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第26話・選ばれし者
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ホワイトスノー家当主、ライゼリア・ホワイトスノーさんにお話を聞いてお屋敷から離れたあと、俺は率直な感想が聞きたくてティアに話し掛けた。
「ティア。ライゼリアさんはどうだった?」
「うーん……あれだけのやり取りじゃ正直よく分かんないけど、あの人が何かを隠してるのは確かだと思うよ」
「その理由は?」
「あの人、話をしてる間はずっとそわそわして落ち着かない様子だったから」
「そうなのか?」
「うん。あの人、話がダークドラゴンの事になる度に視線を軽く逸らしてたし、何よりあの時の表情が引っ掛かるんだよね……」
「あの時の表情?」
「お兄ちゃんが最後に額の傷の事を聞いたでしょ? あの時、本当に一瞬だったけど、あの人凄く歪んだ表情を見せたんだよ」
「歪んだ表情?」
「うん。言ってみればあの表情は、怒り――みたいなものなのかな……少なくとも私には、あれが小さな頃に遊んでて負った傷だとは思えなかったかな」
「なるほど。だとしたら、やっぱり現状で一番怪しいのはライゼリアさんて事になるのかな……」
ユキのもう一人の義兄であるライゼリアさんを疑うなんて、どうかしていると思われるかもしれないが、俺達だってできればそんな疑いをかけたくはない。だが、俺達がライゼリアさんへ疑いの目を向けるのには、もちろんそれなりの理由がある。
その一つが、ライゼリアさんにも尋ねたダークドラゴンとの度重なる遭遇だ。
ライゼリアさんにも言ったが、モンスタースレイヤー協会の調査では、ダークドラゴンの出現に際してそのほとんどに出くわしているのはライゼリアさんだけ。他に出現したダークドラゴンと二度遭遇した者は1人も居ない。
それも偶然と言ってしまえばそれまでだが、さすがに6回のダークドラゴン出現でそのほとんどに出くわし、無事に帰って来られる確率は限りなく低い。故にその限りなく低い確率を、偶然と言う言葉で片付けるには些か無理がある。
そして更におかしいのは、ライゼリアさんがダークドラゴンと遭遇した時に限って、お付きの者も護衛も付けずに単独行動をしていた事だ。あの様な上流階級に属する者が、お付きの者はおろか護衛すら付けずに単独で複数回行動をするなんてまずあり得ない。
この様にライゼリアさんの行動には、至る所に怪しげなところがある。これが俺達がライゼリアさんを疑っている理由だ。
「とりあえず、ライゼリアさんの周辺の事をもう少し調べてみよう」
「そうだね」
こうして俺達は再びライゼリアさんの事を調べて回る事にし、ティアと別れてから早速情報収集へ向かった。
× × × ×
ホワイトスノー家を訪ねてから数日後の夕刻。
俺は調査を進める中で、ライゼリアさんがダークドラゴンを操る黒幕かもしれない動機を見つけ出した。
その動機と思われる理由とは、ホワイトスノー家当主、ライゼリア・ホワイトスノーと折り合いが悪かった大商人や名家の人達が、ことごとく襲われて殺害されている事だ。
この街に来てからホワイトスノー家の話もちょくちょく聞いてはいたが、そのどれもがあまり良い話ではなかった。
そしてそんな人達が口々に言うのが、ユキの尊敬していた義兄でホワイトスノー家の長兄、ラファエル・ホワイトスノーが健在の時は本当に良かった――との言葉だ。
なんでもライゼリアさんが当主になってからのホワイトスノー家は、民衆や商人、名家の者達に対しての理不尽なまでの圧力をかけ、その勢力をホワイトスノー家に取り込もうと躍起になっていたらしい。
そしてそんなホワイトスノー家に――いや、ライゼリアさんに対抗していたのが、6回のダークドラゴン出現によって殺された大商人や名家の者達だった。
