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第27話・ユキの教えは心の中に
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巷を騒がせていたダークドラゴンの正体。それは『神の心臓』とやらを持つホワイトスノー当主、ライゼリア・ホワイトスノーだった。
そして俺を街外れの第三結界の際まで誘い出してその正体を露にしたライゼリアは、鋭く尖った牙と爪、殺意を剥き出しにして俺に襲いかかろうとしていた。
相手は熟練のモンスタースレイヤーでも苦戦を強いられる、ダークカラーのドラゴン。そんなダークドラゴンに修行の最中であるモンスタースレイヤー見習いの俺がいくら頑張っても、打ち勝つ事は難しいだろう。
けど、俺にもモンスタースレイヤーを目指す者としての意地があるし、何より相手はユキの仇だから簡単には引き下がれない。
「相手がモンスタースレイヤー見習いではあっと言う間に終わるかもしれんが、せいぜい頑張って抗ってみせろ!」
「おわっ!?」
ダークドラゴンへと変貌したライゼリアは、鋭く尖った爪がある前足を俺へと突き出して攻撃をしてきた。
そんなライゼリアの動きは今まで俺が遭遇したどんなダークカラーのモンスターよりも素早く、その巨体に似つかわしくない能力に驚きを隠せなかった。
「ほお。見習いのくせに今のをかわすとは、なかなかやるじゃないか」
「馬鹿にするな! いくら俺がモンスタースレイヤー見習いでも、お前なんかにやられたりはしないっ!」
相手はダークカラーのドラゴン。しかも神の心臓とやらで変貌した元人間。そんなライゼリアの能力が、既存のダークドラゴンと似た様な感じだとは思えない。
しかしどちらにしろ俺には荷が重い相手なのは間違いないので、俺は最初っから全力で攻撃をすると決めていた。
「クククッ、いい度胸じゃないか! その調子で俺を退屈させない様にしてくれよ?」
「俺はお前の遊び相手になってやるつもりはないっ! ダークオブセイバー!!」
空高く顕現させた漆黒の剣が、振り下ろした俺の手の動きに従って稲光の如き速さでライゼリアへと落ちる。
俺のダークオブセイバーを避ける素振りすら見せないライゼリアに対し、俺は確実にダークオブセイバーが決まると思った。だが、その漆黒の剣がライゼリアを貫こうとした瞬間、俺のダークオブセイバーはまるで霧散するかの様に消え去ってしまった。
「なっ!? 何だ今のは!?」
「クククッ、どうした? お前の攻撃はもう終わりか?」
「くっ……ダークハンドスワンプ!」
俺はライゼリアから距離をとり、次の魔法を放った。
しかしライゼリアの前に広がった闇の沼から伸びた漆黒の手は、ライゼリアを掴む直前に次々と霧散し、ダークオブセイバーと同様に消え去ってしまった。
――どういう事だ? 何で当たる直前に魔法が消える?
