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第24話・言えなかった思い
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俺が知る限り、ティアと並んで最強に位置する実力を持つモンスタースレイヤー。ユキ・ホワイトスノー。
彼女は義兄さんの仇である額に傷のあるダークカラーのドラゴンを追い、俺とティアを置いて自分の故郷へと戻って行った。
そしてそんなユキを追って俺達はようやくその故郷へと辿り着いたというのに、肝心要のユキはもう、この世には居ない。
もちろんユキが死んだなんて信じられなかった俺は、片っ端から街の人にユキの事を聞いて回った。しかし俺が聞いて回った人達の答えは、1人として変わる事は無かった。
仮に1人でも正反対の答えを出してくれた人が居たなら、俺はまだ希望を持てたかもしれない。だが、現実はどこまでも非情なもので、俺は最終的にユキが死んだという事実を受け入れざるを得なかった。
そしてユキの故郷へと着いた日の夜。
俺は再び街外れの墓地へと訪れ、ユキの眠る墓を前にしゃがみ込んでいた。
「ユキ……君がやられてしまうなんて、俺には信じられないよ……」
ティアと一緒に俺の2人目の師匠として修行をつけてくれていたユキ。
修行はティア以上に厳しいところもあったけど、ユキからはモンスタースレイヤーとしての心構えや、その在り方を常に教えられていた。
修行に関してはとても厳しいユキだったけど、ユキは何よりも自分に厳しかった。それこそ一切の妥協を許さないほどに。
そんな自分に対する厳しさがあったらからこそ、ユキはあれほどの強さを持つに至った。だからこそ俺は信じられなかったのだ。ユキがモンスターに殺されたなど。
「やっぱりここに居たんだ……お兄ちゃん。そろそろ宿へ戻ろう?」
「…………なあ、ティア。ティアはこの一件、どう思う?」
「どう思うって?」
「本当にユキはモンスターに殺されたと思うかい?」
墓の前で座り込んでいた俺の隣に立ってそう言ってきたティアに対し、俺はそんな質問をした。するとティアは俺に向けていた視線をユキの眠る墓へと移し、考えを巡らせる様にして押し黙った。
「…………正直に言わせてもらえば、私だってあのユキがモンスターにやられたなんて思えない。だけど、どんなに強いモンスタースレイヤーだって、それ以上の力を持つモンスターが相手ならやられもする。だからユキが相手にしたダークカラーのドラゴンも、そういう奴だったのかもしれない……」
ティアはティアなりに、ユキが死んでしまった――という事実をしっかりと受け止めようとしていたのかもしれない。
だけどそれでも、俺はまだユキが死んでしまった事を受け入れられなかった。しかし目の前にあるユキの墓を目にすると、これは現実なんだ――という事を嫌でも思い知らされる。
「……お兄ちゃん。私ね、ユキの事が最初は好きじゃなかった。だって突然、私の大好きなお兄ちゃんの師匠になるなんて言い出したんだから」
ユキの墓を目の前にしたティアが、突然そんな話を始めた。
在りし日の故人の話は、残された者の心を酷く抉る時がある。だから俺は、できるならそんな話を聞きたくはなかった。
けれどこの時の俺は、なぜかティアの話しに静かに耳を傾けていた。
「ユキは素直じゃないし意地悪も言うから、本当に最初は嫌いだった。でもね、一緒に居る内に分かってきたんだ。ユキはとっても優しい子だって……」
ユキの事を語るティアの声が、段々と涙声になってきているのが分かった。
「……私ね、ユキと言い合いをするのも楽しかったんだ。孤児院では人見知りな私に気を遣って誰も話し掛けて来なかったし、歳の近い友達も居なかったから……だからね、私に何も気を遣わずに真正面から話し掛けてくれるユキの事が好きだったんだ……だからね……だからね――――」
そこまで言うとティアは言葉を詰まらせ、俺の胸に飛び付いて来た。
「うわあああ――――ん! 私、ユキともっと仲良くしたかったよっ! もっと沢山お話をして、もっと沢山言い合いをして、もっと沢山遊びたかったよっ! 私、悔しいよっ…………」
俺の胸で大泣きしながら、在りし日のユキに言えなかった思いを口にしていくティア。
そんなティアのユキには言えなかった思いを聞いていると、俺まで瞳から熱いものが溢れ出てきた。
「くっ…………ティア。俺だって悔しいよ……だから、ユキの仇は俺達2人で討とう! ユキが天国で笑ってくれる様に!」
「お兄ちゃん…………うん! 分かった! 私、お兄ちゃんと一緒にユキの仇を討つよ! 絶対にっ!!」
キラキラと瞬く星達の下。