これはまだ仮定の話だが、ライゼリアさんが本当にダークドラゴンを操る黒幕だとしたら、今回の騒動がなぜ起きたのかの説明がつくし、街中に現れたダークドラゴンが不必要な破壊行動を起こさなかった理由も分かる。
つまりライゼリアさんはダークドラゴンを操る事で自分の邪魔になる勢力を強制的に排除し、その勢力を無条件で取り込む事を画策していたのだろうと思われる。
そして俺は何らかの方法を用いて捕獲したダークドラゴンをライゼリアさんが魔道具を使って操り、封印の魔道具を用いて街中に出現させていたのではないかと予想していた。
「何でこんな事に気付かなかったんだ……早くティアにこの事を知らせないと!」
情報収集の最中でそんな事に気付いた俺は、街のどこかに居るティアを捜して走り始めた。
「――おや。エリオスさん。ちょうど良かった。お話があるのですが、お時間はありますか?」
気付いた事実を一刻も早くティアに知らせようと街中を捜し回っていると、偶然にも疑いを向けている張本人であるライゼリアさんと出くわした。
「ライゼリアさん。どうしたんですか?」
俺が小さく息を整えながらそう尋ねると、ライゼリアさんは辺りを気にする様な仕草を見せてから俺に近付き、小さく口を開いた。
「実はあれから、私もダークドラゴンの事について独自に調べを進めていたんですが、ホワイトスノー家の使用人の中に犯人らしき者を見つけたんです」
「本当ですか?」
「ええ。それで実は、その犯人と思われる者を街の外に呼び出していて、これから話を聞く為にそこへ向かうところだったんですよ」
「護衛も付けずにですか?」
「もちろん私も護衛は必要だとは思いましたが、大人数で行くと相手に警戒されるかもしれません。ですからエリオスさんに私の護衛をお願いしたいと思い、こうして捜し回っていたんですよ」
「ティアじゃなくて僕にですか?」
「はい。ティアさんはダークネス・ティアとして有名なモンスタースレイヤー。そんな彼女がこの街に滞在して居るという話は、もう街に居るほとんどの民に伝わっています。だから彼女が一緒に居ると、相手が尻尾を掴ませない可能性が高いのです。だからと言って、生半可な力の持ち主では護衛にもならない。ですから、ダークネス・ティアやユキに師事を受けたというあなたを頼りたいと私は思ったのですよ」
「…………」
言っている事は至極正論でまともに聞こえるが、ライゼリアさんを黒幕だと思って動いている最中に、その当人から別の犯人と思われる者を見つけたと言われ、俺は少し動揺した。
もしもその話が本当なら、ライゼリアさんを独りで向かわせる訳にはいかない。だが俺は、これがライゼリアさんの用意した罠だという可能性も捨てきれないでいた。
しかしここでライゼリアさんの申し出を断れば、妙な不信感を持たれて俺達の調査がやり辛くなる可能性もある。
俺達がライゼリアさんに対して疑いを持っているのを本人が知っているかは分からないけど、仮にそれを分かっていてこんな話を持ちかけて来たとすれば、相当に厄介な相手だ。
「どうしました? エリオスさん?」
「あ、いえ。お話は分かりました。でも、僕がライゼリアさんに同行するのはいいんですが、その前にティアにも報告をしておきたいのですが」
「なるほど。それもそうですよね……でも、私が犯人と思われる相手を呼び出した時刻まで、あまり時間が無いのです。ここでもし時間を過ぎる様な事があれば、怪しまれて逃げられるやもしれませんよ?」
なんとかティアへの報告と言う形で接触をしようと思ったが、それはライゼリアさんに上手くかわされてしまった。
――これ以上ティアへの接触を計る手立てを提案するのは、得策じゃないかもな……。
「分かりました。そういう事ならその場所へ向かいましょう」