「クククッ。解らない――って顔をしてるなあ。まあいい、せっかくだから教えてやるよ。今の俺はなあ、ある魔法を使ってるんだよ」
「ある魔法?」
「ああ。それは今は失われた古代魔法、ディスペルマジックだ。これは便利だぞ。なにせ相手が使う全ての魔法を、悉く消し去ってくれるからな」
「なるほど。それで俺の魔法が当たりもせずに消え去ったってわけか」
「そういう事だ。そしてそれが指し示すものは、魔法攻撃は絶対に俺には効かないって事だ!」
既存のダークドラゴンとは違った能力を持っていてもおかしくはないと思っていたけど、まさか失われた古代魔法を使えるとは思ってもいなかった。
そして奴の言うディスペルマジックが本当に全ての魔法を無効化するんだとしたら、俺の状況は更に不利なものになる。
「くそっ……」
「んん~? さっきまでの勢いはどうしたあ? 魔法が使えないと戦う事もできないのか?」
正直に言って、魔法が通じないというのはヤバイ。
しかしだからと言って、魔法無しで戦って勝てるほど甘い相手じゃないのも分かる。
――どうする? どうすればいい? 考えろ、考えるんだ……。
「ククク。そっちが攻撃して来ないなら、俺から行くぞ?」
俺が打開策を必死に考えていると、ライゼリアはニヤリと鋭い牙を見せてから俺に突進して来た。
そのスピードは本当に巨体とは思えないほどに速く、俺はライゼリアの爪や尻尾による連続攻撃をかわすので精一杯だった。
「はあはあっ」
「どうした? だいぶ息が上がってるじゃないか? そんな調子で俺を倒せるのか?」
「ふーっ……お前にそんな心配をされる覚えはないよ」
「ちっ、相変わらず口の減らないガキだな……ちょっと痛い思いをするか?」
少し不機嫌な感じでそう言うと、ライゼリアはまた俺に向かって突進して来た。
「くっ! ダークバレット!」
しかし今度の突進はさっきまでよりも格段に速く、俺はその突進をかわしきれないと思い、咄嗟に両手を前に突き出して魔法を放った。
「!? ディスペルマジック!!」
闇の銃弾が凄まじい速度で両手から放たれると、ライゼリアはなぜかその動きを完全に止めて防御にまわった。
――なんだ? どうして急に突進を止めた?
そんな事を思ってつい警戒を怠ってしまった次の瞬間、ライゼリアが立ち止まった事で立ち昇った砂煙の向こうから、突然ドラゴンの尻尾が現われた。
そして砂煙を切り裂く様にして現れたその尻尾の先は俺の腹部をとらえ、そのまま俺を遠くまで弾き飛ばした。
「ぐはっ! く、くそっ……」
尻尾の一撃で思いっきり弾き飛ばされた俺は、全身が痺れる様な感覚の中、凄まじい痛みが走る腹部を押さえながらなんとか地面に片膝を着いた。そんな俺の口からは大量の血が出ているらしく、俺の下の地面は血を浴びて真っ赤に染まっていた。
「今のはいい感触だったなあ。いい所に当たったんじゃねえかあ?」
今にも意識を失いそうなほどの痛みに耐えながら声がした方を向くと、ライゼリアが鋭い牙を剥き出しにしてニヤリとしていた。
「しかしまあ、今のは惜しかったよなあ。もう少しで俺に一矢報いる事ができたかもしれないのに。ククク」
その言葉を聞いた俺は、ライゼリアの言動に妙な違和を感じた。俺の中で何かが引っ掛かったのだ。
「うぐっ……」
しかしそれに対する思考も激しい痛みが邪魔をし、上手く形になっていかない。
それでも俺は必死に思考を巡らせ、違和感の正体を探る。
――魔法を放った瞬間に立ち止まったライゼリア。そして魔法攻撃を放った俺に対して、『惜しかったな』と言った意味……これには関連があるはずだ。そこを看破できれば、絶対にあとからやって来るティアの役に立つはず……。
ユキの仇を討つ為に、俺は今までに無いくらいに加速的に思考を巡らせた。
