど。そういう事だったんですか」
「うん。それでね、せっかくこうやってここを気に入って来てくれたから、全員雇わせてもらう事にしたの」
「そうですか。シャルロッテさんがそう決めたなら、それがいいと思いますよ」
「うん。それじゃあ、朝食はもうしばらくしたら部屋に持って行くから、それまで待っててね」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃあみんな、さっそくだけどお仕事を覚えてもらうね。私について来て」
「「「「はーい!」」」」
シャルロッテさんも雇われた女性達も、みんな嬉しそうにしながらシャルロッテさん達の部屋がある方へと向かって行った。
まだまだ大変な事はあるだろうけど、こういった事を切っ掛けにしてまた宿屋が繁盛してくれればいいと思う。
そんな様子を見て俺達の役目は終わったなと感じつつ、俺は軽く外を散歩してから部屋へと戻って用意された朝食を摂った。
× × × ×
「ひろーいっ! これが海なんだ……凄いねっ! お兄ちゃん!」
「確かに凄いな……噂で聞いていた以上だよ」
朝食を食べ終わった俺達は、そのまま街を出て4時間ほどの修行を行い、その足で初めて海へと訪れた。
海は小さくもはっきりと聞こえる波音を立て、太陽の光が当たっている部分は満遍なくキラキラとした美しい煌きを見せている。そして海に一番近い街まで届いていた微かな潮の匂いは強烈になり、その匂いはどこか懐かしさの様なものを感じさせた。
そして初めて見る海の光景は、まさに驚嘆の一言に尽きた。
「エオスにある水は、その多くがカラーモンスターが放つ瘴気の影響で汚染されているところが多いけど、どうして海はこんなにも綺麗なのかしら……」
美しく透き通った波へ近付いたユキは、その波を見つめながらそんな事を呟いた。しかし、ユキがそんな疑問を口にするのはよく分かる。
このエオスにカラーモンスターが出現し始めて以降、各地にある水を含めた自然はカラーモンスターの放つ瘴気に徐々に犯され、水は生活用水として使えないくらいにまで汚染されていた。
そして人類は数少ない汚染されずに残っている水を大事に守り、それを利用して今も生きている。
だが、汚染された水も流れ込んでいるはずの海は、この様に綺麗なままだ。そこにはきっと何か秘密があるのだろうけど、その謎は未だに解き明かされてはいない。
なぜなら現在の人類が拠点としている場所からは海が遠く、カラーモンスターや魔獣などの妨害が多くてまともな調査を行えないからだ。
もしも海が汚染されない理由が解明できれば、人類の水事情もかなり改善される事だろう。
「こんなに綺麗だと、入って遊びたくなるよね。お兄ちゃん」
「そうだな。文献では昔の人達は、水着を着て海で遊んでたって書いてたしな」
「あーあ。これなら街で可愛い水着を探して買っておけば良かったよ……そしたらお兄ちゃんと思いっきり遊べたのに……」
「まあ、今日はシャルロッテさんの計らいで海を見に来ただけだから、それは仕方ないさ」
「ぶぅ~」
俺のそんな言葉に、ティアはもの凄く不満そうな表情を見せながら頬を膨らませた。歳で言えばまだ遊びたい盛りの年齢だから、ティアがこんな表情を見せるのも仕方ないと思える。
しかしだからと言って、今から街へ水着を買いに戻る時間的な余裕は無い。いくら海に一番近い街と言えど、ここまではそれなりの距離があるからだ。
「ユキも海で遊びたかったかい?」
「そうね……まったく興味が無いと言えば嘘になるけど、それもティアほどではないわね。それよりも、どうして海が汚染されないのか――そっちの方が興味があるわ」
なんともユキらしい回答に対し、俺は笑顔を浮かべた。
見た目も歳もティアと変わらない子供だというのに、その心と精神はとても八歳とは思えない程に成熟している。
「そっか。俺は2人と遊べないのはちょっと残念かな」
「あら? エリオスは私の水着姿を見たかったの?」
「えっ? いや、まあ、見たくないかと言えば嘘になるかな」
