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天使の悦びの匂える園

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 ジュリアスがドハーティ家に着くと、いつもなら家族の人数以上の台数の高級車がずらっと並んでいる駐車スペースに、たった一台、彼女の真っ赤なタイプ924だけが停まっていた。
 珍しい光景に目を瞠りつつ、ジュリアスはヴィンテージのタイプ924の隣にフォードを停めた。
 車を降り、二台の車を交互に見比べる。
 片や好事家好みの高級クラシックカー、片や手軽なピックアップトラック。見る人間が見れば、この二つが共存する世界などあり得ないだろうと思う。ジュリアスだってドハーティ家を訪ねるたびに、自分のようなごく普通の中産階級の家の人間と、富裕層と呼ばれる家が親戚であるとは信じられなかった。 
 そんなこともあって、かつては伯父の家に対して劣等感を感じたこともあったが、今は気にすることは滅多にない。
 これほどの富を手にするまでの伯父の苦労は父からよく聞かされてきたし、自分が社会に出てからは、その富を維持するための努力を惜しまないのを実際に目にしてきた。そのため伯父を尊敬はするし感心もしているが、自分に同じようなことは出来ないのだから、比べるだけ無駄だ。伯父は伯父、自分は自分なのだ。
 それに、王侯貴族のような邸宅を目にするたびに、自分とは住む世界が違う、こういう暮らしは一生手が届かないだろう。身の丈、身の程は大事だと思う。
 しかし、今日は何だかいつもと違うようだった。
 何がというわけではなかったが、家の雰囲気に何だか違和感があった。
 我知らず背中がゾクゾクしてくる。
 だが、頼まれた用を済ますこともなく引き返すのも気分が悪い。
 気が進まないながらもジュリアスは玄関ドアのベルを押した。中からは何の応答もなかった。
 頭の中ではてっきり伯母が、「あら、ジュリアス!」と熱烈なハグで迎えてくれるものだと思っていたから、返ってくる沈黙に動揺した。
 不思議に思いながら、続けて二度三度とベルを鳴らすが、何の音も返ってこない。普段と違う状況に訝しみながらそっとドアノブに手を回してみると、ガチャッという音とともにドアが開いた。
 何だ、いるのか。
 ようやく安心して中に入る。それからは勝手知ったる伯父の家だから、迷うことなく歩き回りウォルトを呼ぶ。
「ウォルト。ウォルトー! 頼まれたヤツ持ってきたぞー!」
 大声で呼ぶが、さっきと同じように返って来るのは、さっきと同じ沈黙だけだった。
 今日は何かおかしいな。
 禍禍しい空気が、足もとからひたひたと全身を覆ってくるような寒気がしてくる気がする。
 何か起きる前にこのまま何もせず帰ろうかと思っていると、奥から音楽が大音量で聞こえてきた。
 耳を澄ますと、それはドナ・サマーの《Hot Stuff》だった。
 やたら懐かしい曲に思わず笑いそうになるが、多分これを聞いているのは彼女だろうことは明白だった。
 奥にはプールがある。確かに、こんな暑い日はプールで過ごした方が正解だ。
 ジュリアスはリビングに向かい、掃き出し窓を開けるとプールに出る。
 空からは太陽がギラギラと照りつけ、日差しを受けた水面はキラキラと乱反射している。そして、そんな目映い光の中、彼女はサマーベッドに横になっていた。水着は空にも負けないほど鮮やかな、真っ青なワンピース。
「なあ、ウォルトどこにいる?」 
 エロイーズを見下ろし尋ねる。彼女のふっくらとした下腹部に、数枚の小さな花びらが載っているのが見えたが気づかないフリをする。
「お兄ちゃん? 何か用でもあったの?」
 エロイーズがかけていたサングラスをずらし、ジュリアスを見上げて聞いてくる。まったく屈託のない、無垢そのものといった瞳。ジュリアスにとってエロイーズは、溢れすぎた富にも汚されていないイノセンスの象徴だった。
「ああ。今日までにってこれを頼まれてたんだけどさ。で、あいつに確認とサインしてもらわないとダメなんだけど……いない?」
「お兄ちゃんなら昨日からフットボール部の遠征に行ってるよ」
「嘘だろ? 明日には提出しないと、申請に間に合わないって言ってたのに……」