こうして考えられる可能性を探して思考のパズルをはめ込んでいたその瞬間、俺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
そしてその可能性が脳裏に浮かんだ時、俺はライゼリアの身体を観察する為に目を細めて凝視した。
「ずいぶんいい所に当たっちまったみたいだなあ。身動き一つとれないみてえじゃねえか」
「…………」
俺は軽口を叩くライゼリアを睨み付ける様に見ながら、まだお前には屈していない――という意志を示した。
「ふん。闘志だけは見事なもんだな。だが、その状態でいつまでその闘志が持つかな!!」
そう言うとライゼリアは、再び俺に向かって突進して来た。
そしてそれを見た俺は腹部を押さえていた右手を前へと突き出し、手の平に魔力を込めた。
「ダークボール!」
漆黒の球体が俺の手の平から複数放たれ、ライゼリアと目掛けて飛んで行く。
だが、俺の放ったダークボールは予想通りに立ち止まったライゼリアの前で霧散した。
そしてそれを見た俺は、そこから次々に魔法攻撃をその場から放った。そしてその間、ライゼリアはその場からピクリとも動かなかった。
「俺に敵わないと悟ってヤケクソの攻撃か? 少しは骨があるかと思ったが、お前も大した事はなかったなあ」
落胆した様な声でそんな事を言うライゼリアだが、ここまでは俺の思惑通りだ。
だが俺の立てた仮説を立証するには、あと一手間足りない。そしてそれを行えるのは俺ではなく、ティアを置いて他に居ない。
「そろそろお前と遊ぶのも飽きてきたし、そろそろ死ぬか?」
「残念だけど、俺を殺してもお前はティアに倒される。俺の師匠、最強のモンスタースレイヤーであるティアにな!」
「ククク……アーハッハッハッ! 何を言い出すかと思えば、あの小娘が俺を倒すだと? あの小娘と並び評されるユキですら、俺には敵わず殺されたんだぞ? それを分かってるのか?」
「お前こそ何も分かっていない。真の強者たるモンスタースレイヤーが、モンスターを相手に一矢も報いずやられるわけがないって事をな」
「何だと?」
「お前のディスペルマジックは決して完全無欠じゃない。それはお前の身体にいくつかある小さな傷が物語っている。そしてその傷は、まだそんなに日が経っていないものが多い。て事は、その傷は戦ったモンスタースレイヤー達につけられたものだと考えるのが妥当だ。そしてその中には、明らかに魔法によってできた傷もある。つまり、お前を倒す術は絶対にあるって事だ! だから倒す術が存在するなら、ティアがお前に負ける事は絶対にないっ!」
「ククク……伊達にユキの師事を受けたわけじゃないって事か。大した観察眼だ。だが、俺を傷付ける術があっても、俺に挑んだモンスタースレイヤーはみんな殺されちまったって事を忘れてねえか?」
「忘れてないさ。それでもティアは、絶対にお前を打ち倒す」
「ちっ……どこまでもクソ生意気なガキだな……。もういい、お前はここで死ね。そしてお前の死体を手土産に、あの小娘もすぐに同じ場所へ送ってやる」
そう言うとライゼリアは体勢を低くして後ろ足をグッと踏み込み、俺へ向けて突撃する準備を始めた。
本当ならティアが来るまでの時間稼ぎをしたいところだが、最初っから全力で戦っていた俺に残されている力はほぼ無い。
だが、ここでむざむざと相手の好きにやられては、あの世でユキに怒られてしまう。俺は残された魔力の全てを集め、最後の抵抗を試みようと決めた。
俺はふらふらと定まらない突き出した右手の手首を左手で掴み押さえ、ライゼリアの方へと向けた。
そして俺は突進を始めたライゼリアへ向けて最後の魔法を放ったが、それもディスペルマジックによって霧散し、俺はもう、魔法を掻き消して再突撃を始めたライゼリアを止める術なく見つめるしかなかった。
