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第1章
第18話 究極魔法
しおりを挟む「フッ、信じられぬか? では、テオドール・アークムの名に懸けて誓おう」
「絶対だよ。絶対だからね!」一応念押しをしておいた。
「……」
魔法一覧の大項目の中に気になっているものがあった。
それは『アルティメット・マジック』で、おそらく一番危険で威力の高い魔法なのだと思う。
その中にある魔法の一つは、ゲームやマンガで凄く有名だから僕も知っている。
詠唱が滅茶苦茶長いから使うチャンスはないと思っていたけど、これはラッキーかも。
「じゃ、じゃあ、遠慮なく…」
自分も巻き込まれて死んじゃう可能性はあるけど、最初の頃より魔王との距離が結構離れたので大丈夫かもしれない。
ダメそうなら魔法を放ったあと犬のゴーレムに飛び乗って、一目散に逃げるという手もある。
「ホレスコー・レフェレンス」語るのも恐ろしい
「アシヌス・イン・テグリース」不吉な言葉を告げよう
「アビッスス・アビッスム・インウォカト」地獄は地獄を呼び
「アエクゥアト・オムネース・キニス」人々は等しい灰と化し
「デフィキト・オムネ・クオド・ナスキトゥール」生あるものは全て滅びるだろう
「我も霞むほどの、凄まじい詠唱だな…」
漆黒の魔王が感嘆の声を漏らした。
「ダビト・デウス・ヒース・クォクェ・フィーネム」神は苦しみに終わりを与える
「ドーナ・プラエセンティス・カペ・ラエトゥス・ホーラエ」流転する刻のギフトを、歓喜して享受しよう
- 中略 -
「クラウデ・オース・アペリー・オクロース」口を噤んで刮目し
「ファーネム・ラウダー」終焉を称えよ
理希は肩で息をしながら、額の汗を腕で拭った。
『本当に良いのだろうか?』
詠唱中、ためらいを感じていた。
詳しいことはなにも知らないのに、こんなに簡単に使ってしまって…、とんでもない結果を招くのではないだろうか?
「……」
一時の感情で破滅するのはバカだと思っていたけど、自分がそうなってしまう予感がする。
っていうか無謀な救助とお試しの転生で、もう2度ほど破滅してる気がしないでもない。
魔王の顔を見ると、人差し指を立て、クイクイって感じに動かした。
「メ、メテオ・ストライク!」
挑発に乗ったわけではないけど、使う以外に道がないのは確かだ。
理希は究極魔法をついに完成させた。
後は運を天に任せるしかない。
「……」
「……」
無言の時間が流れた。木々の間から、のどかな鳥の声が聞こえる。
「あれ?」
空を確認したが、なにも変化はない。
「え、詠唱を間違えたのかなぁ…」
魔力が足りないとか、技量が不足しているとか、失敗の理由はいくらでも考えられるけど…
「フハーハッハッハッ!!」
漆黒の魔王が唐突に、森中に響くような高笑いを始めた。
「こ、怖っ!」
理希は思わずレイピアの柄に手をかけた。上空から魔王へ視線を向ける。
「世界を道連れに我を滅ぼすか」
「えっ? えっ?」
「我はそこまで貴様に評価されていたか。誇りとしようではないか」
魔王は大剣を背の鞘に仕舞うと、徐に兜を脱いだ。
『い…、意外と格好いいな…』
濡れたように真っ黒な長髪が露になる。洋画で主役を張る俳優のような、精悍で整った顔をしていた。
バサバサバサバサ……
ギャーギャー
どこに隠れていたのか、鳥の群れが一斉に飛び立った。荒野の方に向かって飛んでいく。
様々な獣たちの音で森が騒がしくなり、しばらくして無音に戻った。
「え…と、いったいこれは…」
「コトキ。礼を言う。我が退屈な生の最後としては悪くない」
魔王は達観してしまっているようだ。
「げっ! なにアレ?」
もう一度上空を確かめると、大きな赤い光が遥か遠くに見えた。次第に大きくなってきているような気がしないでもない。
「なにを驚いている?」
「…え? アレ、もしかして、アレが?」
「ああ、冥府の使者とでも呼ぼうか。素晴らしい破壊をもたらすモノだ」
「でっ、デッカ! 大きすぎるでしょ! あんなのがぶつかったら…」
「天は閉ざされ、大地は火を噴き、海は枯れ果て、全ての生物は死に絶えるだろうな」
「そう…、だろうね…」
理希は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
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