 先月から仕事の合間を縫ってせっせと書類を作ってきたというのに。これだから人の苦労も考えないボンボンは。
 怒りより無駄骨を折った徒労感で力が抜けそうになる。
「じゃあ、おじさんたちは? 今日は何か全然車が見えないし。どうしたのさ?」
「ん? パパたちは先週から西海岸の方にドライブ旅行してる。車は一緒に行ってる友だちに貸してるから、今はないの」
「いつ帰って来るの?」
「うーんとね、一応ひと月って予定にはなってるけど、あっちでも仕事するから都合で伸びるかもしれないって」
「ウォルトは?」
「来週になると帰って来るよ。でも、その日に帰って来るか分かんないって言ってた」
「は? 何で?」
「ガールフレンドも一緒に行ってるし、遠征先はガールフレンドの地元なんだって。それで、しばらく彼女んちに泊まってくるかもって」
「で、家にはお前だけなのか?」
「うん」
 年頃の娘を置いて自分勝手に出歩く彼らに、いたって常識的なジュリアスは呆れるが、当のエロイーズは何でもなさそうな口調で、
「うん。別にどこに行く予定もないから大丈夫だって。セキュリティは万全だし。それに、今は夏休みだもん。うるさい家族がいないってだけでも最高。むしろずっと帰ってこなくてもいいってくらい」
 なんて言う始末だった。
「あのな、お前が言うほどセキュリティは大丈夫じゃなかったぞ。すんなりオレが入れたんだから、もっと用心しとけって」
 そう言ってジュリアスは窘める。その言葉に、エロイーズは、
「ジュリアスって分かってるから入れたのよ」
 と小声で呟いたがジュリアスには聞こえなかった。
 ジュリアスは拍子抜けしたように、エロイーズの隣にあるビーチチェアに座り込んだ。そして、手にしていた封筒を床に放り投げ、大きく伸びをする。
「あーあ、何か疲れたな。今日はもう何もする気にもならないや」
 くたびれた様子のジュリアスに、エロイーズは自分が飲んでいたレモンスカッシュを差し出してこう言った。
「今日は暑いし、気分転換に泳いでいったら?」
 確かに、まだ午前だというのにじりじりと灼けつくような暑さだし、体でも動かして気を紛らわせるのも悪くない。
「でも、水着ないぞ」
「パンツじダメ?」
「さすがに水着と下着は別物だよ。布が貼りつくと気持ち悪いし」
「じゃあ、全部脱いだら?」
「オレはいろいろ解放されて気持ちいいけど、お前見たくないだろ?」
 くすくす笑いながらエロイーズはとぼけた調子で聞き返す。
「何を?」
「男と女じゃ体のつくりが違うだろ」
 だが、こうしている間にも暑さはますます厳しくなってくる。そして、水の冷たさの誘惑は避けがたい。
 どうせウォルトがいないのだから、彼の水着を借りればいいというエロイーズの提案に渋々乗って、ジュリアスも一泳ぎすることにした。
 

 二人とも泳ぎは得意だからいつまで泳いでいても飽きることはないが、朝早くからプールにいるエロイーズは早々にプールから上がった。タオルでさっと水を拭くと、家の中に入っていく。
 ジュリアスは軽く水を掻きながら、窓越しに見えるエロイーズの行方を目で追う。
 ジュリアスとはちょうど10歳違うエロイーズのことを、彼はずっと小さくて無邪気な従姉妹として可愛がってきた。ジュリアスは一人っ子だったから、ウォルトとエロイーズを実の弟妹のように思ってきた。特に、エロイーズは本当に可愛い女の子だった。ジュリアスのことを自分の兄以上に慕ってくれ、とことこと彼の後ろをついてきて、いつもジュリアスのそばにいたがった。
 しかし、ジュリアスが大学に進む頃からエロイーズとは距離が出来た。
 何かが起きたわけではない。ただ、何となく疎遠になっていった。
 それも無理はないと今なら思う。そろそろティーンエイジャーになろうかというエロイーズにしてみたら、軽やかな同い年の男の子に比べたら自分みたいな汗臭い従兄弟のお兄ちゃんなど劣って見えるのも当然だろう。自分の周りをまとわりついてきた小さい頃の記憶も鮮やかなのに、どんどん自分から離れていくことに多少の寂しさは感じたが、それも仕方がないことだと割り切っていた。 
 それに、ジュリアスもその頃は自分の人生を始めることに夢中だった。
 ハイスクールから大学に進み、自分の世界が広がっていくのが面白くて仕方がなかった。