――ユキ……俺の手で仇を討てなくてごめん……。
走り迫るライゼリアを見ながら心の中でユキに謝る。
そしていよいよライゼリアが目前に迫った時、空の高い所から何かが空を切る音が聞こえてきた。
「なっ、何だ!?」
向かって来ていたライゼリアと俺の間の大地に、一本の巨大な漆黒の剣が突き刺さった。それは紛れもなく、ティアの使うダークオブセイバーだった。
そしてそれを見た俺は、寸でのところで来てくれたティアに対して安堵の笑みを浮かべた。
「ティア。来てくれてありがとう……」
「遅くなってごめんね。お兄ちゃん」
「なんとかここまで頑張ったけど、俺にはユキの仇を討てなかったよ……」
「大丈夫。ユキの仇とお兄ちゃんをこんな目に遭わせた償いは、私がきっちりとさせるから」
「うん。信じてるよ、ティア。でもその前に――」
俺は今にも途切れそうな意識をなんとか繋ぎ止め、ティアにライゼリアのディスペルマジックに対する仮説と、その仮説が正しかった場合のそれを破る道筋を伝えた。
「――分かったよ、お兄ちゃん。あとは私に任せておいて」
「ああ……こんな時ばっかり頼ってごめんな……ティア…………」
俺はそれを伝え終えると同時に、意識がぷっつりと途切れた。
そして俺を街外れの第三結界の際まで誘い出してその正体を露にしたライゼリアは、鋭く尖った牙と爪、殺意を剥き出しにして俺に襲いかかろうとしていた。
相手は熟練のモンスタースレイヤーでも苦戦を強いられる、ダークカラーのドラゴン。そんなダークドラゴンに修行の最中であるモンスタースレイヤー見習いの俺がいくら頑張っても、打ち勝つ事は難しいだろう。
けど、俺にもモンスタースレイヤーを目指す者としての意地があるし、何より相手はユキの仇だから簡単には引き下がれない。
「相手がモンスタースレイヤー見習いではあっと言う間に終わるかもしれんが、せいぜい頑張って抗ってみせろ!」
「おわっ!?」
ダークドラゴンへと変貌したライゼリアは、鋭く尖った爪がある前足を俺へと突き出して攻撃をしてきた。
そんなライゼリアの動きは今まで俺が遭遇したどんなダークカラーのモンスターよりも素早く、その巨体に似つかわしくない能力に驚きを隠せなかった。
「ほお。見習いのくせに今のをかわすとは、なかなかやるじゃないか」
「馬鹿にするな! いくら俺がモンスタースレイヤー見習いでも、お前なんかにやられたりはしないっ!」
相手はダークカラーのドラゴン。しかも神の心臓とやらで変貌した元人間。そんなライゼリアの能力が、既存のダークドラゴンと似た様な感じだとは思えない。
しかしどちらにしろ俺には荷が重い相手なのは間違いないので、俺は最初っから全力で攻撃をすると決めていた。
「クククッ、いい度胸じゃないか! その調子で俺を退屈させない様にしてくれよ?」
「俺はお前の遊び相手になってやるつもりはないっ! ダークオブセイバー!!」
空高く顕現させた漆黒の剣が、振り下ろした俺の手の動きに従って稲光の如き速さでライゼリアへと落ちる。
俺のダークオブセイバーを避ける素振りすら見せないライゼリアに対し、俺は確実にダークオブセイバーが決まると思った。だが、その漆黒の剣がライゼリアを貫こうとした瞬間、俺のダークオブセイバーはまるで霧散するかの様に消え去ってしまった。
「なっ!? 何だ今のは!?」
「クククッ、どうした? お前の攻撃はもう終わりか?」
「くっ……ダークハンドスワンプ!」
俺はライゼリアから距離をとり、次の魔法を放った。
しかしライゼリアの前に広がった闇の沼から伸びた漆黒の手は、ライゼリアを掴む直前に次々と霧散し、ダークオブセイバーと同様に消え去ってしまった。
――どういう事だ? 何で当たる直前に魔法が消える?