俺はそう言いながら腰の後ろに下げている道具袋へ手を伸ばし、その中にある一つの大きなパンを手に取った。
「お腹が空いているのですか?」
「そうなんですよ。実はお昼を食べてなかったもので。ですからすみませんが、食事を摂りながら同行させていただきますね」
「ええ。構いませんよ。それでは行きましょうか」
「はい」
こうして俺は手にしたパンを適度な大きさに千切って食べつつ、ライゼリアさんと一緒に今回の騒動の犯人と思われる者を呼び出したと言う場所へと向かい始めた。
「――エリオスさん。エリオスさんはなぜカラーモンスターがこの世界に現れたのか、その理由を考えた事はありますか?」
街を出てから第一結界を抜けて第二結界へと進み、もうじき第三結界の際に辿り着こうかと言う頃。突然ライゼリアさんがそんな事を聞いてきた。
「カラーモンスター出現の理由ですか? もちろんありますよ。でもそれは、エオスに住む誰もが一度は考えた事があるんじゃないですかね?」
「そうですね。では、その具体的な理由について考えた事はありますか?」
「具体的な理由ですか? そうですね……考えた事はありますけど、具体的な答えは何も浮かびませんでしたね」
「…………以前は魔獣が突然変異を起こしたのがカラーモンスターではないか――と言われていましたが、身体的構造が一緒なだけで、最大の急所に当たる心臓はまったく違う。それにカラーモンスターの出現から長い年月が経っていますが、未だカラーモンスターについての謎は多い。ですが、その出現理由はとても単純な事なんですよ?」
そう言うと前を歩いていたライゼリアさんはピタリと足を止め、不気味な動きでゆらりと俺の方へと振り返った。
「な、何ですか? その理由って?」
「それはなあ……愚かな人類に対する復讐の為だよっ!!」
唐突に表情と口調が変化し、凄まじい殺気に満ちた目を見せるライゼリアさん。
その表情と溢れ出る殺気は、到底人間のものとは思えない。
「お前は誰だ!?」
「おいおい。誰だとは失礼じゃないか。俺はホワイトスノー家当主、ライゼリア・ホワイトスノーだよ。クククッ」
「やっぱり今回の騒動の犯人を見つけたなんて嘘だったんだな!」
「嘘? 言っておくが、俺は嘘なんてついてねえぞ。お前はちゃんとその犯人を目の前にしているんだからな」
「てことは……やっぱりあなたが」
「そう。俺が今回の事件の犯人だよ。そして、ユキや兄貴を葬ってやったのも俺だ」
「なぜだっ! どうして実の兄やユキを殺した!」
「兄貴を殺したのは、俺が当主になる為に邪魔だったからさ。まあユキの場合は、俺が狩りをするのを邪魔しなければ殺されずに済んだんだけどな。お節介にもしゃしゃり出て来るから殺されちまったんだよ。クククッ」
一切の悪びれる様子も見せず、ライゼリアはニヤついた顔でそう言う。
「それで今度は俺達が邪魔になったってわけか!」
「まあそう言う事だが、お前達は俺を黒幕だと思って色々と調べを進めていた。そこまではよくやったと褒めてやろう。だがお前達は、肝心な所で思い違いしている」
「なんだと?」
「確かに俺は今回の件の黒幕だが、アレは俺が独りでやった事だ。つまりお前達の捜していたダークドラゴンは、俺自身だったって事だよ!」
「そんな馬鹿な事があるかっ! どうやったら人間がカラーモンスターになるって言うんだ!」
「ピーピーうるせえなあ! いいか、俺は他のカラーモンスターとは違って、『神の心臓』を持ってるんだよ。言わば特別な存在なのさ。だからその証拠を見せてやるよ!」
そう言うとライゼリアはカッと両目を大きく見開き、全身から魔力を解放し始めた。
するとライゼリアの身体が見る見る内に変化を起こし、あっと言う間に頭部に傷のある巨体のダークドラゴンへと変貌した。
「マ、マジかよ……」