 勉強でも努力すればするほど知ることが増えていくのが楽しかったし、フラタニティではしち面倒なこともあったものの、ここでの活動が就職では有利に働いて助かった。そして何より、女の子たちと恋をするのがこんなに自分にとって心地良いものだと知った。
 自分では到底そんなヤツだと思ったことはないが、どうも自分は女性に好まれるタイプの男だったらしい。バーに行っても、招待されたパーティーでも、ジュリアスは女性に囲まれ艶っぽい視線を注がれることが多かった。そんな経験はなかったから最初はさすがに戸惑っていたが、次第にその状況にも慣れっこになった。
 といっても、ジュリアスは適当に「つまみ食い」して捨てるような非道な男ではない。軽く触れあって合わない相手と感じたら、正直に、しかし礼を失することなくそうと伝えた。並みの男がこんなこをしようものならウンザリされるだけの行為だが、ジュリアスの場合、その誠実さはかえって彼の評判を上げることになった。そして、ロマンスの相手でなくても彼と関わっていたいと、親しい付き合いを望む女性も少なくなかった。
 つまり、女性関係で言うならジュリアスは勝者であり、支配者だった。彼がこうありたいと望めば、女たちは喜んでジュリアスの意に沿って動いた。
 だが、そんな彼でも思うようにならない女がいた。
 それがエロイーズだった。
 
 大学を卒業し、地元の経営コンサル会社に就職で帰ってきたジュリアスが目にしたのは、子どもの頃の純真さはそのままに、さらに美しく成長したエロイーズだった。
「おかえりなさい、ジュリアス」
 そう言って現れた彼女を見た瞬間、目の前の美少女が自分の知っているエロイーズと同一人物だとは、とても信じられなかった。
 植物を思わせる伸びやかな四肢、光を受けると輝きを放つブルネットの長い髪、陶器のような滑らかな白い肌を鮮やかに染める血色の良さと、生命力漲る溌剌とした印象。
 彼女のすべてが目映かった。
「うん? どうしたの?」
 そんな風にジュリアスを振り返る彼女の、天真爛漫な無邪気さに、彼は胸が高鳴るのを禁じ得なかった。
 しかし、ジュリアスはそんな自分の心の揺れを、必死になって抑えようと努めた。
 エロイーズはダメだ。彼女は大事な子なんだ。彼女を情慾の対象になど、してはいけない。
 幸いガールフレンドに事欠くことはなかったから、エロイーズを常に意識することはなかった。今は、セシルとの結婚を意識するようにもなった。
 そう、もうオレにはセシルがいる。素直で、可愛くて、少しせっかちだけど、一緒にいてすごく気楽な女性だ。彼女がいれば満足できるはずなんだ。そう、もうエロイーズを気にすることはないはず。
 そう自分に言い聞かせていたのに。
 
 エロイーズは、水が入ったピッチャーを手に戻ってきた。ビーチチェアに腰掛け、グラスに水とシロップを入れてマドラーでかき混ぜる。グラスを持ち、それを一気に飲み干した。
 彼女が飲む様子を、ジュリアスは凝視する。
 喉が上下に動くのに合わせ、胸もびくびくと揺れる。その豊満な胸は、可憐な顔と不釣り合いに思える。だが、本人が無自覚なだけに、かえってその肉体は見る者の劣情を誘っていた。
 エロイーズはグラスをテーブルに置くと、手持ち無沙汰な様子で手にしていたマドラーで体を撫で始めた。
 首筋から腕に、脇腹へと移り、その細い棒は下腹部を擦り始め、やがて肉づきのいい太股を横に広げ、中央のぷっくりしたふくらみを突く。
 エロイーズの表情に変化は見えないが、彼女を見ていたジュリアスには抑えがたい変化が起きた。
 ペニスに力が籠もり、勃ち上がっていくのが分かる。山のように隆起していき、水着の締め付けが苦しい。しかし、水の中とはいえペニスを取り出して、扱くなどということは出来ない。
 水着の上から盛り上がっているペニスを擦るが、それだけで鎮むとは思えなかった。
 呼吸が浅くなっていく。プールから上がりたいが、股間の変化をエロイーズに見られるのは気が引けた。
 どうしたものかとしばらく悶々としていると、エロイーズが声をかけてきた。
「ねえ、上がって休んだらどう?」
 相変わらず両足を広げて、しどけなく足の間の膨らみを誇示している。
 まったく、これは無意識なのか? それともオレが見てるのを知ってて挑発してるのか?