「へえー。エリオスも何だかんだで男なのね。私の水着姿が見たいなんて」
「お・に・い・ちゃん? そんなにユキの水着姿が見たかったの? 私のじゃなくて……」
いつもの様にユキの質問に答えると、その横に居たティアが冷たい笑顔を浮かべながら俺に迫って来た。
「い、いや、別にそう言う訳じゃ……」
「それじゃあどう言う訳なの? 今のやり取りを聞く限り、そういう意味にしか取れないんだけど? ちゃんと説明して? お兄ちゃん」
言い知れないほどの冷たさを帯びた笑顔を見せながら、ティアは俺に迫る。
そしてそんなティアを前に、俺は自然とその足を後退させていた。
「どうして後ろに下がるの? お兄ちゃん。やましい事があるから?」
「ち、違う! 俺が言いたかったのは、水着を着た2人と遊びたかったって意味だよっ! 俺は水着を着たティアも見たいんだ!」
「……本当にそう思ってる? お兄ちゃん」
「当たり前だろ? だってティアはこんなに可愛いんだから」
「…………」
それは紛れも無く俺の本心で、そこに一切の嘘は無い。
そして俺のそんな本音を聞いたティアは、少し顔を俯かせて身体をプルプルと震わせ始めたかと思うと、突然顔と両手を上げて口を開いた。
「ああーっ! やっぱり海に入ってお兄ちゃんと遊びた――――いっ!! 水着を着てお兄ちゃんに『世界一可愛い!』って言ってもらいたーいっ!!」
どうやら俺に対する誤解は晴れたらしく、先ほどまでの冷たい笑顔はさっぱりと消えていた。
「あははっ。そうは言っても、水着が無いから仕方ないだろう?」
「ぶぅー。シャルロッテさんが持たせてくれた荷物の中に、水着が入ってたらいいのになあ~」
「ははっ。シャルロッテさんはお昼のお弁当が入ってるって言ってたから、残念だけどそれはないだろうね。とりあえずせっかく用意してもらったんだから、お昼ご飯にしよう」
「そうね。時間的にはちょうどお昼だし、ここで海を見ながら食べるのもいいかもしれないわ。でもエリオス、カラーモンスターや魔獣の接近には十分に気を付けなさいね?」
「分かってるよ、ユキ」
俺は笑顔でそう答えたあと、シャルロッテさんから持たされていた大きな包みを開けた。するとその中にはとても大きな箱が五段ほど積み重ねられていて、更にその上には、白い布に包まれた何かがあった。
「うわー! シャルロッテさん、こんなに沢山お弁当を用意してくれたんだ。凄いなあ♪」
「ホント。凄い量だなこれは」
「3人で食べるには多過ぎるかもしれないけど、美味しくいただきましょう」
「そうだね」
俺は自分の道具袋からシートを取り出し、それを砂浜の部分へと敷いた。
そして積み重ねられたお弁当を上から順に取り、それをシートの上へ次々と並べていった。
「この包みには何が入ってるのかな?」
「さあ? でも、大きさを見る限りは食べ物じゃないと思うけどな」
「開けてみてもいいかな? お兄ちゃん」
「うん。いいよ」
正直俺も中身が気になっていたから、ティアの言葉にすぐに頷いた。
こうして俺がみんなの食事の用意を進める中、ティアは中身を覆っている白い布を外していく。そしてその布が全て取り外された時、現れた中身を見たティアは大きな歓喜の声を上げた。
「み、水着だっ! コレ水着だよっ! お兄ちゃん!」
取り出した中身の一枚を両手に持ち、それをさっと上げて俺に見せるティア。
それは可愛らしいフリルの付いた、黒に白の水玉模様が描かれたワンピース水着で、とてもティアに似合いそうなものだった。
「あっ! もう一つあるよっ!」
そう言うとティアは持っていた水着を下に置き、もう一つの水着を両手に持った。
「わあっ! これも可愛いっ!」
次にティアが両手で持ち上げた水着は、可愛らしいフリル付きのビキニ水着で、上下共に綺麗な空色をしていた。
そしてティアが持ち上げたその水着の下に男物の水着があるのが見えると、その上に一枚の手紙が置かれていた。俺はユキに水着を見せるティアを見ながらその手紙に手を伸ばし、手に取ったその手紙の内容を読んだ。