「さあ。こうして犯人自ら正体を現してやったんだから、せいぜい頑張って抵抗して、泣き叫びながら死ねやっ!」
思わぬ正体を現したダークドラゴンのライゼリア。
俺は予想外の出来事に驚きつつも、ユキの仇を討つ為にグッと歯を食いしばって臨戦態勢をとった。
「ティア。ライゼリアさんはどうだった?」
「うーん……あれだけのやり取りじゃ正直よく分かんないけど、あの人が何かを隠してるのは確かだと思うよ」
「その理由は?」
「あの人、話をしてる間はずっとそわそわして落ち着かない様子だったから」
「そうなのか?」
「うん。あの人、話がダークドラゴンの事になる度に視線を軽く逸らしてたし、何よりあの時の表情が引っ掛かるんだよね……」
「あの時の表情?」
「お兄ちゃんが最後に額の傷の事を聞いたでしょ? あの時、本当に一瞬だったけど、あの人凄く歪んだ表情を見せたんだよ」
「歪んだ表情?」
「うん。言ってみればあの表情は、怒り――みたいなものなのかな……少なくとも私には、あれが小さな頃に遊んでて負った傷だとは思えなかったかな」
「なるほど。だとしたら、やっぱり現状で一番怪しいのはライゼリアさんて事になるのかな……」
ユキのもう一人の義兄であるライゼリアさんを疑うなんて、どうかしていると思われるかもしれないが、俺達だってできればそんな疑いをかけたくはない。だが、俺達がライゼリアさんへ疑いの目を向けるのには、もちろんそれなりの理由がある。
その一つが、ライゼリアさんにも尋ねたダークドラゴンとの度重なる遭遇だ。
ライゼリアさんにも言ったが、モンスタースレイヤー協会の調査では、ダークドラゴンの出現に際してそのほとんどに出くわしているのはライゼリアさんだけ。他に出現したダークドラゴンと二度遭遇した者は1人も居ない。
それも偶然と言ってしまえばそれまでだが、さすがに6回のダークドラゴン出現でそのほとんどに出くわし、無事に帰って来られる確率は限りなく低い。故にその限りなく低い確率を、偶然と言う言葉で片付けるには些か無理がある。
そして更におかしいのは、ライゼリアさんがダークドラゴンと遭遇した時に限って、お付きの者も護衛も付けずに単独行動をしていた事だ。あの様な上流階級に属する者が、お付きの者はおろか護衛すら付けずに単独で複数回行動をするなんてまずあり得ない。
この様にライゼリアさんの行動には、至る所に怪しげなところがある。これが俺達がライゼリアさんを疑っている理由だ。
「とりあえず、ライゼリアさんの周辺の事をもう少し調べてみよう」
「そうだね」
こうして俺達は再びライゼリアさんの事を調べて回る事にし、ティアと別れてから早速情報収集へ向かった。
× × × ×
ホワイトスノー家を訪ねてから数日後の夕刻。
俺は調査を進める中で、ライゼリアさんがダークドラゴンを操る黒幕かもしれない動機を見つけ出した。
その動機と思われる理由とは、ホワイトスノー家当主、ライゼリア・ホワイトスノーと折り合いが悪かった大商人や名家の人達が、ことごとく襲われて殺害されている事だ。
この街に来てからホワイトスノー家の話もちょくちょく聞いてはいたが、そのどれもがあまり良い話ではなかった。
そしてそんな人達が口々に言うのが、ユキの尊敬していた義兄でホワイトスノー家の長兄、ラファエル・ホワイトスノーが健在の時は本当に良かった――との言葉だ。
なんでもライゼリアさんが当主になってからのホワイトスノー家は、民衆や商人、名家の者達に対しての理不尽なまでの圧力をかけ、その勢力をホワイトスノー家に取り込もうと躍起になっていたらしい。
そしてそんなホワイトスノー家に――いや、ライゼリアさんに対抗していたのが、6回のダークドラゴン出現によって殺された大商人や名家の者達だった。
これはまだ仮定の話だが、ライゼリアさんが本当にダークドラゴンを操る黒幕だとしたら、今回の騒動がなぜ起きたのかの説明がつくし、街中に現れたダークドラゴンが不必要な破壊行動を起こさなかった理由も分かる。