 エロイーズの真意は測りかねたが、このまま水の中に居続けるのも辛かった。
 諦めてプールから上がることにする。
 ビーチチェアに向かってプールサイドを歩く時、前かがみの姿勢で歩いていると、それを見たエロイーズが笑った。
「どうしたの? 具合が悪いの?」
 何も知らないような無垢さに、ジュリアスは胸の内で文句を言った。
 お前のせいだろ。
 しかし、悪意などまったくなさそうな顔で自分を見つめる彼女に、ジュリアスはそれ以上悪態をつく気は失せた。
 大体、エロイーズが自分を唆そうとしているとは思えなかった。これは何かの間違いなんだろう。ジュリアスが知っているのは、どんなことでも真っ直ぐに取り組む真面目な少女だ。こんな風に、故意に誘惑する悪巧みを思いつくような子じゃない。
 かつての子ども時代のエロイーズを思い出し、またセシルのことを思い描いて、己の情慾をかき消そうとした。
 だが、エロイーズのこの言葉が、ジュリアスの中で燻っていた火に勢いをつけた。
「ねえジュリアス、あなたの盛り上がってるソレを見たら、私のここもうずうずしてきちゃった。舐めて鎮めてくれないかなあ?」


「今何て言った?」
 ジュリアスは、エロイーズが口にした言葉に絶句した。
 ここが疼く? 舐めてくれ? 
 言葉のイメージが頭の中で溶け出し、ジュリアスは目が眩むような感覚に襲われる。一瞬、彼女のプッシーにむしゃぶりつく自分を幻視してしまった。だが、それは絶対にありえないことだとすぐに打ち消す。
 だが、目の前のエロイーズは水着越しに、自分の股間をマドラーの先でつんつん叩いていた。その仕草はなんだか、生徒の答えを待つ間、黒板を指示棒でパシッパシッと叩いて待っている教師を思わせた。
「私のここ、おまんこを舐めて欲しいの。もう、じゅんじゅん感じちゃって困ってるのよ。こうなっちゃったのはあなたのせいなんだから、お願い、おまんこいーっぱい舐めて安心させて。ねえ、すぐ舐め舐めしてよ」
 目の前にいるのは、天使を思わせる清楚な少女だった。この世の汚れ
など知らないような輝く瞳と、愛らしい唇。しかし、そんな少女が望んだことは、明らかに淫らな行為だった。
 ジュリアスが困惑して身動き出来ずにいる間も、エロイーズは水着の中に手を入れて胸を引っ掻いたり、水着を股間に食い込ませたりしていた。特に、欲情しているような淫らな表情には見えない。しかし、そんな行為を無邪気に繰り広げ、上目遣いでジュリアスに性的行為をねだる様からは、やはり性的に興奮していることが見てとれた。
「ねえジュリアス、早くして。じゃないと私、どうかして欲しくてお隣のジェイコブさんにお願いするしかなくなっちゃう……」 
 エロイーズはマドラーの先で、股間を上下に扱いたりぐいぐい押し込み始める。真ん中には溝が生まれ、それは水着の中にあるものを色濃く想像させた。
 ジュリアスはゴクリと唾を飲み込む。
 本心では、今すぐエロイーズの両足の間にもぐり込みたかった。夜、ベッドの中で何度彼女の裸体と痴態を想像して自分を慰めたか。枕やクッションをエロイーズに見立てて、腰を振り立てたことだって一度や二度ではない。正直に言えば、現実でするセシルとのセックスより妄想のエロイーズとのセックスの方が、何十倍と興奮するのが本音だった。
 そんな夢見たことが今手に入る。一歩踏み出せば、それが現実になる。
 だが、なけなしの理性がジュリアスを踏みとどまらせた。
 エロイーズは妹と同じなんだ。そんな大切な妹を、自分の欲望の餌食にしていいのか? 今の彼女は不安定な状態なだけだ。まだまだ子どもだから、性的な興味にはしゃいでるだけなんだ。大人なら常識的な対応で落ち着かせることが出来るはずさ。