その手紙にはシャルロッテさんから、『この水着は今まで色々と手助けをしてくれたエリオス君達へのささやかなお礼です。私達には戦う力が無いから無理だけど、エリオス君達ならモンスターに襲われても平気だろうから、危なくない様にして海を楽しんで来てほしいです』――と書かれていた。
普段から海で遊ぶ事を切望していたティアの事をシャルロッテも知っていたから、この機会に海で遊べるようにと準備をしてくれたのだろう。
「お兄ちゃん! さっそく海で遊ぼうよっ!」
「待ちなさいティア。まずは昼食を摂るのが先よ。海で遊ぶのはそのあと」
「ええっ!? だったら早く食べて着替えようよ! ほらっ! お兄ちゃんも急いで食べて!」
「あ、ああ。分かったよ」
「むぐむぐ……コレ美味し――――い!!」
さっそくお弁当に手を付けたティアが、満面の笑顔を浮かべながら絶賛の声を上げる。
そんなはしゃぐティアを見ながらお弁当を食べ進めつつ、俺達はこのあと初めての海遊びを体験する事になった。
それにしても、あの様に大きな酒場を展開したにしては、珍しくコレと言った大問題は起きなかった。だがそれも、当然と言えば当然と言える。
なぜならこちらには、ティアとユキという優秀なモンスタースレイヤーが2人も揃っているのだから。
もちろんティアとユキがモンスタースレイヤーである事は、酒場に来たお客さん達は知らなかっただろうけど、途中で起こったトラブルをティアとユキが解決してくれた事により、2人の事はすぐに話題となってモンスタースレイヤーである事も知れ渡った。
そしてその2人がモンスタースレイヤーであると知れ渡れば、よほどの馬鹿者でない限りは問題を起こそうなどとは思わないだろう。つまり、ティアとユキがあの場に居ただけで、十分なトラブル防止効果があったわけだ。
こうして酒場が開かれた翌日の早朝。
部屋から出て下の階へ向かっていると、一階の受付カウンターがある場所に、なんとなく見覚えのある4人の女性達が集まっているのが見えた。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
受付カウンターに集まっていた女性達はみんな嬉しそうな笑顔を浮かべ、シャルロッテさんに向かって頭を下げていた。
「おはようございます。シャルロッテさん」
「あっ、エリオス君。おはよう。昨日はお手伝いありがとう。とっても助かっちゃった」
「いえ。お役に立てて良かったです。ところで、この方達は?」
「この人達はね、昨日ユキちゃんに助けてもらった人達なの」
「ああ。どおりで見覚えがあるなと思いましたよ」
「それでね、みんなうちの宿屋で働きたくて、こうして来てくれたんだって」
「そうなんです! 出されたお酒や食べ物も凄く美味しかったし、店の雰囲気も良かったから。それに、ホワイトプリンセスもこの宿屋を気に入ってるって聞いたので、これは是が非でもここで働きたいと思ったんです! ねーっ!」
「「「うん!!」」」
「なるほど。そういう事だったんですか」
「うん。それでね、せっかくこうやってここを気に入って来てくれたから、全員雇わせてもらう事にしたの」
「そうですか。シャルロッテさんがそう決めたなら、それがいいと思いますよ」
「うん。それじゃあ、朝食はもうしばらくしたら部屋に持って行くから、それまで待っててね」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃあみんな、さっそくだけどお仕事を覚えてもらうね。私について来て」
「「「「はーい!」」」」
シャルロッテさんも雇われた女性達も、みんな嬉しそうにしながらシャルロッテさん達の部屋がある方へと向かって行った。
まだまだ大変な事はあるだろうけど、こういった事を切っ掛けにしてまた宿屋が繁盛してくれればいいと思う。
そんな様子を見て俺達の役目は終わったなと感じつつ、俺は軽く外を散歩してから部屋へと戻って用意された朝食を摂った。
× × × ×