「クククッ。解らない――って顔をしてるなあ。まあいい、せっかくだから教えてやるよ。今の俺はなあ、ある魔法を使ってるんだよ」
「ある魔法?」
「ああ。それは今は失われた古代魔法、ディスペルマジックだ。これは便利だぞ。なにせ相手が使う全ての魔法を、悉く消し去ってくれるからな」
「なるほど。それで俺の魔法が当たりもせずに消え去ったってわけか」
「そういう事だ。そしてそれが指し示すものは、魔法攻撃は絶対に俺には効かないって事だ!」
既存のダークドラゴンとは違った能力を持っていてもおかしくはないと思っていたけど、まさか失われた古代魔法を使えるとは思ってもいなかった。
そして奴の言うディスペルマジックが本当に全ての魔法を無効化するんだとしたら、俺の状況は更に不利なものになる。
「くそっ……」
「んん~? さっきまでの勢いはどうしたあ? 魔法が使えないと戦う事もできないのか?」
正直に言って、魔法が通じないというのはヤバイ。
しかしだからと言って、魔法無しで戦って勝てるほど甘い相手じゃないのも分かる。
――どうする? どうすればいい? 考えろ、考えるんだ……。
「ククク。そっちが攻撃して来ないなら、俺から行くぞ?」
俺が打開策を必死に考えていると、ライゼリアはニヤリと鋭い牙を見せてから俺に突進して来た。
そのスピードは本当に巨体とは思えないほどに速く、俺はライゼリアの爪や尻尾による連続攻撃をかわすので精一杯だった。
「はあはあっ」
「どうした? だいぶ息が上がってるじゃないか? そんな調子で俺を倒せるのか?」
「ふーっ……お前にそんな心配をされる覚えはないよ」
「ちっ、相変わらず口の減らないガキだな……ちょっと痛い思いをするか?」
少し不機嫌な感じでそう言うと、ライゼリアはまた俺に向かって突進して来た。
「くっ! ダークバレット!」
しかし今度の突進はさっきまでよりも格段に速く、俺はその突進をかわしきれないと思い、咄嗟に両手を前に突き出して魔法を放った。
「!? ディスペルマジック!!」
闇の銃弾が凄まじい速度で両手から放たれると、ライゼリアはなぜかその動きを完全に止めて防御にまわった。
――なんだ? どうして急に突進を止めた?
そんな事を思ってつい警戒を怠ってしまった次の瞬間、ライゼリアが立ち止まった事で立ち昇った砂煙の向こうから、突然ドラゴンの尻尾が現われた。
そして砂煙を切り裂く様にして現れたその尻尾の先は俺の腹部をとらえ、そのまま俺を遠くまで弾き飛ばした。
「ぐはっ! く、くそっ……」
尻尾の一撃で思いっきり弾き飛ばされた俺は、全身が痺れる様な感覚の中、凄まじい痛みが走る腹部を押さえながらなんとか地面に片膝を着いた。そんな俺の口からは大量の血が出ているらしく、俺の下の地面は血を浴びて真っ赤に染まっていた。
「今のはいい感触だったなあ。いい所に当たったんじゃねえかあ?」
今にも意識を失いそうなほどの痛みに耐えながら声がした方を向くと、ライゼリアが鋭い牙を剥き出しにしてニヤリとしていた。
「しかしまあ、今のは惜しかったよなあ。もう少しで俺に一矢報いる事ができたかもしれないのに。ククク」
その言葉を聞いた俺は、ライゼリアの言動に妙な違和を感じた。俺の中で何かが引っ掛かったのだ。
「うぐっ……」
しかしそれに対する思考も激しい痛みが邪魔をし、上手く形になっていかない。
それでも俺は必死に思考を巡らせ、違和感の正体を探る。
――魔法を放った瞬間に立ち止まったライゼリア。そして魔法攻撃を放った俺に対して、『惜しかったな』と言った意味……これには関連があるはずだ。そこを看破できれば、絶対にあとからやって来るティアの役に立つはず……。
ユキの仇を討つ為に、俺は今までに無いくらいに加速的に思考を巡らせた。
こうして考えられる可能性を探して思考のパズルをはめ込んでいたその瞬間、俺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
そしてその可能性が脳裏に浮かんだ時、俺はライゼリアの身体を観察する為に目を細めて凝視した。
「ずいぶんいい所に当たっちまったみたいだなあ。身動き一つとれないみてえじゃねえか」
「…………」
俺は軽口を叩くライゼリアを睨み付ける様に見ながら、まだお前には屈していない――という意志を示した。
「ふん。闘志だけは見事なもんだな。だが、その状態でいつまでその闘志が持つかな!!」