 セシルのことを考え、ムクムクと体の奥で膨れ上がる欲望を何とか押さえ込もうとするが、エロイーズの姿態はますます過激になり、口からは淫らな吐息が漏れ出てきている。
 ジュリアスもまた、彼女の呼吸に呼応するように息が荒くなっていた。肉体の本能と社会的な理性とが、彼を追い詰めていた。
 そんな状態で数分経った頃、エロイーズはおもむろにテーブルの上のスマホを手にした。画面を数回タッチしすると、再びテーブルに放り投げる。
 電話の呼び出し音の大きな音が鳴る。スピーカーにしたようで、十数秒ほど呼び出し音が続いた後、相手の声が響いた。
「ジェイコブです」
 ドハーティ家の隣に住む、アルフレッド・ジェイコブだった。最近離婚したばかりの裕福なビジネスマン。鍛え上げられた筋肉がご自慢の精力溢れる絶倫野郎だというのが、スーツの上から見ても分かる奴だった。
 エロイーズはジェイコブに対して、何とも親しげに話しかける。
「ジェイコブさん? エルよ。今何してるの?」
「ああ、エロイーズか。今? 今は何にもしてないよ」
「日曜なのに、何の予定もないの?」
「おいおい、意地悪いな。知ってるじゃないか。少しは落ち込んでるんだぜ。まあ、今までみたいに無理して誰かに合わせなくてもいいから気楽なもんだけど、さすがに一人だと何もすることがなくてね。で、何だい? 何か用でもあるかい?」
 エロイーズはちらとジュリアスに目をやる。何か含みのある視線だった。
「あのね、ジェイコブさん。お願いがあるの。聞いてくれるかな?」
「何? 僕で何とかなるなら、何なりと手伝ってあげるよ」
 エロイーズの甘えた声に、ジェイコブの顔が緩んだのが目に見えるようだ。
 嫌な予感がする。ジュリアスの顔が陰る。
 しかし、ジュリアスの気持ちなど素知らぬふりをして、エロイーズはジェイコブに告げた。
「ジェイコブさん。私ね、いま変な感じなの」
「変って、どんな風に? 具合が悪いのかい?」
「そうね、具合が悪いのかも」
「どこが、どんな感じがしてるの? 病院に連れて行こうか?」
「うーんとね、胸がドキドキして……あと……腰の奥がね、ソワソワするの」
「胸と腰? うーん、なんだろうなあ? 他にもおかしいところはある?」
 この時、エロイーズのさくらんぼのようにふっくらとした唇が、少し歪んだように見えた。淫らで、いかがわしい企みを口にしようとする興奮で、嬉しそうだった。
 ジュリアスの顔から血の気が引きそうになるのを見ながら、エロイーズはジェイコブに言葉を返す。
「一番変なのがね……足の間なの」
「足の間……って?」
「今ね、私のおまん……」
 ここで電話は切れた。
 いや、ジュリアスが切った。
 

「もうやめなさい」
 ジュリアスの怒りの籠もった低い声に、エロイーズは少し驚いた顔をしたが、ちょっと肩をすくめるような仕草をしたくらいだった。悪びれる様子もなくこう言い返す。
「何? 何するの? 私、何もおかしなことしようとしたわけじゃないわよ。ジェイコブさんに私の体を落ち着かせて欲しいって、助けてってお願いしようとしただけじゃない。それの何が悪いの?」
 一生懸命訴えるその顔に、好色さの影など微塵も見えない。それなのに、彼女の全身からは雌の薫りが強烈に漂ってきた。
 ジュリアスの理性も限界だった。
「今のお前は普通じゃないんだ」
 ジュリアスは絞り出すように言うが、その声は怯えたように震えていた。
「暑さのせいで少しおかしくなってるだけだ。中に入って体を冷やせば冷静に判断できるようになる。さあ、家の中に行こう」
