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気持ちの矛先は⑧
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「だって……番を好きにならないと、俺の未来はどうなるの?」
「…………」
「他の人を好きになったところで、番解消の副作用に悩まされるんだよ? もう、普通の恋愛はできないんだよ? なら番を好きになるのが、一番良い道だって思わない?」
颯珠の温もりが、本心を覆っていた皮を柔らかくさせたのだろうか。気を遣わせぬよう番に関する事は気丈に振舞っていたはずなのに、思わずポロリと本音が漏れた。
それでも表情を取り繕う事だけは忘れずに、口元だけ笑みを作る。
「でも、その番が琥陽の事を好きになる保証も、ないんでしょ?」
「それは……頑張るしかないよ」
自信なさげに頬を指で掻く。
こんなオメガっぽくない人を、フェロモンに惑わされたとは言え番にしたのだ。もしかしたら、再会した瞬間に番解消を求められるかもしれない。
それでも粘るつもりだ。
情けなくても、惨めでも、縋って、番のままでいさせてくれと乞う。
人それぞれで違う番解消の副作用。それがどうなるのか分からなくて怖いし、頑張らずに引くほど琥陽の諦めも悪くはない。
見ず知らずの人と番になったと知った時から、散々悩んで出した答え。あの時から決めていた事。
恋愛ごとに首を突っ込むつもりもなかったし、心を揺らさないように気を付けてきたつもりだった。
最悪な状況から考えて、それが一番安易な自身の幸せを求める道なはずだった。
それでも大切な人は、気が付くと出来ている事がある。
そしてそれを、琥陽はまだ恋だと認めたくはなかった。
「オメガとアルファの番の意味は違う、けど……琥陽には、自分の心の声をきちんと聴いてほしい」
「心の声?」
「そう。世間体だとか色々考える事はあると思う。でも考えるにしたって、その本心は無視しないで。それも見た上で、考えて」
訴えかけるその声音に、今颯珠がどんな顔をしているのだろうかと下から覗き込もうとした。けれども強い力で抱きしめられ、表情が見えない。
だが震えている背にそっと手を回して、慰めるように上下に動かす。
「もし、俺が……颯ちゃんがいいって言ったら、颯ちゃんは番から俺を奪ってくれるの?」
「当然でしょ、さっさと奪って脇目も振らずに琥陽を愛するに決まってる」
「ちょっ、人の目は気にして!」
「嫌だよ、気にしてたら愛情なんて伝わらない」
「伝わるから!」
そう叫ぶと、「ふうん」といつもの調子に戻った颯珠が琥陽をじっと見据えた。
「ならオレがいつもしてる愛情表現は、きっちり琥陽に伝わってるんだ?」
チュッと頬に唇を押し付けられながら挑発的に見つめてくる颯珠に、琥陽は顔を逸らし颯珠から離れようとする。
けれども「ねぇ、答えて」と抱き着いてくる颯珠を中々離せなくて、何とか頷くと漸く颯珠の力は緩んでくれた。
「…………」
「他の人を好きになったところで、番解消の副作用に悩まされるんだよ? もう、普通の恋愛はできないんだよ? なら番を好きになるのが、一番良い道だって思わない?」
颯珠の温もりが、本心を覆っていた皮を柔らかくさせたのだろうか。気を遣わせぬよう番に関する事は気丈に振舞っていたはずなのに、思わずポロリと本音が漏れた。
それでも表情を取り繕う事だけは忘れずに、口元だけ笑みを作る。
「でも、その番が琥陽の事を好きになる保証も、ないんでしょ?」
「それは……頑張るしかないよ」
自信なさげに頬を指で掻く。
こんなオメガっぽくない人を、フェロモンに惑わされたとは言え番にしたのだ。もしかしたら、再会した瞬間に番解消を求められるかもしれない。
それでも粘るつもりだ。
情けなくても、惨めでも、縋って、番のままでいさせてくれと乞う。
人それぞれで違う番解消の副作用。それがどうなるのか分からなくて怖いし、頑張らずに引くほど琥陽の諦めも悪くはない。
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そしてそれを、琥陽はまだ恋だと認めたくはなかった。
「オメガとアルファの番の意味は違う、けど……琥陽には、自分の心の声をきちんと聴いてほしい」
「心の声?」
「そう。世間体だとか色々考える事はあると思う。でも考えるにしたって、その本心は無視しないで。それも見た上で、考えて」
訴えかけるその声音に、今颯珠がどんな顔をしているのだろうかと下から覗き込もうとした。けれども強い力で抱きしめられ、表情が見えない。
だが震えている背にそっと手を回して、慰めるように上下に動かす。
「もし、俺が……颯ちゃんがいいって言ったら、颯ちゃんは番から俺を奪ってくれるの?」
「当然でしょ、さっさと奪って脇目も振らずに琥陽を愛するに決まってる」
「ちょっ、人の目は気にして!」
「嫌だよ、気にしてたら愛情なんて伝わらない」
「伝わるから!」
そう叫ぶと、「ふうん」といつもの調子に戻った颯珠が琥陽をじっと見据えた。
「ならオレがいつもしてる愛情表現は、きっちり琥陽に伝わってるんだ?」
チュッと頬に唇を押し付けられながら挑発的に見つめてくる颯珠に、琥陽は顔を逸らし颯珠から離れようとする。
けれども「ねぇ、答えて」と抱き着いてくる颯珠を中々離せなくて、何とか頷くと漸く颯珠の力は緩んでくれた。
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