俺とティアはユキの墓標にダークカラーのドラゴンを絶対に討ち取ると誓い、涙を拭って街へと戻った。
× × × ×
ユキの故郷へとやって来た翌日の夕暮れ。
俺とティアは泊まっていた宿屋の部屋で話し合いを進めていた。その内容が何かと言えば、もちろんユキの仇であるダークカラーのドラゴンについてだ。
本当なら今すぐにでもそのドラゴンを捜し出してユキの弔い合戦をしたいところだけど、事はそう簡単ではない。
なぜなら、あのユキが討伐ができなかったドラゴンを相手にしようと言うのだから、かなり慎重に相手の情報収集をしてから戦いに臨まないと、ユキの仇を討つどころか、俺達が殺されてしまう可能性だってある。
と言う訳で俺達は一日のほとんどを情報収集に費やしたわけだが、収集した情報の中には、どうにも理解し難いものがあった。
「うーん……どう考えてもおかしいよな……」
「そうだよね。どう考えたっておかしいもんね……」
俺達は収集した情報の一部を前に頭を捻っていた。
それはダークカラーのドラゴンについての事なのだが、とある情報が俺達2人の頭を酷く悩ませている。
「カラーモンスターが突然街中に現れた――とか、普通なら絶対にありえないもんね……」
「そうだよなあ……」
このエオスに存在する街は、街を中心に距離の差はあっても、必ず三重の円状結界が張り巡らされている。故にカラーモンスターはその結界を破壊しない限りは、人の生活圏に入る事すらできない。
それにもかかわらず、ユキを倒したと言うドラゴンは結界を破壊して侵入したわけでもなく、突然街中にその姿を現した。これはどう考えてもおかしい。
しかも更におかしいのは、街中に出現したドラゴンはユキを倒すと、忽然とその姿を消したという事だ。
普通に考えればダークカラーのドラゴンが街中にまで侵入したら、その街はもう壊滅したも同然という事になる。それなのにそのドラゴンは街を破壊もせず、誰にもその姿を見られずにその場から姿を消した。
そんな聞いた事もない現象を起こし、カラーモンスターとは思えない行動をする不可解なドラゴン。俺達がまずやるべき事は、その不可解な現象について調べを進める事だろう。
「まあ、ここで頭を捻っていても答えは出ないだろうから、一つ一つ的を絞って調査をしてみよう」
「そうだね。ユキの仇を討つんだから、しっかり確実にいかないとだもんね」
「ああ。だから今日は、食事を済ませたら早めに寝ておこう。明日もまた情報収集に時間を使うだろうからな」
「うん。そうだね」
こうして俺とティアは外のお店で食事を済ませ、宿屋に戻ってから早々にベッドに入って明日に備えた。
彼女は義兄さんの仇である額に傷のあるダークカラーのドラゴンを追い、俺とティアを置いて自分の故郷へと戻って行った。
そしてそんなユキを追って俺達はようやくその故郷へと辿り着いたというのに、肝心要のユキはもう、この世には居ない。
もちろんユキが死んだなんて信じられなかった俺は、片っ端から街の人にユキの事を聞いて回った。しかし俺が聞いて回った人達の答えは、1人として変わる事は無かった。
仮に1人でも正反対の答えを出してくれた人が居たなら、俺はまだ希望を持てたかもしれない。だが、現実はどこまでも非情なもので、俺は最終的にユキが死んだという事実を受け入れざるを得なかった。
そしてユキの故郷へと着いた日の夜。
俺は再び街外れの墓地へと訪れ、ユキの眠る墓を前にしゃがみ込んでいた。
「ユキ……君がやられてしまうなんて、俺には信じられないよ……」
ティアと一緒に俺の2人目の師匠として修行をつけてくれていたユキ。
修行はティア以上に厳しいところもあったけど、ユキからはモンスタースレイヤーとしての心構えや、その在り方を常に教えられていた。
修行に関してはとても厳しいユキだったけど、ユキは何よりも自分に厳しかった。それこそ一切の妥協を許さないほどに。
そんな自分に対する厳しさがあったらからこそ、ユキはあれほどの強さを持つに至った。だからこそ俺は信じられなかったのだ。ユキがモンスターに殺されたなど。
「やっぱりここに居たんだ……お兄ちゃん。そろそろ宿へ戻ろう?」
「…………なあ、ティア。ティアはこの一件、どう思う?」
「どう思うって?」
「本当にユキはモンスターに殺されたと思うかい?」
墓の前で座り込んでいた俺の隣に立ってそう言ってきたティアに対し、俺はそんな質問をした。するとティアは俺に向けていた視線をユキの眠る墓へと移し、考えを巡らせる様にして押し黙った。
「…………正直に言わせてもらえば、私だってあのユキがモンスターにやられたなんて思えない。だけど、どんなに強いモンスタースレイヤーだって、それ以上の力を持つモンスターが相手ならやられもする。だからユキが相手にしたダークカラーのドラゴンも、そういう奴だったのかもしれない……」