 そう言いながらジュリアスは何とか平静を保ちながら、エロイーズの腕を掴む。しかし彼女は、ジュリアスの手をきっぱりとした態度で振り払った。
「偉そうな顔して私に指図しないで。私のことは私が一番分かってるんだから。私は正気」
 エロイーズはジュリアスを真っ直ぐ見据え、テーブルのスマホを取ろうと手を伸ばす。
「私は自分に嘘をつきたくはない。私は自分がしたいことをするの。大人みたいに自分の欲望を否定しないんだから……」
 まだ不満げに言葉が続くように見えたが、ここでエロイーズの言葉は切れた。
 ジュリアスがエロイーズに覆い被さると、彼女の唇に自分のを重ねたのだ。
 不意打ちのキスに虚を突かれたエロイーズは、思わず彼を押しのけようするが、ジュリアスは逃すまいと彼女の舌に軽く歯を立てた。
「んん……ジュリア……ス……こんな、こと……」
 ジュリアスの腕の中でエロイーズは必死にもがく。だが、彼女が動こうとすればするほど、彼は含み笑いを浮かべてエロイーズの体を押さえ込んだ。じたばたと動く彼女に体を密着させ、自分の体の昂ぶりがもはやブレーキが効かないことを否応なく告げる。
「何だい? あんなにあからさまにオレのこと誘ってたのに、いざそうなったら怖くなっちゃったか? でも、もう遅いよ。オレのコックをこんなにギンギンに勃たせた責任、充分に取ってもらうからな」
 そう言いながら水着の中ではち切れんばかりに膨れあがったペニスを、エロイーズの股間にぐいぐいと押し当てる。
 さっきまでの挑発的な態度はすべて消え、もはや形勢逆転といった状況にエロイーズは困惑した。しかし一方で、このままジュリアスの意のままになることも、彼女のプライドは許さなかった。
「ジュリアス……待って、待って……まだ……」
 エロイーズが躊躇いがちに求める。ジュリアスは力を抜き、彼女の顔を覗き込んだ。
「どうした? やめてって言ってもやめる気はさらさらないぞ」
 ジュリアスは意地悪い口調でエロイーズの気持ちを揺さぶるが、彼女は首を横に振っただけだった。
「ううん、そうじゃないの。誘ったのは私だもの。そのままでいいの、やめないで。でも……」
「でも……どうした?」
「あのね……まずやって欲しいことがあるの」
「やって欲しいこと? それは何だい?」
 エロイーズはジュリアスを押し退ける仕草をして、自分からどくよう求めた。続いて、改めてビーチチェアに横になると、両足を曲げたまま大胆に広げて股間を突き出し、彼に向かってこう言った。
「私小さい頃からずっと、あなたのことを考えながらマスターベーションしてたのね。それも、こうやって水着とかタイツとか履いてしてたの。私ね、こんな風にここを締めつけるのが好きなの。で、締めつけられたおまんこをあなたに舐めて欲しいって思ってて……。だからね、ジュリアス……水着の上から舐めて欲しいんだけど……」
 頬を紅潮させて告白するエロイーズを見て、ジュリアスは体の奥底から彼女への愛おしさがこみ上げてきた。自分と同じように、彼女もまた自分を恋い、自分を思い浮かべながら自らを慰めてきたという事実に、信じられないような、だがやはりそうだったのかという嬉しさでいっぱいだった。
「こんなこと考えてるなんて、私変なのかもしれないけど。でも……今あなたにしてもらえたら、もうこんなこと言わないから、今だけでいいの。お願い、して欲しい……」
 ジュリアスは、エロイーズの思いを受け止めた。その証しに、恥ずかしそうにしている彼女に優しく笑みを返すと、ゆっくりとした動きで彼女の足の間に蹲った。そして、彼女に向かってこう告げた。