「ひろーいっ! これが海なんだ……凄いねっ! お兄ちゃん!」
「確かに凄いな……噂で聞いていた以上だよ」
朝食を食べ終わった俺達は、そのまま街を出て4時間ほどの修行を行い、その足で初めて海へと訪れた。
海は小さくもはっきりと聞こえる波音を立て、太陽の光が当たっている部分は満遍なくキラキラとした美しい煌きを見せている。そして海に一番近い街まで届いていた微かな潮の匂いは強烈になり、その匂いはどこか懐かしさの様なものを感じさせた。
そして初めて見る海の光景は、まさに驚嘆の一言に尽きた。
「エオスにある水は、その多くがカラーモンスターが放つ瘴気の影響で汚染されているところが多いけど、どうして海はこんなにも綺麗なのかしら……」
美しく透き通った波へ近付いたユキは、その波を見つめながらそんな事を呟いた。しかし、ユキがそんな疑問を口にするのはよく分かる。
このエオスにカラーモンスターが出現し始めて以降、各地にある水を含めた自然はカラーモンスターの放つ瘴気に徐々に犯され、水は生活用水として使えないくらいにまで汚染されていた。
そして人類は数少ない汚染されずに残っている水を大事に守り、それを利用して今も生きている。
だが、汚染された水も流れ込んでいるはずの海は、この様に綺麗なままだ。そこにはきっと何か秘密があるのだろうけど、その謎は未だに解き明かされてはいない。
なぜなら現在の人類が拠点としている場所からは海が遠く、カラーモンスターや魔獣などの妨害が多くてまともな調査を行えないからだ。
もしも海が汚染されない理由が解明できれば、人類の水事情もかなり改善される事だろう。
「こんなに綺麗だと、入って遊びたくなるよね。お兄ちゃん」
「そうだな。文献では昔の人達は、水着を着て海で遊んでたって書いてたしな」
「あーあ。これなら街で可愛い水着を探して買っておけば良かったよ……そしたらお兄ちゃんと思いっきり遊べたのに……」
「まあ、今日はシャルロッテさんの計らいで海を見に来ただけだから、それは仕方ないさ」
「ぶぅ~」
俺のそんな言葉に、ティアはもの凄く不満そうな表情を見せながら頬を膨らませた。歳で言えばまだ遊びたい盛りの年齢だから、ティアがこんな表情を見せるのも仕方ないと思える。
しかしだからと言って、今から街へ水着を買いに戻る時間的な余裕は無い。いくら海に一番近い街と言えど、ここまではそれなりの距離があるからだ。
「ユキも海で遊びたかったかい?」
「そうね……まったく興味が無いと言えば嘘になるけど、それもティアほどではないわね。それよりも、どうして海が汚染されないのか――そっちの方が興味があるわ」
なんともユキらしい回答に対し、俺は笑顔を浮かべた。
見た目も歳もティアと変わらない子供だというのに、その心と精神はとても八歳とは思えない程に成熟している。
「そっか。俺は2人と遊べないのはちょっと残念かな」
「あら? エリオスは私の水着姿を見たかったの?」
「えっ? いや、まあ、見たくないかと言えば嘘になるかな」
「へえー。エリオスも何だかんだで男なのね。私の水着姿が見たいなんて」
「お・に・い・ちゃん? そんなにユキの水着姿が見たかったの? 私のじゃなくて……」
いつもの様にユキの質問に答えると、その横に居たティアが冷たい笑顔を浮かべながら俺に迫って来た。
「い、いや、別にそう言う訳じゃ……」
「それじゃあどう言う訳なの? 今のやり取りを聞く限り、そういう意味にしか取れないんだけど? ちゃんと説明して? お兄ちゃん」
言い知れないほどの冷たさを帯びた笑顔を見せながら、ティアは俺に迫る。
そしてそんなティアを前に、俺は自然とその足を後退させていた。
「どうして後ろに下がるの? お兄ちゃん。やましい事があるから?」
「ち、違う! 俺が言いたかったのは、水着を着た2人と遊びたかったって意味だよっ! 俺は水着を着たティアも見たいんだ!」
「……本当にそう思ってる? お兄ちゃん」
「当たり前だろ? だってティアはこんなに可愛いんだから」
「…………」