つまりライゼリアさんはダークドラゴンを操る事で自分の邪魔になる勢力を強制的に排除し、その勢力を無条件で取り込む事を画策していたのだろうと思われる。
そして俺は何らかの方法を用いて捕獲したダークドラゴンをライゼリアさんが魔道具を使って操り、封印の魔道具を用いて街中に出現させていたのではないかと予想していた。
「何でこんな事に気付かなかったんだ……早くティアにこの事を知らせないと!」
情報収集の最中でそんな事に気付いた俺は、街のどこかに居るティアを捜して走り始めた。
「――おや。エリオスさん。ちょうど良かった。お話があるのですが、お時間はありますか?」
気付いた事実を一刻も早くティアに知らせようと街中を捜し回っていると、偶然にも疑いを向けている張本人であるライゼリアさんと出くわした。
「ライゼリアさん。どうしたんですか?」
俺が小さく息を整えながらそう尋ねると、ライゼリアさんは辺りを気にする様な仕草を見せてから俺に近付き、小さく口を開いた。
「実はあれから、私もダークドラゴンの事について独自に調べを進めていたんですが、ホワイトスノー家の使用人の中に犯人らしき者を見つけたんです」
「本当ですか?」
「ええ。それで実は、その犯人と思われる者を街の外に呼び出していて、これから話を聞く為にそこへ向かうところだったんですよ」
「護衛も付けずにですか?」
「もちろん私も護衛は必要だとは思いましたが、大人数で行くと相手に警戒されるかもしれません。ですからエリオスさんに私の護衛をお願いしたいと思い、こうして捜し回っていたんですよ」
「ティアじゃなくて僕にですか?」
「はい。ティアさんはダークネス・ティアとして有名なモンスタースレイヤー。そんな彼女がこの街に滞在して居るという話は、もう街に居るほとんどの民に伝わっています。だから彼女が一緒に居ると、相手が尻尾を掴ませない可能性が高いのです。だからと言って、生半可な力の持ち主では護衛にもならない。ですから、ダークネス・ティアやユキに師事を受けたというあなたを頼りたいと私は思ったのですよ」
「…………」
言っている事は至極正論でまともに聞こえるが、ライゼリアさんを黒幕だと思って動いている最中に、その当人から別の犯人と思われる者を見つけたと言われ、俺は少し動揺した。
もしもその話が本当なら、ライゼリアさんを独りで向かわせる訳にはいかない。だが俺は、これがライゼリアさんの用意した罠だという可能性も捨てきれないでいた。
しかしここでライゼリアさんの申し出を断れば、妙な不信感を持たれて俺達の調査がやり辛くなる可能性もある。
俺達がライゼリアさんに対して疑いを持っているのを本人が知っているかは分からないけど、仮にそれを分かっていてこんな話を持ちかけて来たとすれば、相当に厄介な相手だ。
「どうしました? エリオスさん?」
「あ、いえ。お話は分かりました。でも、僕がライゼリアさんに同行するのはいいんですが、その前にティアにも報告をしておきたいのですが」
「なるほど。それもそうですよね……でも、私が犯人と思われる相手を呼び出した時刻まで、あまり時間が無いのです。ここでもし時間を過ぎる様な事があれば、怪しまれて逃げられるやもしれませんよ?」
なんとかティアへの報告と言う形で接触をしようと思ったが、それはライゼリアさんに上手くかわされてしまった。
――これ以上ティアへの接触を計る手立てを提案するのは、得策じゃないかもな……。
「分かりました。そういう事ならその場所へ向かいましょう」
俺はそう言いながら腰の後ろに下げている道具袋へ手を伸ばし、その中にある一つの大きなパンを手に取った。
「お腹が空いているのですか?」