そう言うとライゼリアは、再び俺に向かって突進して来た。
そしてそれを見た俺は腹部を押さえていた右手を前へと突き出し、手の平に魔力を込めた。
「ダークボール!」
漆黒の球体が俺の手の平から複数放たれ、ライゼリアと目掛けて飛んで行く。
だが、俺の放ったダークボールは予想通りに立ち止まったライゼリアの前で霧散した。
そしてそれを見た俺は、そこから次々に魔法攻撃をその場から放った。そしてその間、ライゼリアはその場からピクリとも動かなかった。
「俺に敵わないと悟ってヤケクソの攻撃か? 少しは骨があるかと思ったが、お前も大した事はなかったなあ」
落胆した様な声でそんな事を言うライゼリアだが、ここまでは俺の思惑通りだ。
だが俺の立てた仮説を立証するには、あと一手間足りない。そしてそれを行えるのは俺ではなく、ティアを置いて他に居ない。
「そろそろお前と遊ぶのも飽きてきたし、そろそろ死ぬか?」
「残念だけど、俺を殺してもお前はティアに倒される。俺の師匠、最強のモンスタースレイヤーであるティアにな!」
「ククク……アーハッハッハッ! 何を言い出すかと思えば、あの小娘が俺を倒すだと? あの小娘と並び評されるユキですら、俺には敵わず殺されたんだぞ? それを分かってるのか?」
「お前こそ何も分かっていない。真の強者たるモンスタースレイヤーが、モンスターを相手に一矢も報いずやられるわけがないって事をな」
「何だと?」
「お前のディスペルマジックは決して完全無欠じゃない。それはお前の身体にいくつかある小さな傷が物語っている。そしてその傷は、まだそんなに日が経っていないものが多い。て事は、その傷は戦ったモンスタースレイヤー達につけられたものだと考えるのが妥当だ。そしてその中には、明らかに魔法によってできた傷もある。つまり、お前を倒す術は絶対にあるって事だ! だから倒す術が存在するなら、ティアがお前に負ける事は絶対にないっ!」
「ククク……伊達にユキの師事を受けたわけじゃないって事か。大した観察眼だ。だが、俺を傷付ける術があっても、俺に挑んだモンスタースレイヤーはみんな殺されちまったって事を忘れてねえか?」
「忘れてないさ。それでもティアは、絶対にお前を打ち倒す」
「ちっ……どこまでもクソ生意気なガキだな……。もういい、お前はここで死ね。そしてお前の死体を手土産に、あの小娘もすぐに同じ場所へ送ってやる」
そう言うとライゼリアは体勢を低くして後ろ足をグッと踏み込み、俺へ向けて突撃する準備を始めた。
本当ならティアが来るまでの時間稼ぎをしたいところだが、最初っから全力で戦っていた俺に残されている力はほぼ無い。
だが、ここでむざむざと相手の好きにやられては、あの世でユキに怒られてしまう。俺は残された魔力の全てを集め、最後の抵抗を試みようと決めた。
俺はふらふらと定まらない突き出した右手の手首を左手で掴み押さえ、ライゼリアの方へと向けた。
そして俺は突進を始めたライゼリアへ向けて最後の魔法を放ったが、それもディスペルマジックによって霧散し、俺はもう、魔法を掻き消して再突撃を始めたライゼリアを止める術なく見つめるしかなかった。
――ユキ……俺の手で仇を討てなくてごめん……。
走り迫るライゼリアを見ながら心の中でユキに謝る。
そしていよいよライゼリアが目前に迫った時、空の高い所から何かが空を切る音が聞こえてきた。
「なっ、何だ!?」
向かって来ていたライゼリアと俺の間の大地に、一本の巨大な漆黒の剣が突き刺さった。それは紛れもなく、ティアの使うダークオブセイバーだった。
そしてそれを見た俺は、寸でのところで来てくれたティアに対して安堵の笑みを浮かべた。
「ティア。来てくれてありがとう……」
「遅くなってごめんね。お兄ちゃん」
「なんとかここまで頑張ったけど、俺にはユキの仇を討てなかったよ……」
「大丈夫。ユキの仇とお兄ちゃんをこんな目に遭わせた償いは、私がきっちりとさせるから」
「うん。信じてるよ、ティア。でもその前に――」
俺は今にも途切れそうな意識をなんとか繋ぎ止め、ティアにライゼリアのディスペルマジックに対する仮説と、その仮説が正しかった場合のそれを破る道筋を伝えた。
「――分かったよ、お兄ちゃん。あとは私に任せておいて」
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