それは紛れも無く俺の本心で、そこに一切の嘘は無い。
そして俺のそんな本音を聞いたティアは、少し顔を俯かせて身体をプルプルと震わせ始めたかと思うと、突然顔と両手を上げて口を開いた。
「ああーっ! やっぱり海に入ってお兄ちゃんと遊びた――――いっ!! 水着を着てお兄ちゃんに『世界一可愛い!』って言ってもらいたーいっ!!」
どうやら俺に対する誤解は晴れたらしく、先ほどまでの冷たい笑顔はさっぱりと消えていた。
「あははっ。そうは言っても、水着が無いから仕方ないだろう?」
「ぶぅー。シャルロッテさんが持たせてくれた荷物の中に、水着が入ってたらいいのになあ~」
「ははっ。シャルロッテさんはお昼のお弁当が入ってるって言ってたから、残念だけどそれはないだろうね。とりあえずせっかく用意してもらったんだから、お昼ご飯にしよう」
「そうね。時間的にはちょうどお昼だし、ここで海を見ながら食べるのもいいかもしれないわ。でもエリオス、カラーモンスターや魔獣の接近には十分に気を付けなさいね?」
「分かってるよ、ユキ」
俺は笑顔でそう答えたあと、シャルロッテさんから持たされていた大きな包みを開けた。するとその中にはとても大きな箱が五段ほど積み重ねられていて、更にその上には、白い布に包まれた何かがあった。
「うわー! シャルロッテさん、こんなに沢山お弁当を用意してくれたんだ。凄いなあ♪」
「ホント。凄い量だなこれは」
「3人で食べるには多過ぎるかもしれないけど、美味しくいただきましょう」
「そうだね」
俺は自分の道具袋からシートを取り出し、それを砂浜の部分へと敷いた。
そして積み重ねられたお弁当を上から順に取り、それをシートの上へ次々と並べていった。
「この包みには何が入ってるのかな?」
「さあ? でも、大きさを見る限りは食べ物じゃないと思うけどな」
「開けてみてもいいかな? お兄ちゃん」
「うん。いいよ」
正直俺も中身が気になっていたから、ティアの言葉にすぐに頷いた。
こうして俺がみんなの食事の用意を進める中、ティアは中身を覆っている白い布を外していく。そしてその布が全て取り外された時、現れた中身を見たティアは大きな歓喜の声を上げた。
「み、水着だっ! コレ水着だよっ! お兄ちゃん!」
取り出した中身の一枚を両手に持ち、それをさっと上げて俺に見せるティア。
それは可愛らしいフリルの付いた、黒に白の水玉模様が描かれたワンピース水着で、とてもティアに似合いそうなものだった。
「あっ! もう一つあるよっ!」
そう言うとティアは持っていた水着を下に置き、もう一つの水着を両手に持った。
「わあっ! これも可愛いっ!」
次にティアが両手で持ち上げた水着は、可愛らしいフリル付きのビキニ水着で、上下共に綺麗な空色をしていた。
そしてティアが持ち上げたその水着の下に男物の水着があるのが見えると、その上に一枚の手紙が置かれていた。俺はユキに水着を見せるティアを見ながらその手紙に手を伸ばし、手に取ったその手紙の内容を読んだ。
その手紙にはシャルロッテさんから、『この水着は今まで色々と手助けをしてくれたエリオス君達へのささやかなお礼です。私達には戦う力が無いから無理だけど、エリオス君達ならモンスターに襲われても平気だろうから、危なくない様にして海を楽しんで来てほしいです』――と書かれていた。
普段から海で遊ぶ事を切望していたティアの事をシャルロッテも知っていたから、この機会に海で遊べるようにと準備をしてくれたのだろう。
「お兄ちゃん! さっそく海で遊ぼうよっ!」
「待ちなさいティア。まずは昼食を摂るのが先よ。海で遊ぶのはそのあと」
「ええっ!? だったら早く食べて着替えようよ! ほらっ! お兄ちゃんも急いで食べて!」
「あ、ああ。分かったよ」
「むぐむぐ……コレ美味し――――い!!」
さっそくお弁当に手を付けたティアが、満面の笑顔を浮かべながら絶賛の声を上げる。
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