「大丈夫、別におかしくなんかないよ。オレもずっとお前のことが好きだった。正直、プッシーを舐めたいって思ってたんだ」 
 ジュリアスの言葉に、エロイーズはびっくりした顔で彼を見返した。
「嘘っ。私みたいな子どもなんて、あなた、眼中にないって思ってたわ……」
「はは、確かにエロイーズのことは小さい時から見てたから、実の妹みたいな存在だとは思ってたさ。でも、今まで色んな女を見てきたけど、お前ほどの美しくて魅力的な女はいなかったよ」
「彼女は……?」
 彼女とは、多分セシルのことだろう。しかし、ジュリアスはもう目の前のエロイーズのことしか考えたくなかった。たとえガールフレンドであろうと、他の女のことなどどうでもよかった。
「もうお前しかいらない。お前と結ばれればそれだけで幸せなんだ」
 ジュリアスのこの言葉が嘘でないことは、彼の目を見れば充分だった。
 エロイーズも彼の目を見据えて言う。
「私も、あなたとしかこんなことしたくないわ。私のプッシーはあなただけのもの。初めてから終わりまで、あなたのコックしか受け入れないわ」
 言葉はこれ以上必要なかった。
 ジュリアスはエロイーズの望みを叶えてやろうと、水着の上から股間の膨らみをそっと撫でる。上から下へ、下から上に、ピアニストが指先で鍵盤を滑らせるように、彼女の下腹部を愛撫した。
 彼のその優しく軽やかな手つきに、エロイーズはこれから自分の身に起こることへの期待で大きく息を吐いた。
「はぁ……ん」
 これが体に残っていたこわばりを消した。彼女の身体がゆったりと弛緩したのを確認して、ジュリアスはクロッチに口をつけた。
 最初、水着の布地に舌は抵抗されたが、これが逆に舌の動きに勢いと弾みをつけさせた。水着の中に潜んでいるエロイーズの性器に舌の動きを伝えようと、力を込めて舐めていく。布は決して薄くはないが、それでも性器の感触は舌の先でも分かった。
「あっ、あ、あっん……ジュリアス、凄いヤらしい……舌でそんな、ペロペロして、うふっ、んん、いい……」
 舌使いが激しくなっていくにつれ、エロイーズの腰が揺らめく。そんな時、ふとジュリアスの頭にある考えが閃く。
 動きを止め、テーブルの上に目をやる。スマホと並んで、ポテトチップスとクリームチーズがあった。ジュリアスはクリームチーズに手を伸ばしてフタを取り、人差し指に零れるほどたっぷりチーズを掬う。そして、それをエロイーズの水着のクロッチ部分に乗せると、間髪を入れずクリームチーズに食らいついた。
 犬がベロベロと舐め取るような勢いで、クリームチーズを舐めていく。もちろん、クリームはおまけでしかなく、本命はエロイーズの股間なのだが、この変態的な行為のおかげで本当の自分が解放されるような気がした。
 社会的な立場や評判などかなぐり捨てて、愛する彼女に仕えるただのペットでしかないことに無上の喜びを感じていた。
 やがて舌だけでは物足りなくなり、指で膨らみを弄り始める。ぴんぴんと弾く肉の弾力に、水着の中で待ち受けているものへの期待が否が応でも高まった。
 小さな膨らみを摘まみ、ぐりぐり押し、擦りつけ、エロイーズが喜びそうなことを次から次へやっていく。
 その一つ一つにエロイーズは敏感に反応し、淫靡な声を上げる。
「やっん、あっ、はっん……ジュリアス、ったら、そんなにエルのおまんこ、弄っちゃ……や……あん、あん、あ、んん……」
 嫌がる言葉を裏切るように、彼女の股間からはしっとりとした芳しい薫りが香ってきた。その匂いに刺激されたように、ジュリアスはクロッチの布を掴んで細く締め上げると、彼女の股間に力一杯食い込ませた。
 水着からはみ出た三角形の場所には、髪と同じ色の陰毛が慎ましやかに生えていた。それがまたジュリアスの情慾をますます煽った。