「そうなんですよ。実はお昼を食べてなかったもので。ですからすみませんが、食事を摂りながら同行させていただきますね」
「ええ。構いませんよ。それでは行きましょうか」
「はい」
こうして俺は手にしたパンを適度な大きさに千切って食べつつ、ライゼリアさんと一緒に今回の騒動の犯人と思われる者を呼び出したと言う場所へと向かい始めた。
「――エリオスさん。エリオスさんはなぜカラーモンスターがこの世界に現れたのか、その理由を考えた事はありますか?」
街を出てから第一結界を抜けて第二結界へと進み、もうじき第三結界の際に辿り着こうかと言う頃。突然ライゼリアさんがそんな事を聞いてきた。
「カラーモンスター出現の理由ですか? もちろんありますよ。でもそれは、エオスに住む誰もが一度は考えた事があるんじゃないですかね?」
「そうですね。では、その具体的な理由について考えた事はありますか?」
「具体的な理由ですか? そうですね……考えた事はありますけど、具体的な答えは何も浮かびませんでしたね」
「…………以前は魔獣が突然変異を起こしたのがカラーモンスターではないか――と言われていましたが、身体的構造が一緒なだけで、最大の急所に当たる心臓はまったく違う。それにカラーモンスターの出現から長い年月が経っていますが、未だカラーモンスターについての謎は多い。ですが、その出現理由はとても単純な事なんですよ?」
そう言うと前を歩いていたライゼリアさんはピタリと足を止め、不気味な動きでゆらりと俺の方へと振り返った。
「な、何ですか? その理由って?」
「それはなあ……愚かな人類に対する復讐の為だよっ!!」
唐突に表情と口調が変化し、凄まじい殺気に満ちた目を見せるライゼリアさん。
その表情と溢れ出る殺気は、到底人間のものとは思えない。
「お前は誰だ!?」
「おいおい。誰だとは失礼じゃないか。俺はホワイトスノー家当主、ライゼリア・ホワイトスノーだよ。クククッ」
「やっぱり今回の騒動の犯人を見つけたなんて嘘だったんだな!」
「嘘? 言っておくが、俺は嘘なんてついてねえぞ。お前はちゃんとその犯人を目の前にしているんだからな」
「てことは……やっぱりあなたが」
「そう。俺が今回の事件の犯人だよ。そして、ユキや兄貴を葬ってやったのも俺だ」
「なぜだっ! どうして実の兄やユキを殺した!」
「兄貴を殺したのは、俺が当主になる為に邪魔だったからさ。まあユキの場合は、俺が狩りをするのを邪魔しなければ殺されずに済んだんだけどな。お節介にもしゃしゃり出て来るから殺されちまったんだよ。クククッ」
一切の悪びれる様子も見せず、ライゼリアはニヤついた顔でそう言う。
「それで今度は俺達が邪魔になったってわけか!」
「まあそう言う事だが、お前達は俺を黒幕だと思って色々と調べを進めていた。そこまではよくやったと褒めてやろう。だがお前達は、肝心な所で思い違いしている」
「なんだと?」
「確かに俺は今回の件の黒幕だが、アレは俺が独りでやった事だ。つまりお前達の捜していたダークドラゴンは、俺自身だったって事だよ!」
「そんな馬鹿な事があるかっ! どうやったら人間がカラーモンスターになるって言うんだ!」
「ピーピーうるせえなあ! いいか、俺は他のカラーモンスターとは違って、『神の心臓』を持ってるんだよ。言わば特別な存在なのさ。だからその証拠を見せてやるよ!」
そう言うとライゼリアはカッと両目を大きく見開き、全身から魔力を解放し始めた。
するとライゼリアの身体が見る見る内に変化を起こし、あっと言う間に頭部に傷のある巨体のダークドラゴンへと変貌した。
「マ、マジかよ……」
「さあ。こうして犯人自ら正体を現してやったんだから、せいぜい頑張って抵抗して、泣き叫びながら死ねやっ!」
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