ティアはティアなりに、ユキが死んでしまった――という事実をしっかりと受け止めようとしていたのかもしれない。
だけどそれでも、俺はまだユキが死んでしまった事を受け入れられなかった。しかし目の前にあるユキの墓を目にすると、これは現実なんだ――という事を嫌でも思い知らされる。
「……お兄ちゃん。私ね、ユキの事が最初は好きじゃなかった。だって突然、私の大好きなお兄ちゃんの師匠になるなんて言い出したんだから」
ユキの墓を目の前にしたティアが、突然そんな話を始めた。
在りし日の故人の話は、残された者の心を酷く抉る時がある。だから俺は、できるならそんな話を聞きたくはなかった。
けれどこの時の俺は、なぜかティアの話しに静かに耳を傾けていた。
「ユキは素直じゃないし意地悪も言うから、本当に最初は嫌いだった。でもね、一緒に居る内に分かってきたんだ。ユキはとっても優しい子だって……」
ユキの事を語るティアの声が、段々と涙声になってきているのが分かった。
「……私ね、ユキと言い合いをするのも楽しかったんだ。孤児院では人見知りな私に気を遣って誰も話し掛けて来なかったし、歳の近い友達も居なかったから……だからね、私に何も気を遣わずに真正面から話し掛けてくれるユキの事が好きだったんだ……だからね……だからね――――」
そこまで言うとティアは言葉を詰まらせ、俺の胸に飛び付いて来た。
「うわあああ――――ん! 私、ユキともっと仲良くしたかったよっ! もっと沢山お話をして、もっと沢山言い合いをして、もっと沢山遊びたかったよっ! 私、悔しいよっ…………」
俺の胸で大泣きしながら、在りし日のユキに言えなかった思いを口にしていくティア。
そんなティアのユキには言えなかった思いを聞いていると、俺まで瞳から熱いものが溢れ出てきた。
「くっ…………ティア。俺だって悔しいよ……だから、ユキの仇は俺達2人で討とう! ユキが天国で笑ってくれる様に!」
「お兄ちゃん…………うん! 分かった! 私、お兄ちゃんと一緒にユキの仇を討つよ! 絶対にっ!!」
キラキラと瞬く星達の下。
俺とティアはユキの墓標にダークカラーのドラゴンを絶対に討ち取ると誓い、涙を拭って街へと戻った。
× × × ×
ユキの故郷へとやって来た翌日の夕暮れ。
俺とティアは泊まっていた宿屋の部屋で話し合いを進めていた。その内容が何かと言えば、もちろんユキの仇であるダークカラーのドラゴンについてだ。
本当なら今すぐにでもそのドラゴンを捜し出してユキの弔い合戦をしたいところだけど、事はそう簡単ではない。
なぜなら、あのユキが討伐ができなかったドラゴンを相手にしようと言うのだから、かなり慎重に相手の情報収集をしてから戦いに臨まないと、ユキの仇を討つどころか、俺達が殺されてしまう可能性だってある。
と言う訳で俺達は一日のほとんどを情報収集に費やしたわけだが、収集した情報の中には、どうにも理解し難いものがあった。
「うーん……どう考えてもおかしいよな……」
「そうだよね。どう考えたっておかしいもんね……」
俺達は収集した情報の一部を前に頭を捻っていた。
それはダークカラーのドラゴンについての事なのだが、とある情報が俺達2人の頭を酷く悩ませている。
「カラーモンスターが突然街中に現れた――とか、普通なら絶対にありえないもんね……」
「そうだよなあ……」
このエオスに存在する街は、街を中心に距離の差はあっても、必ず三重の円状結界が張り巡らされている。故にカラーモンスターはその結界を破壊しない限りは、人の生活圏に入る事すらできない。
それにもかかわらず、ユキを倒したと言うドラゴンは結界を破壊して侵入したわけでもなく、突然街中にその姿を現した。これはどう考えてもおかしい。
しかも更におかしいのは、街中に出現したドラゴンはユキを倒すと、忽然とその姿を消したという事だ。
普通に考えればダークカラーのドラゴンが街中にまで侵入したら、その街はもう壊滅したも同然という事になる。それなのにそのドラゴンは街を破壊もせず、誰にもその姿を見られずにその場から姿を消した。
そんな聞いた事もない現象を起こし、カラーモンスターとは思えない行動をする不可解なドラゴン。俺達がまずやるべき事は、その不可解な現象について調べを進める事だろう。
「まあ、ここで頭を捻っていても答えは出ないだろうから、一つ一つ的を絞って調査をしてみよう」
「そうだね。ユキの仇を討つんだから、しっかり確実にいかないとだもんね」
「ああ。だから今日は、食事を済ませたら早めに寝ておこう。明日もまた情報収集に時間を使うだろうからな」
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