 セシルをはじめ、大抵の女たちがマナーと称してその部分の毛を剃ったり抜いたりしていたが、ジュリアスは露骨に現れる性器が好きではなかった。彼女たちはジュリアスが喜ぶと思ってやっていたようだったが、彼自身はなんだか不自然な姿だと内心毛嫌いしていたのだ。
 それに対して、エロイーズの飾り気のない自然な肉体、これこそ本能的にジュリアスが求めていたものだった。
 彼女への尽きない愛欲と暑さで意識が混濁していく。
 もうこの欲求は止まらない。いや、止めてなるものか。エロイーズはオレのものだ。誰にも渡さない。
 そんな思いが尽きることなく溢れ出る。 
 ジュリアスは弄り回していた手を止めた。そして、水着を脱ぎ捨て、エロイーズの体に再び身を重ねると、溝に食い込ませた水着の上から己の猛々しく屹立したペニスを突き立てた。
 エロイーズはきょとんとした顔で、ジュリアスを見る。
「遠慮しなくていいのよ。今すぐ、プッシーに挿れて」
 しかし、ジュリアスは頭を振ってきっぱりと彼女の願いを拒んだ。思いがけない拒絶に彼女は悲しい顔をしたが、ジュリアスは「違うんだ」と優しく諭す。
「お前はまだ汚れてはいけない。お前はオレの大事な天使なんだ。そんなお前が、一時の感情だけですべてを失ってはいけない。いいか? お前はオレだけのものだ。オレだって、他の女なんかいらない。オレがお前を迎える。絶対に、オレの隣にはお前だけなんだ。お前のプッシーは、その日にオレのコックで思う存分貫くんだよ」
「じゃあ、それまでお預けってことなの?」
「大丈夫さ、結ばれる日には神さまの前でたくさんしまくって、オレたちの愛が本物だって見せつけよう」
 こんなことを言っている間も、ジュリアスの腰の動きに連動してビーチチェアが大きく揺れていた。また、固い肉棒が股間を挿すたびに、エロイーズのプッシーは歓喜の蜜で溢れ、クロッチから滴り落ちた。
「じゃあ、約束よ。それまではマスターベーションも私と一緒にすること。そして、あなたの美味しいミルクは全部私にぶっかけること。いい?」
 こんな卑猥なことを汚れなど知らないような顔で言うのだから、まったく女ときたら。
 だが、もちろんジュリアスはこの約束を歓迎した。
 そのことを証明するために、降り続けた腰を止め、そろそろ絶頂に達しそうになっていたペニスを掴んだ。
 ジュリアスがやろうとしていることに気づいたエロイーズは、水着の上半身を脱ぎ、胸を露わにして、ジュリアスの行為を待った。
 日差しが体の汗を照らしていた。
「いいか、イクぞ、イクぞ……」 
 右手の動きが加速していき、ジュリアスの表情も苦しそうになっていく。
「ああ、エロイーズ、オレの、オレの天使……オレのディックのミルク……いいかい? 全部ぶっかけるから受け止めるんだよ」
 ジュリアスの喉から、振り絞るように呻き声が出てくる。ペニスの先から白い滴がぽつぽつと滲み出てきた。エロイーズもまた、思い人の乱れる姿に合わせて胸を揉みしだき、股間を弄る。
「ああ、ああっ、イク、イク、イク、イクッ……あああああっ!」
 悲鳴のような嬌声と共に、ジュリアスのペニスから白濁した汁が迸り、エロイーズの体めがけて飛んでいった。
 彼女の肉体は、顔から足にかけてジュリアスの放った牡の汁に染まった。胸の周りについたスペルマを乳首にこすりつけながら、コリコリと弄りながら、エロイーズは言った。

「あなたのボールの中のもの、死ぬまでぜーんぶ私のものなんだから」
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